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勇者が性転換とか笑えない件について。

俺の店の座敷で気持ちよさそうに寝ている美少女を見て約二分間ほどフリーズした後にようやく考えられるようになったので、俺は少女の寝顔を見ながら考える。


(待て待て待て待て。何でこんな美少女が俺の店の中にいるんだ?確か、俺が店の中に入れたのはリツだけだ。それなのに店の中にいる。考えてみれば、店の扉の鍵は閉めたんだから、この美少女を店の中に招き入れたのはリツ、ということだ。)


とりあえず犯人がリツではないか、と考え始めた俺の視界の端に、美少女の腕につけられている金色の腕輪が入ってくる。


(この腕輪は…、リツがつけてたやつと全く同じじゃん。リツがつけていた腕輪と全く同じ腕輪をつけている、つまりペアルックをしている美少女がリツに招き入れられて店に入ってきた、ということは…。彼女か。リア充なのか。)


リツはとりあえず死ね。そう結論付けた俺の目の前で美少女が目を覚ました。


「う…、うーん…」


寝ぼけた眼差しで店の中を確認した後、美少女はキョトンとしている俺に話しかける。


「お…、エツ…、お前がここにいるってことは、もう料理はできたのか…?確か、今日はお前のおすすめの…、おでん、とかいう美味い食べ物を食わせてくれるって言ってたもんな…!おーっし!さっさと食おうぜ!最近忙しくてあまりたくさん食べれてなくてさ!いやー、腹減ってたんだ!」


どこかキラキラした目で俺を見てくる美少女を見て少しドキっとしながらも、俺は問いかけた。


「えーっと、どちら様で?」


「へ?」


美少女は顔を一瞬呆けた物に変えてから、変なことを言うな、とでも言わんばかりに笑い出す。


「ハハハハハハハハ!センキュー、エツ!お前、俺が無茶していると思って冗談で俺を笑わせようとしてくれたんだな!いやー、お前が俺の親友で良かったよ!もしも俺が女だったら、たぶんお前に惚れてたと思うぜ!」


いきなり笑い出して意味不明なことを言い始めた美少女に俺は困惑しながら再び問いかける。


「な、なぁ、お前、どうやってこの店に入ってきたんだ?やっぱりリツがお前を入れてくれたのか?ってことは、やっぱりお前はリツの彼女なのか?リア充なのか?」


俺の問いに困惑したように美少女は答える。


「は?何言ってんだよ?誰が彼女だって?そもそも俺は男じゃねえか。お前、常日頃から変なこと言ってたけど、さすがにそれはどうかと思うぞ?俺だって親友にいきなり他人扱いされたら怒るんだからな?」


怒りのオーラを出し始めた美少女に俺は困惑しながら言う。


「へ、変なことを言ってるのはそっちだろ?勝手に人の店に入ってきて、女なのに男だとか言い出して、一体お前誰だよ?俺はお前みたいなのに会ったことはねえぞ?」


その言葉に美少女は青筋を立てながら俺に顔を近づけてくる。


「あのなあ、エツ。確かに冗談を言って俺を笑わせようとしてくれるのは嬉しいけど、そこまで馬鹿にされたらさすがに怒らない奴なんていないぞ?」


「ちょ、近い!近いって!顔近いから!」


顔を赤くした俺の言葉になぜかさらに怒る様子を見せて美少女は言う。


「なあ、何でそんなふざけたことを言うんだよ?お前、本気で忘れたのか?俺はリツだぞ?」


「はあ?何言ってんだ?てっきりリツの彼女として名乗ってくるのかと思えば、まさかリツ本人だと名乗るなんて、そんなの本人の前でやったりしたらダメだぞ?せめてまねるなら同性の人間にしとけって。」


俺は本気で言っているにも関わらずに美少女はもっと怒った様子を見せながら俺に言ってくる。


「どうしても俺を他人扱いするってんなら、俺とお前しか知らないようなことを言えば他人扱いできないよな?」


「ああ、それじゃあ言ってみろよ。」


挑発するように言った俺を見ながら美少女は俺の秘密を言っていく。


「お前の名前はエツで、年齢は十九歳、コミュニケーション能力はまあまあ高くて、幸せそうな恋人を見かけると必ず舌打ちしてリア充爆発、とか言ってる。」


「いやいや、そこまでは見てりゃあ誰でもわかるだろ。」


納得していない俺の様子を見てムッとしながらリツは俺の黒い歴史を暴露し始めた。


「それじゃあ、お前の最重要の情報を言ってやる。お前は十四歳の頃なんだかそれまでと比べておかしくて、毎日黒いコートを着て左腕に包帯を巻きながら部屋の中で一人で決めポーズを練習していた!」


「えっ、ちょっ…」


美少女は俺の心にナイフで傷をつけるだけでは飽き足らず、俺の心に爆弾を投下し始める。


「毎日飯の時間には不思議なポーズをとってから食べ始め、自分で自分につけた二つ名は復讐のラグナロク!その二つ名を使ってダンジョンで活躍しまくったので、一般での二つ名も復讐のラグナロク!他にも、女子の前でいきなり「クッ…!これもヤツの力か…!」とか、「疼く…!俺の左目が…!」とか意味不明なことを言い始めていた!」


「グッハァ!」


爆弾を投下されて焼け野原になった俺の心に、美少女はとどめの水素爆弾を投入しようとする。


「エツの部屋の机の三番目の引き出しに入っているノートにはヴァルハラだとか、天地創造だとか、恩讐の彼方だとか、堕天使の極光だとか、他にも…」


「あーあーああーあー!ホントマジ調子乗ってすいませんでしたぁぁぁー!」


土下座を始めた俺を見て美少女は爆弾の投下を止めてニコリと微笑む。


「これでふざけは止めてくれるかな?」


「だから、最初からふざけてなんていないんだって!ホントにお前、女じゃん!」


俺のただ事ではない様子を感じ取ったのか、美少女は怒った顔を止めて俺に聞いてくる。


「なあ、もしかして、ホントにお前、俺のことが女に見えてるのか?」


その問いにガクガク頷きながら俺は答える。


「そうだよ!どうしても信じられないってなら、鏡を取ってきて見せてやるよ!」


「おう、だったらやってみろ。」


美少女が半信半疑で俺に鏡を取ってくるように命令したのを確認してから俺は鏡を取ってきて美少女に渡す。


「ほら、言われたとおりに鏡を取ってきてやったぞ!」


「フン、たぶんお前は夢でも見てるんだよ。この俺が女なわけが…」


不機嫌そうに鏡を受け取った美少女は鏡を覗き込んで絶句する。


「」


「な?お前、女だろ?」


「ああ、俺も夢を見ているのかな…自分の顔が美少女に見えてきた…」


本気で衝撃を受けている様子の美少女を見て恐る恐る俺は問いかける。


「なあ…、お前、もしかしてホントにリツなのか…?」


「ああ…。さっきからそう言ってるだろ…?」


俺は愕然としている美少女、いや、リツの肩に手を置いて震える声で言った。


「と、とりあえず、おでんでも食って心を落ち着けようぜ、な?」

やっぱり転生者と言えば中二病だよね!という深夜テンション(仮)で書き上げた話。

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