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合流

 ギニン西のキャンプ地を、俺とラグニィはトボトボ歩く。


「いやぁ……怒られたねぇ……」


「怒られましたねぇ……」


 あの後セプシオに止められて、ようやく俺とラグニィの模擬戦は終わりを迎えた。


「見た事無いくらい怖い顔してましたよ」


「ガウッ」


「すません」


 ムアにも怒られたので謝る。


 普段親しく話しかけてくる人間が、言葉少なに怒った時の説教の怖いこと怖いこと……。


 非は完全に俺達にあるので大人しく叱られてきました。


 そりゃそうよな。


 血、肉、油、骨が陣取り合戦でもしたんかってくらいグチャグチャになった訓練場は、グロいスプラト○ーンかってくらい酷かったもん。


 ムアが霧で周りを囲ってくれてなかったらもっと凄惨な光景が広がっていただろう。


 魔法を使って必死こいて片付けて綺麗にはなったが、あの模擬戦を見ていた冒険者の何人かは吐いたらしい。


 すまんな。


 俺とラグニィも全身綺麗にはしたが、精神的な疲労回復の為に風呂に浸かりに来ていた。


「冬でも『赤脈の花畑』の近くは賑わってますね」


 俺達の風呂屋はいつの間にか『赤脈の花畑』と呼ばれ、その周りには様々な出店が並ぶようになっていた。


 名物が出来、それに群がる人々を狙って更に人が増えて一帯が盛り上がる。


 地面剥き出しのキャンプ地周辺は、僅か数日の間で祭りのように賑やかになっていた。


「アギトさん! お帰りですか?」


「うぬ。 売上はどうよ」


「お陰様で今年の冬はプラスになりそうです」


「そいつは良かった」


 俺……と言うより赤脈旅団が主に店番をしているからか、近くに出店を構える彼らはこうして挨拶をしてくる。


 他国からやって来た商人が出店を構える前にも一応挨拶に来るくらいには、赤脈旅団の名は広く知られていた。


 初対面で知らんと言ってしまった俺は、余程世間知らずなのだろう。


 かけられる声に返事をしつつ賑やかな通りを歩いてゆくと、列の最後尾が見えてくる。


 『赤脈の花畑』は今日も盛況らしい。


 経営者権限で列を無視して受付へ辿り着くと、カイルとルマネアが頑張っていた。


「ありがとう、またいらっしゃい。

 カイル、男湯3人、女湯2人出たわ」


「分かった! 次の人どうぞー!

 後ろの家族まで入っていいよ!

