召喚
△ 初戦 ▽
呆然としていると、地響きが遠くから鳴り響く。
何か巨大なサイみたいなのが突進してくるんだけど。
恐怖で足がすくんでしまう。
逃げなくてはいけないと頭ではわかっていても、体は動かない。
そして、その恐怖の元凶たちは、俺の部屋を半分吹き飛ばして去っていく。
俺の城がなくなった!
「うぎゃー俺の愛した城がっ!」
久しぶりに泣いた。おぎゃあと生まれた時以来だろう。
いや、嘘です。国民的アニメ見たときも普通に泣きました。
何もなくなった俺は、パジャマ姿のまま草原に取り残されてしまった。
やばい、本格的にやばいぜ。
どうすんだよ、夢なら醒めてよ。
ここにいると野生の生物に食われてしまう。
ゼェハァ!ゼェハァ!
久々に走ったぜ。腹の肉が波を打つ。
俺としたことが、走るなんてみっともない。
それから、どこに向かっているのか分からなかったが、最低でも水は確保しなければならない。本能のまま生きる事だけを優先した為の選択肢であろう。
何時間も走り続けた。
運動もしていない体でも、必死になれば誰でも自分の限界を超えられる。
さあ、新しいステージへ――
疲れたので一休み。
平原はなおも続き、風は次第に強くなってくる。
遠くには、黒々とした雲もみえる。
ここ何年も、雨に降られたことがない俺の心は、空の色と同じであった。
早く雨宿りできる場所を探さ無ければならない。
走れなくなり、トボトボと歩き出す。
「ぐおおお」
獣の咆哮が耳に入る。
百メートル以上離れているところから、ゴリラの様な獣がこちらに向かってくる。
物凄い速さで迫ってくる。
「おいおいおいっーー!」
もう思考を行う事なんかできない。
ただ必死に逃げ切るのみ、ただ、平原だから逃げ切ることなどできない。
体が、左に吹き飛ばされる。
あばらが何本も折れてしまう。
「がああはぁ」
血が噴き出す。
数メートル吹き飛ばされており、起き上がる事もままならない。
このまま、殺されてしまうのだろうか?
いやだな……。とり溜めしてたアニメはもう見れないんだろうか……。
十一話と最終回見れないのは残念だな。
糞アニメとか言ってごめんな制作スタッフ。
折角苦労して作ったんだろうに……。
迫ってくる黒い影が、すでに何処から食べるかの算段をしているようで、余裕なのかさっきまでの勢いは無く。ゆっくり歩いて近づいてくる。
誰か助けてくれ。
虚しくも身勝手な願いを空に向かってする。
涙が目を伝い端から零れ落ちる。
誰か助けて。
今まで、他人に多くの迷惑をかけてきた男であるが、なおも他人に頼ってしまう。
長い年月部屋に引き篭もっていたが、人は一人では生きられない事を痛いほど知っている。
諦めればいいが、本能はまだ生きたいらしい。
意識は薄らぎ、どんな相手が迫っているのかも判断がつかないほどである。
目を閉じてしまう。
シナプスの様な連なり、黒く枯れた枝のよう。
森の様な空間に意識が溶け込んでしまう。
その中心に、一際大きな光の塊が見える。
手が届く訳ではないが、その輝きな何か温かいものを感じる。
スキルポイント《1000》
【召喚士】《500》
召喚士か……。人に頼り切っている俺にピッタリなジョブだな。
そんな事を一瞬考えた時。
【召喚士】《500》取得。
スキルポイントが《500》に変更。
黒く枯れた枝が、はがれるように緑色に輝きだす。
【クリーチャー・人型】《500》
【クリーチャー・動物型】《500》解放。
新たにスキルが加わってくる。
スキルポイントを消費して、取得により解放していくようだ。
スキルポイントなんてゲームのやりすぎだろ俺。
最後の夢だろうか……。
だったら、楽しもうじゃないか。
【クリーチャー・人型】《500》取得。
スキルポイント《0》。
【クリーチャー・人型レベルアップ】《1000》
【クリーチャー・人型ウエイト時間短縮】《500》
【クリーチャー・人型同時召喚可能数増加】《500》
【クリーチャー・人型召喚時間増加】《500》
【クリーチャー・人型ジョブ選択可能】《500》解放
半目を開ける。
もうすぐそこまでゴリラが迫ってきている。
【クー召喚】
膝の高さくらいのサイズ。体は丸いホルムで、細い手足が生えている。
人型の生命体が召喚される。
「お願いだ。助けてくれ」
「クー!」
了解という意味なのだろう。
一言しゃべってから、ゴリラに向かっていく。
ゴリラの右攻撃をかわして、体当たりを食らわせる。
少しゴリラが怯む。
クーの着地と同時に、ゴリラの左手攻撃が襲う。
クーはもろに受けて、五メートルほどノックバックしてしまう。
一撃のダメージが大きく、結構クーは疲弊している。
更に体当たりを加えにかかる。
ゴリラは、回避能力が低いようで、顔面にまた攻撃が入る。
「ぐがあああ」
クリティカルヒットしたようだ。
ゴリラは、再度咆哮。
クーは恐怖で、体を動かす事が出来なくなった。
ゴリラは、両手を握ってクーへ攻撃を加える。
地面を破壊しつつ、クーへ止めを刺す。
「くっ!」
【クー召喚】
再度の召喚を行う。
しかし、出てこない?
どういう事だ?
そうか、再召喚には時間が掛かかるのか。
ここまでか……。
しかし、ゴリラは何を考えたのか方向を転換して、こちらから離れていく。
「助かったのか?」
いいえ、死亡フラグではありませんよ。
全身から緊張がとけて、少し目を閉じてしまった。
ほんの数分だろうか、たまたま獣に襲われなかったから良いものの、非常に危険な事をしてしまった。相変わらず、骨が何本かいってしまっているようで、歩くのは非常に厳しい。体が上下する度、激痛が走り、口から鮮血が唾と混ざって出てくる。
いやだよ。つらいよ。こんな世界。
絶対安全な空間を作ってひきこもってやる!
そのためには、生きて、生きる唯一の手段であるスキルを成長させるしかない。
「生きてやる!うおおおおおお!ぐふっ!」
気合を入れたら血がでました。
超痛いです。