第1話
『死ねばいいんだ・・全部。』
今日も闇に一つの命が堕ちた。
光を求める事さえできなくなったその命が、闇に這う。
この世界は人間と呼ばれる時を刻む存在と、人形という時を刻まない存在があった。
もとは全て同じ。同じ命を持って生まれ、そして生きていく。
人形という存在は、元は時を刻む人間だった。
ただ堕ちてしまったのだ。そこに広がっていた闇という、優しい世界に。
光を望む事も求める事もできなくなった人間から、時は奪われる。
死を望む人間から、時は奪われる。そんな人間は人形として生きる。人間に恨み憎しみを抱いて。
人形になった者がただ人間を殺すために生きるようになった瞬間、人形師が鋏でその生命の糸を切る。
生命の糸で繋がれた人形という存在を壊す、それが人形師と呼ばれた選ばれし人間。
ただ世界はそれだけで終る事はなかった。
それは仕方のないことだったのかもしれない。
感情を持つ者同士が敵となる以上、それは避けられない事だったのかもしれない。
感情は全てを動かす要なのだから。
大切な者を奪われた者は、その愛の分だけ憎しみを抱き、動きだす。
その憎しみに殺された者を想う者は、その分だけ憎しみを抱き、動き出す。
憎しみの連鎖が止まるはずなんてない。一度動き出したものが止まるはずなんて。
そして世界は今の状態となった。
人形は人間を憎み。
人間は人形を恨み。
危害を出す出さないに関係なく、人形師は鋏を振り下ろす。
ただそこにある、自分とは分かり合えない存在を消すためだけに。
人形師という人間が、闇に堕ちた人形という人間を消していく。
そんな事に誰が気づくであろうか。
ただ憎しみを抱いてしまった者達は繰り返す、哀しい連鎖を。
『母さまっ!!』
一つの鍵を誰が与えたのか。
『母様!!』
幼い少年と、高貴な人形の間に、世界を変えるその鍵を落として。
『そこの子供。』
互いに交わる事のない存在が触れ合う、その仕掛けを動かす鍵。
『・・人・・・・形?』
『平気か。』
願ったのは神かもしれない。
世界を変えるために、精一杯の願いだったのかもしれない。
ただ殺しあう存在だった二つが、交われるように。
同じ命が、違うものにならないように。
願った神が落とした鍵が、十二年という時をへて、仕掛けを動かした。
世界に広がった哀しい連鎖を止める、唯一の希望の光が動き出す。
哀しく切ない、人形と人形師の物語。
糸に繋がれた人形と、糸を切り人形を壊す人形師。
そこには何があるのか。
世界は変わり始めようとしていたのです。
さぁ、もうお静かに。だた、見ていてあげてください。
この人形劇を――――――