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新技

 相手がムアから俺に変わった事で、冒険者の男は露骨に舐め腐っていた。


 安堵の笑みすら浮かべているくらいだ。


 それを見てムアが静かに苛立っているのが、背後からビリビリ感じられる。


 気持ちは分かるから大人しくしててくれ〜。


 そんなムアを見て何を思ったのか、冒険者の男は腰の剣を抜いた。


「お。 ムア、ショッキングなもの見せるから子供達の目隠ししといてよ」


「ガウ」


 霧が濃くなり、子供達の身長の辺りまですっぽり覆う。


「ほら、何時でもいいよ。 君はもう逃げられない訳だし」


「て、てんめぇ……」


 フィールドでも作るかのように、俺と男を中心に霧が輪になって退路を塞いでいる。


 彼は知らないだろうが、ムアの霧は抵抗力を強くする事で物を動かしたり、逆に足止めしたりする事が出来る。


 冒険者の男は、どう足掻いても俺に立ち向かうしか無いのだ。


「後悔しても……知らねぇぞ!」


 話している途中に不意打ちを狙ったのだろう。


 グンと迫ってきた男は剣を掲げると、袈裟斬りにしてきた。


 俺はそれを、胴体で受け止める。


「ひっ」


 誰かが息を飲んだ音が聞こえたと同時に、鈍い痛みが走る。


「痛ってーな。 でも……」


 俺の肩にめり込んでいる男の剣を、傷口を塞いで固めて動かなくしてやる。


「捕まえた」


「んなっ!?」


 剣を持つ男の手を握ると、ギチギチと根を這わせてゆく。


 以前絡んできた青年にやったものでは無い。


 筋肉や骨に届くほど深く根をはらせてゆくのだ。


 当然その激痛は尋常なものでは無い。


「がぁぁぁぁぁ!?」


 今でも十分に痛いだろうが、この程度では終わらせない。


 更に他の四肢へと根を蔓延らせてゆき、全身をズタズタに壊して回る。


 傍から見れば冒険者の男がガクガク痙攣しながら叫んでいるだけのように見えるだろうが、よく観察すれば皮膚の表面に夥しいほどのアニサキスのような模様が浮かんでいるのに気付けるだろう。


