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第二拠点

 それから更に1週間が経った頃。


 遂に第2拠点設立の話が持ち上がった。


 本拠点周辺を彷徨うリザードマンの掃討があらかた終わった事により、もうちょいダンジョンの近くまで踏み込もうぜとなったのだ。


 そしてそうなれば当然、第2拠点設立に必要な人材を抜擢しなければいけない訳で……


「じゃ、明日から頼んだ」


「ワァ」


 トーデルに寝起きで決定事項として聞かされ、朝飯をモシャモシャしながら肩をポンとされた今日この頃である。


 クビでは無いがもうちょい早めに聞かせて欲しいものだ。


「ゴクッ。

 ふぅ……俺は別にいいけど、ムアとリーチェは一緒に行動させたいよ?」


「安心しろ。 アギト、ムア、リーチェは全員一緒に第2拠点送りだ」


「わぁ……あ、本拠点の守りは?」


「ディカさんが残ってくれるそうだ」


 なら余程の事が無い限り大丈夫か。


 ディカなら国軍に対する十分な牽制になるだろうし。


「って、そうだ。

 ファルシュはどうするのさ」


 ファルシュは他の冒険者と一緒に、リニーウ軍に雇われた形になったはずだ。


 1日4、5回、堂々と俺から食べ物を貰いに来るのようになってたし。


「それなんだがなぁ……ファルシュさんとまともに話せるのがディカさんとアギトくらいしか居ないんだよ。

 あ、あとムアか。

 だから任せてもいいか?」


「構わんよ。

 そんなに怖い奴じゃないけどなぁ」


「そんな事が言えるのは……って前にもこんな話をしたか」


「そういやそうね」


 思い出して笑ったトーデルだが、真剣な顔に変わるとムアに視線の高さを合わせる。


「今回の物資の運搬は、ムアにかなり甘える事になる。

 頼んだぞ」


「ガウッ!」


 任せなさいと鳴くムアに、トーデルも頷き返す。


「……で、あっちは何だか賑やかだねぇ」


「あー、あれなぁ………」


 俺達から少し離れた所では、国軍の兵士がリニーウ軍やバルガルフ軍、セトナート軍に詰め寄っている所であった。


「俺行こうか?」


「大丈夫だ、うちの領主様達が対応については決めている。

 それに……国軍の奴らも、何時までも言い争いを続けられるほど体力は残って無いだろうしな」


 国軍の要求は、アギトへの依頼料を肩代わりしてくれ、という内容だったのだ。


 遂に食料の底が見え始めた国軍らは、現金しか受け取らないと言った俺に対し、他軍から借金をしてでも間に合わせようとした野田とか。


 しかし他の領主達も、国軍のこれまでの行いが腹に据えかねていたので断固拒否。


 そして何時もの逆ギレパターンである。


「物資の追加の鳩とかは飛ばしてなかったの?」


「飛ばしてなかったそうだ」


「自業自得だね」


 キーキー喚く国軍を眺めていたら、ふと何かを思い出したトーデルが、声を潜めて聞いてくる。


「なぁ、アギト以外の異界の民は大丈夫なのか?」


「夜中にこっそり食べ物持ってってるから平気だよ」


 級長ら『アモン』の食事の配給も、やはり減らされていた。


 毎晩スープやら芋やらを持ち込んでいたが、残さず食べ尽くすくらいには腹を空かせていたので、相当食い詰めているのだろう。


「貴様ら覚えておけよ!!」


 コケた頬を怒りで震わせながら去ってゆく国軍の兵士を眺めつつ、どうなる事やらと静観に徹するのであった。



●●●●



「帰ったぁ?」


 その日の午後、マルズロは国軍の近衛を連れて、本拠点からいなくなった。


 報告を聞いてあっけに取られる俺に、トーデルが苦笑する。


「いやいやいや、流石に帰った訳じゃないぞ。

 お前に依頼する為の銀貨500枚を王都から調達しに行ったそうだ」


「だからって本人まで行くかい。

