壊滅の足音
△ 壊滅の足音 ▽
あれから、一ヶ月が経過して、春の様な陽気な日和から、少し汗ばむ季節へ変わってきた。
ルカ、ルナの格好は、ノースリーブ巫女服、スカートに黒タイツという俺の趣味丸出しな格好で働いてもらっている。
二人は栄養状態も良くなり、すごく健康的で、俺を参拝しにくる人よりも、彼女らを見に来る人の方が、増えてきたのではないかと、疑っているくらいだ。
茶屋には、酒も置くようになり、一本千クラン(この頃のクランは、一クランあたり十円の価値)と高価な値段で出しているが、近隣の貴族が購入している。
ある酒好きの貴族は、まとめ買いしてくれるので、一日に数ダースさばける場合もある。
そんなある日、多くの人が、社の前の広場に、集まってきた。
その人達は、荷車を引いており、中には大きな風呂敷のようなものを担いでいる人もいた。
傷を負って、包帯を巻いている人もいる。
見知った顔もいる。
ルカ、ルナを手当てに当たらせる。
更に、《クレリックー》で回復の手伝いをさせる。
人々の話では、隣国が攻めてきたらしい。
ここ、数年は和平協定により、細かい小競り合いはあったが、大規模な戦闘は久しぶりとの事。村人は、二手に分かれて社に向かう者と、近くの町に向かう者に分かれた。
敵勢力は、近くの町に向かった方を追撃しているようだ。
数百人いた村人は、半数が殺害、行方不明になっているそうだ。
一万人規模の町であり、そこの貴族の数人は参拝者でもある。
酒好きの貴族も、その町に住んでいる。
壁に囲まれた町であり、隣国に近い事から、駐屯地になっており、兵もそこそこいるので、すぐに陥落する事は無いだろうが様子を見に行こう。
こちらに転進されると、一たまりもなさそうだ。
【転移門】
《ムロフシ(仮)》を送ってみた。
南門の近くに飛んだらしい。
不気味な静けさが伝わる。
【共感覚】
生暖かい空気。
少し歩いて様子を窺っていると、遠くから煙があがっているのが見える。
北門の方であろう、数キロ先に所々煙が上がっている。
おかしいな、確かこの町は、北門周辺は特に兵士が警護を固めている地区のはずだが。
【転移門】
北門近くに飛んだ時、その惨状を目の当たりにする。
多くの兵士が、鎧ごと切り裂かれ、血を流し横たわっている。
当然、兵士に助けを求めた町民の死骸も転がっている。
敵勢力は、大男の集団で、ライトメイルに斧を持っている。
しかし、目には生気が感じられず、まるで、殺戮のみを己の使命としたただの獣の様な奴らだ。口の端からは、涎が照れている。既に、多くの傷を負っている者もいたが、全く攻撃の手を休める事は無い。
「ベルセルク?」
狂戦士。
己の肉体の限界を超えた者。
そして、敵対勢力の壊滅。もしくは、己の破滅。どちらかが成立するまで、戦い続ける。
兵士は、ほとんど殺害されてしまい。
残った町人が狩られている状態だった。
ほんの数分で、巨大な町の兵が壊滅してしまったのだ。
見ている目の前で、また人が倒れていく。
片腕が切り裂かれた一人の老人が、酒を一口に飲み干して大きな声をあげる。
「おお、往生、往生、大往生。こんなうまい酒と逝けるとは、者ども!儂の墓には、この酒をささげよ!」
少し口に含んだ酒を残し、その傷ついた腕に酒を吹き付ける。
腰の剣を抜きとり、狂戦士に攻撃を加える。
少し怯んだ彼らだったが、老人の肩に咬みつく。
少しくぐもった声を漏らすが、老人は更に力をこめる。
「憤怒!」
狂戦士の腸を切り裂き絶命させる。
「どうした下郎ども、儂はここじゃ!女子供にかまけている暇はないぞ!」
何時も酒を買ってくれる貴族だ。
普段は酒好きのどうしようもないジジイかと思いきや、貴族としての役割をちゃんと果たしている。有事には、市民の盾となる。
しかし、狂戦士の猛攻は続き、老人は一人で五体を切り裂いた所で、剣が折れてしまった。
その隙に他の狂戦士が四方から攻めてきて、ついにはその体に無数の剣が刺さり、崩れ落ちる。斧を振り下ろそうとした狂戦士に対して、【火炎瓶・濃度中】を投げつける。
命中すると割れて、彼の来ている服に燃え移る。
野生の本能なのか、火を見て彼らは恐れ慄く。
倒れ力尽きたと思われた老人が、気合の一喝と共に、更に彼らの斧を奪い四体を沈める。
「社の所の使いか!」
その一言を発したたところで、老人は倒れ込む。
【転移門】
酒を傍らに置く。
「ああ……この味じゃ……」
老人は事切れる。




