指名以来
グレイ訪問という異星交流を終えた3日後の事。
俺とムアは午前の串焼きを終えてギルドへ来ていた。
何か面白い依頼は無いかと物色するだけである。
だがギルドに入った途端、周囲の冒険者からの注目を浴びた。
赤脈の花畑の経営や肉販売をしてから有名になった自覚はあるが、このように注目されるのは初めてだ。
「俺なんかしたかな」
心当たりしか無いなぁ。
「お、アギト。 来たか」
俺を見つけたセプシオは、カウンターから出てくると俺を掲示板の前まで連れて行く。
「お前に指名依頼が来てるぞ」
「俺にぃ? カニバリズムかな?」
「そんなとち狂った依頼は俺が食い止める。 見てみろよ」
かっけぇおっさんを横目に、掲示板に目をやる。
掲示板には、他の依頼書と比べて明らかに質の良い紙に豪華な縁どりがされた何かが貼ってあった。
「うわ」
多分これなんだろうけど触りたくねー。
仕方なく目を通すと、しっかり『アギト』を名指しでの依頼だ。
しかも依頼主は……
「グレイ・リニーウ……」
「様を付けろ様を」
依頼内容にも目を通すと、冬季配給馬車の護衛と書かれている。
「冬季配給馬車?」
「冬季配給馬車ってのは、村から預かってた作物をギニンで貯蔵しておいて、冬の食い物が無くなった時に配るやつだ」
「ほーん」
その馬車の護衛と。
「もし来たら今日中に領主の館に来るように伝えてくれ、と言われてる。
早いところ行ってこい」
「はーい」
依頼書と招待状を受け取り、俺とムアはギルドを後にしたのだった。
●●●●
ギニンの中央目指して、大通りをムアと闊歩する。
領主の館に近付くにつれ、人通りは多くなり並ぶ店も変わってくる。
野菜やファーストフードの出店は少なくなり、高級そうなレストランや服屋などが多く見受けられる。
それらを物色してフラフラしながらも、俺とムアは領主の館へ到着した。
「うわー、赤脈の花畑と同じくらい人並んでるじゃん」
「ガウー」
並んでいる人間は、身なりの良い商人と思しき者から、The田舎者といった者まで様々だ。
その最後尾に並ぼうとすると、門番に呼び止められた。
「アギト! お前は並ばなくていいぞ!」
見ればその門番は、時々赤脈の花畑に巡回に来る兵士だ。
「あれ? 今日は門番なの?」
「ああ。 それと、ムアも一緒に入っていいらしい」
「ガウッ」
「お、良かったねぇ」
凍えながら待つ列から恨みがましげな視線を受けながら、俺とムアは兵士の案内で悠々とお邪魔する。
入口に張られた結界を越えると、空気は一変して暖かくなった。
どうやら防寒の結界が張られているようだ。
中は魔力による照明が明るく照らしており、細かな装飾まではっきりと見える。
濃く染められたカーペットや煌びやかな飾りを見るに、確かに領主の館だ。
「こっちだ」
兵士に促されて一室に入ると、そこには先日会ったグレイと知らない茶髪イケメン青年、そして何故かルマネアとリーチェがいた。
「あれ、何で2人が?」
「指名依頼で招待されたの。 アギトと同じよ」
でも俺が赤脈の花畑にいる間は一緒にいたはずだが……?
もしかして知らん間に入れ違いになってたのだろうか。
促されるままに席に着く。
俺の横にはフカフカの円形のマットが敷かれていた。
どうやらムアの為に用意してくれたらしい。
俺達が座ると、何故か兵士達は1人残らず部屋から出て行ってしまった。
ええんかこれ。
殺れてしまうよ?
