表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

第5話 地下セッション後編

「愛してる、君が必要だから」

って言われると、ちょっと重たい。

でも「君が必要だよ、愛してるから」

って言われたら、なんだか心がふわっと軽くなる気がする。


言葉って、順番ひとつで伝わり方が変わるもの。

今日のセッションも、沈黙とおしゃべりがぶつかりあって——

気づけば、ほんとの想いがこぼれちゃうかも?


それでは、第5話 後編、どうぞ!

〜地下セッション室にて〜


「えーとですね、実は昨日も返信が来て、でも既読がすぐつかなかったんですよ!

私、それで“あれ?”って思って……」


止まらない。止まらない。

百瀬はもう止まらない。


(……これは、想像を超えている)

アドバイザーとして一緒にいた寧々の先輩は

困った顏を表に出すまいとして頑張っていた。


しかし、こんなことで

我らが寧々さま!微動だにしない。


眉一つ動かさず、呼吸を整え、目を閉じる……いや、閉じてない。開いてる。

焦点をどこに合わせているのかも分からないが、まるで石像のような静寂。


(……これは、“沈黙の構え”フル稼働……!)

いいねいいね。

先輩は寧々のプロ意識に感服した。


だが、百瀬はおかまいなしに暴走を続ける。


「それでですね、そのLINEの内容が『そっか〜☺️』って一言で!

なんか、軽くないですか!?あれって、脈ナシって意味ですよね!?」


寧々、瞬き一回。

——しかし、言葉は発しない。


(いや、沈黙にも限度ってもんがあるのでは!?)

先輩の心の声が、地下室に反響しそうな勢いだった。


それでも寧々は、心を乱さない。

さすが!われらが寧々さま!


(このセッションは、“沈黙で相手を包む型”。相手が言葉で自分を埋め尽くすのを待つ、禅の技法。)

う~ん!いいね。もう、感動。

と先輩は心の中で拍手喝采だ。


しかし、百瀬は気づかない。いや、気づいているが止まらない。


「でもっ、やっぱり私、諦められなくて!!!」


その瞬間——


寧々が、ついに動いた。

シギリヤロックが動いたかと思うような、重厚さがある。

なぜか、先輩の頭の中に、絶対に動くはずのないシギリヤロックが現れた。



「……」

寧々がゆっくりと手を差し出し、テーブルに置かれたアロマストーンをそっと撫でる。

そして、囁くようにこう言った。


「……あなたが、諦めたいのは、恋……それとも、自分を否定し続けること?」


静寂が、百瀬の脳に突き刺さった。


「……え?」


沈黙が流れる。5秒。10秒。


百瀬の表情が、少しずつ揺れる。


「……えっと……もしかして……私、好きだったんじゃなくて、

 “必要とされたい”って思ってただけ……ですか?」


寧々は、何も言わない。


しかし、その静けさが、百瀬の中のなにかを崩した。


「……なんか、今、ちょっとだけ……泣きそうです」


沈黙。


そして——寧々は、ゆっくりと微笑んだ。


「……今、あなたの言葉が、やっと本当の声になりました」


百瀬の瞳から、静かに涙がこぼれる。

おしゃべり好きな百瀬が

ひとりの“クライアント”になった瞬間だった。


——セッション、終了。

言葉を尽くしても、届かないことがある。

でも、沈黙の中にだけ咲く“気づき”もある。

——寧々、沈黙の極意、炸裂しました。


さすが、我らが寧々さま!!


毎週月曜日 17時ごろ投稿中です。

読んで頂けると嬉しいです



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