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 夜の拠点の騒動は、俺が全員に固有能力で恐怖を叩き込んだ事で怪我人を出さずに済んだ。


 で、騒ぎの当事者らを復興派で監視しつつ、裁判のようなものが始まろうとしていた。




「……そして冒険者らに詰め寄られた国軍の兵士が剣を抜き、アギトが止めに入った……間違い無いな?」


 グレイが事態を整理すると、国軍の兵士が唾を飛ばしながら叫んだ。


「冒険者共が今にも暴動を起こしそうだったから、私は事態を沈静化する為に剣を抜いたのだ!」


 固唾を飲んで見守るギャラリーの視線が、嘘発見器ことディカとファルシュの方へ向く。


「嘘だな」


「嘘だ」


 無常に言い放つ2人に、寝起きで不機嫌なマルズロが椅子をひっくり返して立ち上がる。


「ファルシュ!! 貴様はどちらの味方なのだ!!」


 ゴッ


 背後から忍び寄った俺が国軍の長机を軽く蹴ると、マルズロは飛び上がらんばかりに驚いて振り返った。


「なっ!?」


「事実を言うのに味方もクソもあるの?

 まさかとは思うけど、高貴なご身分のお貴族様が嘘なんて付かせる訳無いよねぇ?」


「も……勿論だとも……」


 真っ青になって脂汗を流し始めるマルズロの瞳を覗き込む。


「じゃあさっきの発言はどんな意図だった訳?」


「……それは……その……」


「ゴホン」


 マルズロの粗を晒して復興派に貢献しようと考えたが、どうやらグレイは裁判の先を急ぎたいようだ。


「隙がありゃ殺してやるよ。

 俺には十分過ぎるくらいに理由があるんだから」


 それだけ伝えて、グレイら復興派側の席に座る。


 すると、背後からヴァートスが魔法で声を飛ばして囁いてきた。


「アギト、今回は落とし所を用意してある」


「詳しく」


 との事なので、ヴァートスから作戦を聞きつつムアにスープを出してもらって、観客に徹する事にした。


 スープから漂う香りに周囲の奴らが腹を鳴らし始めたので、復興派らに配りつつ裁判を見守る。


 勢いを削がれた国軍が話した内容によれば、現在国軍の所持している食料はこのまま消費すれば1週間で底を突くらしい。


 なので冒険者への配給を減らしてやり繰りしようとしたのだそうだ。


 うーむ、日本で似たような話を聞いたなぁ。


 他にも治癒術師による治療を冒険者に行わないのは、騎士への治療が最優先であり、冒険者に魔力を割く余裕が無かったとの事。


 これは級長達がされた冷遇を見ていたので、半分事実なのたろう。


 もう半分は高待遇によって身内を固めようとしたとかかな?


 どちらにせよくだらん話である。


 杜撰さを洗いざらい吐かされたマルズロは、遂に開き直った。


「尊い身分の者が優先されて何がおかしいのだ!?

 そもそもこのような時期に浄化作戦など鼻から無理な計画だったのだ!!

 何故貴様らはまだ平然と飲み食い出来るのだ!?

