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第36話 騎士団・魔法師団訪問 2



「全員、整列!」

「「「 はっ! 」」」

「皇帝陛下と皇女殿下が参られた。くれぐれも粗相ないように!!」

「「「 はっ! 」」」

「…………」

「…………」


騎士団演習場に着いてそうそう、オーウェンは「待っていてください」と一言言うと、数秒後にさきほどのあれが始まった。


さすが騎士団と言うべきか、声量が凄まじい。


だがあまりの声量に皇帝は顔をものすごく顰めている。かく言うフィオレンサも咄嗟に耳を抑えたくなったほどだ。


「す、すごい声ですね」

「これだから面倒なんだ。言っただろう。姫が気を使うほどの相手ではないと」

「ははは……」


皇帝はこういう騒がしいのが好きではないというのは彼といる時間が増えていくと自然と知った。


(陛下はパーティーに行くどころか開催もしないものね。さすがに建国記念日とか自分の誕生祭のときは致し方がなく開いている感が強いし)


皇帝は疲れとも面倒だとも取れるため息をつくと、怠惰そうに口を開いた。


「今回はここにいる姫の護衛騎士を選別するために来た。まあ普段通りにしている姿を俺や姫に見せていればいい」


皇帝がそう言うと前もって説明されていただろうに騎士たちは色めき立つ。


「それって皇女殿下の護衛騎士に選ばれれば大出世ってことか!?」

「普段通りって何してればいい!? なにか面白いことでもした方がいいのかな?」

「皇女さま、かわいらしいな! あの方のおそばにいられるなんて名誉なんてものじゃないな!」

「俺が皇女殿下の護衛騎士になるんだ!」

「いや俺だ! おまえはがさつな所があるから殿下のご迷惑になる!」


などなど、様々なことを言い合っている。


(選ぶつもりは初めからないのになあ。少し釘を指しておいた方がいいかも)


フィオレンサはそう思い、皇帝よりも一歩前に出て挨拶をする。


「皆さん、はじめまして。私はフィオレンサ・ディオネ・ロヴィルディ。本日は陛下からもお話があったように私の護衛騎士を選ぶためにここに来ました」


そう言うと騎士たちは「おおっ!」と声を上げる。騎士団長や皇帝が口を開こうとするが、フィオレンサはその前に宣言した。


「しかし、必ずしも護衛騎士を選ぶとは限りません」


その途端に騎士たちの声はピタリと止み、代わりに戸惑いの声が上がる。


「私の護衛騎士になるには多くの条件があるでしょう。私だけで決めるのではなく、騎士団長や皇帝陛下からも意見をいただき決定します。その過程で今回は見送りになる可能性もあります」


フィオレンサはあくまで仮定の話をすることで反発を防ぐと同時に予防線を張る。


「皇族の護衛騎士に選ばれた方はきっととても優秀です。しかし選ばれなかったからと言って皆さんが優秀な騎士ではないということにはなりません。騎士になるには多くの努力がそして今も果てしない努力をされていると思います」


これはフィオレンサの本音だ。何かにひたすらに努力し続けられる人は能力の差に限らず、尊敬に値する。


「この国は皆さんのその努力で平和が保たれていると私たちは考えます。───ですので、護衛騎士に選ばれることを最終目標にするのではなく、その先も見据えて頑張ってください。私はそんな皆さんを尊敬します」

「「「…………」」」


にこりと微笑んでフィオレンサは締めくくった。騎士たちはフィオレンサを見たまま微動だにしない。


(もしかして下手くそな演説だった……!? こんなに大勢の前で話したことなんてなかったから、少し緊張してたし……)


フィオレンサはとりあえず皇帝よりも後ろに下がる。すると皇帝やオーウェンからフィオレンサを褒める言葉を貰った。


「いい演説だったな。実に皇族らしい」

「はい。殿下の成長を感じました!」

「……ありがとうございます。しかし騎士の皆さんは……」


未だに固まっている騎士たちを見て、しょんぼりと眉を下げた。


オーウェンはそれを見てなにかを感じとったのかさりげなくフィオレンサから離れた。


(なんでオーウェンそんなに遠くにいるの……?)


フィオレンサが疑問に思ったその瞬間、空気が重くなった。





「───どうやら姫の話をろくに聞いていなかったようだな」





一瞬だれが発したのか分からないほどほ低い声だった。


「姫がわざわざ話をしてやったというのに貴様らはだんまりか? 貴様らが仕えるべき相手は俺だけではない、姫もだ。───俺の目の前で姫を無視するとはいい度胸をしているな」


