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2階層の地下通路

「おはよう! こんなにグッスリ寝たのは久しぶりだ!」


「……そりゃよかった」


 ディカとの挨拶もそこそこに、リーチェらの元へ向かう。


「ムアちゃん、うちの子にならない?」


「なりません」


 俺の声に気付きぴょんと飛び付いて来るムアを抱きしめる。


「うちの子を唆すんじゃない」


 まったく油断ならない。


「まぁまぁ。 それにしても、寝心地凄く良かったわ。 ありがとうアギト」


 ルマネアだけでなく、他の赤脈旅団の者らも起き出してきて手を振ってくる。


「一応虫除けは混じってるけど、何日も使うのはやめといた方がいいよ。 俺はこれからダンジョンに潜るわけだし、その間は使わない方がいいと思う」


「あら、虫除けなら私でも出来るけどそれでも駄目かしら?」


「わたしもお香なら先生から教えて貰ってるよ」


 どうやらルマネアとリーチェなら虫除けが出来るらしい。


「ならいいんじゃない? 根を張ってるから昼の間にフカフカに戻るだろうし」


「おい、そろそろ行くぞ!」


 準備を終えたディカの声が響く。


 俺の準備はムアが入れば十分である。


「ムア、お願い」


「ワウッ」


 ムアが霧からコートや棍棒、マスクを出し、霧の中で俺に装着してくれる。


 さながらどこぞのライダーの変身のようだ。


 後は髪を結わえれば完成である。


「お待たせ」


「よっしゃ行くか!」


 ダンジョンへは一日目で深くまで潜って、2日目で探索、3日目で帰還の予定である。


 気を引きしてめてムアを抱き直す。


「小さい子がぬいぐるみを抱っこしているみたいね」


 背中から何か聞こえた気がしたが、気にしない事にするのだった。



●●●●



 昨日と同じように無事にダンジョンに入場すると、今日は足早に突き進む。


 もちろん、巨大化したムアも一緒だ。


 通路の奥から三体のスケルトンが出てきたので、「誰がやる?」とディカと目を合わせる。


「ガウッ」


「お、ムアやる気だね。 いいよ、行っといで」


 巨体を感じさせぬ軽やかさで駆け出したムアは、スケルトンを前足で叩き潰して薙ぎ払い、一瞬で壊滅させてしまった。


「ここら辺のだともう相手になんないねぇ」


 これまで武装したスケルトンに遭遇する事が何度もあったが、その時も相手にならなかった。


 俺かディカ、もしくはムアが1人で対応し、それでも歯ごたえを感じない程弱かったのだ。


「もうちょっと深い所に行ってみるか? ここで2日ってのもつまらんだろ」


 ダンジョンは深くなればなるほど穢れが濃くなり、モンスターも強くなる。


 貴重な素材や未踏の地に眠るお宝を発見できるかもしれないが、その分リスクは伴う。


 しかし、


「確かにちょっと弱すぎるね。 それにまだリザードマンに会えてないし」


 本日の晩飯予定のお肉を得ていないのだ。


「おっかしいなぁ。 前はこんくらい進んだら出てきたんだが……」


「下層で群れでも作ってたりして」


 俺の不穏な予想を、ディカは笑い飛ばす。


「まさか! あいつらは発情期に群れても共食いするようなバカ共だぜ? 群れなんて作るわけねーよ」


 なら安心である。


 丁寧にフラグを建築しつつ、俺とディカは下層へと歩を進めたのだった。



●●●●



「ここだな」


 やがてしばらく廃市街地を進んでゆくと、巨大なマンホールのようにポッカリ空いた穴に辿り着いた。


「ここが下層に繋がってるの?」


 くり抜かれたような穴には階段など無く、ハシゴが打ち付けられているだけだ。


「あぁ。 だが……生臭いな」


「ね」


 何処かに外へ続く道があるのか、空気が穴の中から吹き出てくるがそれがとても生臭い。


 「ヘドロから生えた苔を炊いてみました」ってくらいには臭いのだ。


「これはリザードマンの匂いなんだ」


「お、ならようやく会えるって事?」


「……あぁ」


