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Crafter  作者: 絶英
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それは唐突に始まる物語

 目の前には洞窟の入り口がある。中は真っ暗で、闊歩するモンスターの声が聞こえてくる。

「結構広いかもね……」

 ボソッとギルドメンバーの1人のShiroさんが言う。

「この装備なら楽勝でしょ」

 白カニは答えるように言う。4人の装備は鉄製装備である。そう簡単に死ぬ装備ではない。

「まぁ、死んでもいいでしょ。国から近いし。さっさと行こうよカニ君」

 ギルドメンバーの雑木林さんが割って入る。

 白カニさんが頷くと、松明に持ち替える。白カニさんを守るように俺、Shiroさん、雑木林さんが配置する。

 松明を置くことでモンスターが湧かないようにすることができるが、松明所持者はモンスターに遭遇すると反撃ができなくなってしまうためそれを防ぐための配置である。

 順調に洞窟の奥まで入っていく。思っていたより広く相当奥まで来ていた。地表にはマグマが見えておりそれを物語っている。

「あれは……。ダイヤだ!」

 白カニさんが歓喜の声を上げた。

 白カニさんの指さす方を見るとそこには、他の石とは違う透明度が高く透き通った鉱石があった。白カニさんのが目がキラキラと輝く。

「採って……いい……?」

 光る目でこちらを見てくる。3人そろって「いいんじゃないです?」と答える。白カニさんは嬉しそうにピッケルを持ってダイヤモンドのある方にかけていく。

「こうしてみると、白カニさんってかわいいよね……」

 Shiroさんが呟く。

「あぁそうだな……。普通に男だけどな」

 雑木林さんも……。少し呆れる。

「そんな会話しないで、行っちゃいましたよ。向こうはモンスター湧いてるんだから白カニさん危ないですから行きましょう」

「まぁまぁ。あいつなら大丈夫だよ」

 雑木林さんは笑みをこちらに向けてくる。まぁ、4人の中ではLvも一番高く洞窟探検の歴も一番長い。大丈夫か……そう油断したのが間違いだった。


「誰か、助けてくれ!」


 俺はビクッと声の方を振り向く。

「カニさんだ。急ごう!」

 ほら言わんこっちゃない。俺は「やっぱり」と呆れながらも後に続いた。

 白カニさんのところに着くと通常のモンスタースポーンではありえない数のモンスターが白カニさんを囲っていた。

 モンスターは近接攻撃しかないゾンビと、それの強化型の斧持ちゾンビ。遠距離攻撃だけの弓兵亡霊、強化型の弩兵亡霊。一番厄介と言われる爆発属性の弾を放ってくるボムフラワー。それらが白カニさんを包囲していたのだ。

「スポーントラップか……!」

 雑木林さんが言う。

 スポーントラップとは、それに引っかかると大量のモンスターが湧いてくるというものだ。スポーンの原点を破壊しない限り永遠とモンスターが湧いてくるためかなり厄介である。このトラップは、低確率で洞窟に生成し宝箱や、希少鉱石の近くに設置されている。

「行きましょう」

 俺はそう言いモンスターの包囲に突撃した。

 敵の基本HPは低いため数度の攻撃で倒せるため1対1では苦にならない。が、まとまってこられると手におえない。特にボムフラワーは威力が強い分だけたくさん寄ってこられると厄介だ。

 包囲はすぐに破れ白カニさんは何とか助かった。だが、まだかなりのモンスターが寄ってきていた。このAIも頭がよく確実に包囲できるよう立ち回ってくるのだ。

「やばいぞ……」

 白カニさんはそう呟く。俺も冷や汗を掻いていた。白カニさんのHPも少なく下手に戦えば死んでしまうだろう。ここはHPの自然回復を待つのが良いだろう。このゲームでのHP回復方法は自然回復かポーションかだが、ポーションはかなり貴重なため自然回復に頼ることになるのだ。

 俺は、モンスター群の中に弓兵亡霊の姿を確認する。俺は白カニさんを庇うように立ちはだかる。そこに容赦ない矢の攻撃がやってくる。これは剣で跳ね返すことが可能だがかなりの技量が必要だ。

「ぐっ……」

 数本は跳ね返したがやはり十本以上だと手が付けられない。また、放たれた矢の中が脚に当たってしまい地面に手をついてしまう。

 その間にも容赦ない矢の攻撃が飛んできた。

「あっ……」

 俺は声の発した方を向いた。攻撃が白カニさんに直撃したのだ。

 白カニさんは蒼白の顔を向けた。白カニさんの体が薄れていく。あぁ負けたのか……。俺はそう思った。だが、装備を整えた白カニさんがまた助けに来てくれるだろう、そう思った。


