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第9話 新しい優秀な侍女長



フィオレンサの何気ない一言でその場の空気は一気に悪くなってしまった。フィオレンサもその自覚があるため、そうそうにお茶を片付け始めた。


「さあ、片付けましょうか。ローレン伯爵夫人は今いる侍女たちに皇宮のなかでも案内してもらって」

「ですが、片付けは……?」

「それなら私ひとりでできるから。それよりも私のためを思うなら一刻も早く、ここに慣れて欲しいわ」

「……かしこまりました」


ローレン伯爵夫人が出ていくのを見届けてから、フィオレンサは食器をカートに乗せて片付けていく。


皇女であるフィオレンサの部屋にはこうしてお茶を飲んだ後、食器をすぐに片付けられるように簡易な水場がある。さすがに夕食の時のような食器を洗うのは無理だが、ティーカップやティースプーン程度なら問題ない。


フィオレンサは落とさないように注意を払いながらゆっくりと水場へ運んでいく。石鹸を使って優しく洗い、水気をとってタオルで拭くと食器棚に戻していく。


食器棚にはいくつものティーセットがあるが、フィオレンサ一人しかいないため、いつも使うティーセットしか使われている形跡がない。


「これでよし。今ごろローレン伯爵夫人は皇宮内を回っているだろうから、しばらくは戻ってこないわね」


備え付けのソファーに座ると、ドレス姿のままゴロンと横になる。昨日みたいなゴテゴテとしたドレスではないため、こうして横になっても装飾品なんて付いてないからどこも痛くならない。


フィオレンサは昨日の皇帝との夕食のせいで精神をゴリゴリと消耗していた。そのせいでソファーに横になっただけで眠気が襲ってくる。始めは抵抗していたフィオレンサだったが、重くなる瞼に思考力が落ちていく頭。フィオレンサはいつ寝落ちてもおかしくない状況だった。


(ちょっとだけ……、ちょっとだけ、寝ていよう……。昨日のせいで少し疲れていたから……)


結局フィオレンサは眠気に抗えずに、猫のように丸くなって夢へと誘われた。



* * *



ローレン伯爵夫人はフィオレンサとお茶を飲み終わると、フィオレンサの指示通りに近くにいた侍女に皇宮内を案内してもらっていた。そこまで頻繁に来ることのない皇宮は、皇族が住むのにふさわしいほどの内装だと考えていた。


───しかし、



(本当に彼女たちは殿下付きの侍女なのか)



案内自体におかしなところはなく、ただ普通に皇宮内を案内してくれている。けれど時折見せるフィオレンサへの侮った言動がローレン伯爵夫人は気になっていた。


ローレン伯爵夫人はフィオレンサに対しての噂は聞いたことがあるが、実際に会っていないフィオレンサに勝手に決めつけるのは良くないと考えていた。


(ついさっきお会いしたばかりだけど、殿下は噂のようなお方では無い。『イツワリ皇女』だなんて不敬にも程がある。それに殿下の行動……)


ローレン伯爵夫人は自らお茶を入れていたフィオレンサの行動を思い出していた。


いくらお茶を入れるのが趣味だとしていても、本来皇女であるフィオレンサには常に侍女が4、5人は付くはずだ。それなのにフィオレンサには1人もついていなかった。


(殿下に侍女はいないのか? ───それともいるはずなのに侍女たちは仕事をしていないのか……?)


ローレン伯爵夫人はその考えに至り、頭が真っ白になった。けれどそれなら目の前を歩くやる気のなさそうな侍女の態度やフィオレンサの行動にも説明がつく。


(……これは、詳しく調べる必要があるみたいですね)


ローレン伯爵夫人は手早く案内を終わらせてもらい、フィオレンサのもとに戻るまでに、フィオレンサ付きの侍女について調べ上げることにした。




* * *




ローレン伯爵夫人はこの短時間で調べ上げたことに驚きを隠せなかった。


(これは一体……!?)


侍女たちはフィオレンサの私物や皇宮の調度品を帳簿を偽りながら私腹に溜め込んでいたのだ。そして帳簿を確認すると、どうにも大幅に数が合わないことに気づいた。侍女たちの分だけではなく、直接帳簿を書き換えていることが分かる。


(けれど、この帳簿は本来侍女長が管理するもののはず……。───! あの侍女長か……!)


ローレン伯爵夫人は自分が来る前の侍女長の任を解かれた侍女長のことを思い出した。


(陛下はこのことを知っているのか……!? いや、知っていたら横領罪で今ごろ牢の中にいるはず。そうでないとしたら陛下もこのことを知らない。それに前侍女長の件は殿下が陛下にお願いをして任を解いたと聞いている)


原作のシエナがすぐに信頼した優秀なローレン伯爵夫人は行動力と持ち前の思考力で、フィオレンサを取り巻く侍女たちのことについて、おおよその結論に辿り着いていた。


(───もう少し、決定的な証拠が必要だ。どうやら殿下付きの侍女を全て入れ替えなければならないようだな。新しい侍女も探しておかなければ……)


ローレン伯爵夫人は来てそうそうの仕事にため息が出そうになったが、やりがいのある仕事に、むしろ少し生き生きとしていた。ローレン伯爵夫人は夫が陛下の直属部下に当たるため、ローレン伯爵夫人もとても優秀な人物だった。


しかしこれといってやることがなく、やることといえば夫人同士の交流を深めるお茶会。ローレン伯爵夫人は人脈を広げるためには必要なことだとは分かっていたが、どうも気の乗らないものだった。


そんなときに陛下から後任として侍女長の任を拝命された時、少し楽しみだったのだ。フィオレンサの噂は知っていたが、ローレン伯爵夫人にとってはそんな噂、気にもならなかった。


噂とは真実とは異なり、誇張されやすいということはお茶会で分かりきっていた。だから実際にフィオレンサに会った時も、噂とは当てにならないと思った。


(殿下は優しく、気高いお方だ。私はそんな殿下の侍女長となった。殿下がここで自由にお過ごしできるように支えるのが私の役目)


ローレン伯爵夫人は侍女たちの不正が記された紙を持ってとある場所を目ざした。





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