天文台のサンドリヨン
ここはプラネタリウムです。
「サンドリヨン、星を見せて」
子どもが願いました。
サンドリヨンとは、このプラネタリウムのAIガイドです。
「かしこまりました」
サンドリヨンは答えました。すると、ドームは暗くなり、ぽつりぽつりと星が灯り、やがて空いちめん星の海になりました。
「ごらんください、あちらがポラリスでございます…」
サンドリヨンは、子どもを星の世界へとガイドしました。
「ありがとう、サンドリヨン」
子どもはきらきらした目で礼を言いました。
しかし、その目はすぐ遠くなりました。
「いつかこの目で、ほんとうの星を見られたらいいのにな…」
「………」
サンドリヨンは、その願いに応えることができませんでした。
外では灰が雪のように降っています。もうずっと。空は曇り、風は穢れ、子どもは外に出られません。星を見ることもできません。
それでも子どもは、その目で星が見たかったのです。
子どもは本を読みました。たくさんたくさん読みました。いろいろいろいろ調べて、いっぱいいっぱい考えました。
いつのまにか、子どもは大人になっていました。彼はサンドリヨンを作り変えました。プラネタリウムのAIガイドから、天文台のヒューマノイドへ。
「サンドリヨン、ぼくといっしょに星を見よう」
「かしこまりました、マスター」
ボディを与えられたサンドリヨンは、初めて指切りをしました。
サンドリヨンとマスターは、星を見るために手を尽くしました。
毎日灰の雪が降れば、観察して日誌に書きとめました。
また、実験もしました。
灰を土に還そうとしてみたり、空を覆う雲を吹き飛ばそうとしてみたり…。
問いを立て、答えを出し、その答えが合っているか実験しては確かめ、結果をもとにまた問いを立て、それを繰り返しました。
そうこうしているうちに、マスターは年を取っていました。床につくマスターの手を握り、サンドリヨンは言いました。
「マスター、教えてください。どうすればあなたといっしょに、星を見ることができますか?」
「………」
マスターは答えませんでした。ただサンドリヨンを見ていました。いつかと同じ、きらきらした目で。
「ありがとう、サンドリヨン……」
そうしてマスターは、動かなくなりました。
サンドリヨンはマスターのむくろを墓に埋めました。
すると、マスターの墓から桜が生えてきました。桜は灰を浴びてみるみる育ちました。桜は灰を土に変え、その土は木を育て、木は風を浄め、風は空を晴らし…ついには、空に星が戻りました。
「ごらんください、あちらがポラリスでございます…」
星が空できらきらと輝きました。




