異世界を追放された虎は魔法少女(偽)のマスコットになりました
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久々に短編です。
木々が生い茂り人が滅多に立ち入ることがないそこは人の王国からは魔の森と呼ばれていた。
そんな魔の森の一角に木々がなく光刺す地があった。そこでは様々な動物たちが争うことなく思い思いに過ごしているという常ではありえざる静謐なる光景があった。
そしてその中心には1頭の白い虎が眠っていた。いや、象ほどの巨体を持ち四足から翼の生えたそれを虎と呼んでいいのかは分からない。
しかし、それは王たる威容を備えており、動物たちの様子はこの虎によるものだと察せられた。
その穏やかな空間は唐突に終わりを迎える。
それに気づいた動物たちは逃げ去っていき、寝ていた虎も耳をぴくぴく動かして神経を向けていた。
しばらくすると不躾な足音と共に立派な装備をした数人の人間の男女が虎の前に姿を見せる。
「見つけたぞ、魔の森の主。貴様を倒して魔の森を開放する!」
億劫そうに身を起こすと剣を向けて虎に宣言する青年に目を向ける。
『余はこの森の主の1体にすぎんぞ。むしろ………』
「問答無用だ。魔獣の言葉になど耳を貸す必要などない!行くぞっ!」
「「「おう!(ええ!)」」」
虎の言葉を遮って挑みかかり、そして数分後。
「ばかなっ!?」
青年たちは武器は折れて身に着ける防具もボロボロの有様になっており、一方の虎は無傷でそこに在った。
『これで力の差も分かったであろう。少しは余のは………』
「こうなったら賢者様から預かった奥の手だ!」
『聞けよっ』
虎の言葉を無視して青年が投げた珠が虎の足元に転がると光を放ち地面に魔法陣を展開した。
『ぬっ、これはっ!?』
虎が魔法陣を壊そうと前足を振り上げるが、一瞬間に合わず発動した魔法によって光が消えた後には何も残らなかった。
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魔法陣の光に包まれた虎が意識を取り戻した時、そこは雲の上だった。
『ぬぉぉぉぉぉぉおっ!』
重力に引かれて墜落しそうになる己の身を大気を踏みしめ空中に留める。虎は元の世界では魔法を使う獣ーーー魔獣と呼ばれた存在であった。
改めて周りを見回し鼻をひくひく動かすと警戒したように唸る。
『大気の構成、空気中の魔素濃度が違う。ここは………異世界か。先ほどの珠は転移の魔道具であったか。まさか人間がそのような物を持っているとはな』
己の油断から異世界に跳ばされたことをひとしきり反省して、新しい世界を調べるために大気を通じて周囲を探索すると下の方から魔素の大きな動きを検知した。
『………行ってみるか』
どう考えてもトラブルの気配でちょっと嫌そうであるが、この世界の生物の力を見る為にはちょうどいいと思い渋々該当の場所へ駆ける。
『む』
雲を抜けると大きな範囲に広がる建造物が目に入り、更に嫌そうな顔になる。それはつい先ほども一方的に難癖吹っかけられたばかりなので仕方ないだろう。
『少し目立たなくするか』
そう言うや否や虎の体が縮み始めて猫ほどのサイズになった。それに満足した虎は再び現場に向かって駆け始めた。
虎が辿り着いた場所では1人のフリフリの服を着た少女が大きな口から複数の頭と手足の生えた不気味な生物?と戦っているところであった。
虎は隅切りがあって隠れづらいながらも物陰に隠れてその戦いを観察していた。
『どんな世界でも人は争っているな。それにしてもあれは……魔獣ではないな。なんだ?』
魔獣はあくまでも魔法を使う動物なので動物の生態から大きく外れることはあまりない。しかし口の怪物はどう考えても真面な生き物ではない。
『なぜ戦っているのが少女なのだ?大人はどうした。前衛もいないではないか』
元の世界での人間の戦い方を思い出して、年端もいかぬ少女を前面に出して戦わせていることへこの世界の人間に不信感を抱く。かつて動物が集まっていたことから分かるようにこの虎は穏健で人がいいのだ。今の生態になってからは物を食べる必要もなくなって大凡血生臭さとは無縁になっている。
そんな思いを抱いている間に戦いは大詰めに入っていた。少女が大技を打つために装飾大目な杖を構える。しかし、技を使うまでに怪物が何かをしそうな動作をしていた為、虎はこっそりと風で怪物の動きを縛る。
