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ラブコメ

 会議がお開きになった後、俺は級長達と同じ方向へ歩いていた。


 まだ人目があるので、あくまでさり気なく人気の無い場所へ向かう。


 ……つもりなのだが、後ろから着いてくる気配が2つ。


「いいよ。 2人には話してるから」


 人気が無くなったのを見計らい、不審者丸出しで付いてくるディカとリーチェを呼ぶ。


 2人は揃って肩を震わせたが、大人しく近付いて来た。


「もっと堂々と来てもいいのに。

 俺とムアの方が絶対強いよ?」


「いや、別にその心配をしていた訳じゃねぇんだけどよ……」


 口篭るディカとは対照的に、リーチェは据わった瞳でじっと見つめてくる。


「リーチェもどうしたのさ。

 あんな事があった直後だし、もう暗いんだからテントにいな?」


 するとリーチェは表情を一変させてニコリと笑った。


「だったらまたアギトとムアが守ってくれればいいでしょ?

 あ、今日もアギトとムアのテントで寝るね。

 一緒にいた方が安心するし」


「そう?

 なら今はムアに乗っておきな」


「ううん、今は歩きたい気分」


 そう言って俺の隣を歩くリーチェ。


 リーチェを守るように、ムアが反対側に寄り添って歩く。


「ありがと、ムアちゃん。

 私が寝ちゃってる間も、ムアちゃんが守ってくれてたんだよね」


「ガウッ!」


 相変わらず仲睦まじくて何よりである。


 一瞬感じた焦りのような敵意は、恐らく先程の1件での恐怖が残っていたのだろう。


「………あの……多岐、君?」


「はいよ。 久しぶりだね、浜崎さん」


 数少ない地球での友人の1人、浜崎渚である。


 と言うか、級長と浜崎さん以外に地球の知り合いはもういない。


 改めて思うが、地球では狭い交友をしていたものだ。


「この2人はディカとリーチェだよ。

 こっちの世界で何度も助けられてきた、俺の大切な仲間だね」


 躊躇い無く友人と言えるくらい俺に安心と信頼をくれた大切な仲間で、何にも変え難い縁である。

 

