【小説】 足踏み入れしたれかの腹
私の母親の実家は大きな川の近くにある。
お地蔵さんが多いところだと、その町に来るたびに思った。
親戚が集まると、いとこと兄弟で町の中心の公園で遊んだ。いとこたちはその町に住んでいたから、私たちにこの公園での遊び方を教えた。そのなかの一つが、木登りだった。
公園の端にたたずむ楠木に登るのだ。楠木の中が空洞になっており上まで導いてくれる。身軽な子供なら簡単に登れた。上まで登ると、公園全てが見渡せる。
半袖だったから、夏だったのだろう。
どの子供だったのか。一番年の近いいとこだっただろうか。顔が思い出せない。空洞を登り切り、公園を見渡す私よりも、一歩高いところにいたその子。
「その洞はね、泥棒を食べたんだよ」
「食べた?」
「泥棒が大人に見つかって逃げ回って、この洞に隠れたんだ。そうしたらこの木は樹皮を伸ばして洞を閉じたんだよ。次の日に警察が調べたら、盗まれたものが全部、洞に入っていた」
楠木は神様の木。
「心が汚いと食べられちゃうよ」
ほんの少し恐怖に襲われた。今降りたら、食われるかもしれないと。
またこんなことも聞いた。
お地蔵さんが多い理由。聞かせてくれたのは一番年上のいとこだった。
「昔はね、よく川が氾濫して、子供が何人も何人も川にのまれたのさ。あれは供養だよ」
のまれた、が、食われた、に聞こえた。
今でも、その町は川に近いし、お地蔵さんが多いし、楠木が座っている。