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朝の光  作者: うさぎさん⭐︎


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2/3

朝の光 【中編】 

※前編を読んでくださった方、ありがとうございます。


前回までのあらすじ


 フリーターの光は、ひょんなことからアマチュアギタリストの朝人と出会う。夢を追う二人は次第に心を通わせていく。そんな折、光にお見合い話が舞い込む。相手は初恋の相手・新だった。


「━━━━。ウ、ウソっ⁈ ウッソ⁈  えぇぇぇっ⁈」 

 な、なにいって⁈  だって、さっき変わってないっていったじゃん⁈  みんな、そういうの。変わんないって。童顔だから━━って、えっ、えぇぇぇええっ⁈

「その……なんか、変わってないんだけど、変わったっていうか」

 わけわからん。

「……綺麗になった」

 ま、また言う⁈ や、やめて! 嬉しくなっちゃう。そんなこと、いわれたことないもん。

「あ、新くん……じゃない、遠野くんだって、かっこよくなったよ!」

「え? そっかな?」

 新くんはキョトンとしてる。なんかそういう天然っぽいとこ好き。天然って天然だから、うそがないっていうか……あ、私もわけわからなくなってきたかも。私のほうこそ、緊張しちゃうよ……?

「あ、遠野じゃなくて、新でいいよ」

「えと?」

「新って呼んで。みんな、そういうんだ」

「……うん」

 私はちょっと笑った。そうだった。クラスのみんな、そう呼んでた。だから、私も心のなかでは新くん、って呼んでたの……。

「あ、じゃ、私も光でいいよ。私最近、結構みんなにそう呼ばれてる気が……」「い、いいよ、まだ、恥ずかしいから」

 彼は頭の後ろを掻いて、はにかんだ。

「え? そう? じゃ、会社でも下の名前で呼ばれてるの?」

「そ。遠野って超近くにもう一人いるから、紛らわしくて」

 そんなもんかね???

「か、会社……教材の、だよね?」

「うん。営業」

「ど、どう?」

「うーん。あんま、売れないよ。いつ、クビになるか冷や冷やしてんだ」

「そ、なんだ? 大変だね……」

 私はフリーターしてます。

 って、ちょっとイイツライ。ま、もうバレてるか。お母さんがいろいろ言ってそう。

「ね。知ってる? 深山みやま。こないた、バイクで事故ったんだ。はかだよなあ。木野きのはビール工場で働いてて、中溝なかみぞは何やらかしたんだか、自分の子供に嫌われたって嘆いてて……」

 そんなことになってたのか、元クラスメートら。

「あ、でさ、新……くん。会社ってどんな感じ? 私、ちゃんとしたトコ行ったことないからよくわかんないっていうか」

「ん~? それよか、桜井さ、これ食ったらどこ行く? まだ十時だし。好きなとこ、言ってよ。車で来たんだ」

 ちなみに私は、車の免許持ってない。原チャのも。けっこ~周りのみんな免許取ってるけど(弟も、原チャだけじゃなくて、車の免許も、今度取るらしい……ファイト)、私はさっぱり。今ではあんまりそ~でもないけど(?)、昔、父の車に乗ってて吐いたことあるほど、車酔いする子供だった(毎年、夏と冬の二回、今でも父の車で、私は、父方のじーちゃんちに行く。こないだもちょっと行った。弟と母は最近忙しがって全然来ない……さみし~)。母はなぜか、昔免許取ったくせにあんま車乗らんで、しかも、免許自分で捨てちゃった〜とかいってた。うちの母って……時々理解不能~。それに、免許取るのはお金かかるのだっ‼︎  とか、偉そうに言ってると、友だちは言う。「貯金しろ。それか、親に前借りして、後でちゃんと返せ。いろんなとこ行けて楽し~ぞ。世界広がるぞ~?」…………ま、そのうちな。ちゃんと自分で働いて、金に余裕できたら、な。