 つーかその間の兵士達はどうするのさ」


「さぁ?」


 こりゃ級長達もついてないな。


「で、どんくらいで戻って来る予定だって?」


「ざっくり見積もって1、2週間だな。

 グレイ様が王都にマルズロの行動を全て報告してるから、金が無事に調達出来るかは怪しいが」


「あれ? でもあんたらは復興派でしょうに、どゆことよ」


 トーデルは少し声を潜める。


「マルズロのヘトス家は国王派の末端なんだよ」


「ああ、そゆこと」


 つまりグレイは媚びる為に報告を王都に送っていたのでは無く、国王派の中でヘトス家の地位を落とす為に鳩を飛ばしていたのだろう。


「じゃあ今残ってる兵士達はどうするよ」


「2日待ってマルズロが戻ってこなかったら、グレイ様が食わせてやるそうだ」


「慈悲深いこって。

 じゃあ第二拠点は国軍からの参加は無し?」


「だな。

 残った兵士はこれまで通り、拠点周りの巡回でもしてもらうさ」


 勝手に連れて行って働き分を寄越せとマルズロが言ってきたら面倒だし、それが正解だろう。


 級長達には2日分纏めて食料を渡しておけばいいか。



●●●●



 そして迎えた、翌日早朝。


 第二拠点設立部隊出発である。


 隊に加わろうとすると、ヴァートスが馬車から手招きしていた。


「何さ、ヴァートスが来るの?」


「俺もいるぞ」


 ヴァートスに続いて、テルヘロスも顔を覗かせる。


「じゃあ第二拠点のトップはあんたらって訳だ?」


「そうなるな。

 本拠点はグレイ侯に任せれば問題無いだろう」


「頼りにしてるぞ」


「ありがたいお言葉、恐悦至極」


 仰々しくお辞儀する俺にヴァートスが仰け反る。


「やめろ、何か企んでるみたいで鳥肌が立ったぞ」


「ひでぇや。

 さて、俺は前の方行ってるよ」


「ああ、頼んだ」


 馬車を後にして隊の前方へ行くと、周囲から少し距離を置かれた中心に、ファルシュとムア、それにリーチェが立っていた。


「ムア早かったね」


「ガウッ!」


 朝からムアは各所を回って第二拠点に運び込む荷物を回収して回っていたのだが、先を越されてしまったらしい。


「で、お前が私の監視役に選ばれたのか?」


 からかうように言ってくるファルシュだが、それは自虐になっているには気付いているのだろうか。


「どちらかと言うと通訳?」


「失礼な」


 ファルシュと話していたら、腕にリーチェが絡み付いて来た。


「まだ眠かったらムアに乗ってていいよ」


「ううん、このままがいい」


 寒そうだったのでコートを広げると、モゾモゾとリーチェが埋まってゆく。


「………仲がいいんだな」


「まぁ、ちょっかい出されたらキレるくらいには」


「そういえばその怒った時に思ったが、やはりアギトとムアは強いな。

 実力は申し分無いし、私が声をかければ直ぐに金級の試験も受けられるぞ」


 魅力的な提案……なのだろうか?


「今はいいや。

 級にこだわりは無いからね。

 受けたい依頼にも今の所困ってないし」


「そうか……」


 心做しかショボンとして見えるファルシュに、少し罪悪感が芽生えてくる。


「あ、なら今度模擬戦してよ。

 ギニンで赤脈旅団のメンバーに模擬戦してもらってたんだけど、もし良かったら1戦どう?」


 しかしファルシュの表情は浮かない。


「私の固有能力は炎を使う。

 模擬戦であっても、お前に大火傷を負わせてしまう可能性があるのだぞ」


「大丈夫大丈夫。

 頭と心臓さえ無事だったら俺死なないから」


 それでもなお不安そうなファルシュに種も仕掛けも無い人体切断マジックを披露していると、ようやく隊が進み始める。


 本拠点から出ると、結界で守られた道が瘴気のモヤの向こうまで続いていた。


「おぉー。 皆頑張ったね」


 俺の言葉に、近くの冒険者達が寄ってくる。


「だろ?

