委任と開拓
暗黒軍侵攻システムが追加されてから数週間が経った。いつしか暗黒軍の防衛にも慣れていた。
第二の城壁、第三の城壁の建築し広大な水堀を作った。また、暗黒軍の攻城櫓より大きな城壁を建てることでそれらからの侵攻も防ぐことができるようになった。城壁の厚みを厚くすることにより投石攻撃をも防ぐことが出来るようになった(城壁にダメージは喰らうがそこまでのものではない)。結果的には暗黒軍の精鋭が来ない限りは城内の侵入を許さず倒すことが出来るようになった。
今日は、暗黒軍の侵攻を効率良くストップさせるためのトラップ作りをしていた。けい「じゃぁ対暗黒軍トラップは落とし穴に決定だね」
これは、全員で話し合った結果である。
「構造だけれど、まず幅3m高さ3m分の土を掘る。幅3mだけれどピストンと回路を設置するから3mより少し多めに掘っていてもいいかもね。まず――――――」
と、まぁトラップの説明が始まった。構図を配布してあるので分かるとは思うが意外と複雑なので説明は必要だろう。
「じゃぁこんな感じで進めていこうか。各自道具を持って移動して、作業を開始して」
Shiroはそう言って話を終える。
「ねぇ、ユウ君。ちょっといいかな?」
「何だ?」
Shiroがかなり真剣な顔をして俺の方に寄ってくる。
「少し前からなんだけど、メニューの中にこれ……」
メニューと言うのは、MMORPGで言う装備やステータス、システムが見れる場所だ。ログアウトもここから出来た。メニューは空気をタッチ2回で開くことが出来る。
俺はshiroが指差す先を見る。そこには、メニューにあるはずがない≪国家≫という欄があった。
「なんだこれ、開いてみたのか?」
俺は問う。国家なんて俺のメニューの中にはない。
「うん。開いてみるね」
Shiroは国家をタッチする。
国家名、参加メンバー、国家範囲、国家資源、自治ポイントなどと書いてある。参加メンバーというのには5人の名前とLvが書いてある。
「とりあえず、公式の方を確認してみる」
俺は、メニューを開き、その中のシステムから≪外部へ接続≫を選択する。さらに選択画面が現れ、公式サイト・攻略掲示板・動画サイトと書いてあるうちの公式サイトを選択する。公式サイトのお知らせを見る。
「あぁ、アップデート入ってるな」
アップデート内容はこうだ。まず、国家機能の追加。これはMMORPGで言うギルドのようなものだ。現在明かされているのは、国家機能の詳細程度だ。自治ポイントについては救済措置としか書いていない。また、脱出条件の中にあるワールドの開拓だがハッカーが良心的なのかMapの制限をしている。メニューからマップが見られるらしい。今まで地図を繋げることによって見ることのできる範囲を広げることが出来たが、今回のアップデートで地図の存在意義をなくしマップ機能を追加したそうだ。
「とりあえず国家はギルドらしいから今日の夜あたりにまた話し合おう」
「それがいいね。じゃぁ私たちも行こうか」
作業は5時間程で終わった。トラップは結局落とし穴にはめてそこに水を流し込んで敵を倒す作戦だ。かなり残酷である。試験用トラップなので小規模ではあるが、良好に働いてくれればさらに規模を増やす予定だ。
それよりも今考えることは――。
「国家についてなんだが、国家名を決めようと思う」
他の3人にも公式サイトを確認してもらい国家名を決定することにした。自治ポイントの謎はそれからで良い。
「とりあえず、各自1個ずつ候補を考えてくれ」
俺も考えないといけない。うーん。こういうところになると無駄に候補が浮かび上がってしまう。
だが、俺はその中でも特にしっくりきたものにする。
「じゃぁ1人ずつ言っていこう」
「Light」
「Zoo」
「Clown」
「レーシング」
順に候補を述べていく。そして俺の番になる。
「俺はGuildが良いと思う」
単純すぎただろうか? 俺は少し心配になる。
「確かに、どれが一番考えてるかと言われるとGuildだよね」
Shiroはそういう。Shiro……。お前のレーシングって……。ちゃんと考えてないだろ!
「じゃ、じゃぁ多数決取ろうか」
多数決の結果は、Guildに3票とそのClownに1票、レーシングに1票である。レーシングはもちろんShiroの投票だが。
「じゃぁGuildで決定だな」
俺はウィンドウより、国家を選択する。国家名の所をタッチするとキーボードのようなものが表れる。それをタッチしGuildと入力する。
「じゃ、じゃぁ決定を押すぞ……?」
俺は慎重に綴りを確認しゆっくりと決定をタッチする。
≪入力内容が確認されました≫
俺の視界に、その文字が書いてあるウィンドウが出現する。その数秒後アナウンスが流れる。
≪新国家Guildが誕生しました。各自のMAPにGuildの領土が表示されます≫
機械的な声がそう発する。俺はさっそくMAPを開いてみる。制限されたといってもかなり広い。因みにGuildの国家領は全MAPの1%ほどである。MAPの広大さが分かるだろう。
「自治っていうのもやってみる?」
Shiroがそう問いかけてくる。
「じゃぁやってみるか」
俺は国家の中の自治を選択する。
自治のウィンドウには、自治ポイントや自治領などと表示されている。説明がないため全く分からないが自治ポイントはMAXなので何らかの形で自治ポイントを使うことが出来るはずだ。自治ポイントが表示されているすぐ下に「自治する」があったのでそれを押す。
すると次のような表示が出てきた。
≪自治するには、自治ポイントがMAXである必要があります。また、自治すると自治ポイントは0に戻ります。自治すると、国民より国王が決定されます。また軍団が作られ暗黒軍の侵攻から国を守ってくれます。ですが、自治を開始してから7日後は自治領には住むことが出来なくなります。新たな領土を探さなければなりません。
自治によって可能となる機能:輸送屋≫
つまり、ここを国民に託して新たな開拓に励め、ということだ。俺は少しみんなの方を振り向き、そして「決定」「戻る」のうちの「決定」を押す。
≪新たな自治領が誕生しました。所属国家はGuildです。この自治領はGuildに対して友好的に接してくれるでしょう≫
「ここから立ち退かないといけないらしい。どうする?」
俺は言う。
「そうするしかないんだよ。とりあえず新たな開拓地を探そう。出来ればこの近くがいいね」
「そうだな」
俺はそう言いもう一度MAPを見る。見た所自治領の近くに新しい国家はない。一番近い国家でも南にかなり行ったところにある「Building」だ。名前的にも、領土の広さ的にも建築一筋の国家なのかもしれない。
とにかく、俺たちの近くに国家はない。今はBuildingに向かって領土を広げてBuildingと共闘関係を作りたい。そう考える。
「じゃぁ南方の方に向かって領土を広げていくから、南方を開拓していこう」
俺がそう言うと、4人が「はい」と軽快な返事をした。
南方によさそうな土地を発見したので、そこに各自持ってきたブロックで仮拠点と共同の巨大な倉庫を作る。
ここに向こうに残っている物資を輸送すればとりあえずは安心である。この状態なら暗黒軍も攻めては来ないから、城壁などの防衛対策についても今は考える必要はない。
「ここが新しい拠点か……」
俺はボソッと呟く。
恐ろしいデスゲームなのにワクワクする自分がそこにはいた。なぜだろうとは考えなかった。考えていてもらちが明かないだろうと思うからだ。今はとにかく頑張ればいい。デスゲームからの脱出を考えればいい。そう思った。