 私は、「どこ行く? 俺、前にあそこ行って、それでさ……」とかいってる、新くんの話を、必死に遮った。

「ん、ん……。あのさあのさ、新くんはどうしてその会社に入ったの?」

 知りたいの。

「うーん? ……なりゆき、かな。なんとなく」

「それだけ……?」

「そっ」

「…………。でも、たくさんある中から、そこを選んだんだもん。なんか、理由あるでしょ⁈」

「そ〜だなぁ。知り合いのツテっていうか、知ってるヤツがそこやってて、じゃ、俺もそこでいいか~……みたいな」

「━━━━ウソ……⁈」

「ほんと。ん~、しいていえば、外回りのが自分にゃ向いてっかな? ってくらい?」

「じゃ、『ここの会社だからっ!』ってのは━━ないの?」

「ないない。たまたま。そんなつまんねーことよか、桜井はどうなの? バイト楽しい?」

 つまんないの? 就職って━━そんなもん? なんか、違う…...。

 違う気がする。

 新くんって、こういう人なの? それで、人生、楽しいのかな。 

 目標とかさ、夢とか……ないの? 朝人くんなら。仕事してもさ、ギターは続けるって……。

「それじゃ、趣味とかは?」

「趣味? ん〜、なんだろな。寝ること?」

「……………………」

「あと、友だちと遊ぶことかな。休日とか、知ってる奴らと遊んで騒いで。それが楽しみかな」

「生きがい?」

「そんな、たいそうなもんじゃないけど……」

「…………」

「ま、そのために働いて金稼いでるってのかな、じゃなきゃやらねーよ。あんな仕事」

 暴言暴言暴言。それは暴言じゃないでしょーか、新くん? 私が間違ってるの? そんなもんなの? 仕事とか、夢とかさ、これが自分の命だ、宝物だって、そういうの……。そういうのがさ、私はさ……。

「で、でも、友だちと遊ぶっての、新くんらしいね」

 そうだよ。それもいいじゃん。誰かに会いたいから。友だちと一緒に遊びたいから。恋人とデートしたい。家族とのんびりしたい。そういうの、人間らしいよね? あったかいよね? 

 でもさ、私は、就職しごとってのは……。

 夢の延長っていうか。 どうしても、やりたいことっていうか。 

 そういうのがいーの。 

 子供かな? 子供なのかな、私? 朝人くんも、ギタリスト目指すけど、仕方ないから仕事するかもって、私も、絵本描きたいけど、いろんな会社受けたりして。 同じじゃん。変わんないじゃん? 新くんは、私と逆っていうか。仕事は生きるため、仕方なく。遊びが趣味で。ああでも、私もバイトが今現在は生きるためだから……そうしないと、一人暮らし続けていけないから。それで、絵本描いてて。絵本は生きがいだけど……。まだ仕事じゃなくて。 そんな変わんないのに。別にさ。 

「じゃ、お金のために、結婚するのってどう思う?」

「いいんじゃない、別に」

「……そーなの。そーなんだ、新くんて……」

 なんか、違うよ。 違うよ......。

 私、新くんは教材とか、子供とか好きなのかな? って思ったの。やつぱり、愛があるから結婚する━━そうじゃないとヤダって。だから、私なんかきっと好きじゃない断られるでもいーやって……。会えればそれでいいって。 こういうのって、いけない? 自分と考え違う人認めないみたいで、やっぱいけないこと?

「じゃさ。なんで、新くんは今日来たの? 親に何か言われたから? 見合いしろって、かったるいな、って……? 愛してない人とでも、結婚するんだね? なんで? 世間体? 当たり前だから? ……そういうの、よくわからないよ……」

「桜井……」

「私は、会いたかったの。だから、来たの」

 私は泣いてた。なんか、悔しかったから……。

「俺も、逢いたかった」

「.....え?」

「ずっと、逢いたかった」

「…………」

「今のは、他の人の話。俺は.....俺はさ……やっぱ、好きな人と結婚したいよ」

 そっか……よかった。

「ん、じゃ、こんなとこで、私なんかと見合いしてる場合じゃないね、あはは、ごめん、変なことばっかいって、なんかさ、見合いっぽくないからさ、って私がこんなこといったせいだけどさ、だから、私、変なことばっかで……。よくわかんくなっちゃって。あ、でも、会いたかってのはほんと。だって、久しぶりだもん。私、新くんと━━」

「好きだ」

「…………え?」

「愛してる。結婚して━━くれないか……?」


   ◯   ◯   ◯


「ずっと、好きだったんだ。中学の時から」

 光はしきりに瞬きしていた。

「好きなんだ」

 信じられなかった…...。


   ◯   ◯   ◯


「光ちゃん……」

 朝人は、マンションの二階の、光の部屋のドアをノックしていた。

「光ちゃん!  いないのかっ⁈」 

一週間ギター禁止の条件の下、やっと母親がこの部屋を教えてくれたのだ。

「くそっ……」

 朝人は手を下ろした。

 ドアに背を当て、座り込む。

「どこ……行ったんだよ?」


   ◯   ◯   ◯


 新の車で、海に向かった。

 埠頭で波を見下ろして、光は黙りがちだった。

 後ろに、新がいる。なんだか、まじめな顔をしている。

 ビーチではなく、湾港だった。所々に船が泊まっており、かもめが飛んでいる。釣りをしている人たちなんかもいた。何匹も魚を釣っている子供もいた。でも、親のほうは全然釣れてなかった。テトラポッドもあった。……大きかった。 昔、光は新と水族館に行きたいと思ったことがある。なぜ水族館だかはわからないが、そう思ったものだ。 でも、光はそのことを言わなかった。

