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問題児

 翌日の冒険者部にて………


 俺は露骨に避けられていた。


「何故だ」


「何故ってそんなの決まってますよ。

 暴力沙汰しでかしたやばい奴、誰だって距離置きたがります」


 アメリカ人のように呆れたリアクションをするラグニィだが、それには異議ありである。


「でもさでもさ?

 ちょっとやり過ぎたかもだけど正当性はある程度あっただろうし、固有能力も使ってないしで、そこまで怖がられる事無くない?」


「……正当性?

 挑発してたの見ましたけど」


「事の発端はあの馬鹿共でしょうが。

 場所を変えて付け狙われるよりか、お日様の下でボコした方がよっぽど健全だって」


 だが俺の抗議虚しく、ラグニィは新たな追撃を加えてくる。


「ボコしたで思い出しましたけど、ノゾムの攻撃生々しかったですよ。

 人殴るの慣れてるのが見てるだけで伝わって来たので、裏社会の人間だと思われてるんじゃ無いですか?」


「まぁ表の人間では無いけれども…」


「タキ!」


 無邪気かつ元気な声に口を閉ざす。


「模擬戦しようぜ! ラグニィも!」


 走ってやって来たのはガトアであった。


 なんの屈託も無い笑顔に、思わず笑ってしまう。


「ガトアは俺の事怖がらないのな?」


「怖がる? 何でだ?」


 即答に思わずラグニィをチラ見してしまう。


「……」


 嘘を付いている訳では無さそうだ。


「いやいいよ。

 それより、昨日の順番だと次は俺とガトアだったっけ」


「そうそう。

 それで昨日の喧嘩見て気付いたんだけど、タキって強いんだよな?」


「まぁ、それなりには」


 昨日の1件を考えると隠しても無駄なので肯定すると、ガトアは顔を明るくする。


「やっぱりか!!

 実は固有能力を使った模擬戦がしたかったんだよ!

 タキが強くて助かったぜー!」


 ………デジャブかな。


 盗み見たラグニィとバッチリ目が合い、睨まれる。


「……私はノゾムの固有能力を分かった上でやりましたからね」


「大差無いって」


 ラグニィに小突かれながらもスペースを確保し、ガトアと向かい合う。


 お互い得物は木製の安全なものである。


 自前の細長い木刀とは対照的に、ガトアの剣は肉厚な直刀であった。


「固有能力試したいんだよね?

 使っていいから好きなようにかかって来な」


「分かったぜ。

 ……でもやばいと思ったらすぐ避けてくれよ」


「おっけいよん」


 太刀を下段にダラりと構えた俺に、ガトアは隠しもせず身体を捻って剣を振りかぶる。


 横凪に迫る直刀の軌道から1歩下がって避けつつ、なんの気無しに木刀を当てた。


「おわ」


 だが直刀の予想外の重さに、浅く握り直し手首でいなす。


「うおっ!?」


 ズルリと直刀が滑り抜けてからも、木刀越しに重い震えが俺の手を痺れさせている。


 余裕を持って目で追える速さであったにも関わらず、直刀を優に超える威力から考えるに…


「重さを変える固有能力?」


「っ、とと……

 一発でバレちまったか!」


 重くしていたであろう直刀に振り回されつつも体勢を立て直すガトアに、周囲は未熟者への目で見る。


 だがこの固有能力、滅茶苦茶強いのではなかろうか。


「良い固有能力ですね!」


「使いこなせれば近接最強になるんじゃない?」


 だが俺とラグニィの言葉に、ガトアは自嘲気味に笑った。


「使いこなせたら、な。

 どうも俺はセンスが無いみたいで、素振りもちゃんと出来ないんだよ。

 少し離れてくれ」


 ガトアは俺達が離れたのを確認すると、直刀を振り上げて下ろした。



 ゴツゥン!!