 今日もありがと……あ、おかえりなさい!」


 ムアの巨体に気付いたカイルが手を振ってくる。


「ただいま。 邪魔しちゃったか」


「大丈夫!」


「おかえりなさい。 試験はどうだったかしら?」


 ムアから受け取った銅色のカードをルマネアに見せる。


「飛び級じゃない。 おめでとう」


「あざーす」


 お褒めの言葉を有難く受け取る。


「ラグニィが試験監督してくれたのね。 久しぶり。

 元気にしてたかしら?」


「はい! お久しぶりです! 元気です!」


 ルマネアに微笑まれ、ラグニィは伸び上がって挨拶する。


「あれ、知り合い?」


「去年ディカが赤脈旅団にスカウトした子なの」


「ありがたいお話だったのですが、私は家計の支えで冒険者をしていたのでギニンから離れられず、お断りしてしまったのです」


 ほーん、同じような立場だったのか。


「あれから変な男に絡まれてない?」


「1回絡まれて、その……殺ってしまいました……」


「あら……」


「でもその件がきっかけで今ではギルドの職員ですから! 結果オーライです!」


 逞しいなぁ。


「で、さっき試験終わりに模擬戦をしたから、風呂だけ入って休もうかなって思ってね」


「今なら男湯女湯1人づつ入れるよ」


「お、仕事が早いね。 ムアは……」


 ちょうどお風呂上がりの子連れ家族に囲まれていた。


「ガウ」


 ここは任せて先に行けとの事らしい。


「おっけい。 んじゃゆっくりしてくるわ」


 俺は経営者権限、ラグニィはコネを使ってそれぞれの脱衣所へ入る。


 脱衣所は湯気を利用した暖かい空気に包まれていた。


 空気の流れはルマネアやリーチェが魔法を壁に付与しており、外の冷たい空気は入ってこないので快適だ。


 服や荷物を入れる籠は魔力が鍵になっており、強引に開けようと思えば開けられるがそんなことをすれば赤脈旅団の歴戦の猛者達に秒でバレてボコボコである。


 何人か盗みを働こうとするバカは居たが、当然直ぐに捕獲されて兵士に引き渡された。


 ギニンに居場所を失った犯罪者らは、身寄りが無ければ追い出されておしまいである。


 今頃は雪の下にでも埋まっているか、運が良くても盗賊になっているだろう。


 ま、そのバカ達の犠牲によって『赤脈の花畑』の平和が保たれているのだが。


 即席で作った簪2本で髪を束ね、掛け湯で体を洗って風呂場へ。


「おぉ、大繁盛」


 中は溢れかえるほど……では無いが、それなりの人がくつろいでいた。


「拡張して正解だったな」


 風呂は今や、元あったものに追加で大風呂2つ、更には水風呂も用意してある。


 水風呂が意外と好評で、今も若者達が度胸試しのように一息に全身浸かって悲鳴を上げていた。


 バカである。


「うおっ!?」


 後ろから聞こえた声に振り返れば、顔見知りの冒険者が後ずさっていた。


「何さ」


「そりゃこっちのセリフだ。 ひょろっちい髪の長ぇ奴がいるから女かと思ったぞ」


「アホか。 発情すんなよ」


「誰がするか! あんなグロいもん見せやがって」


 どうやら彼は、俺とラグニィの模擬戦を見ていたらしい。


「せっかく腹空かせてたのに、食欲消え失せたわ」


 彼は文句を言いながらも同じ大風呂敷に浸かって来る。


「ラグニィめっちゃ強かったけど有名なの?」


「有名なんてもんじゃねぇぞ。 ギニンを中心に活動してる冒険者なら一度は耳にするくらいには実力者だ。

 色々不運はあっただろうが、冒険者としての実力とか向き合い方を認めてる奴は多いんだぜ」


「へぇー」


 確かに、依頼中に垣間見た知識も豊富で、戦闘でも有利不利を早く分析して引くのは生き残る上で必要不可欠だ。