 どこかから賄賂でも送られているのではなかろうな!!」


 ふむ、ごもっともである。


「………それは」


「そりゃあ俺が支援してるからね」


 少し考えて言いかけたグレイを遮り、俺が口を挟む。


 せっかくここまで優位に進めて来たのに、嘘をつかせればグレイに弱味が出来るのは目に見えている。


「………どう言う事だ?」


 その点、立場も意見もハッキリさせた俺なら失う物無しである。


 それに、グレイに嘘をつかせれば当初予定していた『落とし所』まで話が上手く転がらない可能性が出てくるので、多少荒らしてでも俺が買って出るべきだろう。


「俺が芋やら穀物やら野菜を生やしてやってんのさ。

 こんなふうにね。

 だから食事に関しては底なしってワケ」


 目の前で机からレタスのような葉野菜を生やしてやれば、国軍だけでなく知らずにいた復興派さえも目を剥いた。


 そして当然、マルズロに与えた衝撃は言うまでもない。


「き……貴様!! それ程の力を持っているのであればさっさとよこさんか!!」




「………は?」




 こいつは1週間前に俺に何をしたのか忘れたのだろうか。


「アギト、抑えろ」


 後ろからヴァートスが俺の肩を掴んで引き止めて来る。


「大丈夫、ちょっと脅すだけ」


「………もう必要無い気がするが」


 事実、俺が漏らしてしまった怒気でマルズロや国軍の兵士らは真っ白な顔をして身をこわばらせている。


 だが、これだけは言っておいてやるべきだろう。


「殺そうとした相手に餌をやる馬鹿がどこにいんのさ。

 図に乗るなよ。 餓死しろ」


 張り詰めた空気の中、それだけ言って席に深く座る。


 ディカが心配そうな視線を向けて来るが、もう色々吹っ切れたのでノー問題だ。


 俺の能力の有用性も、危険性も全て開示したうえで俺という存在を押し付ける事にしたのだ。


 誰だって、意見や欲、価値観を押し付け合って生きている。


 謙虚な人間だって、謙虚を行動に移している限り、自身の存在を弱くとも押し付けている。


 だから俺も同じ事をしたまでだ。


 スッキリしたし、むしろしっくり来たまである。


 フンスと俺の鼻息がよく聞こえる程静まり返った場に、弱々しい声が響いた。


「冒険者アギト、我々にも食料を分けていただく依頼をする事は可能でしょうか」


 声の主は、俺がマルズロサッカーをしている時に割り込んで来た老婆であった。


「依頼ねぇ。

 ………確かに、こうしてグレイ達を支援してるのは依頼されたからだけど、銀貨500枚の契約だよ?」


 実際は銀貨50枚だが、契約上はそうなっているので嘘は着いてない。


 マルズロは顎の肉に顔を沈めながら唸る。


「銀貨500枚か………癪だがやむを得ん。

 おい! 切手を用意しろ…」


「あ、依頼するなら現金一括払いね。 あんたら信用無いから」


「んなっ………!?」


 愕然とする様子から察するに、とてもそんな大金は持って来て居ないのだろう。


 ゴンッ!


 騎士がテーブルを殴って立ち上がる。


「貴様!! 図に乗るのもいい加減にしろよ!!」


「図に乗る? 勘違いしてるね、もうそんな仲良しこよしの次元じゃ無いのにさ。

 俺はお前らを殺しておきたくて仕方ないんだよ。

 それでも他の連中に迷惑がかかるから生かしてやってるだけなんだけど?

 商談に持ち込めるだけ有難いと思えよクズ共が」


「グルルルル……」


 あーだめだ、話してたら怒りが再燃して来よった。


 ムアも巨大化して1週間前に発散しきれなかった怒りを顕にしているし、もうこの場で殺してしまっても良いのではなかろうか。


「く……クズだと……!?

 貴様! またしても侮辱したな!?」


「事実を述べただけで侮辱になるのであれば、もう息してるだけで生き恥晒してるって事にならない?

