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第37話 騎士団・魔法師団訪問 3



演習場の特別テラス。


そこには優雅に足を組み、つまらなそうにしている皇帝とキラキラと好奇心旺盛な瞳をしながら見物しているフィオレンサがいた。


「わあっ! すごい! あんなに俊敏に動けるなんて!」

「……ふん、だが今のは避けるよりも剣で受け流した方が次の攻撃に繋げやすい」

「陛下は騎士の動きすらも分かるのですね」

「……騎士の動きは兵を動かす上で理解するのは必要不可欠だ。俺自身も動くことはできるしな」


キンっ!キンっ!と金属音がする彼らの試合を横目にフィオレンサは皇帝と話していた。


「では今の彼の動きはどうなのでしょう? 私の目では隊長である彼と互角に戦っているように見えます」

「ふむ。……だが実際はそんなことはない」

「───というと?」

「あの騎士は確かに優秀だが、隊長と比べると経験値が足りない。敵の死角を攻撃し、いかに体力を温存させながら戦うか。あれには分かっているな。そういう動き方だ」


言われてみるとそう見えなくもない。隊長は常に相手の騎士から一歩後ろに位置していて、相手をよく観察している。


剣を振り切り、がら空きになった右側にすかさず切り込み、剣で剣を受け流す。


無駄のない安定した動きだ。


「今は持ちこたえているようだが、しばらくすれば均衡は崩れる……そら見ろ」


下を見ると隊長と違って息が上がっている一騎士は隊長の攻撃をかわしたり、受け流したりすることで精一杯そうだ。


やがて何度か剣を交えると騎士から剣が抜け落ち、隊長の勝利が決まった。


「熱気がすごい試合でした。やっぱり騎士団長ともなるともっとすごいのでしょうね」


今回騎士団長には皇族の護衛ということでこの試合には不参加してもらっている。


だからそんな彼をちらりと見ながら皇帝に言った。


「まあ、あいつは剣の腕は間違いない。あれはこの国最強の騎士だからな、一応」

「さすが騎士団長! ところで陛下は騎士の動きを理解していましたが、やはりそれは先程仰ったようにご自身も剣を嗜まれるからでしょうか?」


素朴な疑問だった。原作では非の打ち所ない皇帝として書かれていた皇帝スティーブ。


そんな彼はフィオレンサのせいで起きた戦争でもその頭脳を発揮し、見事なまでの手腕で戦争を沈着させた。


(いま思えば、フィオレンサが15歳になってシエナが来てからの2年間の間に、驚くほどの罪を重ねているのよね)


その数々のやからしをランスロットとシエナが協力して騒動を治めていくのもヴェードナ帝国物語に書いてあった。


いまのフィオレンサにとっては無縁なやらかしだが、未来はどうなるか分からない。

使えそうなものは吸収していく。


そのひとつが皇帝の鑑識眼、洞察力といったものを習得することだ。


「ぜひ教えてほしいです」

「……俺の場合、皇族の教育の一環で剣術のプログラムも含まれていた。それをこなしていたら自然と騎士の動きが分かるようになっただけだ。姫の場合、剣術は───」

「では私も剣術を習いたいです」


おやつをリクエストするかのようにフィオレンサは軽く言った。

フィオレンサのなかでは皇帝の成功例は正しい成功例なため、是が非でも試したいと思っている。そのため、小さなものを強請るように言ったのだ。


「幸いにも私の皇女教育並びに後継者教育は終了しているため、新しい何かを学んでもなんら障害はありません」


それに剣術を習い、剣を扱えるようになることで自衛することができる。


将来の生存率爆上がりだ。いい事づくめしかない。


(最近の運動不足にはちょうどいいわ)


フィオレンサは皇帝を見上げる。驚いているのかいつもよりも無防備そうな顔だ。


「…………」

「だめ、でしょうか?」

「───…………だめだ」


(……まじかあ……)


