第1話 初日、クライアントが消えました
こんばんは。
とある町のカウンセリング室で巻き起こる
カウンセラーとクライアントのお話しです(*^-^*)
☆本日のセラピストはこちら☆
名前: 笑野 はなえ(えみの・はなえ)
年齢: 28歳(新人カウンセラー歴1年目)
肩書: メンタルケア・セラピスト(有資格)
趣味: ハーブティー、アロマキャンドル作り、家族写真を飾ること
口ぐせ: 「笑顔って、人を救うと思うんです♪」
座右の銘: 「ポジティブは正義!」
週1ペースで投稿中。
「……よしっ!今日こそ、笑顔100点でいくっ!」
はなえは、鏡の前で口角を上げた。
まず5分。いや、足りない。あと5分。
表情筋ストレッチを追加して、計10分の笑顔アップタイム。
さらに、ポジティブアファメーションを唱える。
「私は癒し。私は光。私はセラピスト☆」
今日が、初めて一人でクライアントを迎える日。
ふかふかスリッパ装着。
アイボリーのブラウスと、くすみピンクのロングスカートも完璧。
香りは“安らぎブレンド”。
ラベンダー多め。
メモ帳も開いてスタンバイ。
…ただし、書くことはまだ決めていない。
(何書けばいいんだろう)
ノックが鳴った。
30歳・女性・離婚歴あり。
問診票には「一人暮らし・子どもあり・親との不仲」とあった。
「はじめまして、笑野はなえです♪ よろしくお願いしますね〜」
にっこり、口角45度。傾けた首もいい感じ。
クライアントは、静かにうなずいた。
彼女は、ぽつぽつと語り始めた。
「……子どもがいたんですが、元夫に引き取られて……」
「親には“お前が悪い”って言われて……」
「最近、食べる気もしなくて……」
「たぶん、死にたいとは思ってないけど……」
はなえは、うんうんと全力でうなずいた。
(クライアントを笑顔にしなければ!と思った。)
そこで、秘密兵器を取り出し
「ちょっとだけ。気分が和らぐかもしれません♪」
スマホの画面を、クルッと回して見せた。
そこには、泥だらけになって笑っている息子(3歳)の写真。
背景は、沖縄旅行。
「うちの子なんです〜!子どもの笑顔って、本当元気をもらえますよね♡」
クライアントは、一瞬まばたきをした。
そして、小さく「ありがとうございます」と言って、帰っていった。
次の週、彼女の予約はキャンセルされ
理由欄には「都合が合わなくなった」とだけ書かれていた。
同僚に聞かれる。
「どうだった?初クライアント」
はなえは、スリッパをパタパタさせながら答えた。
「うん、ちょっと重かったけど、
最後は笑顔で終われたから……大丈夫かなって♪」
無意識に、癒そうとしていた。
笑顔は世界を救えると思っていたから。
ー初日セッション終了ー
読んでくださってありがとうございました。
クライアントさんは静かに帰っていきました。
笑顔が足りなかったのかしら。
今度はもっと笑顔で!