殺らないけど。
「本日は御足労頂きありがとう。
早速だが……構わないな?」
グレイは懐から取り出したベルを見せてくる。
「ええ」
ルマネアが承諾すると、グレイはベルを1度鳴らした。
すると魔力が反響するように広がり、部屋を外界と遮断する。
「結界か」
「ああ。 どこで誰が聞いているか分からないからな。
それと、ここは公の場では無いから昨日と同じように接してくれ」
ふむ、これって言葉のまま受け取って良いのだろうか。
とか思っていたら、ルマネアが躊躇いなく口を開いた。
「で、どんな内容かしら。
わざわざ防音の結界を張るくらいには、リスクのある内容なのよね?」
かっけーす姉さん。
「それほど大した内容では無い。
今回の依頼に、倅を連れて行って欲しいのだ」
グレイはそう言って隣に座る茶髪イケメンの肩を叩いた。
「僕はヴァートス・リニーウ。
突然領主の息子が同行することになって驚いているだろう。
安心してくれたまえ、僕もつい先程聞かされた」
「ヴァートス」
窘めるグレイだが、ヴァートスは見えがよしに口をへの字に曲げて見せる。
「そりゃあ急に2週間の外泊が決まったら文句の一つも言いたくなるでしょう」
2週間の外泊……?
こっそり依頼書を開いて確認する。
……ほんとだ、2週間って書いてあらぁ。
となるとまずはカイルに伝えて、後は串焼きの販売を誰かに任せるか。
行きつけの店が突然無くなったら皆嫌がるだろうからなぁ。
「ちゃんと確認しなさいよ」
横からリーチェにつつかれるが、俺にも言い分はある。
「呼ばれて直で来たんだもん。 仕方無いだろ」
「アギト」
ルマネアが俺を見て、自分の頬を指さす。
やべ、買い食いのソースが付いてたか。
「……あれ?」
しかし触って確かめても、指には何も付かない。
それ以前に、そもそも頬はマスクで覆われていて……
しまったと顔を上げるがもう遅い。
ルマネアとリーチェだけでなく、領主親子までクスクスと笑っていた。
「領主様からの呼び出しに寄り道するなんてあなたくらいよ」
はい、すんません。
大人しく反省していると、ヴァートスがまだ口元を抑えながら言った。
「確かに、彼らとなら楽しい旅が出来そうです」
「そいつはよかった」
チラとルマネアを見やるが、良い笑顔で微笑んで返される。
何も言い返せねぇってばよ。
「さて、話が逸れてしまったけれど、本題に戻りましょうか。
何故、突然次期領主様を冬のトラモントへ送り出すのかしら。
もし暗殺される心当たりがあるのであれば、報酬はこれでは足りないわよ」
不意打ちでズバッと切り込むルマネアに、俺もリーチェも、ヴァートスすら一瞬呼吸を忘れる。
そういやルマネアも赤脈旅団の顔の1人だったわ。
赤脈旅団はディカとルマネアが金級で、スター二ーが金級相当の、3人看板だ。
赤脈の花畑に来る客達から、一般常識として教わったので間違いない。
その一角であるルマネアの笑顔の圧は強い。
しかしグレイも流石領主と言ったところか、一切たじろぐ事は無かった。
「断じてそのような不安要素に心当たりは無いと誓おう」
「ふぅん……」
グレイの目を見つめるルマネアから、一瞬魔力がはみ出たような気がした。
「いいでしょう、信じるわ。
ただし、なぜ突然このような事を決めたのか、理由くらいは聞かせて欲しいわね」
いいんだ。
ルマネアも、もしや嘘を見抜く固有能力でも持っているのだろうか。
目を合わせたら考えが読める的な。
……ありえそうだな。
「そう隠す事でも無いが、2年……いや、3年後にヴァートスに次を任せようと考えている。
それまでに一度は顔見せをしておきたいのだ。
先日のような事を、少しでも回避する為にな」
グレイはそう言って俺を見る。
すみませんって。
つまりヴァートスが領主になる前の準備ってことか。
だがそれだけでは、わざわざ防音の結界を張るには少し理由が弱いように感じる。
すると俺の考えを見越していたのだろう。
グレイは明後日の方向へ視線を向けた。
「これは独り言なのだが……ここしばらく、ジャバルクの活動域がアガパ山脈まで広がってきている。
現時点では帝国との小競り合いが続いているらしいが、あの傲慢な国だ。