 新に任せたら、なぜかここに連れてこられた。

「桜井、歩こうか」

「う、うん……」

 新に手を引かれ、光は歩きだした。

 進む進む進む。

 倉庫の裏に回った。

 気のせいか、人気ひとけがなくなっていく。

「新くん……?」

 不安げに、光は訊いた。


   ◯   ◯   ◯


「あ~光ちゃん光ちゃんどこ行ったんだ光ちゃんっ⁈」

 朝人は壊れていた。

 光の部屋の前の廊下の床を、のたうちまわっていた。

 ご近所からクレームがくるのももうすぐだ。


   ◯   ◯   ◯


「桜井……」

 人気のないところに光を連れ込んだ新は、辺りを見回している光の名を呼んだ。「へ~、結構穴場だねぇ」

 なんもない倉庫裏なのに、なぜか光はそこが気に入ったようだ。新の手を離して、走っていく。

 新は少し脱力した。

「ん~、こんなとこで意外にライヴってのは、どうだろ。少し人気が足りないけど、仲間うちで静かな曲を流すってのはどう? 秘密ライヴって感じ!いいぞいいぞ。絵本ギャラリーって手もあり?」

 なんかやたら盛り上がっている。

 ムードがとても足りない。

 ……ま、倉庫裏だしな。

 なんか、桜井。勘違いしてるけど……。

 それとも、わざとボケたこといって、俺のこと誘ってんのかな? なんかずんずん奥のほう行くしな…...。

 新は光を追いかけた。

「ねー、新くん、ここって……」

 光が振り返ろうとした瞬間。

「桜井……」

「きゃっ⁈」

 後ろから、新は彼女に抱きついた

。「━━好きだ。愛してる……」

 耳元でそう囁いた。

「や……」

 光は妙に色っぽい声を上げた。━━ように、新には思えた。


   ◯   ◯   ◯


 ご近所からクレームがやってきた。

「ちょっと、あんた、桜井さんのナニ⁈」

「うっさいぞ! また浪人しちゃうだろ⁈」

「落ち着きが足らん!」

 主婦と浪人生とどっかのオヤジだった。それぞれ竹等と参考書とうちわを装備している。

「す、すいません」

 朝人は素直に謝った。

「で、あんたこんなトコでなにしてるの⁈  桜井さん、留守なんでしょ⁈」

「ぼ、ぼくの心のレインボウ光さんに、なななんのようですか⁈」

ぬし、まさかちまたで有名なストーカーか⁈」

「ち、違います、オレは光ちゃんの━━」

 光ちゃんの━━ナニ⁈ 朝人はちょっと考えた。

 友だち……?

『光さんはやめときなさい。あさちゃんのカノジョには向かないわ』

 母親の言葉がリフレインした。

 ━━なんで、決めつけんだよっ⁈

  頭に来た。

 で、言った。

「カレシ」


   ◯   ◯   ◯


「やっ……」

 光はもがいた。

「やめて、新くん!  くすぐった~い‼︎」

 ウィークポイントだったようだ。耳元で何事かささやかれた光は、げらげら笑い出した。 

 新は唇を結んだ。

 試しに、もう一度耳元でなんか言ってみる。

「王様の耳はロバの耳。桜井の耳は……?」

「きゃん」

 やっぱり、妙にそそる声だった。

 でも、すぐ甲高い笑い声に変わる。

 どうもよくわからない。

 からかわれてんのかな。

 新は首を傾げる。

 けっこー、彼は天然だった。

「桜井」

 新は、光と向かい合うよう、彼女を抱き直した。

 ヌイグルミのようにぎゅっと抱く。抱き心地はサイコーだ。

「愛してる」

 バカの一つ覚えのようなリップサービスも忘れない。女はコレに弱い。彼の辞書に、そうある。

 新は光の顎を片手で持ち上げた。

 自分の唇を、彼女のそれに近づける……


   ◯   ◯   ◯


「あんた、桜井さんのカレシ?」

「うそだ、うそだっ‼︎」

「なぜ、彼氏殿が、オナゴの部屋の前をゴロゴロ転がっておる?」

 朝人はちょっぴしピンチしてた。

「そ、それはえ~と……」

 教訓:口からでまかせはよそう!

