Blue moon …side祐
「あーあ、今日も逃げられちった」
祐は右手にちょっと背中が曲がった煮干しを一匹持ったままBlue moonの店先にしゃがみ込んでいた。
「ぷぷ、アイツ、人間に懐いてるとこ見たことねーじゃんよ。」
快斗はケラケラ笑いながら、自身もアイツのために取っておいた煮干しをかじる。
「そりゃわかってるけどさー。今日の給食で出た煮干し、わざわざアイツのために取っておいてやったのによー。成長期の俺らにとって煮干しは超超超超大事な食べ物だっつーの!」
「俺らって一括りにすんなよ。…確かに祐は煮干し必要だよな。あと牛乳も。まあ、俺は間に合ってるけどね。なんたってクラスで一番背が高いし?ってか食えばいーじゃん。あー、美味いにゃぁって。」
「うっせー、だま「はいはい、ストップ!!!こんなとこで喧嘩はやめてよね??店先でわーわーきゃーきゃーやられたら堪ったもんじゃないわ。今日もうちでやるんでしょ?さっさと中に入りなよ。そんでもってガキは黙って勉強ー勉強ー!!」
もちろん本気の喧嘩に発展するわけもないに決まっているが、ここは年上らしくこの男共を嗜めなければ と妙に姉御肌な黒髪の少女。
「ちぇ、凛だってつい先月まではガキだったじゃねえか。高校に入ったからって…」
祐はそうぼやきながら
入口のドアに付けてある鈴をチリンチリンと鳴らしながら店に入った。
いつの間に入ったのか、快斗はもう席について教科書、ノート、そしてファイルに挟んだ漢字の書き取りプリントをごそごそとランドセルから出している。
「祐、聞こえてるから。ひそひそ声はね、逆に響くんだよ?快斗 見習ってさっさと勉強しな。明日漢字のテストなんでしょ?」
なんだか割に合わないよな。
そう思いながら、
祐は快斗の向かいの席にドカッと腰を下ろした。
そしてランドセルのなかでくしゃくしゃになってしまった漢字の書き取りプリントを出し、机の上で伸ばした。