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第1章 旅立ちの村 第1部

かつて、焔と雷が交わった時代があった。

それは、遥か未来に語り継がれる伝承の始まりであり、やがて世界を揺るがす者たちの原点となる。


この物語は、ただの英雄譚ではない。

誰もが抱える迷いや痛み、仲間と交わした約束、そして決して消えぬ焔と雷の絆。

すべてが積み重なり、三百年後の世に至るまで受け継がれていく。


“炎帝”――そう呼ばれることになる少年、浅霧拓翔。

“雷帝”――その名を歴史に刻むことになる少年、雷是。


二人の出会いは、まだ誰も知らぬ小さな村から始まった。

彼らは笑い、衝突し、共に戦い、そして失う。

だが、その全てが「継承」という名の道へと繋がっていく。


この本は、その第一部――“過去編”を記す。

旅立ちの村から、別れと継承に至るまでのすべてを。


炎は決して消えず、雷は絶えず轟く。

それが、未来へと続く物語の礎となる。

夜明け前の空は、まだ群青に沈んでいた。

浅霧の村を覆う霧がゆるやかに流れ、鳥の鳴き声が遠くで響いている。


浅霧拓翔は、寝台の上で目を開けていた。

眠れなかった。

胸の奥がざわつき、何かに呼ばれるような感覚が夜通し続いていたからだ。


彼の掌には、赤い痣のような紋様が刻まれている。

それは、炎を宿す者にだけ現れるとされる古の印――〈焔紋〉。

拓翔がまだ幼い頃に浮かび上がり、村の者たちに「炎を継ぐ者」と呼ばれるようになった所以でもあった。


だが彼自身は、ただの少年にすぎない。

火を灯す力は持っている。だが、まだ“炎帝”と呼ばれるにはあまりに未熟だった。


「……行かないといけないんだな」


拓翔は小さく呟き、起き上がった。

焔紋がわずかに赤く光り、心臓の鼓動に合わせるように脈打っている。


その光を見つめながら、彼はふと母の言葉を思い出した。

――“その焔は、お前を守るためにある。でも同時に、お前を試すものでもあるんだよ”。


家の戸を開けると、ひんやりとした霧が頬を撫でた。

村はまだ静まり返っている。


けれど、空気の奥に混じる異質な気配を拓翔は感じ取っていた。

それは血と鉄の匂い、そして……雷のような、鋭い気配。


「……誰かいる」


拓翔は、焔紋に意識を集中させた。

掌からじんわりと熱が広がり、指先に赤い火が生まれる。

小さな炎。だが、それは夜霧を切り裂く確かな光だった。


そして――。


村の外れの林の中から、もう一つの光が現れた。

青白い閃光。

火ではない、それは稲妻だった。


拓翔の目が鋭くなる。


「雷……?」


霧を切り裂きながら、一人の少年が現れた。

漆黒の髪に金の瞳を宿し、その掌には雷が踊っている。


彼の名は――雷是らいぜ


「……お前が、浅霧拓翔か」


低く鋭い声が、霧の中で交差した。

焔と雷――二つの光が、初めて出会った瞬間だった。


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