 全部清算出来るような死に方させてあげようか」



「静粛に!!」



 グレイの一喝が一触即発の空気に響く。


「アギト、控えよ」


「…………」


 チラと視線を向けると、グレイはわずかに頷いて見せる。


 どうやら俺のお仕事はここまでで十分らしい。


 俺が席に着くと、シーソーのようにマルズロが跳ねて立ち上がった。


「リニーウ侯!! その冒険者に処罰を…」


「マルズロ・ヘトス。

 そもそもの事の発端は貴殿だという事実が、この場の全員の認識だ。

 ………発言には、気を配るといい」


 む、庇われたのか。


 木を隠すなら森の中と言うように、アギトに限らず皆マルズロに危害を加える可能性があると匂わせたのだ。


「……ふぅ、焦ったぞ。

 本当に殺しに行ってしまうのかと思った」


 心の底から安堵しているヴァートスには悪いが、途中から作戦とか忘れて結構本気で殺そうとしてたのは内緒の話である。


 何なら作戦を聞かずリーチェの守りに徹していたムアなんかは、殺る気満々だっただろう。


「ガゥ、ガゥーゥ……」


 リーチェを連れて近付いて来たムアは、「アイツ殺そうぜ」と唆して来る。


「名案だね」


「だーめっ、アギトもムアも本気だったでしょっ」


 小声で怒るリーチェに、ムアがガウガウと抗議するので、俺も便乗する。


「ムアの言う通りだよ。

 あいつ生かしておいたらろくな事しないって。

 何かあって後悔するくらいなら、今のうちに処理しておきたいガウ」


「それでアギトとムアがトラモントで指名手配されちゃったらどうするの?」


「ヘトス家を皆殺しにして解除させるガウ」


「ガウじゃないっ」


 勿論、無策で敵対するなんて言っている訳では無い。


 俺とムアには、ファルシュら金級を敵に回しても国軍を滅ぼす作戦があるのだ。


「例えばの話ガウ、俺とムアが王都の近くに瘴気を発生させる植物を囲うように植えながら逃げ回れば、国滅ぼしも容易ガウよ?」


「ガゥ」


「ガウガウ言ってもダメなものはダメっ。

 そんな事したら、王都の関係無い人も犠牲になっちゃうでしょっ」


 自分の命が狙われたと言うのに他人の心配が出来るなど、何とも稀有な人間である。


「ええ子や……」


「ガウ……」


「おちょくってもダメなものはダメっ」


 ふぅ。


 リーチェとムアと話していたら、少しずつ怒りが治まってきた。


「好きにするといい!!

 偽善者を気取って破産するのが目に見えるわ!!」


 そんで豚の鳴き声を聞いて再び再燃して来た。


「こら」


 リーチェに頬を両手でペちりと捕獲され、ガッチリ目を合わせられる。


「共感ですか」


 どうやら俺の感情の起伏は、固有能力でお見通しらしい。


「そうです。 だめだよ、私の事で2人が怒ってくれたのは嬉しいけど、2人が危ない目に合うのはやめて」


「ガウゥ」


「ね、あんな奴らちょっと捻り潰せば安全になるのにね」


「もーっ」


「ンッ、ンン」


 喉に餅を詰まらせたような声に顔を上げると、ヴァートスが下手くそな咳払いをしていた。


「邪魔するようで悪いが、そろそろ話が纏まりそうだ」


「お、ようやくかね」


 顔を上げると国軍らは既に離席しかけており、捨て台詞を吐いている所であった。


「私は一切金は出さん!!

 貴殿が引き受けたのだから、全て貴殿が責任を取るのだぞ!!」


「余裕があるから引き受けたのだ。

 安心したまえ」


 穏やかに煽るグレイに見送られ、国軍は自軍の拠点へ鼻息荒く帰って行った。


 残されたのは、国軍に解雇された冒険者達である。


「アギト、頼めるか」


「あいよー。

 さ、冒険者諸君。新しい住処は作っとくから引越しの荷物を持ってきな」


 冒険者らが荷物を取りに行ったのを確認し、リニーウ軍の拠点へ向かう。


 ムアが霧で雪を削って作ってくれたスペースにテントをニョキニョキ生やしていると、そこへグレイがやって来た。


「貸しを作ってしまったな」


「貸しと貸しで打ち消しじゃなくて?」


「貸し合うのもいいだろう?」


 忍び笑いを漏らすグレイに、俺も肩を竦める。


 グレイの用意していた落とし所とは『国軍の連れて来た冒険者を、リニーウ軍で雇う』というものであったのだ。


「でも金銭的に大丈夫なの?

