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かの有名な王都

 ズラリと続いた列の中腹を、視線を集めながら並ぶ。


「なげー」


「ガウゥ」


 並び始めてかれこれ30分は経過したが、ようやく半分だ。


 何処ぞの夢の国よりは遥かにマシだろうが、こちらの世界に来てから久しぶりの待ち時間である。


 俺達は王都の入場審査の列に並んでいるのであった。


「グルルルゥ……」


 俺達の姿を見て絡もうとした1団が、ムアの一睨みで縮こまる。


「馬鹿が多いね」


 肩を竦める俺の横で、ベルヒは居心地悪そうに身をよじった。


「凄いな……あんたらがいるだけでこんなに絡まれないなんて」


 関心するベルヒだが、カイルは違う違うと否定する。


「いや、絡んで来る人は沢山いるよ。

 アギトとムアが強すぎるだけ」


「それもそうか………。

 あ、そう言えばずっと聞きそびれてたが、ノゾムさんって『骸のアギト』なんだよな?」


「そうよん。

 ゲル浄化作戦帰りの奴から聞いた?」


「ああ。

 ただ、その……噂とかなり印象が違ったもんだから、ずっと別人だと思ってたよ」


 噂ねぇ。


「ガゥゥ」


 鼻先でつついて来るムアは、「いったいどんな噂なんだろうね」とでも言いたげだ。


「その噂、根も葉もあるから間違っては無いよ」


 ベルヒにばらすカイルにチョップを下す。


「ま、身内と敵に向ける顔に差が出るのは当然の事さね」


「………」


 喉から出かかった何かを飲み込んだベルヒの沈黙を見なかった事にしつつ、列の残りに目をやる。


 すると前に並んでいる奴らをすっ飛ばして、兵士が俺達の元へ走って来た。


「アギトさん、お久しぶりです」


「うん……? ああ、お前か」


 見れば彼は、国軍の兵士の1人であった。


 話す機会は殆ど無かったが、マルズロ不在の間に食事を与えたら感謝してきた兵士である。


「久しぶり。

 あの後、ちゃんと給料は支払われた?」


「軍の方からでしたが支払われましたよ。

 それより、王都には来ないと思ってました。 ほら、まぁ……」


 あー、ね。


 マルズロいるもんね。


 だが今回はマルズロに絡みに来た訳では無いので安心したまえ。


「ま、せっかく近くを通るから観光しようと思って立ち寄った訳さ」


 俺の返事に、兵士は胸を撫で下ろす。


「それなら良かった。

 あ、王都のスラム街の場所はご存知ですか?」


「全然知らん」


「では簡単にご説明しますね」


 兵士は魔法で色の付いた水を浮かべると、そら豆のような形の立体図を作って説明し始めた。



 王都は中心から4つの壁に守られている。


 1層目である中心が王族や有力貴族のみ立ち入りが許可されている区域。


 2層目は貴族ら以上の身分、もしくはお抱えの商人や騎士が住む区域。


 3層目が生活の安定した町民や民間経営の店が並ぶ区域。


 最後の4層目は比較的貧しい者達の住処になっており、その中に点在する形でスラム街があるようだ。



「それと、もう一つ」


 兵士はそら豆型の立体図の中央から外にかけて、切り込みを入れるように大きな橋を渡す。


「これがムナルイン学園の大通路です。

 その先が……」


 そら豆の先端を抉ってズンと置かれたのは、王都に匹敵する大きさの、錠剤のような形の土地だ。


「ムナルイン学園と」


「はい。 図書館や店舗の1部は立ち入り可能ですが、他は殆ど入れませんので気をつけてください」


「へぇ……あ」


 説明を受ける俺達の横を、紺色のローブを羽織った男の子達が通り過ぎて行く。


 彼らは門番に挨拶すると、列には並ばずに素通りされた。


「学生は自由に入れるんだ?」


「ええ。

 ムナルインから支給されるローブが彼らの身分証になりますので」


 ほーん、身分証ねぇ。


 ならばローブ自体も、ギルドカードと同じように個人を特定する機能が備わっていると考えるべきだろう。


 剥ぎ取って門番素通りなどは出来ないようだ。


「……アギト、悪い事考えて無いよね?」


 ジト目を向けて来るカイルだが、それは些か心外だ。


「失礼な。

 俺を誰だと思っているのかね?」


「アギト」


 俺達のやり取りに、兵士達は苦笑いを浮かべた。


「仲がよろしいんですね。