≪死者1名。残り2万3898名です≫


 どういうことだ……? 死者っていうのは、白カニさんのことか。でもここで死んでもまたリスポーンするはず。俺は自問自答した。

「どういうことなんだ?」

 戦っていた雑木林さんとShiroさんも同じ疑問を持っていたようだ。とにかく、白カニさんの安否を確かめるべくも今はこの戦いに勝たなくてならない。

 俺は剣を強く握りモンスター群に突撃した。


 何度か死にそうになりながらも連携により何とか危機を打破し、スポーン装置を破壊した俺たちはすぐギルドホームに帰った。

 だが、そこには白カニさんの姿はなかった。領土内をいくら捜索しても発見できなかった。

「じゃぁやっぱり……そうなのか?」

 雑木林さんは椅子に座り悔しそうに自分の手を握りしめる。

「だろうね。こうしてカニさんは突如として消えたわけだしね。ログアウトできないって点もあるしね」

 Shiroさんは自分の剣を砥石で研いでいた。きっと気を紛らわしているのだろう。

「じゃぁ、このゲームはデスゲームだと思っていいんだな……」

 恐怖に満ちた声で雑木林さんは言った。

 デスゲームとは、VRMMO系の小説でよく使われていたネタで俺も本当に起きるとは思っていなかった。普通小説なら告知が来るはずだが告知は来ていない。かなり(たち)が悪い。

「すいません。自分が頑張っていれば……」

「ユウさんのせいじゃないよ。しょうがないことだ」

 雑木林さんは俯き言う。

「これからどうすればいいんだろうね」

 Shiroさんの声が響いた後沈黙が続く。

「とりあえず今日は家に帰ろう。そうしよう、ね?」

 Shiroさんの提案に2人は頷き立ち上がりギルドホームから出る。

 今日の夜は、気分が悪かったことは言うまでもない。

 次の日、運営より告知があった。

 内容は、ゲームシステムがハッキングにより何者かに乗っ取られてしまいそこらの設定が弄られデスゲームのように設定されたらしい。ハッキングは撃退したもののその設定は変えることが出来ずある条件を満たすかゲーム内に逃げ込んだハッキング犯を発見し解除プログラムを組み込むことで設定が解除されるようにしてあるそうだ。ゲーム設定を強制的に変更できないのは自爆プログラムというのが組み込まれあり強制的に設定変更しようとするとゲームにログインしているプレイヤーの全員が死亡扱いになるというものだとか。

また、ゲーム内容がいくつか弄られておりゲーム外からの干渉ができずゲーム内からの干渉しか受け付けないようにしてあるのだ。つまりゲーム内にいるハッキング犯が独自にゲーム内容を改変することが可能だということだ。また、ゲームログイン者の安否が分かるようプレイヤー一覧とその安否が確認できる名簿が配布された。

 俺は絶句した。どうすればいいか分からず泣きたい気持ちを抑えながらも怒りがこみ上げた。白カニさんの死をこいつのせいだったのだ。許せない。そう思った。

ハッキング犯の意図は分からないがここまでして何がしたいのかさっぱりわからない。

「はぁ……」

 俺は井戸の水で顔を洗う。そして、家の中に戻り朝食をとる。

 朝食を作るにしてもかなりリアルだ。例えばシチューを作るにはそれを作るための材料がいる。集めたら洗ったり下ごしらえしたりしなければならない。そこからは自動で料理してくれるのだが結構リアリティだ。

 詰まる咽喉に朝食のパンを水で流し込む。

「とりあえず行ってみるか」

 俺は重い足取りでギルドホームに向かった。

 ギルドホームにはShiroさんがいた。

「雑木林さんは?」

 俺は問うた。

「家から出てこないんだよね。その気持ちは分かるよね」

 Shiroさんの話によると、運営の告知が届いた後Shiroさんが雑木林さんの家を訪ねると鍵がどこもかしもかけられ家の中には入れないようにしてあったとか。

「しょうがないですね。突然こんな……」

「うん……そうだね……」

 そこで生まれる長い沈黙。それを断ち切るように俺は言った。

「これからどうすればいいんでしょうか?」

 Shiroさんは小さな声で「分からない」と言った。

「とりあえず今日は自由行動にしましょうか……」

 Shiroさんはコクっと頷く。

 俺とShiroさんは帰った。


 ――翌日、雑木林さんが死んだ。


雑木林さんの家を訪ねても昨日同様誰も返事をしない。

 不審に思った俺は配布された名簿を確認した。2万以上ある名前から雑木林さんの名前を見つけるのはなかなか難しかったが何とか見つけた。

「あっ」

 雑木林さんの名前には横線が入っており落下死と書いてあった。

「どうしてなんだろうね……」

 Shiroさんは俯き涙を流していた。

「そんなの分からないですよ……」

 俺も涙を流した。

「もう無理だよ……。帰るね……」

 Shiroさんは立ち上がりギルドホームを出た。

 残された俺は1人涙を流した。悲しさがこみ上げた。それと同時に悔しさが湧いた。こんなことをして楽しいのだろうか? 何が目的でこんなことをしているのだろうか? ハッキング犯を許せない。殺したい。

 いつかはそう思うようになっていた。


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