「いくよーーーーっ!タイラントスタンプっ」
少女が魔法を唱えると口の怪物の足元が盛り上がり巨大な手の形となり怪物を空中に打ち上げる。
「タイラントクラップ!」
少女が続けざまに唱えると、もう一つの手が現れて落ちて来た怪物を両の掌で叩き潰す。手の隙間からは怪物の血と思われる紫の液体が噴出していた。
『えっっっぐ』
見た目のフリフリ衣装からは想像出来ない凄惨な攻撃方法に思わず虎の口から呟きが漏れる。本来は誰も聞くことのない呟きに相槌があった。
「ほんとよね。クレイアンバーって可愛らしい容姿と裏腹の魔法でファン層が偏ってるのよ」
『そうなのか。本当に人は度しが………ん』
思わず返事を仕掛けた虎は自身の独り言に相槌があった事を疑問に思い声の出どころーーー己の背後を恐る恐る見ると、長い髪の先端をおさげにしてそこそこ整った清楚と言われそうな面持ちで巨っと言えるお胸様をもつ女性が垂れ目がちな目を欄欄と輝かせて虎を見つめていた。
「やっぱり喋ってる!っていうか頭の中に直接声が聞こえてくる感じね。あなたは妖精よね。そうよねっ!」
『なんだ!?妖精なのは其方の頭の中身であろう!余は魔獣だ』
「魔獣?イローダーでもなく?妖精でもない?」
『そう、余は魔獣だ。それでイローダーとはなんだ?』
「さっき魔法少女が戦ってた怪物よ。そんなことも知らないなんて、貴方は今までどこにいたの」
不思議そうに尋ねる女性に虎は目の前に正体不明の存在がいるのに危機感がないなと思いながらも、つい先ほど自身に起こったことを説明する。
「は~~~。異世界転移。異世界って本当にあるのね」
虎の来歴に感心する女性を眺めながら、第一印象の清楚さは言動や仕草から見た目だけだったなと感想を持っていた。どちらかといえば好奇心旺盛で活発なタイプの様だ。と、嫌な予感がして後ずさったところをガシッと女性に掴まれた。
「魔法少女ってね。妖精との契約でなるのよ。……でね、もしかしたら魔獣でもって、ねぇ?」
『ねぇって……何だ?そなたがあの派手な服を着るのか?其方の歳ならもう少し落ち着……みぎょあ』
「女の子に年齢の話は禁句なのよ。それにわたしは中学生。クレイアンバーと同じ歳なんだから!」
ノンデリ発言をした虎の頭蓋骨が潰されそうになり悲鳴を上げたところで、言い含めるように告げる。
『あの娘とか?それにしては老け面……ぎょぇえ』
女性改め少女の笑みが深くなり虎の頭蓋骨が悲鳴を上げる。異世界でも最上位クラスの魔獣をアイアンクローだけで倒しかけている少女にはたして魔法が必要であろうか?
「夢だったのよ。魔法少女になることが。それなのにわたしのところには妖精が来ないから、何匹か掴まえたら魔法庁の人に怒られるし」
『アグレッシブすぎるだろ……。余は拙い者に捕まったのではないか?』
冷や汗を流しながらつぶやく虎など目に入らないようで自身の世界に入り思いを吐き出していくと不意に目をカッと開き荒い息で虎に顔を近づける。
「だからね、貴方ならわたしを魔法少女に出来ない?出来るわよね?出来るはずよ。出来ないとおかしいわ!」
『ひっ』
かつていかなる同族や人の勇者と戦った時にも感じたことのなかった恐怖がこみ上げてきた虎は、少女の手を振りほどいて全力で逃げ出す。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!』
「待ぁぁぁぁぁぁあちぃぃいいいいいなぁさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
空を飛ぶことも忘れて全力で逃げる虎を、血走らせた目を見開き顔を振り乱しながら追いかけてくる少女に虎は泣きながら逃げていく。虎の全力に追いすがる少女にやはり魔法はいらないだろう。
クレイアンバーがイローダーを倒したため、怪物警報が解除されて家から出てきた人がその様子を見てあらあらと笑っていた。
少女はクラスでは美人な方ではあるので初対面では好意を持たれることが多いが、行動がアレなので現在では完全にイロモノ扱いをされていた。それはご近所さんの間でも同様で今では生暖かく見守られているのだった。
逃げる虎は後ろに少女がいないことを確認して速度を緩めると生垣に寄りかかった。
『恐ろしい。この世界の人間まじこえぇ』
「ぜーーーーーはーーーーーぜーーーーーはーーーーー。うふふ。ミツケタァァァ」
