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後編 いざ決戦!

「勝負よ! 決着をつけてやるわ、フェニス!!」

平民女(へいみんおんな)が無駄に吠えるな!」

「平民女じゃないわ! シトヒよ! 悪役バカ皇子!」

「良い度胸だ…! 徹底的に(はずか)しめてやる…!!」


 シトヒとフェニスがバトルフィールドの中で舌戦を繰り広げている。

 今日は魔法決闘の日。


 体操着の様な動きやすい軽装に徒手空拳のシトヒとは対照的に、相手は魔剣と軽魔鎧を着けた完全装備である。

 審判役の教師がルールの確認を行うが、白熱する2人は聞く耳を持たない。まあ、事前に取り決められたものである為、問題はないのだが…。



「うう…、本当にフェニス様と魔法戦をするなんて…。」お腹痛い…

「もう腹を(くく)ろう、アイゼン(部長)。やるしかないよ。」冷静に前を見据える…

「う、うん…。でも本当に大丈夫かな、シトヒ…。」

「本人がやる気なんだから大丈夫でしょう。シトヒの師匠さんの、作戦なんだし…。」


 そう言ってサンディは後ろを振り返る。



「フレー! フレー! シ・ト・ヒ!!

 フレ! フレ! 園芸(エンゲイ)部イ(ブイ)・サインー!」


 園芸部の応援側にただ1人立つ女性。シトヒの師匠となったテイルは、周りの目など全く意に介さず適当(オリジナル)チアダンスを踊っている。

 その手にはやたらキラキラと光を反射する、鉄リボン製のポンポンが握られていた。



「──バトルクラブと園芸クラブの魔法決闘を執り行う! 勝負は3対3の集団戦! リーダー1人または相手全員を気絶・降参させた方の勝利とする。

 それでは──はじめっ!」



「『火鳥炎陣(かちょうえんじん)』。」ゴオオオオ…!


 開幕と同時、(あらかじ)め詠唱し待機(ホールド)させていた魔法を使用し、フェニスが自身の周りを火炎で包む。炎の鳥が何羽も飛び交うそのフィールドは、術者だけは燃えることのない攻防一体型の結界だ。

 さらにその前を取り巻き2人が陣取ることでリーダーであるフェニスを守り、遠距離から魔法で削りきる戦術である。


 対する園芸クラブは、リーダーであるシトヒが前に出て、その後ろで互いに手を繋いだサンディとアイゼンが立っている。

 3人が視線を交わし1度深く頷く。



(平民女を前衛にして、残りが後衛か。浅はかな配置だ。存分に(なぶ)ってから──)

「「「『装着変身(そうちゃくへんしん)』!!」」」


 シトヒ、サンディ、アイゼンの3人が同じ魔法名(ことば)を叫ぶ。同時に高まる3人の魔力波動。

 それらは1つとなってシトヒの周りに渦巻き、急速に形を成す。



「なっ…!? なんだそれは…!?」


 魔法光が消えた後、現れたシトヒの姿は変わっていた。

 簡単に言えば、金属の鎧を装備している。

 靴、すね当て、スカート、鎖帷子の腹巻き、胸当て、籠手に、顔丸出しの兜。

 黒く艶やかな光沢を持つそれらは、金属魔法で生み出された「鉄」だろう。それがシトヒの身体を守る防具の様にくっ付いている。そして鉄と鉄の間、関節部分は「砂」が纏わり付いており、顔以外の全てを覆っていた。



「説明しよう! それは三位一体(さんみいったい)のバトルスーツ!! 3人の土属性魔法を合わせた戦闘用ロボットアーマー! その出力はシトヒさんの3倍よ!」色は赤じゃなくて黒だけど!

「「「…、」」」


 謎の青髪女がいきなり解説をしているが、全く以て意味不明なので無視するフェニス達。



「ちっ! 妙な真似を! やれ!お前ら!」

「「はっ! 荒れ狂え! 『竜巻旋(たつまきせん)ぷ──」」

「──『マッハパンチ』ッ!!!!」両腕を前へ!


 バゴンッ!!! バゴンッ!!!



「──は?」


 何が起きたのか分からなかった。


 いや、魔法で感覚を強化したフェニスには一連の出来事が見えては、いた。


 取り巻き2人が中級魔法を放とうとした瞬間。

 シトヒの両腕から鉄の拳が超高速で飛び出し、黒い閃光と化して取り巻きの体にそれぞれ直撃したのだ。そのままフェニスの後方へと消えた味方達。

 振り向けば、フィールドを覆う保護結界の壁に衝突した2人。気絶しているのか、全く動く気配がない。



「『シャイニングキーック』ッ!!!!」バッ!!