 途中まで美しい軌跡を描いていた直刀は、頭上を超えた辺りから勢いと角度そのままに前方へ飛び出し、ガトアを引き摺ったまま地面に突き立ったのだ。


 地面が揺れる程の衝撃に、周囲からの視線が刺さる。


 ガトアは土を払うと、気まずそうに笑う。


「……な?」


「なるほどねぇ……。

 よっと。 あれ、もう軽いんだ」


 引き抜いた直刀は本来の重さに戻っており、摩擦さえ振り切ってしまえば、簡単に引き抜けてしまう。


 俺が直刀をガトアに返そうとすると、ラグニィが横からかっさらっていった。


「どうしたのさ」


「見てください。

 あれ程の力で地面に刺さったのに割れるどころか傷1つ付いてませんよ」


 ラグニィに言われ確認してみれば、確かに木目に歪みも傷も一切見られない。


「魔力を浸透させて固有能力使ってたから保護されたんじゃないの?」


 コーティング的なイメージだったのだが、ラグニィの見解は違うようだ。


「一つの物に複数の効果を付与するのはとても高度な技術を要するんです。

 この耳飾りも、効果を魔石ごとに分けて付与していますよね?

 それと同じです」


 確かにそうだ。


 イヤーカフを作る際、複数の魔石を散りばめた装飾をする事で、それぞれの魔石に違う効果を付与していた。


 『瘴気や負の感情の吸収』、『吸収したエネルギーの変換』、そして『身体の治癒と安定』の順で効果を発動させていたのだ。


「じゃあガトアは魔力の扱いは得意なんだ?」


 だが俺の安直な質問に、ガトアは苦笑する。


「いや……全くの逆なんだ」


「「逆?」」


 俺とラグニィの声が被る。


「どんな魔法を使っても、固有能力が一緒に出ちゃうんだよ……」



●●●●



「ひぃ……ひひひひ………」


「はぁ……はぁ……プふっ! あはははは!!」


「そ、そんな笑わなくていいだろ!!」


 腹を抱える俺とラグニィに、ガトアが憤慨する。


「……ふぅ、ふぅ……だってさ、魔法出した瞬間、ビターンって……ゥククク……」


「ぶふっ! 思い出させないでくださいよ!」


 いい加減堪えろと下を向くも、蟻地獄のように抉られた地面が目に入り、遂に立つのもままならなくなってしまう。


 俺に膝を着かせるとは……ガトア、恐るべしである。




 結論から言うと、ガトアの魔法はまともに作用しないものであった。


 水の魔法は生み出された瞬間地面に叩きつけられ、風は小さなダウンバーストになり、火種でさえ光の速さで大地にキスして弾け飛んだのだ。


 即落ち二コマ(物理)である。


「笑わせに来てます?」


「してねぇよ……」


「てか身体強化も重くなっちゃうの?」


 ガトアはガックリ項垂れながら頷く。


「なるほどねぇ。

 じゃあ全身の身体強化をちょこっとかけたらどうなるのさ」


「それなりには動けるぜ。

 ただ、身体強化の恩恵は殆ど感じられねぇけど……」


「とりまやってみ」


「武器は1回置きましょうか」


 直刀を手に、俺とラグニィは再びガトアから離れる。


「ふんっ!!」



 ミシ………



 砂利が踏み締められる音が僅かに聞こえた以外、外見の変化は無い。


「動かすと重いの?」


「重いちゃ重いけど、身体強化で相殺されてっかな」


「おし、なら俺の手殴ってみ」


 それを聞いたガトアはギョッとするが、先程の模擬戦を思い出したのか、意を決して拳を振り抜く。


 迫る拳に、俺は身体強化を施した正手で勢いの相殺を試みた。


「うおっ!?」


 鈍い音と共に互いの手が弾かれる。


「マジかよ! 凄いな!」


「上手くやりましたね」


 2人の賞賛は平然と受け取りつつ、破壊された手首をこっそり治す。


 加減していたとは言え、身体強化を貫いて骨まで来るとは思わなかった。


「しっかし流石に強いね。

 大砲みたいに重かったよ」


「だろー!

 自分の身体だけならそれなりに使えるんだぜ!」


「なら身体強化したまま、武器に魔力を注がずに使えばいいのでは?」


「力むと魔力が流れちゃうんだ……」


 宝の持ち腐れと言うかなんと言うか……。


「ま、俺らならよっぽど怪我しないだろうし、固有能力有りで訓練しようぜぃ」


「いいのか!?