トラモントの隙を感じれば直ぐに喰らい尽くし、対帝国の土台にするつもりなのは目に見えている。
……バルガルフの次に彼らにとって近いのは、リニーウだ」
怖、ジャバルクそんなに血気盛んだったんだ。
てっきり元大国の意識が強い、「俺東大受験するから頭良い(自称)」みたいなタイプだと思ってたら、そんな危険思想をお持ちだったとは。
「用心するに越したことはない、と」
「その通り。
依頼当日も、私の選りすぐりの部下のみを同行させる。
経路はその兵士らに伝えておくゆえ、それに従ってくれ」
改めて依頼書に目を通す。
どうやら1つの村を往復して終わりでは無く、何ヶ所か回るが故に2週間の予定らしい。
「何か質問は?」
「私からは無いわ」
「俺からも無し」
「わ、私も無いです」
グレイは1つ頷くと、ベルを持ち上げた。
再びベルが音が鳴り響き、魔力が霧散するのを感じる。
こうして護衛依頼の打ち合わせの席は解散となるのであった。
●●●●
準備期間の3日で食料やらを揃えた俺とムアは、ルマネアとリーチェと一緒に領主の館へ来ていた。
まだ日が昇って間も無いにも関わらず、領主の館の前は喧騒で溢れている。
「あと1箱足りないぞ!」
「飼葉はまだあるか?」
「つっかえてる! もっと丁寧に詰め込め!」
保存食や馬の餌、そして肝心の物資がガンガン積まれてゆく。
配給馬車団は複数が同時に出発するらしい。
さてさて、俺達が護衛する馬車はどれだ?
「いた! アギト達はこっちだ!」
兵士に呼ばれて着いたのは、他の馬車と何ら変わりない普通の馬車であった。
「もっと頑丈な馬車じゃなくていいの?
結界も雪解け用のしか張られてないし」
俺は馬車の片隅で兵士と共に腰掛ける、フードを被った男に声を掛ける。
「武装はある程度ギニンから離れてからかけるんだ。
それに見るからに頑丈だったら、僕が乗ってるって気づかれてしまうだろう」
フードから顔を覗かせたのはヴァートスだ。
どうやらギニンからは目立たずに出るつもりらしい。
「馬車が通るぞー!! 道を開けろー!!」
荷物の詰め込みが終わり、先発の馬車が進み始める。
「私達は護衛だから外よ」
「りょーかい」
馬車から出た護衛組は、ルマネアに習って馬車の両脇を歩く。
徒歩の速さで進む馬車から群衆を見ると、まるでテーマパークのパレードに加わったような気持ちになる。
事実、見世物としての目的もあるのだろう。
税として取られていた食料が、然るべき時に然るべき方法で配られているのを認識させるためのパフォーマンスだ。
「あ! ムアちゃんだ!」
家族連れの一角から声が上がる。
「アギトもいるー!」
「肉はー?」
ムアだけでなく、俺まで認知しているとは。
やはり食い物の力はでかいな。
「肉はしばらく別の奴が配るから安心しなー!」
「やったー!」
現金なガキ共だ。
冷凍に加えて、教えて貰ったばかりの保存の魔法で念の為20日分は保管しておいたから、よっぽどの事が無い限り大丈夫だろう。
後は肉焼きを任せたアルの腕次第である。
「ガウッ!」
「うん?」
ムアの視線の先を見てみれば、人混みに押し流されそうになりながらもカイルが手を振っていた。
後ろにはスター二ーが付き添ってくれている。
「一瞬離れていい?」
「いいけど、置いてかれる前に戻ってこいよ」
「ありがと、すぐだから」
兵士に礼を言い、カイルの元へ駆け寄って抱きしめる。
「ごめんな、急に依頼決まっちゃって」
「大丈夫、こっちは気にしないで」
笑顔を作りながらも、やっぱり寂しそうなのが心苦しい。
「ガウーウ」
「ありがと。 それよりアギトとムアも気を付けてね」
ムアと一緒にカイルをこねくり回し、スター二ーに預けて離れる。
小走りで馬車に追い付くと、兵士が声を掛けてきた。
「仲がいいんだな」
「まあね」
「俺の娘はもう頭を撫でるのも嫌がるぞ。 お見送りには一応きてくれてたが、手も振ってくれん」
「お父さんしてんねぇ」
どの世界でも、父親が娘に冷遇されるのは同じらしい。
こうして人目に触れながら歩いていると、顔見知りがかなり増えたように感じる。
目が合ったら「名前分かんないけどヤッホー」くらいは出来るようになった。
