第一章 旅立ちの村 第3部
空を裂くような叫びとともに、村の外れから武装した影が雪崩れ込んできた。
黒い外套、無機質な仮面。背には不気味な紋章――「0(ゼロ)」を刻んだ男たち。
ArcZERO。
「……やはり噂は本当だったか」
長老が震える声でつぶやいた瞬間、先頭の敵が叫ぶ。
「抵抗するな! この村に眠る“継承の炎”を渡せ!」
拓翔の耳に、その言葉が突き刺さる。
――継承の炎。
父が命を賭して守り抜いたもの。それが狙われている。
「そんなもん、渡すわけねぇだろ!」
拓翔の炎が爆ぜ、敵の足元を焦がす。
「チッ、ガキか……!」
男が刀を抜いた瞬間、空から雷光が落ちた。
地面が砕け、白煙が舞い上がる。
「相手が誰だろうと関係ねぇ。村を狙う奴は、俺たちが撃つ」
雷是が拓翔の隣に立つ。瞳に雷が宿り、全身から殺気が迸る。
「拓翔」
「わかってる」
二人は言葉を交わすより早く動き出した。
◆
拓翔の焔が敵を押し返し、雷是の雷が一撃で武装兵を弾き飛ばす。
だが数は多い。
刃が迫り、矢が飛び交い、炎と雷の壁をかいくぐる者もいる。
「クソッ、数が多すぎる!」
拓翔が吐き捨てる。
雷是は低く笑った。
「だから面白ぇんだろ」
雷が弧を描き、敵兵の甲冑を貫く。
炎が渦を巻き、進軍を飲み込む。
それでも、ArcZEROの精鋭は止まらなかった。
一人、仮面の男が前に出る。
他とは違う気配――圧倒的な殺気を纏っている。
「子供の力で、この我らに抗うつもりか」
声は低く、仮面の奥から響く。
その男の腕から黒い術式が広がり、空気を歪めた。
「……来るぞ!」
雷是が叫び、拓翔は炎を構える。
黒い衝撃波が放たれる。
瞬間、拓翔の炎と雷是の雷が重なり合い、壁を成す。
轟音とともに大地が震え、爆風が村を薙いだ。
村人たちは震えながらも、目の前の二人の背を見ていた。
炎と雷が交わる光景は、絶望の中の唯一の希望だった。
「拓翔!」
「応ッ!」
雷是が拳に雷を纏わせ、敵の術を打ち砕く。
拓翔が炎の刃を生み出し、突き込む。
二人の力が合わさり、黒い術式を押し返した。
仮面の男は呻き、後退する。
「……この子供ども……!」
その瞬間、村の人々の間から歓声が上がった。
「拓翔だ! 雷是だ!」
「村を守ってくれている!」
拓翔は汗に濡れながら、振り返らずに言った。
「絶対に……守る。この村も、みんなも!」
雷是が笑う。
「その意気だ、炎馬鹿」
「なんだと、雷頭!」
敵の増援が迫る中、二人は再び肩を並べる。
炎と雷――その輝きは夜明け前の闇を切り裂き、
村を襲う黒の影を退けていった。
◆
戦いの終わり。
ArcZEROの残党は撤退し、村には静けさが戻った。
だが長老は険しい表情を浮かべる。
「これは始まりに過ぎぬ……狙われているのは“継承の炎”だけではない。お前たちの運命そのものだ」
拓翔と雷是は互いを見た。
炎と雷。
共に戦ったことで、もう逃れられぬ宿命を背負ったと悟っていた。
――それでも。
拓翔は拳を握り、焔を宿す。
雷是は雷を散らし、口角を吊り上げる。
「行こうぜ、雷是」
「ああ、拓翔」
旅立ちの時は、すぐそこまで迫っていた。