 最初っから酸で焼かれてキツかったんだけどよ、特にひでぇのは群れで魔法撃ってくる上位種なんだ」


「そいつら相手に私が注意を引いたの」


「俺は回り込んで仕留めに行ったんだけどよ……」


 口々にどれだけ苦労したのかを語り始める冒険者や兵士の武勇伝を聴きながら、俺達は結界に守られた道を進んでゆくのだった。



●●●●



 そろそろ昼時かという頃。


 木々を避けて通された道の先に、開けた場所があった。


 不思議な香りのお香が炊かれているが、これはリザードマン避けなのだろう。


「ここ?」


「そうだ。 頼めるか」


「はいよ。 本拠点と同じような配置でいいね?」


「ああ」


 との事なので、結界に区切られた空間を十字に分け、その内の3つに植物テントを建てゆく。


 周りを盛り上げた根で城壁のように囲めば防衛も十分。


 ムアは荷降ろしに駆け回り、第二拠点は30分足らずで完成した。


「見事なもんだな。

 アギトとムアなら一晩で砦が作れちまうのか」


「アギトとは戦いたくねぇなぁ」


 兵士は俺やムアの固有能力に思う所があるらしい。


 その兵士らと一緒に降ろされた物資を確認するヴァートスと目が合い、呼び止められる。


「アギト、食料を増やしたいんだが頼めるか」


「はいよー」


 様々な野菜が俺の前に1つづつ並べられ、それを元に地面からポコポコ生やしてゆく。


 グゥー


 微かに聞こえた腹の音の発生源は、植物テントの影のようだ。


 あんな陰キャポジに居座るのは1人しか心当たりが無い。


「ガゥ」


「うぬ、行ってやんな」


 スタスタ離れてゆくムアに、近くで薬草を数えていたリーチェが困惑する。


「ムアちゃんどうしたの?」


「近くで飢えてる金級がいたから、食糧支援に行ってもらってる」


「飢えてる金級?

 …………あ」


「そうそう」


 リーチェも思い当たったらしい。


 その後の俺達は、黙々と物資の整理に取り掛かるのであった。



●●●●



「ガゥ」


「ありがとう。 すまないムア」


 ムアの霧からケバブロールとスープを受け取ったファルシュは、早速1口頬張る。


 良く燻された肉の旨みと、新鮮で苦味の無い葉野菜のみずみずしさを味わいつつ思う。


 国軍から逃れられて良かったと。


 国軍の冒険者解雇に乗じてファルシュもリニーウ軍に乗り換えたのだが、やはり引き止められたのだ。


 1週間に渡り泣き落とし、ネチネチ嫌味、脅迫まがいをしてくる未練たらしい国軍を蹴り続けていた一番の理由は、待遇にあった。


 馬車よりずっと清潔で快適な寝床に、新鮮で底の尽きない食事。


 浄化作戦中も、兵士と冒険者で役割分担がしっかり分けられており、携帯食料も至急され、治療も手厚い。


 そして何より……


「アギトとムアが居るからだろう。

 復興派の表情が柔らかいのは」


 国軍に比べ、復興派の方が雰囲気がずっと軽いのだ。


 非番の冒険者と兵士が食事を共にしたり、アギトのテントに夜食をせびりに訪ねているのを日に10回以上見かける程には、空気が緩い。


 アギトとムアが激怒を露わにし国軍の冒険者やマルズロを磔にした後も、2人に対する周りの距離が変わらなかったのは、日頃の行いがあっての事なのだろう。


 ファルシュには出来ない芸当である。


「……もし私にも、ムアのような相棒がいてくれたら少しは違ったのかもしれないな」


 フワフワの白い毛を撫でると、ムアはファルシュの顔に額を押し付ける。


「ふふ…慰めてくれてるのか?