これなら脱コミュ障を宣言しても良いのではなかろうか。
行き先が違う馬車とはギニンの中で別れ、西門まで辿り着いた頃には馬車は6台に減っていた。
この内の3台が、俺達が護衛する馬車だ。
「お、西側の大扉が開いてるのは初めて見るね」
「西門は滅多に開かないからな。 南門の次に人通りが少ないんじゃ無いか?」
御者をしている兵士が身を乗り出して答える。
ギニンから出ると一面雪景色どころか、雪の壁が反り立っていた。
しかも、俺の身長なんて優に超える高さで積もっている。
門の周辺は結界で雪が溶かされていたが、それがなければ閉じ込められていただろう。
馬車が進むと、結界に触れた先から雪が消えるように溶けてゆく。
「アギト、もう少し離れるか結界の中にいた方がいいぞ」
言われるがままに結界から離れると、溶かされた雪が結界の表面を伝って左右に弾かれてゆく。
どうやら馬車に合わせた雪溶かしの結界を張っているらしい。
雪を掘って出来た道を通れば、まるで峡谷から見上げたようだ。
「つーかこれじゃあ周り見えんやんけ。 警戒のしようが無いな。
俺とムアは雪の上にいようか?」
「好きにすればいいが沈むぞ?」
「大丈夫、見てて」
俺を乗せたムアは、自らが浮かばせた霧の中を泳ぐように登ってゆく。
これなら沈む事はないであろう。
雪の上から馬車を見下ろすと、ヴァートスが見上げているのが見えた。
見下ろすのって無礼にならないのかなとか思ったが、特に言われなかったので気にしないでおこう。
改めて周囲を見ると背の高い針葉樹の木々は枝の高さまで埋まり、他は白一色の静かな景色だ。
「耳を塞いだら、俺達しかいないみたいだね」
「……ガウゥ」
馬車の掘り進む速さに合わせて、ムアは水面のように霧の中を泳いでゆく。
晴れているからか光の反射が眩しい。
イヌイットは木を細く切り抜いたサングラスのような物で、反射光から目を守っていたと聞いた事があるが……。
「ムアちゃーん! 私も乗せてー!」
空気に浸っていると、現実に呼び戻す声が聞こえてくる。
「俺達だけじゃ無かったわ」
「ガウー」
護衛の依頼を思い出した俺とムアは、馬車へ1度戻るのであった。
●●●●
ギニンを旅立って初日の夜は吹雪になった。
降り積もった雪をくり抜いたカマクラの中でも、ヒュウヒュウと風が鳴るのが聞こえくる。
かまくらの中では、兵士や俺達護衛、ヴァートスが輪になって夕食を食べていた。
メニューは乾燥野菜や俺提供のバイコーンの肉を煮込んだスープと、小麦と雑穀を一緒に練ったナンのようなパンだ。
スープの具が減ってきたら、ナンもどきを汁に漬けて食べるのだ。
ナンに混ぜ物?と思うかもしれないが、雑穀混じりとて侮ることなかれ。
これが中々香ばしくて美味い。
普段は肉メインで食べるムアもがっつくほどに美味い。
次期領主の口に入るものだから良い物を使ってはいるのだろうが、この世界の食文化も中々発展していそうだ。
腹も満たされ食休みをしていると、兵士が1人立ち上がった。
「馬に飼葉食わせてくるよ。
ヴァートス様、明日は早朝から出発です。
支度が済んだらお早めに就寝をお願いいたします」
「分かった。 お前達も見張りで起きてはいるだろうが、交代で休息はしっかり取るように」
『はっ』
こう見るとヴァートスってしっかりしてるな。
次期領主に相応しい教育等は受けているだろうが、俺とそこまで歳が変わらなさそうなのに大したものだ。
「アギト、見張りは先に私とリーチェでやるから、あなたとムアは先に休んでいてちょうだい」
「りょーかい。 寝る前に外の空気だけ吸ってくるよ」
カマクラの中では、なにぶん空気が篭ってしまっていけない。
焚き火の上に穴を開けて魔法で換気してはいるが、やはり狭い室内だと息苦しくなってしまう。
「アギト、僕も連れて行ってくれないか?」
ムアに跨ってさあ行くぞって時に、ヴァートスがコートを羽織りながら言ってきた。
「いいの?」
俺が聞いたのは兵士だ。
しかしヴァートスは何を思ったのか、俺のマスクに手を添えると、強引に自分へ向かせてきた。
「この僕が行きたいと言ったんだ。 連れて行ってくれ」
アゴクィィィ!?
