第13話
ライズは白い光の中に目を覚ました。
窓の向こうには鳥が鳴きながら静かに空を渡っている。
「・・・っ・・、はぁ・・・。」
体を起こそうとしたライズの体は、ライズに悲鳴の声をあげ訴えた。
深く右足に残る傷が痛む。
「・・ん・・あっ、ライズ様!!」
赤い天蓋。白い布団。この部屋は代々ヴェスタ家当主に与えられる部屋だった。
そのことにようやく気づいたライズの傍に駆け寄ったのは、頬に緩く紐の寝痕が入っているニックだった。
「おはよう、ニック。」
駆け寄った幼く小さな少年にライズは優しく笑いかけ、そっと体を起こす。
それでも多少の痛みが彼を襲ったが、彼は笑って誤魔化した。
「おはようございます。」
「・・・布団で寝なかったのかい?」
「えぇ。僕は眠くなかったので。」
そういったニックにライズは手を伸ばし、子供を撫でるように頭を大きく撫でた。
「そう。」
それが大嘘だとライズは知っていた。分からないはずがない。
目の下に隈を作って、頬には寝痕を、そして寝ぼけた声。
遠くへ出ていたニックとサラが、ここへ戻ってくるために眠っていないのは気づいていた。
「せめて、眠らせてやってくれとエクターに頼むべきだった。」
自分の主がとうとうその権力の椅子に座ったのだ。一刻も早く帰って顔を見て言葉を交わしたいと思うのが普通だ。
そしてそのためならサラとニックは眠ることなく、駆けてくる。それさえライズには予想ができたことだった。
「そんな・・」
それなのに帰ってきてみれば主は血だらけで、そこにはその主を支えられる者が誰一人としていないのだ。
そんな状態で、二人が簡単に床につくはずがない。
ライズには、ニックが無理にサラを寝かしつけた事さえ分かっていた。
「君達が眠るはずがないことくらい・・いや、眠れないことくらい、分かっていたのに。すまない。」
「ライズ様。」
ライズは哀しそうなニックの頬に手をやって、優しく笑った。
その手にはたくさんの傷があり、少しがさついている。決して綺麗とは言えないその手が、ニックは大好きだった。
「眠ってくれないかな?私は朝食をとるから。」
「・・・できませんよ。サラがまだ3時間しか眠ってない。」
「サラを起こす必要はないよ。二人とも長旅、眠ってないんだろう?寝てほしい。」
「そんなこと、できないとわかっていて・・・」
まだこの城にはライズを狙う者がたくさんいる、それは確かな事だった。
表だけを繕ったパーティーがようやく明け方に終わり、その護衛たちも眠っている。
そんな中を刺客が現れた時、誰がライズを守るのだ。
ニックはそればかり考えていた。そんなニックに眠れという方が不可能なのだ。
しかしライズは穏やかに微笑みを見せて言う。
「なら命令だよ。休息を取れ。」
「そんな命令・・・」
「心配しなくても大丈夫。シザンクルスはもう戻ってるから。」
その声にニックは少し輝きを見せ、ライズを見た。
ライズの眼が紅く揺れると、部屋の端が急に明りと熱を放った。
『久しぶりね、風の子。』
「シザンクルス!」
『ずっとソライに出ていたのだったわね。』
「うん。・・・シザンクルスは見るたびに綺麗になる。」
『あら、嬉しい事を。』
細く笑うシザンクルスにニックは微笑み返す。その様子を見たライズは体を無理矢理起こして立ち上がる。
「ライズ様っ!」
「平気だよ。ほら、ニック早く布団に入れ。」
「ですがここはっ」
「そんな体になったニックは、見ていられない。命令だ、早く眠って。」
そんな優しい命令にニックは渋々その白の布団へと入った。
まだライズの温度が残る、暖かな寝床へ。
「ありがとう・・ございます・・。ライズ様・・。」
『おやすみ、よい子』
シザンクルスのその声が、響き終わるか終らないかの時の間に、ニックは夢へと落ちて行った。
優しい光が差し込む大きな窓を紅いカーテンが覆い、部屋は静かに薄暗くなった。
「もうすぐ皆が戻り、『L』が集う。そうすれば、すぐにでも・・・」
『そうね。』
ライズの言葉にシザンクルスは小さく相槌を打った。
それからその重い扉を開き、二人はそっとその部屋から出て行ったのだった。