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第38話 騎士団・魔法師団訪問 4



貴族上位の考えが強く、魔力が多い人間こそ絶対だと考えるクソみたいな師団。


そのせいで帝国の膿溜まりだとフィオレンサは思っている。


(陛下はどこまでお考えなのかは分からないけど)


目の前でヘコヘコと頭を下げている師団長と副師団長をフィオレンサは後ろから冷めた瞳で見ていた。


「姫が騎士団に来たついでに魔法師団にも寄りたいと言うのでな。特に気にせずに過ごしていろ」

「かしこまりました。しかし陛下と殿下を長い間お立ちさせておくには忍びないため、こちらで部屋を準備させていただきます。どうぞご自由にお使いください」


無言で歩き出した皇帝に従ってついて行く。


ちらりと後ろを見ると師団長と副師団長はフィオレンサを蔑むようにこちらを見ていた。


(魔力のない私に頭を下げることが屈辱だとでも思っているのでしょうね)


その証拠に必死に感情を隠しているのか手に強い力が籠っていた。



「───それで騎士団だけでなく魔法師団とは。姫は本当に興味だけでここに来たのか?」




後ろにばかり気に取られていたせいで皇帝に話に反応するのに少しばかり遅れてしまった。


「……もちろん、それ以外に何があるというのでしょう。この国を守ってくれている場所は是非とも訪問してみたいと前々から思っていましたし」

「そうか。俺はてっきり姫から面白いものが見られると期待しているのだが」

「陛下のご期待に応えられるかは分かりませんが、私なりの面白いものというものを後でご覧に入れましょう」


(そう魔法師団の横領という、とても面白い結末をね)


そうしてフィオレンサは魔法師団を隅々まで見学した。


どうやら本当にこの師団は魔力なしを蔑んでもいいと思っている。それが例えこの国の皇女だとしても。


(あからさますぎて逆に笑っちゃう)


皇帝よりも先に研究室や実験室に足を踏み入れると一斉に貶した視線を寄越すのに、皇帝があとから入ってくると一気に態度が180度変わる。


そのさまが滑稽すぎてフィオレンサは毎度笑いをこらえるのに必死だ。


(所々に見える希少な骨董品や絵画の数々。部屋の装飾から廊下に至るまで騎士団との差は歴然ね)


いかに私腹をこやしているかが分かる。これを見るとかつての侍女長を思い出して不快な気持ちになる。



だいたいの場所を見て回ると師団長たちが準備した部屋へと向かい、一息ついた。


「それで姫の好奇心は満たせたか?」

「ええ、十分に。特に騎士団とは違い魔法師団にはお金がたくさんあるという事実は素晴らしいものだと感じました」

「……やはり姫から見てもそう思うか」

「はい」


紅茶を飲みながら皇帝を盗み見る。珍しく渋顔をしているのを見て、皇帝も『横領』という単語が頭によぎったようだ。


(ならせめてもう一押し)


「そういえば騎士団と魔法師団の予算案を見て魔法師団は騎士団の倍以上の予算があることに驚きました。陛下は魔法師団をとても支援していらっしゃるのですね」

「なに?」

「大臣であるベラール伯爵も特に何も言わないということは大臣方も容認されているということ。この国の未来は明るいですね」


最後のは嫌味だか皇帝はフィオレンサの言葉によりため息をもらした。



「はあ……そういうことか。───舐めた真似をしてくれる」

「……っ」



皇帝の怒りからか重圧な聖魔力が溢れ出る。

だが不思議と苦しさはなかった。


(神聖魔力のおかげかしら? 薄い膜のようなものに守られている感じがする)


フィオレンサはとりあえずこの状況にしておく訳にはいかず、聖魔力を溢れさせ続ける皇帝に強く声をかけた。


「陛下! 怒りを沈めてください! このままではこの部屋が陛下のお力で壊れてしまいます!!」

「…………」


フィオレンサには特に何もなかった皇帝の聖魔力だがこの部屋には効果覿面だったようだ。

ミシミシと部屋の隅から音が聞こえてくるし、カップもカチャカチャと音を鳴らしている。


(このままじゃ物理的に怪我する……!!)