しっかり目を合わせて行ってくるヴァートスからは、謎の説得力を感じてしまう。
つーかこいつ顔良いな。
だからと言って乙女ゲーの王子様ムーブはやめて頂きたい。
俺は男である。
「直ぐに戻るよ。 乗りな」
手を差し伸べて引っ張り上げてやると、ヴァートスは俺の後ろへ跨った。
ふん、これが男比べである。
「しっかり捕まってろよ」
ムアは薄ら漂わせた霧を踏むと、泳ぐように宙を駆け上がる。
かまくらの中に張られた結界を抜けると、外の凍てつく寒さが顔を撫でた。
あ、一応後ろのボンボンの為に保温の結界は張っておくか。
「ムア、あの木にしようか」
「ガウッ!」
木の近くまで行くと、ヴァートスを抱えて太い枝に飛び降りる。
「うおっ!?」
「ほい到着。 落ちないように座ってな」
「あ、ああ……」
次期領主様は、両手を広げてバランスを取りながら恐る恐る腰を下ろした。
「ガウッ」
「いいよ、おいで」
小さくなって飛び込んできたムアを捕獲し、俺も座る。
「大丈夫かい、次期領主様」
「ああ……新鮮な体験だった。 なかなか悪くない。
それと、ヴァートスでいい」
「そうかい」
ヴァートスは乱れた髪を整えながらそう言った。
「ワンッ!」
「ん?」
ムアを見れば、その横の霧にはリザードマンの肉が浮いているでは無いか。
しかも昨日の昼に焼いた残りの分だ。
ムアの霧は熱もそのまま保存出来るので、肉からは湯気が昇っている。
「食べ足りなかった?」
「ワウー」
「はいはい。 あ、ヴァートスも食べる?」
「ではいただこうか」
魔法で肉を1口サイズに切り分け、ムアが保管していた串に突き刺してヴァートスに渡す。
「ムアも串がいい?」
「ワウ」
「おーけー」
ムアは最近、肉を串で食べたがるようになった。
前までは皿に取り分けるか、食いちぎって食べていたと言うのに、わざわざ霧で串を掴んで食べるのだ。
一緒に食べている子供達に感化されたのだろうか。
俺も串焼きを頬張る。
うむ、美味い。
肉汁と共に旨みが滲み出てくるリザードマンの肉に、山椒のような香辛料と大葉のような香草のさっぱりした味が絶妙だ。
残念ながら子供達にこの味付けは不評であったが、立ち寄った大人達が大喜びで買って行ったっけ。
酒を片手に。
「美味いな。
兵士達から話は聞いていたが、これが鉄貨3枚は安すぎやしないか?」
「香辛料とかは種さえあれば自分で作れるからねぇ。 そこで節約してんのさ。
つーか兵士から話聞いてたんだ」
「タイミングが合うと肉が食えるから、巡回ルートの争奪戦が白熱しているらしい」
肉が食える?
あー、あれか。
「『税の取り立てが来たぞ! くれてやれ!』って肉持たせた子供達を差し向けてたからかな?」
「近々子供達の税への認識を確認せねばならないな」
仕事増やしてすまんね。
「そういえば、手足を生やし直すような治療が出来るらしいな」
「まあね。 でもめっちゃ痛いよ」
「そうなのか?
