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今回は昴君目線の話になります。
さあ~、いって見よう~!
― 昴 ―
千彰が帰った後、朱音が憤慨したように言いだした。
「な~に、あれ。せっかく手伝ってあげようと思ったのに~」
怒っている朱音もかわいいけど、それは違うだろうとおもい口を出すことにした。
「朱音、馬に蹴られたくなければ何もしないことだよ」
「昴君は知らないと思うけど、誰かが手を貸さないとまこちゃんは素直になれないと思うのよ」
野崎さんと丹川さんも頷いている。俺はわかるように溜め息を吐いた。
「昴君。何? その溜め息は」
「あのね朱音。お節介が過ぎると逆効果になるんだよ」
「でもね」
「それに千彰が手伝ってって言ったのならまだしも、押しつけはよくないよ」
俺の言葉にまだ朱音は不満そうにしていた。
「ねえ朱音。もし俺と朱音が千彰と真琴さんの立場だったとして、他の人に口や手を出されてうれしいかな」
俺の言葉にやっと「あっ」と小声で呟いてバツの悪そうな顔をした。他の人達も同じような顔をしていたからようやくわかってくれたようだ。宏司兄さんは・・・見守る大人の顔だな。
「ねえ、でも昴君。福沢君の事情に詳しくない?」
「そりゃあな~。俺と千彰は親友だし」
「親友だなんて聞いてないけど」
「俺も朱音と千彰が同じ職場だって知らなかったからね」
朱音に笑い掛けながらそう言ったら、朱音が拗ねたようにすり寄ってきた。なので朱音をそっと抱きしめる。朱音の顎に手を掛けて上を向かせると、潤んだ瞳が俺のことを見つめていた。そのまま唇を寄せようとしたら・・・。
「おい、待て、昴。そういうのは後にしろ」
「チッ」
宏司兄さんが待ったをかけてきた。せっかくいい雰囲気にして誤魔化そうと思っていたのに。
「昴、親友だっていうのなら福沢と森崎のことを訊いているんだろ」
「訊いてるけど話せないよ」
「別に詳しく話せとは言わないが・・・ただな、あの二人はどうなっているんだ」
「どうって?」
「お前に花束を頼むってことは、福沢はプロポーズを考えているんだろう。だけどな、今日の様子を見ていてもそんな甘い状態には見えないんだよ」
宏司兄さんの言葉もわかるけどね。千彰からも真琴さんからも聞いてる俺も、もどかしくてしょうがないもの。
「だからさ、もう少しだから見守ってやってよ。でも、しいていうなら金曜日に真琴さんが逃げ出さないように、千彰に協力してやってほしいかな」
俺はニッコリ笑顔でそう言った。悠木君と矢作君と丹川さんは『まだ納得できない』と、顔に書いてあったけど頷いてくれた。それからしばらくして三人は「お邪魔しました~」と帰って行った。
◇
四人だけになり、朱音がお酒を片付けてお茶を出した。
「それで宏司兄さんはなんか用があるの?」
「ああ。ちょっとな」
そう言って宏司兄さんは横を向いた。その様子に野崎さんの眉間にしわが寄った。野崎さんと目を合わせていた宏司兄さんが真面目な顔をして俺の顔を見てきた。
「その昴、それと朱音さんも。二人は式を挙げないのか」
「「はあ~?」」
朱音と声が重なった。ので、俺は朱音の顔を見た。朱音も俺と同意見みたいでキョトンとした顔で俺のことを見返した。
「ねえ、宏司兄さん。俺達は別に結婚式は挙げなくてもいいと思ってるんだ。籍を入れて一緒に暮らせるだけで幸せなんだよ」
「私もです。昴君と一緒にいられるだけでとても幸せなんです」
朱音が俺の手を握りながら兄さんにそう言った。その言葉を聞いて兄さんは頭を掻いた。そしてぼやくように言った。
「昴ならそういうと思ったんだけどな~」
「どうしたのさ。兄さんも判っていると思っていたんだけど」
さっきよりも頭を激しく掻いて兄さんが言った。
「そのな。俺達の結婚式の話が進んでいることは知っているだろ」
「うん。兄さん長男だし大変だね」
「それで、話の流れで香子が朱音さんと同級生の親友だってバレて、そういえば昴と朱音さんの式はどうなっているんだということになったんだよ」
「俺のことは放っておいてくれていいんだけど」
「うちの親戚たちが放っておくわけがないだろう」
「それで? 宏司兄さんは式をやれって説得にきたの」
「まあ、そうなんだが・・・」
そう言って兄さんは野崎さんと顔を見合わせた。そのあと野崎さんは朱音の顔を見て、頬を赤らめた。珍しい反応に首を捻る。
「あー、それでな。昴が嫌でなければ合同で式を挙げないか」
「「はあ?」」
兄さんが言うには披露宴は別としても結婚式だけでも挙げさせたいと、おじ、おば達が言っているそうで、俺に話しても結婚式を挙げないだろうから、野崎に朱音を説得してくれと頼んだそうだ。
そりゃあ俺だって朱音にウエディングドレスを着せたいけど、俺達は写真だけでいいにしようって話していたし。
チラリと朱音を見たら、いい笑顔で野崎さんのことを見ていた。きっと朱音と一緒のウエディングドレス姿に、野崎さんがつられて説得にきたと思っているのだろう。
野崎さんが朱音の笑顔におびえたように宏司兄さんの陰に隠れていた。
この二人もなんやかや云って、うまくっているようだ。
「それにな、なんか春奈も結婚が決まったらしいんだよ。だから尚更おじ達も昴達のことが気になっているらしい」
そんなことを考えていたら、宏司兄さんの言葉に無意識に頷いていた。
そっか、そっか。春姉も決まったんだ~。あそこも長かったよな~・・・ん?
「あ~! そうだよ、春姉。なんだよ。俺達も関係あんじゃん」
突然叫んだ俺に三人は驚いた顔を向けてきた。朱音が俺の手を少し強く握って言った。
「何のことなの昴君?」
「千彰と真琴さんのこと。俺達も春姉経由で関係あんだよ」
「春奈経由?」
「そうなんだよ。春姉の結婚相手が真琴さんの兄貴の迅さんなんだよ。このまま千彰と真琴さんが上手くいけば千彰も親戚になんの!」
俺の言葉に驚き過ぎたのか三人ともポカンと口を開けている。その中で一番に立ち直った宏司兄さんが訊いてきた。
「なあ昴。もう少し詳しく話してくれないか。これじゃあ何がなんだか」
「ああ、そうだよね。もちろん話すよ」
「え~、昴君。さっきは話せないって言ってたじゃない」
「あれは、無関係の三人がいたからだよ。それに親戚になるなら無関係じゃないだろう」
「まあ、そうね」
俺の言葉に三人は頷いてくれたのだった。