小さな祈り
△ 祈り ▽
夢を見た。
そこには、クラスの帰りの会で、立たされている俺がいた。
疑心の目が、集中する。
誰に仕組まれた分からないが、悪者になっていた。
そして、すでに結果の決まった多数決が行われる。
何も考察をする事も無く、犯人を決める方法。
それは、多数決だ。
その日から、俺は少数になってしまった……。
外はまだ暗い。
その暗がりが少しづつ晴れてくるそんな朝の時間。
控えめな柏手が聞こえる。
「どうか、お姉ちゃんが生贄に選ばれませんように」
クーを召喚して、外の様子を確認した。
まだ、十歳くらいの少女が、一人で参拝にきている。
その小さな手を一生懸命合わせて、目をギュっと閉じて祈りをささげている。
酒を密封する為のコルクを置いていった。
たぶん彼女の宝物なんだろう。
少し気になり、クーに追跡させた。
「生贄か……何に対する生贄なのだろう?」
追跡は、何と数時間にも及んだ。
暗がりをここまであの子は参拝しに来たのか。
危険じゃないか。
一度最初のクーは時間切れになったので、再召喚して、【転移門】で送りだした。
一山超えた所の小さな村に住んでいるようだ。
水汲みと偽って、社まで来ていたのであろう。
途中で水の入った桶を担いで家へ向かう。
小さなあばら屋、彼女の家なのだろう。
村から少し外れた所にある。
中に入ってみると、栗色でウェブのかかった髪の女性がいた。
セミロングなのだろうが、後ろで縛っている。
ボロボロの服を着ている。
頬はやつれて、疲れが窺える顔だ。
しかし、少女が帰ってくると、満面の笑みで迎えていた。
恐らくこの少女も、その女性が少女の前では、から元気になっている事を知っているのだろう。それでも、無邪気に笑い、その笑顔に答えていた。
なんと健気な事だろう。
――あれから三日
特に変わった事はない。
彼女たちは良く働いている。
しかし、おかしなことに、ほかの村人は彼女たちに寄りつこうともしない。
まるで避けているように。
村八分か……
居場所のなくなった姉妹。
それでも、二人は強力しながら懸命に生きているようだ。
少女は、ほぼ毎日のように参拝に来る。
相当距離もあるだろうに、健気なものだ。
そんなある日、村人がその村の広場に集まっていた。
その中には、姉妹の姿もあった。
村長らしき人物が、皆の前で高らかに宣言をしている。
「皆良く集まってくれた。本日は、何と名誉なことに、そこにいるルカが、ゲルム様のもとに嫁ぐ事となった。これは村の総意である」
村人からまばらな拍手がおこる。
ルカとは、あの少女の姉の名前らしい。
ゲルムとは、この地域一帯で暴れている山賊の頭のことだ。
少女の言っていた「生贄」とは、このことだろう。
村の若い娘を差し出して、ゲルムのご機嫌をとることなのだろう。
どうせ遊び飽きたら、娼婦にでもして捨てるんだろうが。
ルカは、喜んでいるでもなく、妹の事が心配のようだ。
幼い妹を残して、この村を離れるのが、何より悔やまれるのであろう。
自分のこれからの境遇のことよりも。
「五日後に、ゲルム様自らおこしになるそうだ。心してお待ちするように」
それだけ言ってから、その場は解散する事になった。
多くの村人は、自分の娘じゃなくてよかったと安堵している様子だ。
そうなんだ、結局多数決では、誰もが押し付けあった事を、皆の総意として
結果的に弱い者に押し付ける。そして、押し付けた者は、責任をとる事も無く
何かあった時は、多数決で決めたからと言い逃れをする。
昔の記憶がフラッシュバックする。
あの少女は、もう神への祈りをささげる事は無くなるだろう。
そう考えていたのだが、集会があった次の日も現れた。
恨み言でもいいに来たのかと思いきや、嫁いだ後の姉が幸せになれば良いという内容の願いをささげてきた。
「……」
何故だろう、俺の心は熱くなった。
どうしてこういう人ばかりが、幸福になれないのだろうか?
じゃあ、この姉妹に手を差し出せるのは誰なんだろう。
そうか、そういう時にこそ神が必要なのだ。