なんだ、その……自傷行為のような戦い方をすると聞いたが」
誰にどんなふうに聞いたんだよ。
そんでもって、気を使うような視線を送るな。
誤解を解かねばメンヘラ扱いされかねない。
「戦うのに効率がいいからだよ。
例えば……俺の棍棒あるだろ」
「ああ」
棍棒を持つと、それを座ったまま上から下へ振り下ろして止める。
「棍棒の一撃を避けた奴は、正面から俺を見て無防備だと判断する」
「……そうだな。 攻撃を叩き込むチャンスのように思える」
「所がどっこい」
俺は肩から骨の槍を勢いよく飛び出させた。
「武器を振りかぶって無防備なのは相手も同じ、突然生えてきた骨に貫かれて俺の勝ち……に出来るかもしれない。
勝つためには手段を選べんのさ」
「凄いな!」
俺の拙い説明から攻防を想像したのだろう。
ヴァートスはまるで少年のように目を輝かせる。
こんなに喜んで貰えると話がいがあるな。
「しかし世の中には、この戦法が通用しない相手も居るんだ」
「本当か? それはどんな……?」
「赤脈旅団団長、ディカだよ」
「っ!」
領主の息子だ、当然名前を聞いた事はあるだろう。
「もしかして、アギトとディカの模擬戦の事か?
噂は聞いていたが、詳しくは知らなかったんだ。
それで……やはり強いのか?」
お、最強を求めるお年頃ですか。
「そりゃあもう。
模擬戦だからそれっぽく動いてくれてはいたけど、ディカが本気出したら指先だけで俺なんか消し炭よ」
「そんなにか!?」
ちょっと北斗が混じってる気がしないでも無いが、あながち嘘でも無いだろう。
チョンで爆散は無いだろうが、ディカのフルスイングにかすったりしたら、結構な大ダメージを食らうんじゃなかろうか。
「わっ!!」
「ホワッ!?」
「うわっ!?」
突然背後で叫ばれ、俺とヴァートスは揃って枝から落ち雪に沈んだ。
「ぷはっ。 あれ、ムアがいねぇ」
真っ白な視界の中で辺りを探るが、魔力の探知でも雪の中にはヴァートスしか見つからない。
「あ、いかん。 あいつ一応お貴族様や」
すっかり忘れていたが、彼は立派な護衛対象である。
ツタを木に結び付け、ヴァートスを手探りで捕獲して雪の上に引きずり出す。
俺達を木の上から落とした犯人は、声で察しが着いていた。
「お前かー!!」
「あ、良かったー」
リーチェは俺の方には目もくれず、ヴァートスの手を取って引っ張り上げる。
「ガウッ」
「ムア……俺の味方はお前だけだよ……」
巨大化したムアが俺をガブリして持ち上げ、木の上に戻してくれた。
「ムアちゃん私が近付いてるの気付いてたよ」
「裏切り者めー!」
顔を逸らすムアに飛びかかり、一緒に雪に沈む。
しばらく雪の中でじゃれ合い、俺の全身がムアとお揃いになったところで、一時休戦となった。
「何やってんだか」
ムアに乗って雪から這い出ると、ヴァートスの雪を払っていたリーチェが呆れた顔をしていた。
「原因リーチェだからね。
つーかどうやって登ってきたのさ」
「フツーに下からトンネル掘って来たんだよ」
それはおかしい。
少なくとも『フツー』に来ていたら俺は気付くはずだ。
「魔力広げて感知してたんだけど?」
「それを出し抜く結界を、さっき先生に張って貰ってきたの」
おいルマネア。
「てかヴァートスは無事なんか」
「心配無いさ。
雪に全身が埋もれるなんて、新鮮な体験だったよ」
何でも楽しめるとか、幸せものかこいつは。
リーチェが呼びに来た本来の目的は『そろそろ帰ってこい』との事だったらしい。
だったら普通に呼びに来いと文句を言いつつも、雪の中で夜を越したのであった。