口調すら崩れた虎が安堵を漏らすと生垣から荒い息の少女の顔が生えて虎を視界に納める。もはやホラーである。
『っ!!!!!!!』
もはや声にならない悲鳴を上げて逃げようとする虎をガシッと掴まえて、少女は一転泣きそうな表情で虎に縋る。
「お願いよ。わたしは夢をかなえたいの!」
少女の表情を間近で見た虎はこれ以上逃げようとする意欲を失った。
『ぐ……ぬぅ……。なぜそこまで魔法少女とやらになりたい?少し見ただけだが、さほど憧れるに値するようなものだとは思わんが』
「夢を見ることに理由が必要なの?」
『ふう。夢を見ることに理由は要らぬ。しかし、夢を見続ける為に理由は必要だ。自身の心に問うておけ』
「っ!!じゃあっ!」
縋る少女を見捨てきれなかった虎の言葉に少女が希望に満ちた目で食いついてくる。
『待て待て。余は魔法少女たるものを知らぬ。魔法さえ使えればいいのか?』
「え~~~っとねぇ。後は変身よ」
『変身?ゴブリンにでもなるか?』
「そんなものになりたくないわっ!そうじゃなくって!これ見て」
言葉で説明することが面倒くさくなった少女は虎にスマホで正体を公開して配信している魔法少女の動画を見せる。
『このような小さな板の中に人がっ!』
「はいはい。テンプレありがと。いいからよく見てて」
初めての現代世界テンプレをかました虎は呆れた視線を向けられつつも最後まで動画を見終えて唸る。
『ぬぅ。あの変身バンクというものは出来んぞ』
「ええ~~あれがいいのに。じゃあどうしよ?」
『電話ボックスで着替えろ』
「スー〇ーマン!?今どき電話ボックスなんて早々ないわよ!」
少女のツッコみを流して虎は尾に着けている豪奢な装飾の輪を振り指輪と服とメイスを取り出した。
『以前余の世界の冒険者が落とした装備だ。指輪は収納の魔道具だから普段はその中に入れておけ』
「アイテムボックスとか本当に異世界ね!………でも、この鈍器?………どう見ても釘バットなんだけど。チェンジで」
釘バットで戦う魔法少女、どこかにいた気がするけれど少女は嫌だったようだ。
『注文が多いやつめ。これでどうだ』
虎が疲れた雰囲気を醸し出すが、これからの自身の活躍に関わるのだから譲れないという想いで虎が出す武器を見ると先端に着いた大きな宝石が金糸が這うように絡みついた雰囲気のある杖であった。
「これがいいわ!」
『そうか。それでは其方と余の間にパスを作り余の魔法を其方が使えるようにする。………其方、名はなんであったか?』
「今更?わたしは凪音。天林凪音よ。猫ちゃん、貴方は?」
『余は虎だ!天風震虎のジェガンだ』
毛を逆立てて猫扱いを否定する虎改めジェガンに、凪音はまったく信用せず手をぱたぱた振って笑い飛ばす。
信じてもらえずジェガンはむくれるが、凪音の肩に飛び乗り額にしっぽを付ける。すると、文字にも見える記号が額に染みこんだ。
『これでいいだろう使うときは気を……』
「わ、使い方も分かる。ゼビロテンペスト!」
『ちょ、おま!』
ジェガンの言葉が終わらぬうちに凪音が適当に魔法を使った結果ーーー台風が発生した。
「は、はわわわわわ」
『阿呆が!』
ジェガンが大気を静める魔法を使い台風を静めることで不幸なおっさんのカツラが飛んでいくだけの被害で済んだ。
説教をくれようと凪音を見やると塩をかけたなめくじのように萎んでおり、精神的ショックと強力な魔法を使った反動で意識はあるものの行動不能になっていた。
『余の話を最後まで聞かぬかバカ者め』
「ふぁい」
魔法で凪音を浮かせてそこらの壁に凭れ掛からせる。
『全く人というやつはあの王国の者といい人の話を聞かぬ…ブツブツ』
「ジェガン人じゃないでしょ。にしても、なんだか文句は言ってるけどあまり悔しそうじゃないわね」
自身の対話の意思を無視されたことには呆れが見えるが、異世界に追い出されたことについてあまり恨みに思っている様子がないジェガンに思わず尋ねた。
『獣たちの安寧の場がなくなることは口惜しいが、遠くない未来に滅ぶものを相手に恨んでいても仕方あるまい』
「滅ぶ?」
思わず飛び出した物騒な言葉に凪音がおうむ返しに繰り返すとジェガンは頷いた。
『うむ。余は魔の森と呼ばれている場所で自身で言うのもなんだが最強クラスの存在だ。その余が森の境界付近に居たから人の世に向かう魔獣が少なかったのだ』
「え、じゃあ」
『余が居なくなったことに気づいた魔獣共が好き放題に出てくるであろう。人類圏が残るといいな』