「!?」


 慌てて視線を戻せば、飛び蹴りの形で体ごと突っ込んでくる平民女が見えた。

 その脚には強い魔力光を纏っており、直撃は絶対に不味い。

 フェニスは咄嗟に火炎陣を吸収、身体強化の出力を全開にし横に飛んで回避行動を取った。

 その脇をすり抜けていくシトヒ。



(このっ、馬鹿女がぁっ!!)


 良い様に先手を取られたフェニスは、内心で歯噛みする。



(距離を取って攻撃魔法で──いや!先に後衛の2人を潰し──待て!あいつ何をしてる!?)


 ふっ飛んでいったシトヒを注視すれば、取り巻きの側に転がる黒い鎧の拳を拾い、自身の腕に嵌め直しているではないか!



「させるか!」


 剣を抜き放ち、背中に炎の翼を出力してシトヒに突っ込むフェニス。



 ガキンッ!!


 赤い魔剣と黒い拳が激突する。



「お前っ! 舐めた真似を!」ガキン!

「あんたよりはマシ、よっ!」ガッ! バッ!

「ふざけやがって…!」ギィン!


 赤い斬撃が鎧の腕で防がれ、炎を纏った体で黒い蹴り避ける。

 シトヒとフェニスの近接戦は互角の様相を見せていた。そんな最中、皇子は必死に考える。


 鉄は恐らくアイゼンが生成した物。あんなでも皇族の端くれだ、それなりの強度と支配力は有るはず。

 砂は恐らく眼鏡の女が操作している。どこぞの貴族の三女らしいが、魔法制御だけならクラス上位の腕前。バトルクラブ専属の従者にしてやろうと考えていた程度には使える奴だ。


 目の前の平民女はそれを、他人が支配する魔法を。

 その身に受け入れ、

 自らの身体を操らせている(・・・・・・)…!!!



「お前、頭イカれてやがるのか!??」


 魔法の力に逆らえば、身体が引き千切れる。

 魔法操作と体の動きがズレれば、ただの重い拘束具にしかならない。

 自身の身体を他人に預けるなど、魔法の糸に繋がれた操り人形(マリオネット)にするなど、正気の沙汰とは思えない暴挙であった。



「他人から奪うだけの! あんた、にはっ!!

 分かんないでしょうね!」

(ぐっ!? この、クソがっ!?)


 シトヒの鎧は現状、片腕のみ。

 剣よりもリーチは短くしかし素早く繰り出される拳に、両足から放たれる黒い蹴りを織り混ぜられる。この状態でフェニスの剣術に食らい付いているのだ。これが両腕共に使えていればどうなったことか。



(だが、読めたぜ…!)


 フェニスは勝機を見出だしていた。

 自分は皇族、それも高い魔法適性を持って生まれた正統な血筋。どこぞの妾腹(アイゼン)とは明確に、才能差が有る。



(こんな出鱈目な魔法操作、先に園芸部(やつら)の魔力が尽きる…!)


 このまま続ければ──



「──!」グラッ…

(ここだ!)


 正拳突きモーションが乱れた一瞬。フェニスは一気に勝負を決めに掛かった。

 よろけたシトヒが咄嗟に左手を付いて後ろに飛び退くも、間を空けずに追随する。


 この女の、剥き出しの顔面。そこに本気の斬撃を叩き込んでやろうと、フェニスはさらに足を踏み出──



 ──ズルッ…!



「!?」


 ──し損ねた。


 予想外の何か。

 状況の確認も、体勢の立て直しもできぬまま。



「らぁっ!!」右ストレートッ!!

「!?!」ガハッ…!?


 顔面に、シトヒの鉄拳が突き刺さる。

 人生で初めて受けた、本気の暴力の衝撃にフェニスの意識がブラックアウトしていく。



泥濘(ぬかるみ)には、ご注意をっ、皇子様。」はぁっはぁっ…!


 彼の足下、先ほどシトヒが手を付いたその場所には、小さな泥溜(どろだ)まりが出来ていた。

 それに気づくと同時、フェニスは完全に意識を手放した。




 ──────────




「審判さん? 判定をお願いします。」

「え? あ、その…、」


 静まりかえる会場。

 テイルの静かな促しに、どもる審判。

 帝国の皇子が、負けた。だが、このまま判定を下してよいものか?