 気持ちは嬉しいが、私は今の境遇を悲観してなどいない。

 ただ………別の生き方の可能性を考えていただけだ。

 もっとも、考えたところで今更の話だがな」


 そんなファルシュに寄り添って座ったムアは、体を薄く覆っていた霧を解いた。


「……?」


「ガゥ、ガゥー」


 ムアは「アギトはアギトで人付き合いに難ありだよ」と鳴くが、会って日の浅いファルシュには、残念ながら伝わらない。


 それよりも、ファルシュはムアの素の毛並みに夢中になっていた。


「凄いな、こんなにサラサラな毛は触れた事が無い。

 流れる湯に手を浸しているみたいだ……」


 こんなに肌触りが良いのであれば、アギトやリーチェが四六時中ムアに触れているのも納得である。


 と、そこでファルシュはふと思い付き、ムアに伺いを立てる事にした。


「ム、ムア。 こう……行ってもいいか?」


 両腕を広げてソワソワするファルシュに、ムアは好きなようにせい、と一鳴きする。


「……いいんだな? 行くぞ……」


 ムアは体毛に埋まったファルシュが幸せな呻き声を発するのを胴で感じつつ、毛に触れたペンダントの形を毛先……いや、今は毛になった極細い触手で把握する。


「……? ………ガゥ……」


 ムアの真っ白な毛先が、ペンダントに刻まれた文字をなぞった。



●●●●



 第二拠点に来て最初の夜。


 リーチェを寝かし付けたムアが、俺の部屋までやって来た。


「およ、珍しいね。 今日は一緒に寝る?」


「ガゥ。 ガゥガァウ」


「ん? なになに」


 一緒に寝るのは賛成のようだが、どうも話しておきたい事があるらしい。


「ガゥ、ガァゥ……」


 ガウガウ語るムア曰く、どうやらファルシュのペンダントを見て『レグレイ』の名前が彫られているのを知ったらしい。


「そういえばムアに相談しようと思ってずっと忘れてたんだった。

 実はさ……」


 小さくなって俺の腕に収まるムアに、ゆっくり聞かせる。


 ファルシュの昔の友人、レミニールの事。


 そのレミニールがカイルの祖母と思われる事。


 そして、ファルシュにカイルの存在を伝えるべきかどうか。


「……俺は、ファルシュには悪いけど伝えない方がいいと思ってる。

 カイルには聞かせても良いかも知れないけどね」


「ワゥ?」


 俺を見上げたムアは「どうしてファルシュに言っちゃ駄目なの?」と聞いてくる。


「別にファルシュを信用してない訳じゃ無いよ。

 ただ、もしファルシュがカイルに会おうとして移動した時に、どうしても周りの目が後を追うでしょ。

 それで万が一カイルに王族との関係を感づかれたら面倒かなーって」


「……ワウ」


 「それくらい大丈夫じゃない?」とムアは不満気だ。


「だってさ、トラモントにはファルシュを抜いても金級が3人居るんだよ?

 もし今の王が暗殺とかでポックリ逝っちゃったら、国の存続の為にその金級を全員けしかけてくる可能性もある訳で……。

 金級3人、場合によっては4人も同時に相手しなきゃいけないとなると、流石に俺とムアが全力を尽くしてもキツイものがあるでしょう?」


「ワゥ……」


 渋々頷くムアだが、別にファルシュに伝えるのを完全に否定した訳では無い。


「これから先、ファルシュの周りの環境が変われば伝える事もできるだろうし、そもそも俺達が誰にも負けないくらい強くなれば、そんな心配もしなくていいんだから」


「ワウッ!!」


「うむ。 強くなろうね」


 新たに見えた強さの目標を掲げつつ、俺とムアは眠りにつくのであった。

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