 だからこそ腐る前にギルドに引き取られたのだろうが。


 そんなことを考えていると、冒険者の男は何を思ったのかニヤついた。


「でもラグニィは競争相手多いぞ〜。

 年上から年下、冒険者どころか兵士や商家まで皆あいつと結婚したいって考えてるからな。

 下手に泣かせでもしたらギニンで居場所無くすから気をつけろよ」


「どんだけ人気なんだよ」


 流石に誑かしすぎだろう。


「そりゃあおめぇ、あの守ってあげたくなる雰囲気に、ニコニコ話してくれる愛想の良さ、それにギルドで働いてるからか男の性格をよく分かってくれてるからな。

 あの娘に『頑張ってくださいっ!』って言われて、不良ぶってた冒険者達がドブ掃除の仕事引き受けた話は有名だぞ」


 うわぁ、魔性の女やんけ。


 男を転がす術を知っていると言うかなんと言うか。


 ただ、俺がラグニィに有象無象への扱いをされ無かった理由なら心当たりがある。


 ぶっちゃけあんまし異性として見てなかったのだ。


 女性として接しはしたが、実力差がお互いあまり無いのに気付いていたからか、友達のように関われたのが大きい。


 もっとも、地球で友達と呼べる人は級長くらいしかいなかったから認識が合ってるかは分からないが。


「お、運が良いな」


 冒険者の男の見上げた先には、各風呂へ繋がる大きな水路がかけられている。


 そこからゴゴゴと音がなり始めた。


 湯の入れ替えである。


 客が増えてきてからは、大きな貯水槽に保温の結界を張って、時間が来たら放水するようなシステムになっていた。


 吐き出し口から湯が湧き、風呂から古い湯が溢れ流されている。


「あ゛ぁ……いい湯だ……」


「そいつは良かった」


 金稼ぎで始めた風呂屋ではあるが、喜んでもらえたのなら光栄である。


「この花もいいよなぁ。

 ベルの花つって、俺が妻と付き合ったばっかりの頃に送った花なんだよ。

 花言葉は……恋の始まりだったっけか」


「ほーん」


 この花を植えようと言い出したのはディカだ。


 花言葉を分かっていたのかは知らないが、案外ロマンチストなのかもしれないな。


「しかも食えるんだぜ。 ちょっと苦いけどな」


 冒険者の男はベルの花を犬のように齧った。


「はい器物損壊、罰金銀貨1枚です」


「何ぃ!?」


 湯船に野太い声が響いた。



●●●●



「また来るぜ」


「もう食うなよ」


 無罪放免を受けた冒険者の男は、ひょうひょうとしながら帰ってゆく。


 今回は許してやったが、次やったら頭をお花畑にしてやる予定だ。


「ムアー?」


「……ガウッ!」


 人混みの向こうから聞こえた返事に、人の波を掻き分けて見れば相変わらずの人気ぶりだった。


 道は塞がないように霧で誘導してくれているので迷惑にはなっていないが、これではムアがいつまで経っても抜け出せなさそうだ。


 道行く人も何だ何だと様子見をしてくる。


 そんな物見遊山の流れの中に、知った顔を見つけた。


「ポルト! アル!」


「おっ、やっぱりムアだったか!

 久しぶり……だな? アギトだよな?」


「アギトだよ」


 髪型が変わっただけでこの疑いよう。


 奇抜な格好をしているつもりだったが、俺の印象はそんなに薄かったか。


「アギトさん、お久しぶりです」


「バルガルフでの商売はどうだった?」


「上々でしたよ」


「欲をかきすぎて雪に閉じ込められる寸前だったけどな」


 アルにバラされ、ポルトは頭をかいた。


「バイコーンに追われてまだ懲りないんか」


「こればかりは性分ですから」


 何はともあれ嬉しい再会だ。


「ところでこの列は何か知ってますか?」


「2人ともまだギニンに着いたばっかりなんだ?