 観客の何人かはそれに気付いてしまったようで、口元を抑えたり身震いしている。


「このまま放置してもいいけど、それだと後遺症が残って俺がしょっぴかれちゃうんだよねー……。 だから、」


 今度は、根を通して俺自身の持つ再生能力を行使する。


 これが、ここ1週間で身につけた俺の新技、他人を再生させる能力だ。


 ライデンの『他の植物に干渉する固有能力』と、俺の持つ『肉体を再生させる固有能力』が組み合わさった結果あら不思議、他の人間の体の治癒も可能になったのだ。


 以前舐め腐って絡んできた冒険者の男に根を生やした時に、こいつの肉いじれるのでは?と思って試したら出来てしまった。


 しかし残念ながらデメリットもある。


 それは……


「ぎゃがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 全身をビクつかせながら冒険者の男は絶叫した。


 再生する時の激痛はそのままなのだ。


 今回は意図的に痛みが増す再生のさせ方をしているが、ライデンの固有能力と合わせた治療をしても痛みはやはり出てしまう。


 だが俺に言わせてみれば、その程度で痛がるなど片腹痛いものだ。


 何せ普段の戦闘スタイルが、魔力と気で過剰に筋肉を強化して壊しながら戦い、それを再生させているのだから、その時の痛みに比べれば屁でも無いはずである。


 ゴリゴリボリンと音を立てながらへし曲がった手足が元の形に戻ると、男は突っ伏したまま動かなくなった。


「死んだ?」


 足でひっくり返してみれば、ゼヒューゼヒューと危なっかしい呼吸をして白目を剥いてはいるが生きてはいるようだ。


「感謝してよね。 報復を受けて五体満足でいられるんだから」


 しばらく起きそうに無い様子を見ていると、ムアがスタスタやってきて男の腹を前足で蹴り飛ばした。


「あ」


 ポーン、ベチと力無く叩きつけられた男はようやく目を覚ましたようで、俺とムアを見ると人混みを割って一目散に逃げて行ってしまった。


「満足した?」


「フスッ」


 ムアは鼻を1つ鳴らすと、女の子を霧に乗せて俺の前に差し出した。


 診察しろとの事らしい。


「専門知識は無いんだけどなぁ……」


 とは言いつつも、痛みを感じないように根を薄く張って腹部を確かめる。


 っと、……これは


「……ガウ?」


 顔に出ていたのだろう。


 心配そうにムアが覗き込んできた。


「破裂はしてなかったけど、腸が少し傷んでたわ。 大丈夫、今治したよ」


 ムアの顔が険しくはなる。


 その時、女性が1人駆け寄ってきた。


「私の、私の娘なんです!」


「大丈夫、怪我は大したこと無かったよ。 でもびっくりしただろうから、ゆっくり休ませてあげて。

 後、目も離さないように。

 ムアは強いし優しいけど、万能じゃないからね」


 母親は何度も頷くと、泣きすがる女の子を抱き抱えて離れて行った。


「あー……、アギト」


 この殺伐とした空気の中、どう話しかけたものかとアルが呼んでいる。


 俺もさっさとこの場を去ろうとした時、ムアが怒りがぶり返してきたようにフンと鼻を鳴らした。


「わかったわかった。 今度外であいつと会った時は、ムアが好きにしていいよ」


 それを聞いたポルトとアルの顔が引き攣ったのであった。



●●●●



 それから2日後の事。


 俺とムアは、子供達やその家族に盛大に見送られていた。


「ムアちゃん行かないでぇぇぇぇぇ!!」


「早く帰ってきてねー!」


「飯どうせ保存食なんだろ、これ持ってけや! ムアちゃんにひもじい思いさせんじゃねぇぞ!」


 号泣する子供やでっかいバスケットを渡してくるおっさんらに手を振りつつポルトとアルの元へ向かう。


「つい一昨日あんな事があったってのに、大人気だな」


 20人は超える大人数で見送りに来たムアのファンらに、アルは苦笑いを漏らす。


 一昨日の件で激怒を見せたムアに、街の住民は恐れるどころか安心を抱いたようなのだ。


「子供の為にムアが怒ったって話は、昨日には街の至る所で耳にしましたからね。

 元々大きな使い魔として誰もが恐れていた分、噂の拡がり方は凄かったですよ」


「そんなに?」


「えぇ。 ルレックの実以外にも滞在中に小さな商いはしていたのですが、昨日は皆ムアの話しばかりでした。

 そうそう、アギトさんの話も出てきましたよ」


 そりゃそうか。


 公開処刑みたいな事をした訳だし、噂にもなるわな。


「どんな悪名が轟いてたのさ」


 そう聞くとポルトは吹き出す。


「そんな話ではありませんよ。 ただ、治癒能力について注目されていました」


「治癒能力? あの手足を壊してから治したやつの事?」


「そうです。 小さな怪我を治癒する魔法は家庭でも使われていますが、アギトさんのように『手足の再生』なんて事が出来るのは極々僅かな優れた治癒術士しかいないんですよ」


 急に褒めるやんけ。


「そんな万能な能力じゃ無いよ? 生やす時めっちゃ痛いし」


「それでもです。 会う人会う人に紹介してくれと言われて昨日は大変でした……」


 それでも面倒な絡みが無かったのは、ポルトが断ってくれたおかげなのだろう。


 俺がその手の人付き合いが嫌いなのを察してくれるのは、流石と言うべきか。


「私でも無闇に話しかけたらどんな目にあうか分からないと言って断っておきました」


「おい俺の風評被害」


「アハハハハッ!!」


 吹き出して笑うアルの尻に蹴りを入れておく。


「誤解を解くのも人付き合いの練習ですよ。

 突飛な事はしますが、あなたが根っからの悪人では無いのは、こうして話している私達が一番よく知っていますから」


「お、おう……」


 笑顔で言われて返事してしまったが、いいように丸め込まれた気がする……。


「ガゥ、グルルル」


「なんだよムアまで」


 ムアにまで笑われながらも、ゲルのダンジョンまでの旅に出発するのであった。

グロ注意です

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