第6話 現実とSNSのあいだに
「“いいね”がないと、心が減るんです……」
SNSで何千人に囲まれても、孤独を感じる夜ってありませんか?
今回は、ネットでは大暴れだけど、現実では超日和見なクライアント・ひよりちゃんが登場。
そして、そんな彼女に待ち受けるのは
感情温度マイナス30度の氷点下セラピスト・寒川先生!
暖かいお茶などお飲みになりながら、どうぞ。
ちなみに、私のお勧めは「抹茶入り玄米茶」抹茶多めの方がお勧め。
☆本日のセラピスト☆
寒川 霧子/セラピスト・臨床心理士
年齢不詳 常に無表情・無音対応
趣味は 無音ヨガ
好きなもの 水出し緑茶
ひよりは最近悩んでいた。
そのうち、何も悲しいことはないのに、涙が出たり
焦燥感が半端なく、周囲から一度行ってみたら?と勧められ
心療内科に行ってみた。
今日はその心療内科の先生から紹介された
カウンセリングの初日だ。
カウンセリングってどんな感じなんだろう・・・
ひよりは少し震える手でドアをノックした。
「はじめまして……よろしくお願いします……」
ほぼ無音に近い声で、ひよりは会議室に入った。
最近のひよりは、体調が悪く
足取りも重くて、背中もすっと丸まっている。
えっと、担当の先生は・・・
手元のメモを見る。「寒川先生」って書いてある。
部屋の番号もあってる。
先生・・は?どこ?
一切の抑揚なしに、あまりにも小さな声で
「……どうぞ」
と言われたせいか、ひよりはそこに人がいると気が付かなかったくらいだ。
いや、声というか「空気の振動」レベル。
表情も、ゼロ。目線も、ぴくりとも動かない。
ひよりは、薄く笑いながら着席した。
「……あの、あんまり話すの得意じゃないんですけど……」
——そのわりには、昨日のSNSでは27ツイート、
そのうち15ツイートが「#病み垢さんと繋がりたい」タグ付きで
「病みすぎて草」「また闇に落ちたわ私」の絵文字付き投稿だった。
ひよりは内心思っていた。
(この先生、全然“いいね”くれなさそう……)
——10分経過。
寒川先生は、メモを取りつつ、たまに「ふん」と頷く。
それだけ。
「……で、母親が“ちゃんと外に出ろ”って言うんですけど……怖いんですよね、街の視線が……」
(どうしよう、あたしの“心のつぶやき”スルーされてる?)
(SNSなら、もうバズってるのに……)
「……SNSって、自分が誰かでいられるじゃないですか?」
ひよりが、つい本音をこぼした。
すると、寒川先生が初めて口を開いた。
「現実のあなたが“誰”かは、まだ聞いていませんね」
ひよりの思考が一瞬、止まる。
「……え?」
寒川先生は、そのまま言葉を続けることもなく、沈黙に戻った。
でもその“空白”が、なぜか胸にずしんとくる。
「……わたし……」
その瞬間、ひよりの口から、SNSでは誰にも言えなかった一言が、ぽろっと落ちた。
「……本当は、自分でも“本音”がどれか分からなくなってて……」
寒川先生は、静かに、ペンを置いた。
「では、その“分からなくなった瞬間”を、教えてもらえますか」
冷たさと思われがちな霧子のなかにある、凛とした静寂が
部屋の空気をかえた。
それは
ひよりの虚構を、優しく溶かし始めた瞬間だった。
——セッション、終了。
SNSではヒーローになれる。
でも、現実で泣けたときこそ、“ほんとの自分”に出会えるのかもしれません。
次回も読んで頂けると、作者のHPが上がります。
もうそろそろ、涼しくなるといいな・・と思う今日この頃。
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