第5話 地下セッション後編
「愛してる、君が必要だから」
って言われると、ちょっと重たい。
でも「君が必要だよ、愛してるから」
って言われたら、なんだか心がふわっと軽くなる気がする。
言葉って、順番ひとつで伝わり方が変わるもの。
今日のセッションも、沈黙とおしゃべりがぶつかりあって——
気づけば、ほんとの想いがこぼれちゃうかも?
それでは、第5話 後編、どうぞ!
〜地下セッション室にて〜
「えーとですね、実は昨日も返信が来て、でも既読がすぐつかなかったんですよ!
私、それで“あれ?”って思って……」
止まらない。止まらない。
百瀬はもう止まらない。
(……これは、想像を超えている)
アドバイザーとして一緒にいた寧々の先輩は
困った顏を表に出すまいとして頑張っていた。
しかし、こんなことで
我らが寧々さま!微動だにしない。
眉一つ動かさず、呼吸を整え、目を閉じる……いや、閉じてない。開いてる。
焦点をどこに合わせているのかも分からないが、まるで石像のような静寂。
(……これは、“沈黙の構え”フル稼働……!)
いいねいいね。
先輩は寧々のプロ意識に感服した。
だが、百瀬はおかまいなしに暴走を続ける。
「それでですね、そのLINEの内容が『そっか〜☺️』って一言で!
なんか、軽くないですか!?あれって、脈ナシって意味ですよね!?」
寧々、瞬き一回。
——しかし、言葉は発しない。
(いや、沈黙にも限度ってもんがあるのでは!?)
先輩の心の声が、地下室に反響しそうな勢いだった。
それでも寧々は、心を乱さない。
さすが!われらが寧々さま!
(このセッションは、“沈黙で相手を包む型”。相手が言葉で自分を埋め尽くすのを待つ、禅の技法。)
う~ん!いいね。もう、感動。
と先輩は心の中で拍手喝采だ。
しかし、百瀬は気づかない。いや、気づいているが止まらない。
「でもっ、やっぱり私、諦められなくて!!!」
その瞬間——
寧々が、ついに動いた。
シギリヤロックが動いたかと思うような、重厚さがある。
なぜか、先輩の頭の中に、絶対に動くはずのないシギリヤロックが現れた。
「……」
寧々がゆっくりと手を差し出し、テーブルに置かれたアロマストーンをそっと撫でる。
そして、囁くようにこう言った。
「……あなたが、諦めたいのは、恋……それとも、自分を否定し続けること?」
静寂が、百瀬の脳に突き刺さった。
「……え?」
沈黙が流れる。5秒。10秒。
百瀬の表情が、少しずつ揺れる。
「……えっと……もしかして……私、好きだったんじゃなくて、
“必要とされたい”って思ってただけ……ですか?」
寧々は、何も言わない。
しかし、その静けさが、百瀬の中のなにかを崩した。
「……なんか、今、ちょっとだけ……泣きそうです」
沈黙。
そして——寧々は、ゆっくりと微笑んだ。
「……今、あなたの言葉が、やっと本当の声になりました」
百瀬の瞳から、静かに涙がこぼれる。
おしゃべり好きな百瀬が
ひとりの“クライアント”になった瞬間だった。
——セッション、終了。
言葉を尽くしても、届かないことがある。
でも、沈黙の中にだけ咲く“気づき”もある。
——寧々、沈黙の極意、炸裂しました。
さすが、我らが寧々さま!!
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