第一章 旅立ちの村 第2部
夜明け前。
浅霧の里はまだ眠りの中にあった。
山々に囲まれた小さな村。霧が立ち込め、木々の間を白く覆う。人々は静かに暮らし、戦や争いから遠ざかってきた土地――そのはずだった。
浅霧拓翔は、わずか十五の少年。
だが彼の胸には、抑えきれぬ熱が渦巻いていた。
――焔。
彼の掌に宿るそれは、ただの火ではない。燃やすためだけの力ではなく、守るために在ると信じていた。
「……父さん」
寝床から起き上がり、拓翔はふと天井を見上げる。
すでにこの世にはいない父の面影。炎を操る一族の長であり、村を護り続けた男。その背を、拓翔は幼い頃から追い続けてきた。
外に出ると、冷えた朝の空気が肌を刺す。
拓翔は深く息を吸い込み、掌に意識を集中させた。
ぱちり、と小さな火が灯る。すぐに揺らめき、熱が広がる。
「……まだだ。もっと強く……もっと正しく燃やさないと」
炎は応えるように脈動し、彼の瞳に映る。
その時――。
「おい、朝っぱらから派手にやってんな」
背後から声が飛んだ。
振り返れば、雷是――雷を操る青年が立っていた。年は拓翔より一つ上。紫がかった黒髪が風に揺れ、その眼差しには常に鋭さが宿る。
「雷是……」
「修行熱心なのはいいが、燃やしすぎて村を丸ごと灰にすんなよ」
「お前こそ、また雷を落として山を焦がすんじゃないだろうな」
互いに睨み合いながらも、どこか笑みが零れる。
彼らは幼い頃から競い合い、衝突し、それでも離れることなく共に育ってきた。
炎と雷。相反するようで、実はよく似た二人だった。
――だが、この日。
二人の運命は、ただの少年たちの遊びや競争を越え、歴史に刻まれる第一歩を踏み出すことになる。
◆
その日の昼、村に異変が訪れた。
遠くから立ち昇る黒煙。鳥たちが一斉に飛び立ち、犬が吠える。
村の長老が声を張り上げる。
「皆の者! 武装した集団がこちらへ向かっておる!」
ざわめく村人たち。
拓翔の心臓が高鳴る。胸の奥に眠る焔が、呼応するかのように熱を帯びていく。
雷是もまた、腕を組みながら険しい表情を浮かべた。
「……来たか」
敵は「ArcZERO」と呼ばれる組織。
まだ若い二人にとって、その存在は伝聞に過ぎなかったが――ついにその影が、目の前の村に迫ろうとしていた。
「拓翔、どうする?」
「決まってる……俺たちが、守る」
焔が彼の掌で燃え上がる。
雷鳴が雷是の周囲で弾ける。
二人は互いに視線を交わし、うなずいた。
ここから始まるのだ――炎帝と雷帝の物語が。




