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呪いの品

「ラグニィ、呪物ってどれくらいの頻度で見つかるの?」


「そうですねぇ……夏の調査では、私の担当した経路では4つ見つかりましたよ」


 こんな質問をしたのには訳がある。


 と言うのも、もうすぐ昼食時だと言うのに呪物が全く出てこなかったのだ。


「ま、こんなもんじゃないか?

 そろそろ腹減ってきたし、次終わったら飯にしようぜ」


「うい」


「はーい」


 ビン太の後をついて行き、午前中最後の店に到着する。


 大通りに机やハンガーラックを並べて古着を売る服屋だ。


 今更ながら、この世界で新品の服を買おうとするとそこそこの値段が付く。


 銀貨までは行かないが、銅貨が何十枚も飛んでゆく額だ。


 一方で古着は銅貨数枚で取引されている。


 この店も例に漏れず、古着の買取りや販売を行っているらしかった。


「こんにちは。

 呪物の持ち込み検査に来ました。

 あなたは呪物を持っていますか?」


 相手が気弱そうな中年の女性だからか、ラグニィの質問の仕方も優しい。


 だが服屋の店主は、オズオズと口を開いた。


「あの……私、呪物を持っているかもしれません」


「ほう?」


 ビン太が兵士の顔になる。


 服屋の店主は洋服箪笥の中から1つの箱を取り出すと、それを差し出して来た。


 一見何の変哲もない簡素な箱だが、蓋に魔力による刻印がされている。


「この中に呪物が入っているかもしれないんです」


「あなたは何故これを呪物だと思ったんですか?」


 真剣な表情で聞くラグニィに、服屋の店主は周囲を伺いながら質問で返した。


「……もし私が理由を話したら、守ってくださいませんか」


「悪意があって呪物を持ってたので無ければ、我々兵士が対応しよう」


 ビン太のその言葉に、服屋の店主は恐る恐る事情を語り出す。



 彼女は服を専門で取り扱う行商人であった。


 ギニンで商売をしながら冬を越そうとし屋台を広げると、他の店の男が訪ねてきてこう言った。


「ここは俺達の縄張りだ。

 商売したければ共益費を出せ」


 共益費自体は大した額では無かったので、ローカルルールとして受け入れて払っていたのだが、ある日その男がこの箱を押し付けて来たのだとか。


「この箱の中には、さぞ珍しい『布』が入っているらしい。 布は俺の専門外だし、そもそも開けられないからあんたにやる」


 置いていかれた箱は服屋の店主にも開ける事が出来ず、仕方なくそのままにした。


 だが……



「夜になると音が鳴るんです。

 ガタガタって。

 それで私、もしかしたら呪物を押し付けられたんじゃ無いかって思ったんです」


「ほーん」


 この箱がねぇ。


「その共益費については後で詳しく聞かせてもらうが……今は現物を確かめるのが最優先だろう。

 これで中に入ってるのが全く別のものだったりしたら、今回の検査の対象にはならないからな」


 ビン太は早速箱を開けようとするが、魔法を刻印された蓋はビクともしない。


「叩き割りましょうか?」


 スチャと構えられたハンマーを、ビン太は手で押さえつける。


「それで中に高級品が入っていたら目も当てられないぞ」


「やーい脳筋」


「むっ! ならアギトが開けてみてくださいよ!」


 そう言われて試しにつっついてみるが、やはり蓋が開く様子は無い。


 しかし指先が刻印に触れると、妙な感触があった。


 磁石が反発するように押し返される感覚が指先から伝わってくる。


「んー?」


 魔力で刻印を無効化させようとすると、精密な作業が必要になる。


 そんな事するくらいならぶっ壊した方が早いんだよなぁ。


 でもさっきそれをからかった手前、脳筋と同じ事をする訳にもいかない。


「……ん?」


 だがここで違和感に気付く。


 ビン太は先程箱を持っていた時に、刻印に対してなんの反応も示さなかった。


 だが俺の場合は、刻印が嫌がるように押しのけられたのだ。


 俺とビン太の違い………服屋の言っていた、呪物かもしれないとの言葉……


 ………この刻印、俺の固有能力に反応しているのでは?