 ディカの険しい視線の先には、穴の壁面があった。


 湿気った土の壁が、大きくえぐれている。


 土にめり込んでいるの梯子の残骸から察するに、どうやら本来は2つかけられていたらしい。


「普通モンスターは、ダンジョンの下層から上がってくる事はあっても、下がる事は殆ど無いんだ。 どうしてだと思う?」


 ディカが突然問題を出してきた。


「下層の方が瘴気が濃くて生きづらいから、そこから逃げて上層に来るんでしょ? わざわざ苦しい下層には戻りたく無いんじゃない?」


 瘴気とは生き物にとって害になる存在だ。


 下層より上層の方が瘴気が薄いとなれば、そりゃ当然瘴気の薄い環境に行けば戻りたく無くなるだろう。


「正確には、戻りたくても戻れないんだ。

 ダンジョンの地下深くにいるモンスター達は、陽神の加護をより強く受けているから生き残れるらしい。

 だが上層に住むモンスターの加護は必要最低限まで減らされて、下層じゃ生きていけないんだよ」


「……じゃあこの跡は?」


 ムアより大きくえぐれた痕跡は、割れた石畳から察するに、どうやら穴の底に向かっているようなのだ。


「加護を必要としないくらい強いモンスターが上層を出入りしてるのかもしんねぇ。 それも、かなりでかい個体だ」


「お、なら俄然楽しみになってきたね」


 これまで俺が戦ったモンスターの最強ランキングは、バイコーンの群れとロックゴーレムの同率1位だ。


 久々にランキング更新なるだろうか。


 しかしディカはあまり乗り気では無い様子だ。


「本当は先にギルドに報告に行った方がいいんだけどなぁ……。 浅い所で、常に退路を確保しながら行くしか無いか」


 昨日聞いた話だと、2層目は牢屋と地下街がごっちゃになっているらしい。


 ダンジョン内では何の脈絡も無く場所が他の層に切り取られている事がちょくちょくあるそうなのだ。


 2層の探索はまだ途中だが、さらに3層目が存在している事は確認されている。


「よし、じゃあ行くか……っと」


 穴に飛び込もうとしたディカだが、俺が居るのに気を使ってかハシゴで降りようとする。


「お気づかいどうも。 どれくらい深いかは知らんけど、気はそこそこ使えると自負してるんでね」


「あ、おい!」


 ディカを置いて真っ暗な穴に飛び込む。


 ヒャッホウ、この内蔵とキン○マが浮く感覚がたまんねぇ。


 ……あれ、意外と深いな。


 ゴシャッ


 着地と同時に足首と股関節がぶっこする。


「あいててて……」


 スタッと軽い音と共に追って来たディカが隣に着地し、すぐさま俺に駆け寄ってきた。


「ばかやろう、無茶しやがって……」


「あ、大丈夫大丈夫」


 ぐにゃっとしていた足首と股関節がベキベキ音を鳴らしながら元の形へ戻ってゆく。


「髪の毛と同じで、体に関する固有能力なんだよ」


「は、はぁ……」


 ディカは唖然とした様子で俺を見ていたが、キッと怒った顔になると詰め寄ってきた。


「今回は良かったものの、下に何があるか分からない状況で無茶な事すんな!」


「す、すんません……」


「まったく……。 ここから先はスケルトンでさえも動きが変わってくるんだから、油断するなよ」


「はーい」


 その後フワフワ降りてきたムアと一緒に、2階の探索へ乗り出す。


 2階層は地下街と牢屋が入り交じっていると聞いていたが、俺達が入ったのは地下牢の方らしい。


 薄暗くジメジメしており、鉄格子が壁にズラっと並んでいる。


 しかし天井は高く、閉塞感はあまり感じられない。


 もっとも、それは自分達が格子の外にいるからなのだが。


「おぉ、積極的」


 俺達に気付いたスケルトンが、牢の中から手を伸ばす。


「真ん中の方歩けよ。 わざわざ相手する必要は無いからな」


 身を乗り出して手を振ってくる気合いの入ったガイコツにハイタッチを返しながら、特に得る物無く進んでゆく。


「この辺りにはめぼしい物は残って無さそうだねぇ」


 牢の中を覗き見るも、便壺と思われる穴くらいしか見当たらない。


「2層の入口のすぐ近くだからな。 それより、お望みの相手が来たぞ」


