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第3話 プラン



フィオレンサは侍女を呼び、着替えをしようとした。しかしいくら待っても侍女は来なかった。そういえばと、フィオレンサはイツワリ皇女として侍女にろくに世話をされていなかったことを思い出した。


(不憫ね、フィオレンサ……)


フィオレンサは仕方がなく侍女を探しに行く。いくらイツワリ皇女と言われていても一国の皇女にこの態度でいいのかと思ってしまうが、皇帝すらもフィオレンサに興味が無い。つまり騒ぎ立てるだけ無駄。


(だけどこのままあの侍女たちがいると、私は自由に行動できないし、邪魔すぎる。……何とかして追い出さないと)


フィオレンサは侍女たちを追い出す方法を考えながら、侍女たちを探した。すると侍女たちの笑い声が聞こえてくる。フィオレンサは扉を開けて入ろうとしたとき、聞こえてきた言葉に体が静止を呼びかけた。


「それにしても、あのイツワリ皇女。いい加減仕えるのが面倒になってきたのよね。皇宮で働けるって言うから志願したのに配属先がここだなんて」

「ほんとにねぇ。ろくに聖魔力を持たないなんて皇族なのかしら?それに魔力すらもないなんて。平民でも多少の魔力はあると言うのに……」

「あんなのに仕えないといけないなんて嫌すぎるわ。でもだからこそ、盗み放題よね」


(!?盗み放題……?)


信じられない言葉にフィオレンサは息を殺して聞くことに専念する。


「陛下すらも皇女のことを気にかけないなんて前代未聞よね。でも皇后様が亡くなられ、生まれてきたのがあれだなんて仕方がないと思うけどね」

「おかげで私腹を肥やせるんだからいいんだけど。侍女長も黙認っていうか本人が一番横領しているね」

「でもお互い何も言わないことが平和なのよね。あのイツワリ皇女がこの話を知っていたとしても誰もあれの言う言葉を信じないし」


フィオレンサは最後の言葉に胸を突かれる。原作のフィオレンサが無意識のうちに感じとっていたものだ。


(こういうことがフィオレンサの性格を歪めていったのよ。本を読んでいるだけではフィオレンサの気持ちなんてよく分からなかったわ……)


フィオレンサは仕方なくその場を離れ、自分で着替えることにした。まだ手足が小さいフィオレンサには服を脱ぎ着するだけで大変だ。クローゼットから適当な服を選び、四苦八苦しながら着替えていく。するとノックもせずに扉が開いた。


「!?」

「あら、今日は起きていらしたんですね。それに着替えまで。ご立派なことです。食事を持ってきました。適当に食べておいてください」


侍女は一方的に言葉を投げかけると、一方的に去っていく。フィオレンサは侍女が去ると思わずため息を漏らしてしまった。


(早く侍女たちを追い出さないと)


乱雑に置かれた食事を食べようとテーブルに向かうと、明らかに残飯だと分かる食事ばかりだった。皇女に食べさせるものでは無い。しかし他に食べるものなんてないし、このことを誰かに伝えても適当にあしらわれて終わることなんて目に見えていた。


「いただきます」


前世と同じように手を合わせ挨拶をしてから食べ始める。残飯ばかりだが腐っても皇宮。やはり料理自体は美味しい。フィオレンサはスプーンを使って食べ進めていく。


(あの侍女たちを追い出すには今のままではダメね。皇宮の人員権限は皇帝と皇帝に信頼されている執事長や侍女長、そして皇女が持っている。でも私の場合はその権限がない)


食事を食べ終わると食器を片付けるために厨房へと向かう。運良く侍女たちがいなかったため手早く片付けることができた。足早で部屋へと戻り、侍女たちのことを考える。


「───やっぱり皇帝に頼むしかないのかしら。でも謁見すら無理だろうし、言伝なんて余計に無理。……あっ、そういえば原作で皇帝は亡き皇后が好きだった庭園によく行っているって書いてあった」


その庭園は誰でも自由に行くことが出来るため、フィオレンサが行っていても何ら不思議なことではない。


「偶然会ったという体でさりげなく皇帝にお願いしてみよう。まだ物語では初めの方だし、皇帝とのなかも物語終盤ほど悪くないはず……!」




だがフィオレンサは甘かった。皇帝はフィオレンサのことに興味はなかったが、少しくらいは情があるのではないかと、そう楽観視していたのだ。それがフィオレンサの希望を粉々に粉砕されるものとも知らずに。



* * *



庭園に来ると決めて、フィオレンサはあの日から毎日さりげなく庭園に通いつめている。侍女たちはフィオレンサがどこに行こうが大して気にしていないためフィオレンサとしても楽でよかった。


(それにしてもなかなか皇帝に会わない……。この庭園のはずなんだけど)


フィオレンサは綺麗に手入れをされた庭園を眺めながら考える。そのとき、普段なら聞こえない複数の足音が聞こえてきた。


フィオレンサは咄嗟に身を隠し、息を殺す。案の定、その足音の主はこの帝国、ヴェードナ帝国の皇帝であるスティーブ・ガルデド・ロヴィルディだった。


(来た……!)


フィオレンサは偶然この庭園に来たように装うために少し離れたところから歩き始め、皇帝のいる場所まで歩く。そしてさも驚いたかのように振る舞う。


「! ……お、お父様」

「───……」


お父様と呼ばれた皇帝はフィオレンサを視界に入れると不快なものを見るような目でフィオレンサを見た。その予想外の反応にフィオレンサはたじろぐ。そして皇帝から決定的な一言が吐き出された。


「誰だ、あれをここに入れたのは。邪魔だ、さっさと連れ出せ」

「……!」


(う、うそでしょ……)


固まるフィオレンサに騎士が手を伸ばし、フィオレンサを連れ去ろうとする。しかしフィオレンサは声を張り上げ、皇帝に言う。


「お、お父様!お願いがあって───」

「早くしろ。目障りだ」

「……っ、」


フィオレンサの言葉は皇帝の言葉でかき消される。フィオレンサは騎士に抵抗を見せるも、力で連れされるとまだ7歳の幼女であるフィオレンサにはどうすることもできない。


(どうしたら、このままじゃ……!)


フィオレンサは騎士に連行されながら考えた。不意に後ろを向き皇帝を見ると、フィオレンサの中の皇帝に対しての期待が一気に崩れ落ちていくのが分かった。皇帝はフィオレンサを不愉快極りないという表情で見ていたのだ。


(あ……、そっか。そうだよね、何を期待していたんだろう。愛情なんてあるわけが無いんだし、情なんてものは生まれるはずがないって言うのに。情を求めることすら皇帝とっては不愉快極りない行動なんだ。───私はなんて愚かなんだろう。勝手にそんなことも分からないで期待していたなんて……)


フィオレンサは連れていかれる最中、心の何かが壊れていくのがわかる。しかしそれを無視してフィオレンサは無表情に前を向いた。


(もうあの人をお父様だなんて呼ばない。イツワリ皇女なんだからそもそも父親ですらない。───ただシエナが現れるまで後継者として認められていればいい。そうすれば私はここを出ていく)




フィオレンサは金茶の瞳を静かに輝かせていた。








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