 するとリーチェが俺の腕をとり、顔を覗き込んできた。


「今私達の事紹介したの?」


「うむ」


 すると今度はディカが俺の肩を抱きながら聞いてくる。


「へぇ、何て紹介したんだ?」


「……大切な仲間だと」


 言った途端、片腕で体が持ち上がる程抱き締められる。


 ちょっと素直になってみればこれだ。


 今ディカがどんな顔をしているかなど、見なくとも分かる。


 リーチェはリーチェで、俺の手をマッサージでもするかのようにニギニギナデナデしているし。


 リンパ流れちゃう。


 良い事である。


「ガウッ?」


 するとムアが、自分の紹介は?と催促して来たので、ディカとリーチェに解放して貰い、ムアを抱き締めて撫で回す。


「こっちはムアね。

 俺らがこの世界に来た時に、巻き込まれて一緒に落ちて来た不思議生物だよ。

 ちなみに俺の半身みたいな存在」


 ムアの説明は、これ以上もこれ以下も無い。


 俺が異世界に来てからの日々は、紛れも無くムアと一心同体の毎日だった。


 何かを学ぶのは一緒、冒険するのも一緒、楽しむのも一緒だったし、これから先もずっとそうなのだろう。


 かけがえ無い相棒で、俺の半身である。


 そして……と紹介しようとして、カイルが居ない事に気付く。


 それはムアも同じだったようで、顔を見合わせて少し笑ってしまった。


「どうした?」


 そんな俺達に、級長が怪訝そうに聞いてくる。


「いんや、他にも自慢出来る友人がいっぱい出来たんだよ。

 でもそいつらは今ギニンにいるから、紹介できないなって思ってさ。

 地球の俺からじゃ想像もつかなかったでしょ」


 自虐ではあるが、胸を張って言えるこの言葉に、級長も感慨深げに頷く。


「懐かしいな……班行動の時、お前が孤立しないように俺がペアを組まされたんだっけ」


「あれは先生のやり方が良くないよ。

 こっちは好き好んで1人を満喫するつもりだったのに、さも俺が虐められてるような言い方をするもんだから……」


 昔話に花を咲かせようとする俺の袖を、リーチェがクイッと引っ張った。


「ねぇ、私達にも紹介してよ。 異界の民の人」


「あ、すまん。

 まず、背の高い男の方が級長ね」


「違う、羽鳥春馬だ」


「キューチョ……ハルマ?」


 何やその発音、可愛いな。


「そうだよ、キューチョー」


「おいこら、はとり、はるま、だ」


「違う違う、キューチョあで」


 混乱するリーチェに嬉々として追い打ちをかける俺に、チョップが振り下ろされた。


「つまりハトリハルマが本名で、キューチョーが愛称って事だな?」


 ディカが纏めてくれた事で、リーチェはようやく理解が追い付いたらしい。


「ハトリさん」


「そう、ハトリだ。 よろしく」


 するとリーチェは俺に視線を向けてくる。


「アギトの名前はこんなに長くないよね。

 ハトリさんは貴族なの?」


「違うよ?

 俺も本名は……あ」


 ここに来てようやく、俺の本名を2人に教えていなかった事が判明する。


「改めまして、俺の名前は多岐希です」


 すると今度は、ディカが首を捻る。


「でもお前、あたしにアギトって名乗った時、嘘ついて無かったよな?

 アギトは愛称なのか?」


「いんや、こっちの世界に来てから名乗り始めた名前だよ。

 気付いたらしっくり来てただけ」


 言われてみればそうだ。


 偽名のつもりで名乗っていたのだが、俺自身、無意識のうちに実名だと思っていたようだ。


「やっぱりまだ隠してた……」


 リーチェのジト目から逃れようと夜空を見上げる。


 うーん、瘴気で曇り。


「いやぁ、うっかりうっかり。

 皆にアギトって呼ばれてたら、もうそれが本名だと思い込んじゃってたみたいで」


「ふーん……」


 組まれた腕がギチギチと締め付けられるが、悪気があった訳では無いので許して欲しい。


「た、多岐君……」


 小声で呼ばれて思い出す。


 そういやもう1人おったわ。


「で、もう1人の異界の民が浜崎さんね」


「浜崎渚です。 多岐君とは元居た世界でよく話してました」


 そうだっけ?


 ………そうだったかも知れない気がする。


 彼女は級長程では無いが、教室の端でヒッソリ生きていた俺に話しかけに来ていた、数少ないクラスメイトだ。


 どうも家が近かったようで、時々近所で見かけていた記憶がある。


「へぇ………アギトとはどんな関係だったんだ?」


「クラスメイトだね。

 俺達の居た世界……ってか国では、義務教育ってのがあったんだよ。

 それで同じ年齢の子供は同じ部屋に閉じ込められて、如何にお国が素晴らしいかを説かれてたの。

 その時の同期ってワケ」


「語弊しか無いな」


 級長に突っ込まれ大人しく訂正する。


「教育内容は俺達のいた世界の歴史と、数の数え方と、文字の勉強と、化学……世界の真理とかを教えてたかな」


「化学だけ壮大過ぎないか?」


「じゃあ他にどんな表現があるのさ」


「……火が燃える仕組み、とか?」


「世界の真理だね」


 一言で纏めてしまえばそんな感じである。


 他の異世界に行った方々はこれらの知識で次の人生を謳歌していたらしいが、俺はそれらしい事は殆ど出来てない気がする。


「よく分からなかったが……こっちよりずっと進んでいて、いいシステムじゃないか?」

 

