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天文台のサンドリヨン

作者: 雪野 咲子
掲載日:2026/01/22

 ここはプラネタリウムです。

「サンドリヨン、星を見せて」

 子どもが願いました。

 サンドリヨンとは、このプラネタリウムのAIガイドです。

「かしこまりました」

 サンドリヨンは答えました。すると、ドームは暗くなり、ぽつりぽつりと星が灯り、やがて空いちめん星の海になりました。

「ごらんください、あちらがポラリスでございます…」

 サンドリヨンは、子どもを星の世界へとガイドしました。

「ありがとう、サンドリヨン」

 子どもはきらきらした目で礼を言いました。

 しかし、その目はすぐ遠くなりました。

「いつかこの目で、ほんとうの星を見られたらいいのにな…」

「………」

 サンドリヨンは、その願いに応えることができませんでした。


 外では灰が雪のように降っています。もうずっと。空は曇り、風は穢れ、子どもは外に出られません。星を見ることもできません。

 それでも子どもは、その目で星が見たかったのです。


 子どもは本を読みました。たくさんたくさん読みました。いろいろいろいろ調べて、いっぱいいっぱい考えました。


 いつのまにか、子どもは大人になっていました。彼はサンドリヨンを作り変えました。プラネタリウムのAIガイドから、天文台のヒューマノイドへ。

「サンドリヨン、ぼくといっしょに星を見よう」

「かしこまりました、マスター」

 ボディを与えられたサンドリヨンは、初めて指切りをしました。


 サンドリヨンとマスターは、星を見るために手を尽くしました。

 毎日灰の雪が降れば、観察して日誌に書きとめました。

 また、実験もしました。

 灰を土に還そうとしてみたり、空を覆う雲を吹き飛ばそうとしてみたり…。

 問いを立て、答えを出し、その答えが合っているか実験しては確かめ、結果をもとにまた問いを立て、それを繰り返しました。


 そうこうしているうちに、マスターは年を取っていました。床につくマスターの手を握り、サンドリヨンは言いました。

「マスター、教えてください。どうすればあなたといっしょに、星を見ることができますか?」

「………」

 マスターは答えませんでした。ただサンドリヨンを見ていました。いつかと同じ、きらきらした目で。

「ありがとう、サンドリヨン……」

 そうしてマスターは、動かなくなりました。


 サンドリヨンはマスターのむくろを墓に埋めました。

 すると、マスターの墓から桜が生えてきました。桜は灰を浴びてみるみる育ちました。桜は灰を土に変え、その土は木を育て、木は風を浄め、風は空を晴らし…ついには、空に星が戻りました。

「ごらんください、あちらがポラリスでございます…」

 星が空できらきらと輝きました。

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