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巨大リザードマン

 巨大化したムアに跨り、廃墟街を駆け抜ける。


 二階建ての家を挟んでいるにも関わらず見える、巨大リザードマンのゴツゴツした背中はそれだけで大きさを物語っている。


 ただでさえ太いってのに、地球のでっかいトラックを縦に2つ、いや3つ並べたような長さまで誇るのだから、この辺りの生き物でこいつに勝てるやつは少ないのだろう。


 ぶっちゃけた話をすれば、ムアの霧をこそーっと広げて呼吸困難にしてしまえば戦わずして勝てる。


 だが、俺自身どこまで強くなったのか試したいのだ。


「ムア、俺のわがままに付き合ってくれてありがとな」


「ガウッ!」


 成長の機会をくれる相棒には感謝しかない。


 目を閉じて静かに座す巨大リザードマンの前に立つ。


「おい、起きてんだろ?」


 巨大リザードマンは目を開けると、沼のように濁った黄色い瞳で見つめてくる。


「おはよう。 さぁ、俺の糧になれ」


 のそのそ歩いて近付いてくる巨大リザードマンからは、俺への警戒は皆無に等しい。


 ならば、目覚ましの1発をくれてやるまで。


 一気に気と魔力を練り上げ、身体を限界以上に酷使する。


 巨大リザードマンは一瞬反応しようとしたようだがもう遅い。


 顎の下へ一息に踏み込み、身体が壊れるのも意図わず大きな頭をかち上げる。


 バチィィィィン!!


 ダンジョンの壁の中を打撃音が反響してクラクラするが、きっと巨大リザードマンが受けた衝撃程では無いだろう。


 巨大リザードマンの浮いた頭を見逃さず、ムアが横殴りの重い一撃を叩き込む。


 廃墟を吹き飛ばしながら上半身を大きく弾かれたリザードマンは、後退りしながら俺達の方へ向き直る。


 その目にはもう油断の色は無い。


 ようやく敵と認識して貰えたようで何よりだ。


 巨大リザードマンは俺達を睨むと、口を大きく開いた。


「お、酸か!?」


 咄嗟にその場から飛び退こうとすると、ググッと空気ごと吸い寄せられる。


「そう来たか!」


 どうやら俺とムアを丸ごと飲み込むつもりらしい。


 ならば、


「残念、美味しくない物をあげよう!」


 腕から木の幹を伸ばすと、それをリザードマンの口の中に突っ込んで枝をやたらめったら生やす。


 グゲェッ!


 巨大リザードマンは一瞬つっかえたものの、直ぐに吸い込みを再開し始める。


 枝は口の中を傷付けはしたようだが、所詮は引っかき傷程度らしい。


 バキバキと音を立てて、生やした端から吸い込まれてゆく。


 力比べではこちらは分が悪いようだ。


 ジワジワ吸い込まれてるし、どうしようかなーと考えていたら不意にガクンと後ろへ引っ張られる。


 振り返れば、霧が白い牙のような形になって俺のコートを掴んでいた。


 その後ろには、少し離れた場所で空中を噛むムアが。


 どうやら霧をムアの動きと連動させて、引っ張られる俺を止めてくれたらしい。


「ありがと!」


 サポートはしつつも戦闘のメインをやらせてくれるとは、気が利く相棒である。


 せっかく気を利かせてくれているのだ、自力で解決しなければ。


 石畳を叩き割って、その隙間から巨大リザードマンの下まで根を這わせる。


 そのまま思いっきり魔力を込め、樹木の槍で巨大リザードマンを突き上げた。


 グギャァァァァァ!!


 分厚い皮のせいで急所は避けられてしまったようだが、肩と脇腹を縫い止める事に成功する。


 まだ器用には使えないが、力任せに生やすくらいなら可能なのだ。


 しっかしこんなに威力が出るとは予想外である。


 どうもダンジョンに来てから、魔力や気、体の調子がすこぶるいい。


 固有能力の1つが、瘴気や穢れを力に変えるという予想は当たっていたようだ。


 さて……こんな事を考える余裕が出て来たくらいには、勝利が近付いてきた。


 ここまでくれば後はどう仕留めるかになるが……


「ムア、こいつの頭抑えてくれる?」


「ガウッ!」


 よしきた出番だ!とリザードマンの頭に駆け上がったムアは、自身の体を霧で包み込むと、前足でリザードマンの頭をガッと押さえつけた。


 僅かに浮いていた巨大な頭が、バチンと叩き付けられる。


 ウチの子強すぎだろと思いつつも、高く跳躍して力の限り棍棒を振り抜く。


 バチィン!!