「文明的にみれば確かにそうだけどねぇ……。

 俺はもっと改良の余地ありだったと思うよ。

 昔の戦争を引き摺った軍人っぽい教育の仕方をされたけど、あれじゃあ社会に出てから役に立つ場面は限られちゃうと思うなぁ。

 教育で得た知識がどんな分野で使われるのかとか、それに関係する法律について教えて欲しかったよ」


 俺の言葉に級長も同意する。


「俺もそれは感じてたな。

 法律や政治に興味を持って欲しいって言うなら、それに繋がる知識が欲しかった」


「分かるわ〜」


「ちょっと何の話か分からないかも……」


 蚊帳の外にされ拗ねた様子のリーチェに、またしても話が脱線したと気付く。


「アギトはハトリと仲が良いんだな」


「そうだねぇ。

 打てば響くように返ってくるから、少しづつ話に熱が入っちゃうんだよね」


「つい話し込んで時間が過ぎてくんだ」


 懐かしいな。


 授業の合間の5分休憩も、話し込んでよく潰してたっけ。


「有意義な時間だったでしょ?」


「それなりにな」


 そんな俺達のやり取りに、リーチェがクスッと笑う。


「そんなアギト見たの初めてだったから、面白くって。

 でも、そっか。

 アギトは元居た世界で、ハトリさんとばっかり話してたんだね」


「他の時間は1人だったからねぇ。

 ってか話し込んじゃったけど、ディカは明日も朝から浄化作戦に行くんでしょ?

 そろそろ帰ろうよ」


 色々あり過ぎて時間の感覚が麻痺していたが、今は地球時間にして大体24時頃のはず。


 前線で命のやり取りをするディカに、寝不足なんてくだらない理由で怪我をして欲しくは無い。


「それもそうだな。

 ……あぁ、あたしもアギトのテントで寝ていいか?

 あんな事があった後だし、リーチェの近くに居てやりたい」


「それに、アギトがまた暴走したら止められるのは私かディカ姉かムアくらいだし」


「ごめんって」


 ニコニコしながら左右から捕獲する2人に、俺はテントまで連行されるらしい。


 自身の未来を悟った俺は、級長と浜崎さんに「おやすみ」とだけ言い残して別れるのであった。



●●●●



「………」


 ガッツリ爪痕を残して去った多岐達の背を見つめる浜崎。


 その横で羽鳥は、どう言葉をかけるべきか考えあぐねていた。


「…………」


 黙って俯き拳を握り締める浜崎からは、呼吸の音すら聞こえない。


「……浜崎さん……」


 級長は慰めの言葉をかけようとし、言葉が詰まる。


 浅はかな色仕掛けとは違う、確かな信頼と思い合い。


 互いの事をよく理解しているからこそ出来る会話。


 あの警戒心の強い多岐が心を許し、更には守る為に身分の高い貴族に対してを牙を剥く程の情の厚さ。


 明日の予定を把握し、身を案じる気遣い。


 浜崎は、ディカとリーチェに完膚なきまでに見せつけられたのだ。


 級長もまた感じてはいた。


 多岐と2人っきりで話す時に、地球に居た時より雰囲気が柔らかくなったのには気付いていたのだ。


 しかしあのように穏やかな顔をし、優しい声で話すなど思ってもみなかった。


 級長の立場だけで言えば、友人の変化と意外な一面を見たな、程度で済むだろう。


 だが浜崎には、とても受け止められるものでは無い。


「…………」


 この世界に落ちて来て、右も左も言葉も分からない中、多岐の生存だけをずっと信じてやっと会えたのだ。


 しかしその想い人が他の女に心を許しているなど、とても考えられなかった。


 ましてや………互いに愛情を持ち始めている事など。


「……ぁ……」


 幽鬼のように歩き始める浜崎に、級長は慌てて後を追う。


「は、浜崎さん……」


 彼女の固有能力は、人の暖かい気持ちがどちらに向いているか、つまり『愛情を感じる固有能力』であった。

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