 ならちょうどいいや、話せる相手が出来たんだよ。

 ムアも行こ」


「ガウッ」


「へぇ、やるじゃねぇか」


 話しながら歩いて行くと、列の先頭が見えようとした時に2人は突然足を止めた。


「お、察しがいいねぇ」


 受け付けでは、ルマネアがディカと、カイルがリーチェと丁度交代している所であった。


「お、アギト! セプシオがブチ切れてたぞ!」


「もう怒られてきたから大丈夫」


「大丈夫では無いだろ……。 つーか昇級おめでとよ! 今夜は祝いだ、豪華だぞ!」


「あざーす」


 どうやらディカは俺達と入れ違いでギルドに来ていたらしい。


 話していると、後ろからコートの裾を引っ張られた。


「何さ」


「いや何さってお前……」


「誰だそいつら、知り合いか?」


 迫り来るディカの巨体に圧倒され、ポルトもアルも言葉が出てこなくなってしまったらしい。


「ユフォルムの森から世話になった商人と冒険者の話したでしょ。 その2人だよ」


「ん? あぁ」


 以前話した内容を思い出したのだろう。


「話は聞いている。

 赤脈旅団の長をしている、ディカだ」


 圧倒的格上から挨拶をされ、先に我に帰ったのはポルトだった。


「わ、私はポルトと申します。 ご活躍は各地で耳にしております」


 ポルトは服の裾で急いで手を拭くと、両手でおっかなびっくり握手をした。


 続いてアルも手を差し出す。


「俺はアルって言います。 銅級の弓手っすけど、ディカさんの事は尊敬してます」


「よろしくな」


 ディカのその一言で、ポルトとアルは更にかしこまってしまった。


「お、おいアギト。

 お前、こんな大物とどこで知り合ったんだよ」


「ゲルだよ。 2人と別れてから絡まれてね。

 今では仕事仲間だけど」


「仕事仲間ですか!?」


 素っ頓狂な声を上げたのはポルトだ。


「この『赤脈の花畑』って風呂屋はあたしら赤脈旅団とアギト達で経営してるんだ」


「あれ、名前『赤脈の花畑』で通すんだ」


「今更変えるのも面倒だろ。

 っと、あたしはそろそろ行くぜ。

 あんたらも暇があったら後で来てくれよ」


「あ、ありがとうございます!」


 ポルトのアガりっぷりが面白い。


 今更ながら赤脈旅団って凄い組織だったんだなぁ。


 ディカと入れ違いでやって来たのは、ルマネアとカイルだ。


「お疲れさん。 カイルだいぶ慣れてきたんじゃない?」


「そうね。 暗算も早いし接客にも気が回るから、リーチェと並んでウチの看板になってるわ」


 ルマネアのほっそりした指に撫でられて、カイルはくすぐったそうにはにかむ。


「おかしな要求してくる奴はまだいる?」


「当然いくらでも沸いてくるわよ。

 私達がいるのに女湯に入ろうとしたり、盗みを働こうとするおバカさんはまだまだ居るわ。

 だいぶマシにはなって来たけど。

 そうそう、女湯に入ろうとした冒険者をカイルはちゃんと止めてくれたのよ」


「お! やるじゃん」


 その手の自分勝手な馬鹿は、総じて声が大きくて目がやばい。


 まだ10歳前後の子供に、見上げるサイズの大人を止めるのは相当な勇気が必要だろうに。


「ガウーウ?」


 怖くなかった?と心配するムアに、カイルは「大丈夫!」と元気いっぱい返事する。


「カイルはこの後用事ある?」


「無いよ。 夜に風呂場の掃除しながらリーチェに魔法を教えてもらうくらいかな」


 お、偉い。


 環境に慢心せず、貪欲に吸収し続けるとは感心感心。


「じゃあ一緒に時間潰すか」


「っ! うん!」


 なんやこの子、めっちゃ可愛いやんけ。


 依頼の間は赤脈旅団で面倒見て貰ってたんだけど、寂しい思いさせちゃったかな。


 ムアも同じ事を思ったようで、霧でカイルを持ち上げて自分の背に乗せた。


 それを見ていたルマネアが、何を思ったのかふわりと浮いてムアに腰掛ける。


「ムアちゃん、私もいい?」


 乗ってから聞くんかいと思ったが、ムアは好きにせいと「ガウー」と返しただけだった。


「そういや、ポルトとアルは越冬の宿はどうするの?」


「懐事情を考えると、キャンプ地の利用になりそうです」


「なら簡単なテント建てたげよっか? 土地さえ抑えれば寒く無いやつ作ってあげるよ。

 2人には何かと世話になったし」


 すると上からルマネアの声が降ってくる。


「あら、私達からは銀貨50枚も取ったのに?」


「そりゃあの3階建ての豪邸だからね。

 2人だけだから3部屋あれば十分でしょ」


「3部屋でも十分豪華ですけれどね……」


 人混みの中からでも見える赤脈旅団の家をチラ見しつつ、ポルトが引き気味にこぼす。


「つーかアギト、その子供も赤脈旅団の一員なのか?」


「いんや。 この子は俺が個人的に連れてる子だよ。

 アガパ山脈の民だったんだけど、ジャバルクの軍に追い出されたらしくて……あ」


 ジャバルク軍の名前が出た途端、2人の顔色が沈んだものになる。


「そういや2人はジャバルクから来たんだっけ?」


「ええ。 元々他国を軽んじる風潮はありましたが、まさかこの時期に子供まで追い出すとは……」


