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視点が毎回?変わります。

今回は千彰。

― 千彰 ―


真琴が社食を出たところで矢作に言った。


「もう、手を放してくれ」

「ああ。悪い」

「いや。俺も悪かった」


そう言って席に座ると俺は弁当の残りを食べだした。


「ねえ、福沢君。あれはないんじゃない?」


向坂が言ってきた。言いたいことはわかるが一応言い過ぎたと落ち込んでいる人間に言わないでほしい。


「ねえ、あれじゃあ、まこちゃんも素直になれないよ~」


だ・か・ら・言いたいことはわかるけどほっとけ!


そういう意味を込めて向坂を睨んだら、斜め向かいから野崎が睨んできた。先週の火曜から眼鏡をかけるのをやめた野崎は、迫力のある美人だ。切れ長の目に睨まれると、怖いったらない。ついでに、頼むから小山内さん。あんたまで睨むのはやめてくれ。別にそういう意味で見てるわけじゃないんだからさ。


なのに、めげずに向坂が話しかけてきた。


「なんかさ~、まこちゃんも福沢君もピリピリしているけど、何かあったの?」


こいつは・・・。先週も思ったけど、鋭いのか鈍いのか分からない奴だよな。

真顔で見つめたら「やだ~、見つめあっちゃった~」なんて言っているし。

ほんと力を抜くのも上手いよな、こいつ。


「まあな。ちょっとタイムリミットが近いんだよ」

「タイムリミット? なんの?」

「真琴のプライバシーに関わるから話せないよ」

「なあんだ~。つまんないの」


向坂が残念そうにいった。その様子を見ていてある事を思い出した。


「あっ、そうだ。向坂。昴に今日、話があるって伝えておいてくれないか」

「いいけど~、昴君と知り合いなの?」

「中3からの友人だよ」

「えっ? そうなの。私、訊いてない~」

「話す機会がなかっただけだろ」

「そこんところ詳しく~」


俺は時計をチラリと見て言った。


「もう、時間無いだろ」

「え~」


と、向坂は不満そうにしていた。食事を食べ終えた俺達は、それぞれの部署へと戻ったのだった。



仕事が終わり昴の店に行った。花屋はもう閉まっていた。

玄関に回りチャイムをならし、出迎えた奴らにゲッとなる。

シレッとした顔でで迎えた奴らの顔を俺は睨みつけた。


「遅かったな福沢」

「なんでお前らがいるんだよ」

「そりゃあ、あの話の続きが気になったからさ」

「邪魔だ。帰れ」

「何言ってんだよ。協力が必要だろ」

「そうよ。真琴は素直じゃないから作戦立てないと駄目でしょ」

「だからってなんで小山内課長までいんだよ」

「俺も昴に用があるからだが」


食堂で会った面子が揃っていた。いないのは真琴だけだ。


「向坂、いいのか。急にこんな人数が来ても」

「うん、大丈夫だよ。昴君もいいって言ってくれたから~」


向坂どころか昴までOKなら俺が拒否る理由はないわけだが、見回してみても昴の姿が見えない。聞くと会社のほうに行っているそうだ。社長も大変だよな~。


女性たちが夕食の支度を始めた。意外と向坂の手際がいい。野崎も指示されて動いていた。丹川も家事をし慣れているようで、向坂と話しながら動き回っていた。


俺達男は邪魔にならないように、リビングにテーブルを持ってきたり、座布団を用意したりした。昴の従兄だという小山内さんが、それがどこにあるのかをわかっていて、俺達に指示してきた。


彼女達が料理を作り終わるころに昴が戻ってきた。珍しくスーツ姿だった。

部屋に入ってきた昴は人目も憚らず向坂にキスをしていた。


俺は昴の変わりにように目を瞬いた。こいつはこんなに情熱的な奴だっけ?


チラリとみんなの方を見た昴に、牽制のためと実はいきなりな今日のことを、不快に思っているという意思表示のようだと気がついた。


抱擁を解くと昴が俺達に笑いかけた。普段通りに見える爽やか笑顔。だけどこれに騙されちゃいけない。育ちの複雑さから、処世術は身に着けている昴。笑顔に騙されて手痛い目に遭った奴が何人いたことか。


「高杉昴です。朱音がお世話になっています。どうぞくつろいでください」


みんなにそう言ってから昴は俺のそばに来た。視線を合わすと顔は笑っているのに目が笑っていなかった。

これが向坂に頼まれたのでなければ、こいつらがここにいるのは許さなかったんだろうな。


「久しぶり千彰。俺に話ってことは花束が必要なんだな」

「そういうことだ。だけどそれは後でな。それで、昴が知らないのは、この三人だろ。右から悠木覚、矢作賢太、丹川知夏。みんな同期だ」


俺の言葉に三人は「よろしくお願いします」と挨拶をした。

昴は着替えてくると言って部屋を出て行った。


昴が戻ってきて食事が始まった。うん。向坂は料理が上手かったんだな。

献立は鮭と沢庵の混ぜ寿司と豆腐とわかめのお吸い物。大根と豚バラ肉の煮物。ほうれん草の胡麻和えにカブときゅうりの漬物。

食事の間は世間話をしていたけど、みんなが俺のことをチラチラ見ていた。


食事を食べ終わり片付けが済んで、向坂が酒を用意してくれた。だけど、俺は酒を断ってウーロン茶を貰うことにした。真面目な話をするのに酒はいらんだろ。


「そんじゃあ昴、金曜に勝負かけるんで花束よろしく」

「おうよ。前に言っていた花束でいいのか」

「ああ。赤いバラの花を一本で周りは白を主体で頼むな」

「他の花は何でもいいのか?」

「そこは任せる。花言葉なんて知らないしな」

「それじゃあ、任された」


昴がニッコリ笑って請け負ってくれた。

俺も昴に笑いかけると立ち上がった。


「じゃあ、お邪魔さん」


そう言って帰ろうとしたら、矢作が慌てたように言ってきた。


「福沢、説明なしで帰るなよ」

「矢作。何で説明しなきゃならないんだよ」

「協力してやるって言っただろ」

「要らないからな。面白がって邪魔すんなよ」


俺は矢作たちを睨むと昴に言った。


「昴、こいつら邪魔ならとっとと追い出していいからな」


それに昴は笑顔を見せただけだった。俺は昴に手を振ると彼の家を後にしたのだった。



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