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第28話 対策 2





『私は()()()()()()()死傷者でデアリージャを討伐する方法を知っています』





その言葉に皇帝を見開いた。それも当然だろう。


今までデアリージャの討伐といったら自爆する性質持ちのため、騎士・魔法師たちの多くの犠牲の上で討伐をしていた。


(それを知った上で「ほぼゼロに近い」死傷者で討伐、だと?)


皇帝は到底信じられなかった。けれど目の前にいるフィオレンサの自信に満ちた表情。


それを見て、もしかしたら、と考え始めた。


「一般的には知られていませんがデアリージャはところ構わず自爆する訳ではありません」

「……? そうなのか……」

「はい。デアリージャが自爆するには今から話すふたつの条件が重なったときです」


フィオレンサは指を2本立てて説明する。


「ひとつは体の半分以上が水に面していること。もうひとつは自爆できるほどの魔力が残っていること。……いつもデアリージャが自爆するとき、水の中にいましたよね?」

「……ああ。そう報告を受けているが……」

「やつらを水のなかから引きづり出してしまえば自爆することはできません。自爆できないデアリージャはその辺の魔物よりも討伐が容易でしょう」


フィオレンサの説明に皇帝は信じられないような瞳を向ける。


(無理もないわ。私もこの事実を知ったのは原作や夢でだもの。でも私はこれは本当だと断言できる)


フィオレンサはデアリージャについて、さらに皇帝に話していく。


「自爆できるほどの魔力というのはデアリージャの鱗が緑色の時のみです。デアリージャの魔力が半分以下、つまり自爆不可能な魔力量になると鱗は黒く変色します」

「…………!」

「そしてデアリージャは金属とほかの魔物の血が大の苦手です」


手でバッテンを作りながら言う。その様子に驚きを隠せなかった皇帝はフィオレンサの子供らしい表現の仕方に一瞬だけ気が緩む。


しかし、フィオレンサは大真面目に説明を続けているため、ワインを飲むことで平常心を保つ。


「ここで大事なのはデアリージャを自爆させないことです。最も簡単な方法はデアリージャを水から出すこと」

「───しかしそんなに簡単に水から出るか?」


ずっと黙っていた皇帝はここにきて口を開いた。もちろん皇帝の懸念はもっともだ。


───けれど


「先程も言ったようにデアリージャは金属と魔物の血が苦手なのです。ですのでデアリージャがいる川の上流から金属と魔物の血を流せば、拒否反応を起こし、自然と川から出るでしょう。汚染された川は……」

「俺が浄化すれば済む話、か」

「はい。───これが「ほぼゼロに近い」死傷者でデアリージャを討伐する方法です」



(本来なら陛下にそんなことをさせる訳にはいかないけど事が事だし、仕方がないわ。それにこれが一番確実な方法なのよ)



ここまで一気に説明したフィオレンサだったが、一つだけ問題があった。


(陛下が一体どこまで信じて、私の考え通りに動いてくれるか───)


デアリージャの特性を知っている者は探せばいるかもしれないが、ほぼゼロに等しい。

そしてフィオレンサは皇帝に『どこで知ったのか』を説明することができない。


(……別に私の話を信じないでデアリージャを無視したまま、大臣たちの言う通りに防波堤を作ってもいい。あくまで私は皇帝から与えられた答えのない質問に対して自分なりの考えを述べただけだから)


フィオレンサが心からこの国を大切を思っていたならば、何がなんでも皇帝に進言して、フィオレンサの言葉を信じさせるように突き進むだろう。


けれど、フィオレンサはそんな無駄なことをしたいとは思わなかった。


(フィオレンサを先に捨てたもの達のために奮闘する必要なんてない。前にも考えたように、私がこうして話したのは皇女としての責務があると感じているからに過ぎない)


けれどこう考えると、何故かいつも胸が痛むのだ。



(……信じて傷つきたいないのよ)



防衛機制を張ることでフィオレンサは心を守っていた。


「以上で私からの話は終わりになります。後は陛下がご判断ください」

「…………」


(やっぱり情報の出処を話していないから、信じられていないのかも)


なんとなく皇帝の顔を見るのを厭い、さっと下を向いた。別に嫌いになったわけじゃなく、ただ勇気がなかっただけだ。


皇帝から紡ぎ出される言葉が怖くて耳を塞いでしまいたくなったそのとき、フィオレンサは自分の耳を疑った。




「お前の考えを取り入れてみよう」




(───え………………?)


