第20話 始まりの書
「あった……!」
皇宮図書館の奥の奥。
皇族のみが入れる禁書庫にフィオレンサはいた。皇族しか入れないが故に手入れがあまり行き届いておらず所々にホコリが見え隠れする。
鎖で繋がれた古びた分厚い一冊。フィオレンサが3年間という月日を費やしてようやく見つけた古書。
(世界の始まりが書かれている本……!)
題名はなく、ただ古びた革表紙があるだけで中身を見ないと分からない。だから一冊一冊確認してようやく見つけたのだ。
「この本にはこの世界の始まりが書かれている……。上手くいけばあのときの不思議な力もわかるかも……!」
フィオレンサはずっと探していた。3年前の瀕死の小鳥を助けたときの力がどういうものなのか。一体なぜ、聖魔力を持っていないとされるフィオレンサがそんな力を持っているのか。
この謎を解明するためにフィオレンサは3年間という月日を費やして探していたのだ。
「とりあえず読んでみよう」
古書を読書台へと置き、古びた紙が破れないように気をつけながら1ページ目をめくった。
『世界は女神アグライヤが創設したとされる。そして始まりの国、ヴェードナ帝国は女神アグライヤの守護する国。ヴェードナ帝国を中心に様々な国が誕生した。
ヴェードナ帝国には女神アグライヤの祝福を授かりし皇族たちが住んでいる。彼らは女神から授かった聖魔力をもって、衣を、食を、住を作り、民の暮らしを安定させた。
そして聖魔力の一部を分け与えたものたちを皇族の補佐とした。後に貴族と呼ばれ、彼らは魔力を持っていた。
聖魔力とは女神アグライヤの力の一端。ゆえに皇族は治癒と浄化の力を持つ。しかし稀に、皇族の中にこの世で最も尊ばれる御子が生まれる。
その御子は例外なく女子であり、皇女であった。彼女らは聖魔力や魔力を一切持っていない。けれど彼女らは尊い存在だ。
彼女らの見た目は女神アグライヤと同じく、金茶の瞳にコーラルピンクの髪を持っていた。
つまり彼女らは女神アグライヤの愛し子であり、この世で唯一、女神アグライヤと同じ神聖魔力を持った者だった。
神聖魔力は聖魔力の上位の魔力であり、あらゆる可能性を実現させる神のごとく力である。つまり女神の愛し子が願ったことは確実にこの世に実現する。
神聖魔力を持った皇女は帝国に繁栄をもたらす。一方で愛し子である皇女を傷つける行為をした場合、女神からの天罰が下される。
しかし、これには皇女自身が心の底から願わないと天罰は下されない。それでも皇女の扱いは気をつける必要がある。
そして魔力、聖魔力、神聖魔力という順番に力は強くなっていく。私たちは女神の愛し子を保護する義務がある。
けれどこの世に光があるように、必ず闇も存在することを忘れてはならない。魔力を持ったとある貴族は禁忌とされている魔法を使い、不老の力を得て、魔女となった。
これは女神に対する許されざる行為である。魔女は黒魔術を使い、帝国に破滅を及ぼす。
───後に知った話だが、魔女も救いを求める憐れな人間の一人だったということを私はここに記しておく。
聖魔力と黒魔術は相反するもの。皇族は正しく聖魔力を扱い、帝国に光をもたらさなければならない』
まだ本は続くが、フィオレンサは一度に必要な量の情報量を超え、本をパタンと閉じた。あまりにも内容が濃すぎたのだ。そして読んで得た情報を整理するために目を閉じた。
(……もし仮に私の力が魔力でも聖魔力でもなく、神聖魔力だとしたら……私は女神の愛し子ってこと……?)
「信じられない……。けど、実際に瀕死の小鳥を助けたし、本に書いてある通りなら私は女神アグライヤと同じ色合いを持つことになる……。だとしたら───私は本物の皇女ということ?」
フィオレンサのなかで原作を読んだために、ずっとフィオレンサはイツワリ皇女で、シエナこそが本物の皇女だと思っていた。いや実際、''ヴェードナ帝国物語''ではフィオレンサはイツワリ皇女として処刑されている。
「何が正しいの……? あっ、でも待って……確か、私つまり聖羅が死ぬ前、ヴェードナ帝国物語の続きが発売されるっていうのを聞いた気がする……」
ここに来て、フィオレンサはこの先のために最も重要そうなことを思い出そうとしていた。
「確か本の名前は……ヴェードナ帝国物語の''イツワリの真実編''!! 完結したと思っていたのに続きが出ると知って、楽しみにしていたのを思い出したわ!」
ヴェードナ帝国物語の''イツワリの皇女編''をフィオレンサの前世、聖羅は読んでいた。そして死ぬ直前に''イツワリの真実編''が出るというのを知ったのだ。
「''イツワリの真実編''ということはフィオレンサが死んだ後の話のはず……。それなのにイツワリの真実というのは……」
(もしかしたら読んだ本の通り、私が女神アグライヤの愛し子であるなら、私は本物の皇女であり、シエナこそがイツワリ皇女ということになる……。もしかしてそれを''イツワリの真実編''では記そうとしていた……?)
声には出さずに心の中でフィオレンサは熟考する。けれど今考えていることが真実だとしたら、そう考えると口から声が漏れ出そうになる。
「───……それに気になることはそれだけじゃない」
本に書かれていた魔女の存在。黒魔術を扱う不老。それこそ原作には書かれていなかったことだ。
「解明しようとすればするほど謎が増えていくわ……。でも、今はこの全てを秘密にしておきましょう。下手なことを言っては自分の首を絞めることに繋がりかねないのだから……」
この3年間で皇帝との仲は最初の頃と比べたら良くなったと思う。夕食に呼ばれる頻度は増え、貴族からの評判も少しは回復した。けれど、フィオレンサはまだ誰も心の底から信じてない。
(自ら傷つきに行く人なんていないでしょう……?)
信じていなければ傷つくことなんて何も無い。フィオレンサはいくら皇帝が歩み寄ってこようとも、貴族たちが手のひらを返そうとも、心からそれを喜んだことなどない。
「今世はやりたいことをとことんやる、って決めているの。だから余計なことはしないわ」
(いくら原作の内容と違くとも、私はイツワリ皇女としてシエナが来る前にここを離れる)
フィオレンサはもうそろそろでローレン伯爵夫人が図書館へ来る時間だと思い、古書を本棚へと戻して禁書庫を出た。そしてキギィと音がする思扉を閉めて、その場を離れた。
お待たせしました。
また更新を再開するので、見ていただけたら嬉しいです。




