第23話
赤薔薇が目覚めると、外から大きな騒ぎ声が窓を抜けてきた。
その騒ぎが収まると、二人は廊下に立ち、ライズと向かい合った。
「どうして助けた。」
赤薔薇が小さく言った。
リリィは首をかしげながら笑っている。
質問の問いを探るライズはリリィをそっと撫でて、赤薔薇に答えた。
「さぁ、どうしてだろう。」
自分が着ている真っ赤なドレスを見て顔を上げると、リリィのほうを見た。
赤薔薇が着ている真っ赤なドレスとは対照的に、真っ白なドレス着てを嬉しそうに笑っている。
「あ、ロージィーの服は洗濯中だよ。もし、前のがいいならちゃんと・・」
「勝手に私の名前をつけないで。」
「君に名は?」
「・・・ないわ。必要もない。」
どこからか吹いてくる風に赤い髪が揺れる。
「白百合、貴女は・・・」
「私達は契約したもの。でも赤薔薇。赤薔薇が出て行くなら私も出て行くよ。」
「白百合・・・。違うのよ、私はそんなことを望んでいるんじゃない。」
「じゃぁ名前?私はいいと思うけど、可愛いし。」
リリィは不思議そうな顔をして赤薔薇を覗き込んだ。
赤いドレスが赤薔薇に吹いてくる風に、小さく揺れた。
「違うの、そういうことでもない。」
「じゃぁ、どういうこと?」
「白百合、貴女は私とずっと一緒じゃなくていいって言いたいの。
・・・・ライズ、お前は私達を縛るための契約ではないと言った。」
「あぁ。」
ライズにとってあの時、最も優先すべきはシャンベルシュに二人を殺させないことにあった。
そしてそれと同時に二人と繋がることも重要なことだった。
その日から全てが変わるとシザンクルスが言ったのだ。ライズはその言葉を信じていた。
長い時間を経て、全てに耐え、逃げ切り、あの椅子を手に入れたことがようやく意味を持ちはじめていたのに。
「だから私がここから出て行こうと何もいえない、そうだな?」
「・・言わないよ、何も。君は縛られる身じゃない。」
十二年前、焼け野原から始まった物語はもう終わりに向かい始めていた。
ようやく始まろうとしていたのに、結局もう終わりへと向かうのだ。
ライズは諦めるように笑いながら、そう言った。
「・・・分からない。お前が何を考えているのか。」
「ロー・・君を傷つけることではない。」
「何故私と契約した。何故意味を持たない契約をした。何故・・私に名を与える。」
廊下はただ静かだった。
吹き抜けていく風だけが音を持った世界のように。
「君と」
そんな廊下にライズのはっきりとした声が響いた。
「繋がりたいと思った。意味があることだと信じているから。それに、名前がない存在でいてほしくないから。」
「信じている?何を信じるんだ、こんな世界で。」
「君たちと笑い会えることを信じているんだ。
リリィが笑ってくれて、君が目の前にいる。
この世界がどうであろうが、信じる理由なんてほんの小さなことでもいいんだ。」
それまで鋭く警戒を張り巡らせていた赤薔薇の肩が下がった。
赤薔薇のため息と、それからリリィの笑い声が混じる。
「賭けをしよう、ライズ。」
赤薔薇の明るい声がライズに響く。
ライズが驚いた顔をして赤薔薇を見ると赤薔薇が髪を揺らしてその顔に笑いかけた。
「もし、そんな世界になったらずっとお前の傍にいる。」
「もしならなかったら?」
「その時こそ、名前を呼ぶのをやめてもらう。」
「ロージィー!!」
白百合がそう名前を呼んで、その場で跳ね上がった。
「それまでここで待ってるわ。」
「・・いいのかい?」
「私達が縛られる身ではないのなら、嫌になればいつでも出て行くし、賭けも降りるわ。」
「・・ふっ、そう。わかった。ありがとう、ロージィー。」
賑やかにはしゃぐ白百合をみて、ロージィーと呼ばれた赤薔薇の人形は微笑んだ。
そんな赤薔薇にライズが微笑む。
小さな賭けが始まった。
いつかも分からないその時を賭けて、この世界がいつか人形と人形師の笑い会える世界になることを。
賭けた者はともに、同じことを願いながら。