 つまり負の感情や穢れを押しのける刻印がされているのではなかろうか。


 まったくもって失礼な話だが、どうやら俺はこの刻印に呪われていると判断されたらしい。


 何だか癪に障ったので、刻印の反発を無視して指をグリグリ押し付ける。


 すると刻印は俺から漏れ出た僅かな瘴気で、あっさり効力を失った。


「開いたかもしれん」


「本当か? 見せてくれ」


 ビン太は箱を受け取ると、恐る恐る開く。


「……なんだこれは?」


 箱の中には、色褪せた黒い布切れが入っているだけであった。


 ビン太は手に簡易的な結界を張って、布切れをつまみ上げる。


 その瞬間


「うおっ!?」


 布切れは突然膨れ上がると、ビン太の手を飲み込んで締め上げた。


 パキッ


 関節を鳴らしたような音が、布の塊か聞こえてくる。


「グゥゥッ!!」


「少し我慢しろよ」


 俺は骨の刃でビン太の腕を断ち切って布から離すと、すぐさま再生させてやる。


「うわ、なぁっ!?」


 突然切り落とされて生え直した自身の腕に釘付けのビン太はさておき、俺は次の標的を探して揺れ動く布を踏みつける。


「アギト! 離れてください!」


「ガウッ!」


「大丈夫」


 巻きつこうとしてきた布を鷲掴みにし、瘴気と呪いを吸い取る。


 するとさっきまでの暴れっぷりが嘘だったかのように、布はくたっと大人しくなった。


「ほい、捕獲完了。 手が生え直した気分はどうだい?」


「いきなり過ぎて何が何だか……。

 それより、もうその布は安全なのか?」


「俺が持ってる限りはね」


「それはどうして……」


 ビン太の声を遮って、慌ただしい足音が聞こえてくる。


 先程の騒ぎで、巡回中の兵士達が駆けつけて来たのだ。


「大丈夫か? 何があったんだ」


「呪物の持ち込み検査中にちょっとな……。

 おいあんた。

 無実を証明する為にも、着いてきてもらうぞ」


 服屋の店主は、言われるがままに頷いたのであった。



●●●●



 服屋の店主に箱を渡した商人は、幸いにも直ぐに見つかった。


 午前中に他の兵士達が取っ捕まえていたのだ。


 どうもそいつは、ダンジョン産の呪物と一緒に怨念の籠った呪物も取り扱っていたらしく、それで検挙されていた。


 その商人の男は現在、ギニン南部基地の尋問室に閉じ込められているのだった。


「で、お前は手に負えないと判断した呪物を押し付けたって訳か。

 違法な徴収もあったようだし、叩けばまだまだ埃が出てきそうだな?」


 問い詰めるビン太からは、静かな怒気が漏れている。


 元はと言えばこいつのせいで腕を切り落とすはめになったのだから、ビン太の怒りは当然だろう。


 もっとも、切り落とす判断をしたのは俺なのだが。


 彼には俺の分の怒りも被ってもらおうか。


 しばらくビン太の尋問を見守っていると、尋問室の扉が勢いよく開いた。


「ハイトっ!」


 突然現れた女性に、ビン太は驚いて立ち上がる。


「メイ!?」


 ビン太改め、ハイトに抱き着いたメイとやらはハラハラ泣き出してしまった。


「あなたが怪我をしたって聞いて、それで来てみたら……あなたの手を渡されて……っ!!」


 そらビビるわなぁ。


 体の一部だけ渡されれば死亡届と同じようなものだもの。


「大丈夫だよ。 ほら、アギトに生やして貰ったから心配無い」


 ハイトの手に縋り付くメイは、くしゃくしゃになった顔で俺を見てくる。


「大丈夫、むしろささくれも治ってるから安心しな」


「アギトの言う通りさ、これでまた君を抱きしめる事が出来るよ」


 お熱い事で。


 直視に耐え兼ねて視線を逸らすと、親の仇と言わんばかりの顔で憎々しげに見つめる商人の男がいた。


 ガンッ!


「ヒッ!?」


 机を蹴って男の注意をこちらに向けてやる。


「お前が逆恨みを思うのは勝手だが、俺は臆病な質でね。

 友人に危害を加える可能性があれば、それが無くならない限り不安で夜も眠れないんだ」


 机の上に、握りしめていた呪いの布を置く。


「俺の安眠に協力してくれないかい?」


 ユラユラと起き上がった布は最も近くにいる商人の男に飛びかかり……


「ヒィィィィ!!!!」


 椅子から転げ落ちた男の目と鼻の先で止まった。


 俺が布の端を掴んだのだ。


 すっかり縮こまる商人の男は、腕の隙間から俺を伺ってくる。


「この後雪の中に放り出される可能性はあるだろうが、長生きはしたいだろう?