皮肉げに笑う皇帝。そして皇帝のその一言で騎士たちは遅れながらフィオレンサに賛美を贈る。


「さ、さすがです皇女殿下!!」

「素晴らしいですっ!」

「…………」


言わされている感が否めないがフィオレンサは笑顔で手を振った。すると目が合った何人かの騎士は顔を赤くしてふらふらとおぼつかなくなる。


「?」

「チッ。───行くぞ」

「あ、はい」


フィオレンサはどうしたのかと思ったが、皇帝の小さな舌打ちに大人しくその場を後にした。




* * *




フィオレンサが騎士団本部へと入っていったころ、残された騎士たちはこそこそと話していた。


「皇女殿下ってまだ10歳だったよな? それなのにあんなに堂々としてらして……」

「ああ、あの笑顔には誰もがやられる」

「皇帝陛下から言われるまでみんなあの笑顔の虜だったんじゃないか?」


次第にその声は大きくなっていく。


「騎士としての俺を尊敬してるって! やばい、俺、今日命日かも」

「バカかお前は? 『俺』じゃなくて『みんな』だよ! 皇女殿下のお言葉すらこの短時間で忘れるのか?」

「なんだと!? 剣の腕は俺より下のくせに!」

「今はそれと関係ないだろ!? 頭の良さと剣の腕の良さは比例しない!」


さすがに王国の騎士と言うべきか口論はあっても武力行使には事は運ばれないようだ。


一方で演習場全体に声が大きく反響し始める。演習場には結界が張られていてあまりに大きな音ではなければ、外に漏れることは無い。


しかしこの分ではいずれ外まで聞こえ、騎士団長から叱りを受けることになるだろう。騎士団長は貴族ではなく平民出だが騎士団のみな、彼を尊敬していた。


そんな彼から叱られるのは避けたいものだが、フィオレンサの演説と微笑みしか頭にないのか、怒られるかもしれないという考えは誰一人として持っていなかった。


そんなとき、一人の騎士がぼそっと呟いた。




「あの方は……きっと天使なんだ。僕たちが手を伸ばしていい方ではない」




けれどその声は騎士全員に伝わっていく。すると騎士たちは動きを止めて、その言葉を真剣に考え始めた。


「……そうかもしれない。じゃなきゃ、あの可愛さは説明できない」

「あの騎士服も特注なのかな。……とっても似合っていらした」

「目のつけてるところが変態だ……! だが、お前の気持ちも理解できる」


などと騎士たちは話を路線変更しながらしゃべり続ける。


「あー、俺も皇女殿下のような子どもが欲しい」

「お前じゃ無理だ、諦めろ。だいたい皇女殿下のお父君は皇帝陛下だぞ? 余計無理だ」

「皇女殿下のお側に仕えたいものだ。いや、俺の息子を殿下の婚約者に……」

「やめとけ、バカ! 殺されるぞ!?」


不穏な言葉を吐く騎士もいたが、そんなとき、一人の予想外な人物が演習場へと足を踏み入れていた。



「おやおや、随分と楽しそうな会話ですね?」

「「「!?」」」

「今のお言葉を陛下が知ったらどうなるのやら……怖くて想像もできません」


肩を竦めながら、彼は言う。


「ここでの出来事を陛下にお伝えすることはできますが、やめておきましょう。陛下に言ったらどうなるか、私も判断がつかないので」

「「「…………」」」

「それに、それを殿下に知られてしまったら、殿下は心を痛めてしまうでしょう。それこそ陛下の逆鱗に触れることだ」

「……オーウェン殿」


誰かがそう呟いた。オーウェンは騎士を見渡して言った。


「ですので、くれぐれもご自身の発言にはお気をつけを。あなたの不用意な発言が周りの人間を巻き込むかもしれない」

「「「…………」」」


ごくりと息を飲む。オーウェンは元は騎士だった。しかし昔傷を負ったせいで騎士の道を諦め、皇帝の側近として働いている。


けれどオーウェンがその気になれば、この演習場の騎士を軽く10人程度相手にできるほどの腕前を持っている。


そんなオーウェンだからこそ、騎士たちは圧倒される。


「失礼、何やら聞き逃せない話だったもので。つい口を挟んでしまいました」

「い、いえ……」

「私がここに来た目的はこんな話をするためではなかったのですが……皇女殿下よりお言葉です。『騎士の皆さんがどのような訓練をしているのか気になったところ騎士団長が模擬試合を見たほうが早いと教えてくださったので、私のわがままではありますが、是非とも模擬試合を見せて欲しい』とのことです」


それを聞いて騎士のひとりはオーウェンに質問した。


「それ、はここにいる騎士の全員参加のものでしょうか?」


騎士団の人数はたかが数十人の集まりではない。その何十倍もの人数が多い集まり形成されている。


つまりそれらの人数が全員参加となると果てしない時間がかかるわけだ。


「いいえ、その件につきましては各隊長と隊長が指名した3名に試合に出てもらう形とします。その他にも模擬試合に出たいという方がいるのであれば歓迎します。ただしトーナメント戦となるので隊長クラスはシードからの出場となります」


他になにか質問はありますか?とオーウェンは尋ねるが、騎士たちは特に声をあげなかった。


(この場で何かを物申すのには強いメンタルが必要だろうな)


人間とは本来そう言う生き物だ。遥かに多い人の前ではどんな人間も容易く赤子のように弱々しくなる。


「……もし何かあれば試合前に騎士団長もしくは私のところに来なさい。気になる点を答えて差し上げます」


オーウェンはそう言ってその場を去る。


オーウェンの去る後ろ姿を見ると、誰かがホッと息を吐いたのがわかった。


オーウェンの圧により、多くの騎士が切迫させられていた。それが無くなり、みな、安堵する。


そのとき、オーウェンから「あっ」と声がしたと思ったら、くるりと後ろを向いた。


「「「!」」」


騎士たちはそれに一斉に体をピンとさせる。


「言い忘れていた大事なことがありました」


オーウェンは騎士たちを見ると、人当たりのよさそうな笑顔で言った。


「現在、皇女殿下の婚約者候補に名乗りを上げているのはオズヴェスタン公爵家とアイメルト公爵家です。……先程のような不用意な発言がこの公爵家の公子たちに聞かれたら……」

「「「………」」」

「どうなるのでしょうね?」


騎士たちはビクッと体を震わせる。


皇帝も恐ろしいが公爵家も恐怖の対象だ。そんな彼らがフィオレンサの婚約者候補だと言う。


(((死にたくなかったら口を閉じた方が良さそうだ……)))


青ざめていく騎士たちを眺めて、オーウェンはまた前を向いて歩き出した。





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