 勝敗は明らかではある。だが、こんな有り得ない結果は、何か不正が行われた為ではないのか。そんな風にごねなければ、皇子側、ひいては帝国側から何を言われるか分からない。

 いくら共立の学園組織とは言え、強大な帝国の力を無視はできない。

 ここは、なんとか決着を引き延ばして皇子が目覚めてから──



「もう、良いでしょう。我々の負けです。」


 バトルクラブの顧問、フェニスのお目付け役の男が口を開いた。



「よ、よろしい、ので…?」

「結果は火を見るより明らかです。我が国は力こそが全てなればこそ。力によって成されたことは受け入れねばなりません。」

「で、では──、

 勝者! 園芸クラブチームッ!」


「やっ──たあああああ!!」ガッツポーズ!!


 審判からの正式な判定が出たことで、シトヒは残心を解いて雄叫びをあげる。



「本当に、勝っちゃった…?」はあ…はあ…

「勝っちゃ、った、ね…。」グラッ…

「わっ、と。」


 崩れ落ちるサンディと彼女を支えるアイゼン。

 疲労困憊(ひろうこんぱい)の2人は、それでも安堵した様に自然と微笑んでいた。



「やったわね! シトヒさん!」

「テイル師匠!」


 シトヒの下に嬉しそうなテイルが合流する。



「師匠のおかげです! 本当に、本っ当にありがとうございます!!」

「ううん。勝ったのはシトヒさんの、サンディさんとアイゼン殿下の、3人の力。私はちょっとのことしかしてないわ。」

「そんなこと有りません! 戦い方も戦略の組み立てもテイル師匠が教えてくれたおかげです!」

「ふふ。私が鉄棍棒で何度打ちのめしても、真っ直ぐ向かってきたシトヒさんは凄かったわよ? 貴女は、きっと強い魔法戦士になるわ。」

「そ、そんな…。私なんて泥の魔法がちょっと使えるだけで…。」照れ照れ…


「──勝利、おめでとうございます。」

「!」


 祝福の言葉を述べ近づいてきたのはバトルクラブ顧問の男。言葉とは裏腹に、その顔には鋭利なものが感じられた。

 シトヒは体を強張らせるが、テイルはにこやかな顔で前に出る。



「ありがとう(ぞん)じます。」頭下げ…

「まさか貴方がたが勝つとは夢にも思いませんでした。」

「これもバトルクラブの方々が、手加減抜きで(・・・・・・)相手をしてくださったおかげですわ。」

「ははっ、いやなんの。こちらも得たものは大きいですので。」ちらり…


 男が振り返った先では、フェニスがなんとか意識を取り戻しふらふらと歩いてきていた。



「クソッ…。クソッッ!!」

「フェニス殿下。負けを認め、次への糧とするのも皇族の務めですぞ。」

「うるさい! 分かっている…!」


 息を大きく吸い込んだフェニスは、キッとシトヒを睨み付ける。



「俺の…! 負けを、認めるっ…!! 今回はお前らの勝ちだ…!」

「…、なら。勝った者として要求するわ。」

「俺達の部室棟か!? 魔石か!? 授業単位か!? 好きにしろ!!」


 喚く皇子に首を振るシトヒ。



「悪役皇子! あなた達は、──園芸クラブの部員になりなさい!」

「………、は…?」

「これで部員数はとりあえず6人! クラブが存続できる!」

「………あ…?」

「まずあんたには、そうね…、花壇を火の魔法結界で覆ってもらおうかしら? 温室にすれば植物ももっと成長できるだろうし。」

「な、なん…?」

「あとは、火属性の魔法植物も育てられるわね! 今までできなかったあれとか──」

「何を言ってやがる!!?」


 シトヒの言葉に目を白黒させるフェニス。あまりにも常識外れの要求に頭が追いつかない様子だ。



「俺を、この皇族(おれ)を、庭師(にわし)扱いするだと!? そんなことが本当にできると思ってんのか…!?」

「え? だって、あんたが新入部員の勧誘を邪魔したんだから、その詫びならこうするのが自然でしょ…??」

「んな訳あるか!!」

「師匠? 私、間違ってます…?」

「うーん、世間一般的な考えでは筋は通ってるんだけどね~。」


 相手、皇子様だからなぁ~、と他人事の様に呟くテイル。



「だいたい何なんだその女は! そいつが今回の元凶だろう!? こんな女、教師にも園芸クラブの卒業生にも居ないはずだ!」

「ただの通りすがりの冒険者ですよ~、フェニス殿下?」

「馴れ馴れしく呼ぶな、部外者が!」

「部外者じゃないわ! 私の師匠よ!」

「お前は黙ってろ!」意味分かんねぇだよ…!

