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puppet play Ⅰ  作者: 乃空
13/23

第13話

ライズは白い光の中に目を覚ました。

窓の向こうには鳥が鳴きながら静かに空を渡っている。


「・・・っ・・、はぁ・・・。」


体を起こそうとしたライズの体は、ライズに悲鳴の声をあげ訴えた。

深く右足に残る傷が痛む。


「・・ん・・あっ、ライズ様!!」


赤い天蓋。白い布団。この部屋は代々ヴェスタ家当主に与えられる部屋だった。

そのことにようやく気づいたライズの傍に駆け寄ったのは、頬に緩く紐の寝痕が入っているニックだった。


「おはよう、ニック。」


駆け寄った幼く小さな少年にライズは優しく笑いかけ、そっと体を起こす。

それでも多少の痛みが彼を襲ったが、彼は笑って誤魔化した。


「おはようございます。」

「・・・布団で寝なかったのかい?」

「えぇ。僕は眠くなかったので。」


そういったニックにライズは手を伸ばし、子供を撫でるように頭を大きく撫でた。


「そう。」


それが大嘘だとライズは知っていた。分からないはずがない。

目の下に隈を作って、頬には寝痕を、そして寝ぼけた声。

遠くへ出ていたニックとサラが、ここへ戻ってくるために眠っていないのは気づいていた。


「せめて、眠らせてやってくれとエクターに頼むべきだった。」


自分の主がとうとうその権力の椅子に座ったのだ。一刻も早く帰って顔を見て言葉を交わしたいと思うのが普通だ。

そしてそのためならサラとニックは眠ることなく、駆けてくる。それさえライズには予想ができたことだった。


「そんな・・」


それなのに帰ってきてみれば主は血だらけで、そこにはその主を支えられる者が誰一人としていないのだ。

そんな状態で、二人が簡単に床につくはずがない。

ライズには、ニックが無理にサラを寝かしつけた事さえ分かっていた。


「君達が眠るはずがないことくらい・・いや、眠れないことくらい、分かっていたのに。すまない。」

「ライズ様。」


ライズは哀しそうなニックの頬に手をやって、優しく笑った。

その手にはたくさんの傷があり、少しがさついている。決して綺麗とは言えないその手が、ニックは大好きだった。


「眠ってくれないかな?私は朝食をとるから。」

「・・・できませんよ。サラがまだ3時間しか眠ってない。」

「サラを起こす必要はないよ。二人とも長旅、眠ってないんだろう?寝てほしい。」

「そんなこと、できないとわかっていて・・・」


まだこの城にはライズを狙う者がたくさんいる、それは確かな事だった。

表だけを繕ったパーティーがようやく明け方に終わり、その護衛たちも眠っている。

そんな中を刺客が現れた時、誰がライズを守るのだ。

ニックはそればかり考えていた。そんなニックに眠れという方が不可能なのだ。

しかしライズは穏やかに微笑みを見せて言う。


「なら命令だよ。休息を取れ。」

「そんな命令・・・」

「心配しなくても大丈夫。シザンクルスはもう戻ってるから。」


その声にニックは少し輝きを見せ、ライズを見た。

ライズの眼が紅く揺れると、部屋の端が急に明りと熱を放った。


『久しぶりね、風の子。』

「シザンクルス!」

『ずっとソライに出ていたのだったわね。』

「うん。・・・シザンクルスは見るたびに綺麗になる。」

『あら、嬉しい事を。』


細く笑うシザンクルスにニックは微笑み返す。その様子を見たライズは体を無理矢理起こして立ち上がる。


「ライズ様っ!」

「平気だよ。ほら、ニック早く布団に入れ。」

「ですがここはっ」

「そんな体になったニックは、見ていられない。命令だ、早く眠って。」


そんな優しい命令にニックは渋々その白の布団へと入った。

まだライズの温度が残る、暖かな寝床へ。


「ありがとう・・ございます・・。ライズ様・・。」

『おやすみ、よい子』


シザンクルスのその声が、響き終わるか終らないかの時の間に、ニックは夢へと落ちて行った。

優しい光が差し込む大きな窓を紅いカーテンが覆い、部屋は静かに薄暗くなった。


「もうすぐ皆が戻り、『L』が集う。そうすれば、すぐにでも・・・」

『そうね。』


ライズの言葉にシザンクルスは小さく相槌を打った。

それからその重い扉を開き、二人はそっとその部屋から出て行ったのだった。



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