 そこそこ人数いるけど」


「問題ない。

 不思議と、今年のギニンでは経済が良く回るのでな」


「そゆこと」


 つまり資金的には問題無いと。


「あ、資金で思い出したけど買い取って欲しいものがあるんだよ」


 外で出すのもアレなので、俺のテントにグレイを招き入れる。


「………ふむ、お前が1番良い生活をしていないか?」


 俺のテントに入ったグレイの第一声がそれであった。


「そう? 貴重品とかは無いけど」


 俺のテントはギニンに生やしたテントの小型版でレイアウトも似せてあるのだが、グレイにはそれが新鮮に映ったらしい。


「部屋までありますよ」


 護衛で付いてきたトーデルが壁に開いた2本の廊下を指して言ったが、それは俺の部屋では無い。


「その先はディカとリーチェのテントに繋がってるんだよ」


「ああ、そう言えばそんな話を聞いていたな。

 先程の様子では、まだまだ怒りは収まっていないみたいだな?」


 流石領主様である。


 俺が本気で殺そうと思っていた事に気付いていたようだ。


「まぁね。 今日言った言葉だって、全部本音だし。

 迷惑かけすぎないようには気を付けるよ」


「是非そうしてくれ。

 ところで、買い取って欲しい物とは何だ?」


「ガウ」


 ムアが床に並べたのは、以前ゲルのダンジョンで見つけた装飾品と、昇級試験で手に入れたスノーゴーレムの魔石2つである。


「白金か」


 グレイは一目見て気付いたようだ。


「流石領主様、目利きだね。

 装飾品は俺とディカが共有してる財産だから、交渉の席ではディカも着くよ」


 買い叩かれんように牽制すると、グレイはトーデルに視線をやった。


「任せた」


「マジですか……

 赤字にしないように頑張りますよ」


 頭を抱えるトーデルから察するに、どうやら交渉の席は彼に委ねられたようだ。


「で、こっちのスノーゴーレムの魔石2つは、俺と他の冒険者で分けることになってるから、そこそこの値段を付けてちょーだいな」


 手に持ったグレイは光球を浮かばせると、光に透かしてまじまじと観察する。


「……これはまた、見事な大粒の魔石だな」


「しかも他の魔力の陰りが一切見当たらないって、相当な上物じゃないですか。

 アギト、そのスノーゴーレムはどうやって倒したんだ?」


「そこはお値段と要相談って事で……」


 俺のつれない答えに、トーデルは嘆かわしいと天井を仰ぐ。


「初めてお前と会った時は、もうちょっと可愛げがあったぜ」


「汚れてしまったから仕方ないね。

 で、いくらぐらいで買い取れそ?

 あぁ、勿論今とは言わんよ。大雑把な見積もりだけちょーだいな」


 グレイはしばらく唸っていたが、やがて諦めたように溜息をついた。


「魔石は2つ揃って金貨2枚……いや、浄化作戦中の働きも加味すると金貨3枚が妥当だな」


「俺結構頑張ってるよー。

 もう一声」


「……分かった、金貨4枚だ。

 ギニンに戻り次第買い取ろう」


 やったぜ。


 この値段ならラグニィに金貨1枚丸々分けられる。


「おお、ありがたい。

 装飾品の方は、ギニンに戻ってから要相談って感じ?」


「そうなるな。 今は預かっておいてくれ」


「ガウ」


 ムアが霧に収納していると、外からざわめき声のようなものが聞こえて来た。


「俺が見てきます」


 鋭い目付きに変わったトーデルを先頭に、俺達もテントから出る。


 俺のテントの目の前に立っていたのは、1週間前にマルズロを庇おうとした老婆であった。


「幾度となく御無礼致しましたこと、深くお詫び申し上げます」


 深々と頭を下げる老婆に面食らうが、相手のペースに飲まれる訳にはいかない。


「わざわざ謝罪に来たのかい?