「しかも国境勝手に超えてるだろそれ。

 故郷とは言え、何考えてるか知れたもんじゃねぇ」


 吐き捨てるアルと沈痛な顔をするポルト。


 確かに祖国の悪行に耳を塞ぎたくなる気持ちは分からんでもない。


「んでこのままだと凍死しそうだったから、俺とムアで引き取ったんだよ」


「ガウ」


「そうか……だからギニンの北門にもあんなに来てたんだな」


 どうやら2人も北門でアガパの民に会ったらしい。


 ジャバルクで追い払われ、ゲルでも相手にされず、ギニンにすら受け入れられなかった彼らの末路は、言わずと知れたものだ。


 しかしそれを聞いていたカイルは彼らの末路を想像してしまい、すがるように俺を見てくる。


「駄目だよ。 俺達が食い潰される」


 彼らの事情には同情するが、慈悲だけで1冬面倒を見られるかと言われれば無理だ。


 カイルでさえ働いている現状で、働けるか分からない、そもそも通行料すら払えない人間の面倒を見るほどの義理は無い。


 ムアもこれには同意見のようで、黙って成り行きを見届けるようだ。


「お前は運が良かったんだな。 アギトはおっかないけど何やかんや面倒見はいいから大丈夫だろ」


 アルの言葉にカイルは俯くだけだ。


「ちょっと、アル」


「ん、何だよポルト」


 ポルトに小突かれるも、アルに気付いた様子は見られない。


 おめーモテねぇだろ。


 今のカイルにそのフォローはむしろプレッシャーだろうに。


 まったく……。


「……アギト」


「どうした?」


 見上げれば、カイルがムアの上から真剣な眼差しを向けてくる。


「その人達も働ければいいの?」


 うーん純粋。


 でも残念ながら世の中そんなにシンプルじゃ無いんだ。


「カイルは多分だけど、自分と同じように赤脈の花畑の受付をさせればいいと思ってる?」


「……うん」


 俺の不穏な出だしに、カイルが少し身構える。


 まぁその通りなんだけど。


「雇うとした上で説明しようか。

 まずアガパの民は通行料が払えないから、その分は俺達が肩代わりしなきゃいけないし、それは彼らの借金になる。

 それをクリアしたとしても、次に食料が無ければ活動出来ないから、その分もこちらで負担しなければならない。 それも彼らの借金になる。

 そもそも、彼らの給料は俺達と赤脈旅団の収入から割かなければならない。

 そんでもって、そいつらがカイルのように真面目に働くとは限らない。

 ただでさえ風呂っていう特殊な環境で、馬鹿な考えを起こす奴が出てこれば、そいつだけじゃなくて俺達や赤脈旅団の名前にも泥を塗る事になる」


 まだまだ彼らを雇うリスクは言い出せばキリが無い。


「それら全てを加味して、わざわざ信頼出来ない他人を雇う理由は無いんだよ」


 カイルには悪いが、これが紛れも無い事実だ。


 赤脈旅団も越冬の間の暇を潰しがてら金稼ぎをしていると言っていたし、魔法が使える俺達が働き手を取る理由は、どれだけポジティブに見ても無いように思える。


「……なら、ならどうして僕だけ助かるの?」


「それは……そもそも、手を差し伸べる余裕がある奴の選択肢だね」


 俯いたカイルは少し黙り込むと、ムアから飛び降りて赤脈の花畑の方へ走って行ってしまった。


「ガウッ」


 もっと言い方があったんじゃないのかとムアが責めてくるが、俺にはこれくらいしかしてやれんのだ。


 優しさと現実の区切りを教える事の難しいこと難しいこと。


 そりゃあ地球でも、楽観理想論を大声で唱えて負担に目を向けないバカが育つ訳である。


「ぶきっちょねぇ」


「ぶ、ぶきっちょ……」


 言葉は知っているが、言われた時の衝撃はなかなかのものだ。


 ルマネアはムアの上から優雅に見下ろしてくる。


 まるで全部お見通しとでも言いたげに。


「ま、まぁ今は時間が必要でしょう。

 『子供は無知だが馬鹿では無い』私の故郷の言葉です。

 この件ばかりに集中させずに、沢山の事を見せてあげればいいと思いますよ」


 人生の先輩からの意見だなぁ。


 それにこれはカイルだけに言っている訳じゃないのだろう。


「私達からすれば、あなたもまだまだ子供よ」


 グゥの音も出ない。


「ディカから、アギトは人に深く頼るのを極端に怖がるって言われたわ。

 人を育てるなんて私達でさえいつまで経っても難しいこと。

 せっかく一緒にいるのだから、もっと頼ってくれればいいわ。

 私達もカイルの事は可愛く思っているしね」


「あー……

 ……………ありがとう」


 胸の奥にじわりと温かさを感じる。


 しかしそれはガラでは無いので、表に出さずにおいた。


「ほら、お前も少し別のこと考えようぜ。

 俺達のテントとか、俺達のテントとか、俺達のテントとかな」


「……まず土地借りてからだぞ」


 アルに背中を叩かれ、ムアに寄り添われて歩く。


 肌を刺すようなこの寒さも、案外悪くないと思いながら。

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