 怪我させないように早くものにするからな!」


 意気込むガトアを前に、どのように鍛えれば近接最強になるかを考えるのであった。



●●●●



 模擬戦もとい、ガトア育成に精を出すタキ達を見つめる男がいた。


 ヒョロリと細身な彼はくまの浮いた目で、タキ達を常に視界の隅に捉えつつ、直視せずに観察している。


 影の薄さも相まってベテランスパイさながらの彼の背を、軽快に叩く者がいた。


「シールストっ」


 声を聞いた途端、能面のようだったシルストの顔に色が戻る。


「……リエイエ」


 シルストの背後に立っていたのは、活発そうな女子生徒であった。


 彼女はリエイエ。


 シルストと共に彗星の先駆けに所属する、銀級冒険者である。


「新入生の中に原石はあった?」


「ボチボチかな。

 でも変なのが混じってるみたいだ」


 シルストが誰を指しているか、リエイエには直ぐに思い当たる。


「昨日揉めてた男の子?」


「そう。

 僕の見立てだと銀級相当。

 ムアって子もね」


 ヒュウと口笛を鳴らすリエイエだが、シルストが水を差す。


「でも『タキ』も『ムア』って冒険者も、僕の知る限り居ないんだ。

 つまり、裏社会の人間かもしれないから関わるのは…」


「なら正体を暴かないとね!」


 シルストの忠告虚しく、リエイエは意気揚々と踏み出すのであった。



●●●●



「やあやあ、楽しそうな事しているね!」


 遠くから感じていた視線の主が遂に来てしまった。


「リエイエさん!?」


 素っ頓狂な声を上げるガトアを横目に、リエイエの背後に立つ影に会釈する。


「どーも、シルスト先輩」


 誰が見てたのか気付いてますよ〜と、牽制がてら挨拶すると、シルストは眉をピクと上げただけで平然と微笑んで返す。


 曲者の予感。


 一方、模範解答を示すのがラグニィである。


「彗星の先駆けのお2人が来ていただけるとは、ご指導を期待しても?」


 下手に出るラグニィを、リエイエが慌てて止める。


「そんな、指導なんて。

 ラグニィさんの活躍は耳にしてますから!

 若くして実力で銀級冒険者まで駆け上がり、この間のゲル浄化作戦では銀級相当の巨大リザードマンをお1人で何体も討伐したと伺ってますよ!」


「み、耳が早いですね……」


「君の事は知らないけどね!」


 リエイエに迫られたじろぐラグニィを蚊帳の外から楽しく眺めていると、突然矛先がこちらへ向いてきた。


「タキ君だったねかな?

 昨日の喧嘩見てたけど場馴れしてるよね。

 どこ出身?」


 ああ、はいはい。 警戒してたのね。


「ユフォルムの森の出身でね。

 最近まで山暮らしだったんだ」


 半年以上前だけど、最近がいつを指すかは個人差がありますゆえ………


 内心で言い訳しつつ、嘘では無いと暗示をかける。


「そうなの? なら戦闘技術はどうやって学んだの?

 もしかして、有名な流派だったりする?」


 流派なんて無いのを分かって質問しに来てやがる……


 だが、またまたラグニィが助け舟を出してくれた。


「少しいいですか。

 ………」


 ラグニィに何事か囁かれたリエイエは僅かに驚くが、同時に納得してくれたようである。


 一体何を吹き込んだのか知らないが、ラグニィの事だから嘘を言った訳では無いのだろう。


 良かった良かった。


「ねぇ、タキ君。 模擬戦してみない?」


 あれ、おかしいな。


 ラグニィの様子を見るに、本人も予想していなかった行動のようだが………。


「ありがたい話だけど遠慮しとくよ。

 むしろこっちのガトアが将来有望だから、アドバイスして欲しいね」


 ガトアを捕まえ盾のように構える。


 すまんな、犠牲になってくれ。


「ちょっ、」



「おーい!!