 ……本当にしないですよね?」


「安心したまえ、そんな姑息なやり方はせんよ」


 兵士達の「それは答えになって無いんじゃ…」と縋る視線を無視し、目前に迫った入城窓口に進むのであった。



●●●●



 暗い。


 王都に入って真っ先に浮かんだのはその程度であった。


 遠くに雄大な城がそびえ立っているが、見える景色が何処と無く陰っているように見える。


 事実、王都に入ってからずっと負の感情を吸収し続けているので、俺の主観だけでは無いのだろう。


「アギト、周りを綺麗にしてほしい」


「周り? ああ、おけい」


 辺りの負の感情を吸い尽くすとグッと空気が軽くなり、同時にラップ音が俺の周りでネズミ花火のように弾ける。


「ありがと。

 シュワウとリルも楽になったみたい」


「そいつは良かった」


 俺達を見るなりギョッとして道を譲ってくれる王都の親切な民だが、一方でベルヒはどうも周囲の視線が気になって仕方が無いらしい。


「ベルヒ。

 商人再開するって言ってたけど、取引先に宛はある?」


「一応な。

 昔の先輩が商会に属してるから、そこに紹介して貰う話だったんだ」


「なら荷物はそこで降ろすとしようか」


「ガウゥ」






 観光がてらウロウロして辿り着いたのは、3層目の繁華街の一角を陣取る、3階建ての立派な屋敷であった。


 門に掲げられた看板には『レノロアーラ商会』と書かれている。


「あれ?」


「たぶん」


 お邪魔しまーすと入ろうとするが、軽鎧を着た門番が俺達の前に慌てて立ち塞がった。


「フォリマさんの紹介で来たベルヒだ。

 話を通してくれないか」


 だが名前を聞いた門番は「参ったな……」とこぼして顎髭を撫でる。


「不在か?」


「不在っちゃ不在だが……ちょっと面倒な事になってるんだ」


 聞けば、ベルヒの先輩である『フォリマ』は『都市べリゼー』で足止めを食らっているらしいのだ。


 『べリゼー』とは、トラモント王国とカムベル帝国の国境付近にある大きな街である。


 帝国の品を比較的安全に入手出来る貴重な商業都市で、多くの商人がべリゼーへ足を運ぶのだとか。


 だがそのべリゼー付近を近頃盗賊や傭兵が闊歩しており、街を出るに出れないようだ。


「また賊か。

 春は賊の季節なんかねぇ」


「ガゥ」


「なぁ、あんた」


 ムアをモフりながら聞いていると、突然門番が話を振ってきた。


「骸のアギトと雲海のムアだよな?」


 ほう、俺だけで無くムアの2つ名まで知っているとは驚いた。


「さぞ腕が立つって話じゃないか。

 今ギルドに、『ベリゼーから王都まで』の護衛依頼が貼ってあるんだ。

 もし良かったら受けてくれないか?」


「あー………」


 さてどうしようか。


 俺としては、カイルの身に迫るリスクを考えると王都での用事は出来るだけ早く済ませて離れたい。


 だが……


「ガウ、ガウゥ」


 ムアが受ける気満々なのだ。


 それも考え無しでは無いようで、チラとカイルに視線をやって見せてくる。


 ………そうなんだよなぁ。


 カイルが商人として活動していくのを考えると、デカめの商会に恩を売っておくのは良い判断に思える。


 ムアもそれを分かっているからこそ、この依頼は受けておきたいのだろう。


 幸いな事に、ベルヒの働いていた娼館の名前は門番に伝わっており匿って貰えるようで、依頼に連れ回して危険な目に合わせるリスクも無くなった。


「受けれそうだったら受けようか。 完了報告自体は王都以外のギルドでも出来るらしいし」


「助かるよ。 春が開けてしばらく経つが、連絡しかとれてなかったんだ」


 安否確認が出来ているなら、受ける価値は十分にある依頼だろう。


 救難依頼によっては『助けに向かったのに死んでた』なんて事も多々あるらしいからな。


「となると、ベルヒとはここでお別れか」


「そうなりそうだ。

 一時はどうなる事かと思ったが、あんたらのおかげで助かったよ、ほんと。

 あんな贅沢を味わっちまったら、元の生活に戻れるか不安なくらいだ」


 冗談半分で言うベルヒに、カイルが手を差し出した。


「ベルヒ、商人成り立て同士頑張ろうね」


「次会った時は取り引き相手だな」


 背伸びをした2人の握手を微笑ましく眺めていると、俺の横からムアがズイッと顔を伸ばした。