「フェニス殿下。そこまでにした方がよろしいかと。」

「何を言って──!」

「むしろ彼女は関係者です。

 ──しかも貴方様より立場が上であるかと。」


 顧問の男は真顔でそう言いきった。

 その言葉に、フェニスが硬直する。



「なん、だと…?」驚愕…

「チャ○の霊圧が、消えた…?」このセリフを言わねば無作法…

「師匠…??」何言ってるんです…?


「皇帝陛下直属部隊『重魔法騎士(ドラゴンライダーズ)』、その1人にして(はがね)奇才(きさい)、『黒鉄竜の尾(ドラゴン・テイル)殿(どの)、ですよね。」


「ちょ、直属部隊…!?」馬鹿な…!

父様(陛下)の、手足…!?」逆らったら駄目な相手…!

「ドラゴンライダーズ…!」帝国のスーパーエリート…!?

「…??」皆、何の話…?

「うーん、何のことだかさっぱりですね~?」にっこりニコニコ~…!


 男の指摘に驚愕する面々の中、シトヒ1人が首を傾げ、当の本人は満面の笑みで受け流す。



「貴女には、皇帝陛下が勅命(ちょくめい)を下されているのでは? 例えば『フェニス殿下を護衛しろ』と言った様な。」

「さあ、どうでしょう~?

 ただ、どこぞの父親様(・・・)が『馬鹿息子()を矯正してやってくれ。』と依頼してきた様な気は、しますかね~?」ケラケラケラ♪


「師匠…、帝国の人だったんですか…?」

「…、シトヒさん。」


 話の流れから恐ろしい可能性に行き着いたシトヒ。

 そんな彼女にテイルは慈愛に満ちた顔を向け、優しく名前を呼ぶ。



「私は、私の信念に基づいて行動してます。そこに国の意思は無関係です。

 私にとって、そこの負け犬皇子様は嫌いな人間で。貴女みたいに泥にまみれても、真っ直ぐ前を向く人は好ましい。だから応援したかった。ただそれだけです。」

「…、」


「それでも、貴女が私を悪役(あく)だと感じるのであれば。

 私を実力で下し! 乗り越えてみせなさい!」謎の決めポーズ!

「! つまり、は──!!

 師匠は『悪役師匠ポジション』ってことですか!?」師弟で激突ムーブッ…!

「シトヒ…?」

「何を言ってるの…??」


 シリアスな空気をぶち壊す謎のノリに、周囲の目が点になる。



「ザッツライト! その通り! さっすがシトヒさん! 貴女には主人公の輝きが宿ってますねー!」

「ありがとうございます!!

 いつか師匠を殴り飛ばして正気に戻してみせます…!」

「ふっ…! なんて猪突猛進・女の子。その意気ですよ、主人公(シトヒ)さん。さあ! 私の(しかばね)を越えてゆけ!」

「はい! 闇落ち師匠!」

「ん~、勝手に闇落ち認定されてる~…。

 思い込みの激しいパワフルガール、嫌いじゃないわ…!!」あっはっはっはっ!


「「「何なんだろうこの人達(こいつら)…。」」」


 おかしな師弟コンビは妄想の世界で共鳴し合うのだった…。



 今日も、魔法学園は平和である…。


ちなみに「尸」と言う漢字(部首)は、「戸(ト)」ではなく、「カバネ」「シカバネ」と読むそうです。

「尸」も「匕」も「人の形」を表す文字で、「尼」だと「死(人)」と「生(者)」の境が無い状態、「泥」で(土と水が)ぐちゃぐちゃに混ざった状態を指すのだとか。

異なるものが交じることで、新たなものが生まれるのですね~。


あと、全く関係無いけれど、ジ○クアクス、放送おめでとうございます。パワフル女の子が世界を変える様って良いですよね。


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― 新着の感想 ―
戦闘がコミカルで面白かったです。 只者ではないとは予想していたけど、師匠がまさかの大物で皇帝直々の命令で動いていたとは……。 園芸クラブの部員が足りないから最後にフェニスを加えるのは理に適ってはいるけ…
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