 新入生はこっちに来てくれ!!」



 模擬戦の喧騒の中でも良く通る、野太い声が響いた。


 これ幸いと、ラグニィの手を引き離脱する。


「さっき何吹き込んだの?」


「有力貴族と繋がりがあるって言ったんです。

 貴族の中には、専属護衛を別で入学させる場合があるので。

 まさかそれを聞いてまで力試ししようとするとは思ってませんでしたが……」


「戦闘狂だァ」


 ヒソヒソしながら人混みを抜けると、声の発生源には既に人集りが出来ている。


 輪の中心に見えるのは、無精髭が見えるくたびれたオッサンであった。


「おーし、集まれ集まれ。それと静かにしろ。

 俺はバラ二。

 挨拶遅れたが、冒険者部の顧問だ。

 今週末だが……」


 バラニの話を要訳すると『ギルカで名簿作るよ。 それとギルカ持ってない生徒は週末にギルドに行って登録するよ』との事だった。


 ほーん、と呑気に相槌を打っていると、ラグニィにペシペシ腹を叩かれる。


「どうするんですか。

 ムアはともかくノゾムはダメでしょう」


「2枚目って…」


「魔力で登録されてるので無理ですよ」


「ギニン以外のギルドでも?」


「共通管理されているので無理です」


 何そのテクノロジー。


 厄介な………


「で、どうするんです?」


「どうしようかねぇ……」



●●●●



 深夜


 書類を片付けたバラニの部屋がノックされた。


 ようやくキリが着いた所に新たに仕事を持ち込まれてはたまったものではないと、バラニは椅子に深く腰掛け、タオルを顔にかけた。


「明日にしてくれ……」



 ガコッ



 居留守を決め込もうとするバラニの耳に聞こえたのは、魔法錠が外される音であった。


「……え」


 タオルを取っ払うと、開いた扉の先には若い男女が立っている。


 あの特徴的な容姿は見覚えがあった。


 カルノから、問題児をボコボコにしたとの報告を貰っていた新入生だ。


 名前は確か……タキとムアだったか。


「こんばんは。

 少しお話いいです?

 まぁ、断っても聞いてもらわないといけないんだけれども」


「………鍵はどうした」


 銀級冒険者であるバラニの低い声音に、タキは飄々と歩み寄ってくる。


「一時的に無力化させて貰ったよ。

 大丈夫、後で魔力を流したら再起動するはずだから」


「……目的は」


「部活の事でちょっとご相談を」


 タキの言葉に拍子抜けしたバラニは、単刀直入に聞いてみる事にした。


「帝国かジャバルクの人間では…」


「無いよ」


 タキの答えに、バラニは息を吐いて椅子に深く座り直した。


「なら何の用だ?」


 安堵に言葉がぶっきらぼうになるバラニだが、タキは態度を崩さず話す。


「ギルカで出席取るって言ってたじゃない?

 俺のギルドカードについて、黙ってて欲しいんだよね」


 差し出されたギルドカードは銅色。


 この年齢で銅級は珍しいが、それだけだ。


「銅級? 凄いじゃないか。

 隠すような事じゃ無いだろ」


「名前名前」


「名前……?」


 タキに促され、ギルドカードの文字に疲れた目を凝らす。


「……アギト……?

 てっ!?」


 顔を上げたバラニの前に立っていたのは、黒衣に牙のマスクを付けた男と、気が遠くなるような威圧感を放つ純白の獣であった。


「……骸のアギト……雲海のムア……」


 浅い息を吐くバラニを、アギトは底無しの闇を映した瞳で射抜く。


「ルトレリに許可は取ってあるから、名簿の名前はタキにしといてよ。

 要求はそれだけ。

 ………出来そ?」


 覗き込んでくるアギトの視線から逃れるように、バラニは首を縦に振るのであった。



●●●●



 早着替えを済ませ、廊下の角を曲がるとリーチェとラグニィが待っていた。


「乱暴ですねぇ」


「学長に許可貰ったなら同じように話付ければ良かったのに」


「バラニの人となりを知らないから、これが1番手っ取り早いんだよ」


 恐怖を煽れば、人間は素の反応を見せてくれる事が多いからなぁ。


 あまり良くない思考回路だから、こればかりに頼ってはいけないが。


「裏切ったら殺す?」


「殺しはしないけれども」


「ムアちゃん……」


 そう言いながらも、リーチェは何故か俺の方を見てくる。


「失礼な。

 俺の影響でムアが血気盛んになったとでも?」


「うん」


 信頼の無さよ。


「学園の方はいいとして、ギルドの方はどうするんです?」


「エゼロと面識あるから、ギルカ見せて空気ピリつかせれば出てくるんじゃないかなぁと。

 対面すれば何かしら話は進むはず」


「……乱暴の極みですね」


 白い目を向けられつつ、しかし他に代案も浮かばず部屋に戻るのであった。

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