 衝撃と同時にリザードマンの目玉が弾け飛び、痙攣1つせず息絶えた。


「いよっしゃぁ!!」


「ガゥーッ!!」


 巨大リザードマンの亡骸の上で、ムアとクルクル回って小躍りする。


 ムアの手は借りたが、火力で見れば十分巨大リザードマンに通用した。


 戦闘スタイルは自分の体を壊したり生やしたりしながら戦う形で良さそうだ。


 ライデンの能力の使い方が薄ら分かってきてからは、全力で戦う機会が無かったから良い経験になった。


「ガウ?」


「そうだね。 いけそう?」


「がウッ!」


 ムアは霧で巨大リザードマンを覆うと、そのまま飲み込んで消してしまった。


 こんな大物まで入るとは、ムア様様である。


 あ、忘れてたがディカが来ないな。


 「離れて見守ってる」とか言っていたが……。


「おーい!」


 宮殿の方に目をこらせば、ディカが手を振っている。


 ムアに乗って駆け寄ってみれば、ディカはどうやら宮殿の地下に続く通路を見つけたらしい。


 見守るとか言っていたのは何だったのか。


 笑いながら目を逸らすあたり、好奇心にでも負けたのだろう。


 何となくだがこいつの性格が分かってきたぞ。


 姉御肌で頼りになるが、自分の気持ちには素直と。 まるで少年漫画の主人公のようだ。


 まぁ、目を離してもいいくらいには実力を認められたと解釈しようか。


「でもほら、まだ誰も通ってない通路かも知れないぞ! お宝が眠ってるんじゃないか?」


「そりゃそうでしょ。 だってそこの石の壁叩き割ったのディカしかいないじゃん」


「な、何でだよ。 あたしって決まった訳じゃ無いだろ」


 さっきまで期待させるような事を言っておいてこの手のひら返しである。


「まだ青い湿気った苔が、壁の破片に潰れてこびりついてる」


「………」


 まるで俺が叱っているみたいじゃないか。


 これではどっちが保護者が分からない。


 しかし元は俺の独断行動を心配して着いてきてくれた手前、あまり虐めるのも可哀想か。


「まぁいいや。 で、中はどうなってるのさ」


「お前光の魔法使えたよな。 照らしてみろよ、驚くぞ〜」


 しっかり中も確認済みと。


 浮かれた足取りを止める野暮をこれ以上する理由もあるまい。


 言われた通り光球を浮かばせて下りになっている地下通路へ飛ばす。


 すると中には、光に反射する何かがいくつもあった。


 1つ拾い上げてみると、鏡のように綺麗な銀色の腕輪であった。


「こりゃ銀かな?」


「見せてみろ。 ……いや、白金だな」


「まじか」


 鉄にしては綺麗だなーとは思ったが、まさか白金とは思わなんだ。


「流石は冒険者件行商。 よく分かるね」


「銀と比べて白金は倍くらい重いんだ。 こいつは大当たりだぞ」


 心做しかディカの声も弾んでいる。


 つーかプラチナってかなりの高温じゃないと溶けないんじゃなかったっけ?


 滅んだ文明だからと軽く見ていたが、技術力はかなり高かったのかも知れない。


 これは俄然ワクワクしてきたぞ。


 この世界の現在にプラチナを加工する技術が残っているかは知らないが、もしかしたら他にロストテクノロジーのような物があるかもしれないのだ。


 しかしそこでふと思い出す。


 この地下通路は俺が見つけた訳では無いのだ。


 でもこの腕輪はともかく、もし気に入ったものがあって、貰えないとかで後悔はしたくないしなぁ……。


「……ディカ、この通路で見つけた物の中で4分の1くらい貰ってもいい?」


 最悪何か一つだけでもいいので、気になったものがあったら是非持って帰りたい。


「何水臭い事言ってんだ、そんなもん山分けでいいだろうが」


「でもディカが見つけた通路だよ?」


「そもそもアギトとムアに着いてきてなかったらあたしはここに来てなかったんだ。 律儀なのはいいが、遠慮して媚びるような性格じゃ無いだろう。

 欲はガンガン出してかねぇと、いざって時に体が動かねぇぞ」


 う、全くもってその通りだ。


 赤の他人であればどれだけ踏み躙っても心は痛まないんだけど、1度親しいと感じてしまうと、どうも強く出れない。


 地球にいた時からの俺の悪いくせである。


「なら有難く欲しいもんは貰うよ」


「そうしとけ。 後、簡単な目利きは出来るから価値が分からんもんがあったら遠慮無く聞きに来いよ。 取り上げたりはしねぇからさ」


 やだこの人カッコよすぎ……!?


