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puppet play Ⅰ  作者: 乃空
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第4話

冷たく乾いた風が吹く朝、彼はその椅子に座った。

取り囲むのは人形師の中でも貴族である者達だけ。それでも相当な数の人形師がパーティーに出席していた。

そしてそれを飾る綺麗な宝石や照明、食べ物や花々。


「おめでとうございます、ライズ様。」

「あぁ、ありがとう。」


そんな会場の中で朝からひっきりなしに同じ言葉を聞き、そして言い続けている男。

誰がこんなに若い人形師がこの地の権力を集めたあの椅子を手に入れると思っただろうか。

あの椅子を狙っていた者達は、彼は自分の敵ではなく駒だとさえ思っていた。

まだ若い人形師にあの椅子が与えられるとは、誰一人として予想していなかったのだ。


「はぁ・・。」


男は薄っすらと限界を感じていた。

『挨拶くらいはしておけ。』そういった前当主である彼の祖父はもうとっくに会場から姿を消している。

疲れているのはその所為だけではなかった。

新当主の任命の時は急に訪れたため、ライズの周りを固める警護は皆先代の引継ぎ。

ライズが信頼できるものは皆遠くへと出ていて、戻ってくるのに時間がかかっているのだ。

そのため仕方なく傍においているが、その警護がいつ自分の命を狙うかも分からない状態ではおちおち食事もできない。


「ライズ・・ってあんたか?」


そんな中、会場をようやく離れたライズに軽々しい声が掛かった。


「はい?」

「おぉ、やっぱりだ。噂通りの美形当主!」


振り返った先には薄暗がりでニカッと笑う、ライズとそう年の変わらなさそうな男がたっていた。

ライズにとってそれはそこそこ嬉しい事の一つであった。

会場をひしめいているのは自分の二倍は生きている頭のきれた連中ばかりだからだ。


「すいません。俺に何か用でしょうか。」

「まぁそう急かすなって、な?」


自分が気を抜いた瞬間に何をするか分かったもんじゃない。ただでさえ若いと甘く見られているのに。

ライズの中に渦巻く考えを見破ったように男は言った。その男を見るからには適当にあしらえそうにないと思った。

深い青のローブに金の糸で描かれた大鳥の刺繍。どこかの高貴な家柄に生まれた者を相手にしないわけにはいかない。

となると早急に用事を終らせ、一人で過ごす時間を作るのが一番の解決法であった。

しかし相手の男はそんなライズの考えを汲もうとはしなかった。


「何もしねぇって、ライズー。」


へらへら笑ってその男はライズの肩に手を置いた。

その手に嫌悪を見せることもできず、ただそっと逃れるために体を動かすとその分だけ男が歩み寄った。


「・・悪いんだけど、俺は早く休みたいんだ。」

「だろーね。」

「なら早く・・」


ライズよりも背の高い男がライズの顔をじっと覗き込む。

しかしライズはその眼を反らさず射るように見ていた。薄っすらと色ずく青の瞳。

その瞳は細くなるとさっと遠のき、優しい微笑を浮かべる。

会場からの明りに一瞬その顔が浮かび上がる。見惚れるというほどでもないが、ライズは綺麗な顔だと思った。


「あんた若いねー。こういうときは、お得意の権力を振りかざすんだよ。」


男は笑ったまま軽い声でそういった。

冗談なのか本気なのか。罠なのか賭けなのか。ライズは眼を凝らして見えぬ相手を見ていた。

そんなライズを知ってか知らずか、男は続ける。


「そんなんでよくあの椅子にたどり着いたな、驚きだこりゃ。周りの奴が言ってるとおりだ。」


あの椅子を手に入れるために、あの椅子を狙う者は皆裏をかき、そのまた裏をよんで、駒を動かす。

そうして敵を一人、また一人と潰していく。


「俺は・・」


しかし、ライズは違った。


「敵を落とすだけがゲームじゃない。落とされなければそれでいいんだ。」


ライズは若いわりには頭がよかった。同年代ではその頭脳、知識、先視、何においても劣らぬほどだ。

しかしそれだけではあの椅子が手に入るはずがなかった。相手は自分の2倍、いや3倍を生きる貴族。

卑劣な事も、経験上の知識も、ライズが到底及ばないのが現実だった。

それでもそのゲームを勝ち抜き、見事あの椅子に座ったのは若きライズであった。


「へぇ。」

「・・もういいかな。」


その代償がどれほど大きなものだったかなんて、誰も知ることはない。

彼が何を対価として、そのゲームを勝ち抜いたのか。


「俺はリーク。リーク・シャンベルシュ。」

「君はシャンベルシュの・・・。」

「噂に違わぬいい男、だろ?」

「『蒼き風遣い。』」

「知っててくれて嬉しいなぁ。」


金の眼に青の眼が揺れる。


「それじゃ。」


そう言って青い眼を反らしてリークは背を向けた。


「あんたがどんなやつが、見たかったんだ。また会おう。」


その背中から一声、そんな声が真剣に降ってきてライズは体を固めた。

低く影に溶け込むような声に気を取られ、ライズが気づいた時そこにはもう男の姿はなかった。



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