 かと思えば、付近を霧に包んで人型に変身する。


「また困った事があったら助ける。

 だから死なないように頑張って」


 まだ拙いムアの言葉だったが、むしろベルヒには気持ちが十分以上に伝わったようだ。


「………ありがとう」


「ん」


 獣の姿に戻ったムアが霧を晴らすと、そこには馬車2つに詰まった大量の物資が置かれていた。


 ベルヒは馬車を見て何か言いかけたが、諦めたように、しかし晴れ晴れと笑った。


「何時かあたしが大商人になったら、あんたらを護衛に雇うよ」


「俺達は高くつくよ〜。 その代わり快適な旅を約束しよう」


 あっけに取られる門番をそのままに、俺達はベルヒに手を振って別れたのであった。










「ガウ、ガウゥ?」


「分かるよ。 こっち」


 カイルの先導の元ギルドへ向かう。


 相も変わらず浴びる視線にカイルは苦笑する。


「目立たない方針なんてすっかり無くなっちゃったね」


「いんじゃね?

 俺達と一緒に、カイルも大商人として名前を広めれば生まれなんて霞むでしょ」


「むしろそれはそれで目を付けられる理由になりそう」


「ガゥ、グルゥ」


 そんなカイルに、自分が付いてるぞとムアが強気に鳴く。


「ま、並の軍隊ならどれだけ群がっても相手にならんから安心しや」


「そんな状況にならないように頑張るね」


 あれ、おかしいな。


 安心させるつもりだったのに、カイルにむしろ覚悟を決めさせるような顔をさせてしまった。


「ガウッ」


 突然ムアが鼻先で小突いて来た。


 視線の先には、香ばしい香りの立ち登らせる露店か立っている。


 しかもギニンでは見なかったタイプの料理を売っているようだ。


 細長いフランクフルトを真ん中でへし折って野菜とナンのような生地で巻き、肉汁と湯気が昇る肉にソースをかけて完成らしい。


「いいね。 ご当地グルメだ」


 どうやらストックを提供直前に炙って手渡すスタイルなのか、料理を提供しつつ店主の手は忙しなく動いている。


 並んだ俺達を2度見した店主に、指で8本と示すと慌てて追加で火にかけていた。


 そんな店主に、常連らしき若い男が親しげに声を掛ける。


「来たぜ」


「お疲れさん。 ソースは何時ものでいいか?」


「ああ」


 アツアツのソーセージの断面にソースがかけられると、ハヤシライスを思い出すような美味い香りが辺りに広がった。


「お、いいねぇ」


「なぁ、」


 列の先を眺め腹を好かせていると、背後から声をかけられる。


 俺達の後ろに並んでいたのは、ゲル浄化作戦中に見た、若い男女であった。


 彼らは確か……


「あ、彼女さんが瀕死だった奴」


「そ、機会が無くて礼を言えてなかったろ。

 バレンだ。 

 あの時は本当に助かった」


「構わんよ。 なら後ろに居るのが死に体だった子かな?」


 俺の視線にビクッと身を竦ませたのは、長身な女の子であった。


 2人とも俺と同い年くらいのようだ。


「ア……アパラです。

 治して貰ったってバーくんから聞きました。

 ありがとうございます」


 モジモジ……では無くビビリながらも声を絞り出すアパラ。


「あれから不調は無い?

 肉体的な怪我は治したけど魔力の流れはいじってないからさ」


「大丈夫です」


「ならヨシ」


 固有能力に伝わる恐怖を必要以上に煽る理由も無いので、最低限の診断で会話を切る。


 ムアでは無く俺に怖がっている様子を見るに、国軍視点での噂を聞いたのだろう。


「すまねぇ、ちょっと引っ込み思案なとこがあってさ。

 腕は確かなんだけどよ」


 一方で、フォローを入れるバレンは俺の事を一切怖がっていないようだ。


「ならいつかまた一緒に依頼を受けるかもしれないね。

 そん時はよろしく頼むよ」


「おう!

 それじゃ行くわ! またな!」


 列をさっさと離れて去って行く2人に手を振っていると、俺を見上げるカイルと目が合う。


「ん?」


「いや………思ってたより顔が広かったからびっくりして」


「商人やったらそのうちカイルの方が顔広くなるよ」


「そうかな」


「ガウ」


 ようやく目前に迫った順番に、俺は財布をムアから受け取るのであった。

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