 三途の川……死の1歩手前が見えるくらいには痛め付けたつもりだったんだけど、大したもんだ。

 で、本題は?」


 老婆の内心の恐怖を煽りつつ問うと、しわの奥で静かに光る瞳が、正面から見据えてきた。


「少し、お話をさせていただけますか」


 そう言った老婆と俺の間に、トーデルが立ちはだかる。


「お言葉だが御老人、さっきのあんたら国軍の振る舞いを見て頭にキてるのはアギトだけじゃないんだ。

 謝罪で済ませて帰るのが懸命な…」


「いいよトーデル、婆さんからは悪意を感じない。

 それに面白い話が聞けそうだし。

 婆さん、あんたマルズロに無断で来たでしょう?」


 俺の言葉に、トーデルが驚いて老婆を見る。


「はい」


「だってさトーデル、引き抜きじゃ無いらしいよ。

 さ、取り敢えず中に入んな」


「失礼します」


 静々とテントに入る老婆に続いてグレイとトーデル、そして息を潜めて見ていたディカとリーチェまで入って来た。


「念の為、だ」


 グレイはやはり、俺の引き抜きを警戒しているのだろう。


 もしくはおかしな交渉で騙されないように見守るつもりか。


 ディカやリーチェも自室に入って行かない辺り、同様のつもりらしい。


 俺の交渉力はそんなに信用無いのだろうか。


「さて、そんでどんな要件だったかな?」


「我々国軍の専属冒険者になっていただく事は可能でしょうか」


「っ、…」


 文句を言いかけるトーデルを制し、老婆を静かに見つめ返す。


「論外。 そんな話をしに来た訳じゃ無いでしょ」


 老婆は瞳を閉じると、意を決したように見開いた。


「………単刀直入に申し上げますと、マルズロ・ヘトス様と、敵対しないでいただきたいのです」


「そりゃ無理な話だね。

 もう事は起こっちゃったんだから。

 それもマルズロ・ヘトスの指示によってね」


 会話のラリーをスマッシュで返すようで悪いが、それは都合が良すぎるというものだ。


「……では勝手ながら、私めの固有能力の話をいたしましょう」


 老婆は探るように言葉を選びながら、ぽつりぽつりと語り出した。


「私めの固有能力は『自身に降り掛かる脅威の可能性を見る力』です。

 この固有能力を買われ、私めは醜女でありながらヘトス家の当主のお傍に置かせていただいておりました」


「ふむ。 続けて」


「その私めの固有能力で、あなた方異界の民の何人かが、ヘトス家に大きな災いをもたらす未来が見えたのです」


「あ」


 リーチェは咄嗟に自分の口を抑え、俺にチラと視線を向ける。


 うん、今言っちゃってたね。


 流れるように俺が異界の民だという事をバラシよったぞこのババア。


「話の腰を折るようで悪いけど、俺が異界の民である事ってマルズロに言った?」


「誰にも言っておりません」


「……事実だな」


 ディカの判定も貰ったので、話を進めさせる。


「しかし私めが見たのは、あくまで可能性。

 ですので、どうか鉾を納めていただけないでしょうか。

 未来が変わるかもしれないのです」


 なるほどねぇ。


 事情は分かった。


 事情は分かったが……それだけだな。


「無理だね。

 交渉は決裂。

 あんたがへトス家にどんな思い入れがあるかは知らないけど、それと同じように俺もリーチェ達身内を大事に思ってるんだ。

 譲歩するくらいなら、結局の所互いの意見の押し付け合いにしかならんのさ。

 少なくとも、次何かして来たら確実に殺す」


 老婆はそれでも食い下がる。


「それでもどうか……お願いします。

 このとおりです」


 床に這い蹲ろうとする老婆を冷めた目で見てしまう。


「だったらあんたが止めればいいだろうに。

 縋るばっかりじゃないのさ」


「それは………」


 俯き口篭る老婆を眺めていると、リーチェが袖を引っ張った。


「あのお婆さん……」


「………そゆこと」


 通りで敵地のど真ん中に単身でフラフラやって来て、怒らせて殺されるかもしれない事を平気で言える訳だ。


 植物テントから伸ばした細長い枝を、老婆に突き刺す。


「ギャッ!?」


 『治療』は直ぐに終わり、枝を引き抜いた。


「ゲホッ、ゴホッ………………今のは……」


 血を吐き出しながらも、鳩尾辺りを撫でて不思議そうにしている老婆に答え合わせをしてやる。


「内蔵が悪くなってたね?