「わかったわ!  桜井さんにフラれたのね‼︎」

「そうだそうだ」

「諦めの悪い……」

「ち、違う! えーと……」

 言葉に詰まった。

「かくれんば! かくれんぼしてたんだっ!」

 意味不明だった。


   ◯   ◯   ◯


「きゃあああぁぁぁぁぁああっ!⁉︎」

 新は光にアッパーかまされた。━━顎に決まった。会心の一撃だった。顎の骨折れて死にそうになった。

「......なんで???」 顎抱えて、新はうずくまった。

 もう少しで、キスできるところだったのに。

 照れてんのかな?

 焦らしてるのかな?

 嫌がっているという第三の選択肢は、彼の頭の中になかった。

 だって、ハンバーガー屋で、光は自分に会いたかったといって泣いてた。それって相思相愛だろ? なにがいけなかったんだろ?

 歯……磨いた。ネクタイ……締まってる。髪……七三になってない。なんでなんで?

 場所か⁈ 場所が悪いのか⁈

 やっぱ。倉庫裏ってのはムードないか……でも、表のほうは釣り師の皆さんでいっぱいなのだ。皆さんの前でキスぶちかますよりいいだろ⁈  ……ハッ。まさかそれとも、そっちのほーがいーとか……? 桜井って意外にも目立ちたがり屋さん?

「桜井。すまんが、ここで我慢してくれ。俺は照れ屋さんの部類なんだ」

「いやぁぁぁあああああああっっっ‼︎」

 今度もあと少しのところで腹にストレート・パンチが炸裂した。━━痛い。心も体も全部。

「……な、な、なぜ……?」

 彼はかなりオポンチだった。


   ◯   ◯   ◯


「そう、かくれんぼしてたのね……」

「じゃあ、仕方ないね.……」

「かくれんぼには歯が立たない。もう降参」

 ……クレームたちは去っていった。

「ふう。我ながら、あっぱれ」

 朝人は妙な自信をつけた。

 ━━こうなったら、ここに座り込みだ。

 公園ライフしたオレだ。これくらいわけないさ。

「はぁ。光ちゃん、いつ帰ってくんだろ……」

 暇なので、ケータイいじくる。メタリックブルーの、こじゃれたヤツだ。ストラップがジャラジャラついてる。ギターのマスコットとか。天使のマスコットとか。友だちが勝手に貼ったプリクラは、なんかちょっと写りが悪いヤツだ。その友だちと二人で、笑ってる。

「あ、もしもし、オレ。あのさ……」

 早く帰ってこないと、料金がうなぎ登りだ。


   ◯   ◯   ◯


「いやぁぁぁぁぁっ‼︎」

「なんでえぇぇっ⁈」

「やめてぇぇぇぇっ‼︎」

「どーしてぇぇっ⁈」

 なんかヘンだぞ。 新がやっとそう学習したのは、阿度光の叫びを聞いたあとか。結局、殴られるばっかでなんにもできていない。光もさっさと逃げれよ。いや、光は驚いてそれどころじゃなかったのだ。こわくて、戻ボロボロだ。

 もしかして……。

 ほんとに、初めてなのかな。

 新はやっと思い当たった。

 か、かわいい! 桜井ってなんてピュアなんだ。

 かわいすぎるっ‼︎

「ゴメン、桜井。俺はケダモノだった。ここ数年ですっかり汚れちまった自分が恥ずかしい。……今度は、ちゃんと、優しくするから……」

「いやぁぁぁぁぁああああっ‼︎」

 いいかげんにしろ。ここにもクレームがやってきそうだ。

「な、なんで逃げんだよ、なんで泣くんだよ、なぁ桜井! 桜井は俺のこと━━好きじゃ、ないのか……?」

 新は光の手を掴んで問うた。

「嫌い、なのか…………?」

「だっだって……」

「俺は本気なんだ。桜井だって会いたかったっていったじゃん」

「ち、違うの。私はただ…....久しぶりだから、会いたかっただけで」

「だって、見合いだろ」

「そ、そうだけど……」

「俺、わかんねぇよ」

「だ、だって、新くんは私のことなんか好きじゃないって思ったから……。ただ、会うだけで、終わりだと思って。それで……私、と、とも……」

「最初から、断る気だったのか⁈」

「だっ、だって、新くんのほうから断ってくれるって思っ……」

「だって、仕事がどうの結婚がどうのって」

「そ、それは人としての生き方に興味があったというか。わ、私……」

「うそだろ。それだけかよっ⁈」


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