 賢明な判断をしたまえよ」


 これだけ脅しておけば、こいつも馬鹿な事は考えないだろう。


 振り返るとハイトが苦笑していた。


「ありがとう。 流石、骸のアギトだな」


 こっそりドキドキしていた心中を悟られぬよう、素っ気なく返す。


「どーいたしまして」


 どうやら無事に友達が出来たらしかった。


「ガウ?」


 黙って商人の男を見ていたムアが外に目をやる。


「どうした? 今度は誰の彼女だろうね」


 俺の軽口に、尋問室を伺っていた兵士達が笑う。


「俺のロースちゃんかもしれねぇ」


「その子昨日の娼婦だろ」


 ゲラゲラ笑う男共から、ラグニィが辟易した表情で俺の足元へ避難してきた。


「嫌ですねぇ。 これだから男ってのは」


 軽い口調でそう言いながらも、ハンマーを握り締めるくらいには嫌らしい。


「はいはい。 用は済んだし外行こうぜ」


「そうしましょう。 ここにいたらむさ苦しい匂いが乙女の装備に染み付いてしまいます」


「あれ、でもこの前俺の血肉を浴びてなかったっけ?」


「ええ。 ですので1晩洗剤につけてからしっかり磨いて洗いましたよ」


「悲しい」


 血の油がどれだけ取れづらいかを語られながら尋問室を後にする。


 だが基地の中は、来た時とは比べ物にならないほど慌ただしかった。


「何かあったんでしょうか」


「さぁ? ちょっといいかい」


 取り敢えず近くを早足で歩いていた兵士を呼び止める。


「今忙し……アギトか!

 ちょうど良かった、しばらく基地に留まってくれないか?

 もしかしたら緊急依頼をする事になるかもしれない」


「詳しく」


 兵士は言うべきか迷う素振りを見せたが、声を小さくして教えてくれた。


「まだ確定じゃ無いが、ゲルの住人が逃げて来て、ダンジョンが決壊したと喚いているらしいんだ」


「まじか」


 兵士は「まだ確定じゃないからな」と念を押して立ち去ってしまった。


「ガウ……」


「大丈夫だよ。 報告が来てるって事は、ちゃんと逃げれたって事だから」


 優しいムアは、ゲルの顔見知りの身を案じているのだろう。


 安心しな〜と撫でていると、手が控えめに引かれた。


「あの、話聞こえなかったんですが……」


「おーけー。 耳貸しな」


 するとラグニィは精一杯背伸びをして、更に首を傾げて耳をできるだけ高くしてくれる。


 プルプルするその姿に、父性が芽生えてしまいそうだ。


 もう少し焦らしてみようかとも思ったが、仕方なく俺の方が屈む。


「ゲルのダンジョンが決壊したかもしれんと。

 ゲルの住民が避難してきてそう言ってるんだってさ」


 ラグニィは息を飲む。


「……それ本当ですか?」


「まだ確定じゃ無いらしいけど…」


「アギト!! こっちに来てくれ!!」


 基地の喧騒の中でも、号令のような声はよく響く。


「との事だ。

 はいよ! 今行くわぁ!」


 人混みに流されそうなラグニィの手を引き、受付まで辿り着く。


 普段は住民からの治安相談所になっている受付は、今は兵士が持ち寄った情報の受け渡しで全て占領されていた。


 その内の1つが俺の為に開けられる。


「依頼を出したい、今からだ。

 っと、ラグニィもいたのか。 これは好都合だな」


 固有能力を通じて、右足辺りからじわりと怒りが伝わってくる。


 はいはい、怒らないよー。


 肩を撫でてなだめつつ話を進めさせる。


 出されたのは、今から数日に渡る緊急調査依頼であった。

今回の更新はこれでラストになります。

冬のしんみりした各キャラ掘り下げに付き合っていただきありがとうございました。

ここからは物語が進んでいきますので、次回の更新をお楽しみに。

それではさらば〜( 'ω')ノシ

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