 この調子でディカと行動したら、まじで惚れ込んで赤脈旅団に着いて行きかねない。


 まぁ俺の性格上、後ろ盾がある代わりに動きにくいよりは、身軽ザコの方が合っているのでそれは無いだろうが。


 光球に反射した物を片っ端から拾い集めていると、1つ気になる物があった。


「ディカ、これ魔道具じゃない?」


 プラチナで作られたシンプルなデザインの腕輪と、青い魔石の埋め込まれた指輪がチェーンで繋がっているのだ。


 ディカは魔石を一目見て顔を顰めた。


「確かに魔道具だが、肝心の魔石が瘴気で濁ってやがる。 下手に魔力を流したら暴発するかもしんねぇからやめとけよ」


「魔石が穢れるとかあるんだ」


「あぁ。 モンスターから取れたばっかりの奴ならいいが、1度人が手を加えた魔石だと穢れやすいんだ。

 もしダンジョンに魔道具を持ち込む事があったら、魔石本来の能力が使われてるやつにしろよ」


 魔石の使い道は大きく分けて2つになる。


 1つは、生前の固有能力や得意な魔法などをそのままに、魔法道具に組み込む方法。


 2つ目は、純粋に溜め込まれた魔力を消費して利用する方法だ。


 1つ目の魔石の利用もまた種類があり、例えば火に適した魔石をそのまま使って炎を纏う剣を作るやり方。


 一方、魔石に射出できるよう刻印して剣を触れば火の玉が飛ぶように出来る方法がある。


 利便性では間違いなく後者だが、それはダンジョンでは使えないと。


「それは残念……およ?」


 ディカから返された腕輪の魔石をつつくと、水中のモヤのように、俺の指に吸い込まれて消えた。


 残ったのは透き通る美しい魔石である。


 ……これ穢れ取れたのでは?


「おい、名残惜しい気持ちは分からんでも無いが、さっさと他のを探した方が……ん?」


 ディカは俺から腕輪を取り上げると目を見開いた。


「……穢れが無くなってる。 おい、何した?」


「わ、分からん。 チョンってやったら指に吸い込まれて綺麗になったよ」


「そんな馬鹿な話があるか……と思ったが、お前のマスクは確か呪われてたはずだよな?

 もしかしてお前……」


 穢れとかを吸収出来るってのを秘密にしようとした矢先にこれである。


「穢れや瘴気に耐性があるんじゃないのか?」


 セーフ!


「ところで、この装備は売れる?」


「売れるし、なんなら穢れを吸い取る力ってだけで金稼げるぞ」


「老後の生活には困らなさそうで一安心だ」


「今から老後の心配かよ」


 それからも金目の物を根こそぎ回収しつつ進んでゆくと、階段のようなものが見えた。


 上へと続く階段は途中で岩に遮られてはいるが、その隙間からは僅かに声が聞こえる。


 位置的にも、級長ら国軍で間違いないだろう。


 ……これって救出のチャンスではなかろうか。


 外の脅威は全て排除したし、この穴も古のお偉いさんの脱出経路だったに違いない。


「あとはこの床をどう動かすかだけど……」


「ん? そんなの簡単だろ」


 するとディカは床になっていた岩を、あろう事か引き抜き始めたでは無いか。


 僅かな隙間に指を入れて、ズル……ズル……と岩は引き抜かれてゆく。


 いい加減光が差し込んで来た所で、ディカの手を引いた。


「ねぇ、今から逃げるよ」


「顔合わせなくていいのか?」


「国軍が一緒にいるんでしょ。 絡まれたくないもん」


 俺達がさっさと離れると、背後で岩がゴトンと音を立てて落ちる音がした。


 自重で落ちたのだろう。


 洞窟を出て身を隠し5分程、ようやく国軍の連中がゾロゾロと出てきた。


「とろいなぁ」


「大人数なんだ、仕方がない」


「俺に団体行動は一生無理そう」


 修学旅行も全く楽しめず、大人になったら1人で来ようと決心したんだっけ。


「そんな事言うなよ、一緒に来ようぜ」


「あー……。 ギニンまでね」


「よっしゃ!」


 テンションの高いディカに捕獲されながら、俺とムアは予定に無い救助活動を終えるのであった。

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