ゆっくりと顔を上げて、目の前に居る皇帝を見た。透明度の高い茶色の瞳と交差した。


(今、なんて……)


フィオレンサは呆然とした。


「なんだ、あんなに力説していたのに全て冗談だったのか?」

「い、いえ……ただ……」

「ただ? 」

「私はこの情報の出処をお話していません。それなのに───」


頭が全然回らない。


(それなのになんで陛下は信じてくれているの?)


確かな証拠なんてない。もしかしたらフィオレンサの作り話かもしれない。


それなのに皇帝はフィオレンサの話を笑い飛ばさず、真剣に考え、向き合った。その上でフィオレンサの考えを取り入れようとしているのだ。


意味がわからなかった。もしフィオレンサが皇帝の立場だったとしたら、少しの可能性があったとしてもここまで受け入れられる自信はない。


手をぎゅっと握りしめ、感情を沈める。


「……も、もしかしたら私の話が作り話かもしれないと……考えなかったのですか?」

「───全く考えなかったといえば嘘になる」

「じゃ、じゃあどうして……!?」

「お前がそんなにことをするはずがないと信じているからだ」

「!?」


皇帝の嘘偽りないその言葉にフィオレンサは天を切り裂かれたかのような衝撃が走った。そして同時にフィオレンサは理解した。




(……ああ、だから私はこの人を信じたいと思ってしまうのね……)




少しずつフィオレンサに歩み寄り、フィオレンサの気持ちを汲み取る。そうしてフィオレンサに信頼されようとしている。


(以前とは考えられない陛下。でも不思議とそれは真摯に私に向き合おうとしている姿だと分かる)


フィオレンサはゆっくりと口を開いた。


「そう言っていただけて光栄です、陛下」

「それにこちらとしても神頼みでもしたいくらいだ。ならお前の話に乗るのもありだと思ってな」


遊覧船の揺れる振動やメジェリナの飛び跳ねる音、風が騒ぐ音───そして皇帝の落ち着いた声。それら全てが今のフィオレンサにとって、心がふわふわとするものだった。


「後日、今日話した内容や主な作戦内容などをまとめた紙をオーウェンにでも渡せ。実行可能となるまで添削した上で騎士団と魔法師団に伝える」

「お願いします、陛下」

「ふん。───この件が成功したときのために褒美でも考えておけ」


フィオレンサは思わず目を丸くした。


「まだ準備段階なのに、ですか……?」

「俺が介入する時点で失敗はない。そしてお前は今回の件で一番の立役者となるだろう。だから褒美でも考えていればいい。……このことが知られれば面倒な貴族たちからも邪魔になるほど贈り物が届くだろうしな」


(そんなことがあるのかしら……周囲からの評価が多少上がるかもしれないけれど)


だがフィオレンサは大人しく皇帝の言葉に頷いた。






遊覧船が最初の位置まで戻ってくるときには、フィオレンサと皇帝は互いの話を終わらせていた。


「陛下、またこの遊覧船に乗せていただき、ありがとうございました。楽しみにしていたメジェリナも見ることができて───」

「こちらとしてはまたお前が落ちないかヒヤヒヤしたがな」

「そ、その節はすみません……」


(! そういえば……)


皇帝に魔法で船から降ろしてもらおうと椅子から降りたとき、フィオレンサは最後に聞くことがあったと思い出して、背を向けていたが前を向いた。


(今じゃなくてもいいけど、せっかくだし……)


今の皇族にはフィオレンサと皇帝しかいないため、フィオレンサは社交界を取り仕切る皇族だと思って言ったものだった。



「陛下はいつごろ私がデビュタントした方がいいと思いますか? できるだけ早い方がいいですよね?」

「…………!」



───ガシャーンっ



皇帝の返答の代わりに聞こえてきたのは皇帝が持っていたワイングラスが壊れる音だった。


「! 陛下、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……」

「突然どうされたのですか……!? 具合が悪くなってしまわれたのですか?」

「……問題ない」

「ですが……っ!」

「『問題ない』と言ったはずだ」



(っいったい、どうされたというの───!?)



デビュタントの話を軽くして終わろうと思っていただけなのに、皇帝が突然として頭を押え始めた。


「っ、陛下のお身体が最優先のため、本日はここで失礼させていただきます。デビュタントの話は機会がありましたらということで───」


一礼をして皇帝にいつでも下ろしてもらえように身構える。皇帝は指先をフィオレンサに向けてくるっと回すと、フィオレンサの体はふわっと浮いた。




「……お前がデビュタントするなんていうからだ」




地面に足を付かせることに集中していたフィオレンサは皇帝が背後でボソッ呟かれた言葉に気づかなかった。







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