フィオレンサが再度強く呼びかけるとシュウっと聖魔力が落ち着いていく。


部屋中に満ちていた聖魔力が完全になくなると皇帝から謝罪の言葉がかけられた。


「すまなかった。怪我はしなかったか?」

「はい、大丈夫です」

「そうか。……まさか横領に気づかないとは」


(これは仕方がないとは思うけど)


落ち込み気味の皇帝にフィオレンサは心のなかでフォローした。


そもそもこの書類体制に問題があるため、皇帝が長い間気づけなかったのもしょうがないことであった。


(大臣のところで止まり、陛下のところまでいかないなんて気づけるはずがない)


「今回のことは書類のことから師団長、副師団長の行動まで調べる必要があると思います」

「そうだな。すまないが……」

「分かっています。陛下は今すぐに対処すべきかと」


フィオレンサの言葉で立ち上がった皇帝はそのまま扉へと歩いていく。そして扉に手をかける瞬間に後ろを振り向いて言った。


「姫のことはオーウェンの部下に送らせる。それまではここで───」

「いいえ私は一人で帰れます。仮に魔法師団の方々に蔑まれようともベラール伯爵に遭遇し、身の程をわきまえるように言われようとも。特に何も思いませんから」

「は? 姫は帝国唯一の皇女だ。そんな不敬罪に問われるようなことをするなど」

「しかし現に私はそうされたので。でも大丈夫です。陛下が全てを調べてくだされば自ずと明らかになる事実なので」


笑顔でフィオレンサは言った。


(絶対権力者たる陛下から罰を与えられれば確実にそうなる。陛下の場合、私が蔑まされたことなんかよりも皇女なのに蔑まされたということで動いてくださるはずだから。……あのカッパ伯爵め。せいぜい残りの生活を楽しみながら送る事ね)


皇帝はなぜだかひどく顔をゆがめている。けれどフィオレンサはその原因が皇女が軽蔑されていた事実を知らずにいたことを恥じるものから来たと思った。だから言葉を重ねた。


「ですから是非ともひとつも残さずに全てを暴いてください」

「皇帝の権力を全て使ってでも姫の望みを叶えよう」

「ありがとうございます。それとここに来た理由は単なる興味と言いましたが、実は陛下にこの件を伝えるために来ました。これでも公務の一角は任されていますからね」


喋りすぎて喉がかわいてしまったため紅茶を飲む。さすが横領している魔法師団だ。紅茶は品のいいものを扱っているようだ。


「なら初めから俺に言えば……」

「それもできたのですが、下手をするとベラール伯爵に握り潰されてしまいそうだったので。それに仮に陛下が信じてくださってもほかの皆さんがそうとは限りませんから」

「……っ、そうか」

「皇女である以上、この国の未来のために働く義務があります。私はこれからもこのようなことを見過ごすことはできないでしょう」


金茶の瞳で皇帝の胡桃色の瞳を見た。


「そのたびにご迷惑をおかけしてしまうと思いますが───」

「何を言っている。これは皇帝である俺が油断したために起きたことだ。そしてこれから起きるであろうことも」


胡桃色の瞳を伏せながらフィオレンサを見詰めた。太陽がだいぶ傾いているせいで部屋に差し込む光は濃い色をしている。


「姫は十分にやっている。───さすが俺の娘だ」

「……!!」

「この件は責任をもって俺が片付ける。本当に一人でいいのか?」

「え、ええ。大丈夫です。もう一度騎士団も見て帰りたいですし」

「そうか。なら先に失礼する」


皇帝はドアノブに手をかけて部屋を出ていった。残されたフィオレンサはぼふんっとソファーに倒れた。



「……急になんなのよ。最近の陛下はおかしいわ」



突然の優しさも、姫呼びも、心配も。


何もかもが原作の皇帝とは違う。



「また……期待しそうになるわ。だめなのに……」



誰もいないことをいいことにフィオレンサはソファーに足を乗せて、体を抱え込むようにして頭を膝につけた。






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