まさか断られるとは思っていなかった。けれどよくよく考えれば本来この国の貴族女性は剣を振り回したりなどしない。ごくごく一部の辺境伯などを除いて。


「理由をお聞きしても?」

「危ないだろう。姫が怪我をしたらどうするつもりだ」

「あぶない…… 」


これは素で驚いた。だって皇帝が心配するとは思わなかったから。


(いやでも、私個人に対しての言葉ではなく、あくまで帝国の皇女に怪我をさせたらだめということよね。この人が他人に対してここまで露骨に『心配』という言葉をかけるはずが無いもの)


「んんっ! しかし、何かしらの挑戦をする際、怪我をしてしまうのは致し方のないことです。私はそれを考えた上で剣術を学びたいのです」

「……姫がわざわざ怪我をしてまで学ぶことはないだろう。それに人には得手不得手がある」

「それは……そうですが。何事も挑戦してみなければ分からないかと。大丈夫です。剣術に関して陛下のお手を煩わせたり───」

「……心配なんだ」

「!?」


今のは本当に皇帝の口から出た言葉なのだろうか。こんなにはっきりと『心配』と口にするなんて。


さっきまでは皇帝の言葉は皇女に対してのものだとばかり思っていた。それでも皇帝が他人を心配するなんて今までのことでは考えられなかったことだ。


「姫がしたいと思っていることはできる限り支援してあげたい。……だが、姫が怪我をする恐れのあることを許可することはできない」

「…………それは何から来るものなのですか?」

「……わからない。ただ姫には健やかに育って欲しいんだ」

「…………」


そんなに真摯に言われては何も言えないではないか。

皇帝の今の感情はフィオレンサには分からない。そもそも皇帝自身も理解していないのだ。こちらがわかるはずもない。


けれど皇帝が今このとき、フィオレンサを思って話していることだけはわかる。


(……仕方ない。今回は私が折れてあげますよ)


フィオレンサはうちに沸きあがる感情を抑えこんだ。


「分かりました。剣術の件は諦めます。陛下の意見を無視してまで突き進むつもりはないので」

「すまない」

「いいですよ。確かに皇女には剣術よりも刺繍の勉強の方が似合っていますから」


用意された紅茶を飲み、一息ついたところで目下で行われていた模擬試合は終了した。


勝者はどこかの部隊の隊長だった。ただ元々護衛騎士を選ぶつもりはなかったため、名前を紹介されてもぼんやりと顔しか覚えていない。


(……さて、そろそろ本来の目的に)


ある程度の挨拶が終わると、席を立とうとしている皇帝に言った。


「陛下、お願いがあります」

「? なんだ。剣術の件は無理だぞ」

「それは諦めましたので大丈夫です。私がお願いしたいのは魔法師団にも行きたくなったということです」


騎士団へ訪問した理由。

それはひとえに騎士団と魔法師団の財政差を知ってもらうため。


(私に無礼な態度をとってくれたこともお礼としてきっちり返してあげるわ。ベルディ・ベラール! 私が皇女のうちは横領した予算分、貴女から必ず搾り取ってあげる)


ついでに大臣の座から引きずり下ろして、一生領地から出てこないようにするつもりだ。


「剣術の件で少しでも申し訳なさがあるのなら、私と一緒に魔法師団へ行ってくれませんか? なくても一緒に行ってもらいますが」


これから起こることが楽しみでフィオレンサはにやりと微笑んだ。


それを見て皇帝は何を思ったのか二つ返事で了承し、フィオレンサの手を取って立ち上がった。


「なら今すぐ行こう。騎士団同様、魔法師団の連中にも礼など不要だ」

「そう言えるのは陛下だけでは?」

「姫もあんなやつらを気にする必要などない。もし……何か無礼な言動をした愚かな者がいるとしたら俺に言えばいい。俺直々に自殺志願者の希望を叶えてやろう」

「…………覚えておきます」


(この会話したことあるー)


そう思いながらフィオレンサは皇帝にエスコートされつつ、問題の魔法師団へと向かった。




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