 それで死期を悟って、自分がいなくても大丈夫なように俺に言いに来たんだろう。

 面倒だ、お前が生きてどうにかしろ」


「………治して、頂いたのですか……」


「あの豚には言わないように。

 足元を見られたら今度こそ殺すから」


 頭を深々と下げて立ち去ろうとする老婆の背に、ふと思い出して問いかける。


「俺以外の異界の民が直ぐに国軍に見つかったのは、あんたの仕業かね」


「……そうです。

 私は異界の民は驚異であると考えましたが、主様は有益だと考えましたので…」


「あそ。 もう行っていいよ」


 老婆を追い出し、テントの入口を閉ざしてベッドに倒れ込む。


「はぁー……」


 俺はともかく、級長らの人生を大きく左右させたのが、あんなにパッとしない老婆だとは思いもよらなかった。


「ガゥゥ」


 ムアが気遣って寄り添ってくれるが、今の心労はただの会話疲れだ。


 それよりも、対処しなければならない事が出来てしまった。


「アギト、異界の民というのは、どう言う訳だ?」


 怪訝そうな顔で聞いてきたのはグレイだ。


「やっぱし気になっちゃうよねー。

 俺とムアは、別の世界から落ちて来た不思議な不思議な生き物な訳よ。

 今年の春くらいにこっちの世界に落ちてきたんだよね。

 その時にはぐれた他の異界の民は、今国軍の指揮下で『アモン』って隊を作って固まってる」


 グレイが真偽を確かめようとディカに視線を向ければ、その通りだと頷いて返されてしまう。


「………とにかく、アギトが異界の民だという事は1度置いておくとしよう。

 それで、アギトはあの侍女にどのような対応をする?」


「どうもしないよ。

 これまでと同じように過ごして、ちょっかいかけてきたらそれを理由に仕返しをするだけだね」


 俺のスタイルは変わらない。


 敬意には敬意を、悪意には敵意をだ。


「お話中よろしいでしょうか!」


 外から呼ぶ声に顔を覗かせると、外に立っていた兵士はグレイに用があるらしい。


「どうした」


「この冒険者達なのですが、いかが致しましょうか」


 兵士や冒険者に囲まれて連行されて来たのは、1週間前にリーチェとムアを襲撃した冒険者達だった。


「ひっ」


 彼らは俺とムアを見るなり、身をすくませて縮こまる。


「どうもこうも……アギト、ディカ。 どうするんだ?」


「そうだなぁ……」


 ジワリと怒気を放つディカに冒険者達は冷や汗を流し始めるが、そこでふと名案を思い付いた。


「いい事思いついたわ。

 グレイ、1人貰っていい」


 察しの良いグレイは、『貰う』の意味に直ぐに気付いた。


「……構わないが、何をするつもりだ?」


「これ以上無いくらいの再発防止策だよ」


 怯える冒険者らを引っ付かみ、俺の前に跪かせる。


「さて、俺はお前らを殺しておきたくて仕方ない訳なんだけど、優しい優しいウチの領主様がせっかく拾った命だ。

 殺してしまうのも忍びない。

 って事で、チャンスをやろう」


 俺が手から生やしたのは、小指よりも更に小さい種だ。


 これをな、こうして……こうじゃぁー!!


「ブス」


「ヒィィィ!!?」


 種を冒険者達の胸元の皮膚へ順番に埋め込んでゆく。


「何をした!?」


「何だろうねー。

 あ、リーチェは見ない方がいいかも」


「………ううん、見る」


「ガウーゥ?」


「キツくなったら直ぐに言えよ」


 ムアとディカに手厚く守られながらも、リーチェは留まる事にしたようだ。


「共感だけは絶対にしちゃダメだからね」


「分かってる」


 なら良し。


「さて、お前らに植えたのは『敵意・憎しみ・悪意・恨みを養分に成長する種』だ。

 これからお前らは、誰にも悪意を向ける事無く、悪意を向けられる事無く振る舞わなければならない。

 さもなくば……」


「ギィ!!? な、何なんだこれ!?」


 冒険者の1人が、突然腹を掻きむしりながらのたうち回る。


 顕になった腹、更には手足や首に、細長い黒い線が無数に枝分かれして這い回っていた。


「…これ知ってるぞ……」


 ギャラリーのギニンの冒険者が、数人そっと目を逸らす。


 ご存知の方もいるようですね。


 これは何時ぞや子供を蹴った冒険者に根を這わせたのと同じ事をしているのだ。


 ちなみにこいつには『最後』までやるつもりである。


「彼からは強烈な悪意がビシビシ飛んでたんだよねぇ。

 彼、ここ1週間俺らの恨み言とか、俺は悪くないみたいな事言ってなかった?」


 この冒険者が、グレイに貰うよと宣言した1人である。


 最初から他の冒険者がしおらしい中で、こいつだけ殺意マシマシだったのだ。


「ア……あガぁ……」


 根をはられた冒険者はガクガク痙攣しながらひっくり返ると、木のように焦げ茶に変色した手足から根を生やし、胸の防具を突き破って醜いラフレシアのような花を咲かせた。


「見てもらった通り、悪意を持っても悪意を向けられても君らはこうなります。

 なので今後は行動も発言も全て改めるように。

 わかった?」


『は、はいっ!』


 これで従順な冒険者4人の完成である。


「以上です裁判長」


「誰が裁判長だ。 私はともかくディカは良いのか」


「ああ。 あたしは手足の1、2本折ってやろうかと考えてたが、アギトの方がえぐい事をしてくれた」


「それでリーチェは……ダメそうね」


 青を通り越して白い顔をするリーチェに付き添いながら、俺達はテントへ帰ってゆくのであった。

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