 ベタ、ズル、ベタ、ズルと音を立てながら現れたのは、待ち焦がれたリザードであった。


「おぉ、結構でかい」


 背丈はディカと同じくらいだろうか。


 いや、猫背で後ろに尾があるのも含めると体重は倍以上だろう。


 筋力は言わずもがなだ。


 しかし予想していた槍などの得物は無いらしい。


 武器を持つ知能も無いのだろう。


「ビビったか?」


「まさか、食いがいがありそうだね」


 からかってくるディカに軽口を返したものの、中々頑丈そうだ。


 見るからに分厚い背中や頭、腕の甲などは狙うべきでは無いだろう。


 しかし腹が柔らかいのかと言えば、そんな事は無さそうだ。


 腹滑りする為だろうか、腹にもワニの背についているようなゴツゴツした突起が並んでいる。


 リザードマンは俺を見つけるなり、カエルのような大きな口をガバリと開いた。


「お、ラッキー」


 弱点丸出しで突っ込んでくれるとは好都合。


 飛びかかってくるタイミングで、俺もまた正面から迎え撃つ。


 口を閉じるよりも早く棍棒を上顎の内側に叩き込むと、身を捩って突進を交わす。


 ズザーと顔面スライディングしたリザードマンは、そのままピクリとも動かなくなった。


「まだ油断するなよ」


「分かってますって」


 今は口の内側から脳を叩いて気絶させただけで、まだこいつは生きているのだ。


 太めの枝を手から生やしてリザードマンの目の奥まで突っ込むと、そのまま薄い骨を破って脳をぐちょぐちょかき混ぜる。


 リザードマンは何度か痙攣した後、ついに動かなくなった。


「いっちょあがりよ」


 ディカを見れば満足気に頷いている。


「初めはそんな得物でどうやって戦うのかと思ったが、中々様になっているじゃないか」


「でしょ。 切ったりは出来ないけど、使い勝手はいいんだよ」


 話しながらもリザードマンを魔法で浮かせる。


「お、魔法使えんのか」


「戦闘用で使えるのは身体強化くらいだけど、生活を豊かにする魔法なら結構使えるぜい」


 それからディカの指示に従ってリザードマンを解体してゆく。


 爬虫類というのもあってか、バイコーンとは解体の仕方が全く違うので難しい。


「違う違う」と何度も言われつつ、やっとこさ解体を終えた時には辺りはすっかり血の匂いが充満していた。


「ムアしまって〜」


「ガウッ」


 バラされた肉がムアの霧に吸い込まれて消えてゆく。


 心做しか消える肉を見るムアの目が悲しそうなのに気が付いて、原因に思い当たった。


「このまま食べたらお腹壊しちゃうから駄目だよ。 また後でいっぱい焼くから」


「ガウ……ガウッ!」


 しょんぼりしていたかと思えば突然鋭く吠えたムアに、俺とディカは武器に手をかける。


 周囲を見回すが、まだスケルトンやリザードマンの姿は見えない。


「こっちだ」


 呼ばれて振り返ると、十字路の影で手招きしている。


 ディカの指差す先を除き見れば、通路の奥からリザードマンの群れがやって来ていた。


 しかも、先程俺が倒した個体よりでかい。


「あの木の棒を掲げてる奴が見えるか。 あれがリザードマンの上位種だ」


「ありゃ杖かな? 魔法とかが使えるんなら、群れを統率する知能もありそうだねぇ」


「あいつがリザードマンを仕切ってたから、1階層にいなかったんだろうな」


 納得である。


 それに俺の倒した一匹狼より、上位種の引き連れているリザードマンの方が肥えているのを見るに、ブリーダーとしても優秀らしい。


「じゃあここの十字路で挟み撃ちにする? 1箇所空いちゃうけど、そこは俺がバリケード張れるから問題無いし」


 俺がそう言うと、ディカはポカーンとした顔をする。


「え、倒すのか?」


「そりゃそうでしょ。 せっかく大物が沢山いるのに、逃がす手は無いって。

 サボるわけじゃ無いけど、極端な話しディカ1人でも余裕でしょ?」


 だがディカはムッとしかめっ面になる。


「お守りをするつもりは無い」


 その言葉に、今度は俺がムッとなる。