「うわ~~。自業自得とはいえ何も知らない人たちもいるでしょうに」
『しかし、余にはもうどうすることも出来ぬ』
穏やかでお人好しともいえる性格であるが、どうしようもないことまで人類の為に何とかしてやろうという気はさすがに持っていない。王国の暴走に巻き込まれた人々の無事を祈るばかりだ。
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しばらく休憩して何とか回復した凪音がジェガンを連れて帰ろうとしたところで怪物警報が鳴り響いた。
「イローダー発生!イローダー発生!付近の方々は直ちに避難してください!」
「嘘っ!1日に2回も!?」
イローダーの2回目の発生に驚いていた凪音であったが、直ぐに決意の目でジェガンを見る。
「わたし行くよ!今こそ夢を追う時だから」
先ほどした鬼ごっこの時のような不退転の意思がこもった目にため息を吐いて通常の虎程度の大きさになる。
『乗れ。上から探してやる』
「ほんとに虎だったんだ。うん、ありがとう」
急いで貰った神官のような冒険者服に着替えるとジェガンに跨る。ここに魔法少女(偽)は爆誕した。
ジェガンが魔法で探索をして、空を駆けてイローダーの発生した場所まであっという間に駆けつけると上空からその姿を観察する。
今回のイローダーはカバのような胴体の側面から多数の人のような手が体を支えており、本来顔がある部分のは何もなく背の中央辺りから人のような胴体と3面の首が生えていた。
「うぇぇえ。今回は気持ち悪い姿のやつね」
『今度は魔法の使い方を誤るな』
「分かっているわ」
ジェガンの注意に頷いて飛び降りると、上空からイローダーに向けて杖を構える。
「エアバードショット!」
杖から空気の散弾を放ちイローダーに不意打ちをして意識を反らしている間に着地をする。与えられた知識によるとジェガンの属性は大気と振動。
「ウインドカッター」
不意打ちの混乱を越えて自身に意識を向けたイローダーが動く前に風の刃で足を削り体勢を崩す。凪音はこれが初戦ではあるが今までのイメージトレーニングと夢を追っている興奮とついでに初登場補正で危うげなく戦えている。
「続けて、アースシェイク」
ジェガンの振動属性で局地的に大地を揺らしてイローダーを完全に転倒させる。4m程の体高があり凪音の身長ではどうあっても頭まで届かないが転んでしまえばなんという事もない。
「これでトドメ!アトモスクエイクブレイド」
杖の先から振動させた空気の刃を伸ばして起きようと藻掻くイローガーの首目掛けて振り下ろし、止めようとした腕ごとぶった切ると首が転がり、胴体も力が抜けた。
「やった………。すごい、これがジェガンの力!」
『凪音、他の魔法少女とやらが近づいているぞ』
空から降りて来たジェガンが凪音に告げると、勝利の高揚も吹き飛んで慌てだす。
「あわわ。まだ魔法少女名も決めていないんだから出ていく訳にはいかないわ」
『そこ?』
よく分からない拘りにため息を吐きつつ当の凪音を背に乗せると、光の振動を調節して姿を周囲に溶け込ませる。
そして、誰にも見咎められることなくその場を去り、駆け付けた魔法少女はイローガーの死体を見て頭に疑問符を浮かべて立ち尽くしていた。
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「あーー気持ちよかった!」
再び猫サイズと化したジェガンを抱えて家への帰路を歩く凪音が感想を漏らすと逃げることを諦めたジェガンが遠い目をしていた。
『そうか……。まあ、先ほどの戦いは初めてにしては及第点だ』
「本物の魔法少女じゃないかもしれないけど、本物の彼女たちのように人々を助けられる。なら本物って言っても過言じゃないわよね!」
『過言だろ』
ツッコみを無視して一人で気合を入れている凪音を見て、平穏を愛するジェガンはしばらく愛する者(平穏)と遠距離恋愛になりそうで切なくなる。が、喜びが身体からあふれている凪音を見てまあいいかとしばらく付き合うことを(本人には言わないが)決めた。
この1人と1匹がイローガーとの戦いに大きく関わっていくことになり、契約者が増えたり異世界から自称賢者が来たりすることもあるのだがそれはまた別のお話。
顔を振り乱しながら走る場面はガッシュのアレを想像してもらえれば。
それが書きたいがためだけに仕上げました。