「あの程度の群れ、俺1人でも無傷で倒せるよ。 今まで見せたのが俺の手札の全てじゃ無いんだから」


「ガウッ」


 自分もいるぞとムアも鳴く。


 ディカは目を閉じて唸った後、じっと俺の目を見つめてきた。


「いいだろう、だがあたしが撤退を判断したらすぐに従えよ」


「分かっ、と!?」


 突然地響きのような音と同時に、破壊音が迫ってくる。


 頭上から降りそそぐ瓦礫から察するに、相当の大物なようだ。


「アギト、撤退だ!」


「大賛成だけど帰り道から来てるっぽいよ!」


 ムアに跨りながら返事をすると、ディカは舌打ちをして駆け出した。


「着いてこい!」


「了解!」


 背後からの轟音に振り返ると、高さだけでも3mはあろうかと思われる巨大なリザードマンの顔が、牢や壁を破壊しながら現れた所だった。


 幸いにも巨大リザードマンのヘイトはリザードマンの群れに向いているらしく、こちらには追ってこないようだ。


 巨大リザードマンの気が変わる前にディカの後を追う。


 振り切られそうなほど早いディカを追ってゆくと、大剣を背負った逞しい背中は大きな排水溝のような穴へ消えた。


 俺もまた、小さくなったムアを抱えて飛び込む。


 真っ暗かと思われた穴の中は、うっすらと壁や床が光っていた。


「……地下道?」


 地下2階層の地下道とはこれいかに、と思わないでも無いが、広々とした空間は通路となって角の先まで続いているらしい。


「ここはあたしも偶然見つけた場所でな。 荒らされた形跡が無かったから今度一人で来ようと思ってたんだが……」


「おーけー、秘密にしておくよ。 近々ゲルからは離れる予定だったし」


 ズズン……


 遠くから地鳴りが聞こえてくる。


「落盤してねぇといいが……」


「もし潰れてたら俺が橋をかけるから大丈夫。てか入口塞いでおこうか?」


「頼む。 それと、しばらくはあの近くは通らねぇ方がいいだろうな。 もういい時間だし、飯にしようぜ」


「りょーかい」


 念の為に通路も植物で塞ぎ、晩御飯の準備に移る。


 しかし薪やツダのチップを用意し終えた所で、ムアの出したリザードマンの肉を見ていたディカが首を傾げた。


「アギト、お前保存の魔法でもかけたのか?」


「ん? かけてないし使えないよ。 なんか変だった?」


 ディカに差し出された肉を見ると、なんとまだ肉から血が滴っていたのだ。


 血抜きやらをしていないとは言え、まだ血が滴っているのは些かおかしい。


 考えられるのは……


「ムアの霧の中って、時間の経過は無いの?」


「ワウ?」


 腕の中で見上げるムアは、どうやら質問の意図がよく分からないようだ。


「霧の中にしまってある食べ物って、腐ったりしないの?」


「ワンッ」


「てさ」


「悪ぃ、なんて言ってるか分からねぇわ」


 だめだったか。


 ムアの感じから察するに、恐らく時間の経過は無いのだろう。


 これは朗報である。


 今日までその日の食事しか入れていなかったので気付く事が出来なかったが、これからは長期保存が可能なようだ。


 通訳?して伝えると、ディカは目を見開いた。


「それが本当なら、どいつもこいつもこぞって欲しがるぞ」


 どうやらムアの希少価値がまた跳ね上がってしまったらしい。


 俺が地下通路の事を黙ってる変わりに、ムアの秘密も黙っといてねと口約束をして食事を終える。


 圧倒的に俺の秘密の方が重い気がするが、ディカは裏切らなさそうに思えるし、もしばらされても土地ごと変えれば良いだけだ。


 我ながら考え方が殺伐としてるのは認めざるを得ないが、半端に信頼して危険な目に合うくらいなら敵を増やす方がましである。


 とは考えつつも、今受けた恩を蔑ろにする程の馬鹿では無い。


 幸いにもディカが先に見張りを買って出てくれたので時間はあるし、固有能力のドーピングのせいで俺は睡眠も疲労も殆ど感じない。


 さて、ひと仕事しますか。

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