表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/45

第18話 助けてくれた……?




「───……結局、私を助けてくれたのは誰だったの?」



あの湖に落ちてから気を失うまで、フィオレンサは溺れないように手足をばたつかせていた。誰かに助けを求めることなく、ただ長く息をしていられるように必死に水面から顔を出して。


だからこそ、フィオレンサは誰が自分を助けたのかが気になっていた。


(陛下が誰か騎士を呼んできた……? それとも岸に戻り、オーウェンたちが私を捜索した……?)


ずっと疑問だったこと。溺れた人間は誰かの助けが無ければ水面からは出られない。そして肺にある水を早く吐き出させないと、陸にあげ助けたとしても結局は助からない。


下手をすると助けたとしても後遺症を残すことになることも……。


(私の体に違和感はないし、医師も問題ないと言っていた。つまり、私が溺れてから誰かが直ぐに助け出してくれたということ)


フィオレンサはそう考え、ローレン伯爵夫人を見上げる。するとローレン伯爵夫人は、微笑みながら答えた。



「殿下を助けてくださったのは他でもない、皇帝陛下ですよ」



(……耳が遠くなったのかしら……? まだ7歳なのに?)


フィオレンサは信じられない気持ちを抱きながらローレン伯爵夫人に言う。


「……ん? いま、ローレン伯爵夫人の口から最も私を助けなさそうな人物が紡ぎ出された気がしたのだけれど……?」

「間違いなく陛下ですよ。陛下が溺れていた殿下を助けたのです」


ローレン伯爵夫人の言葉を理解するのに、フィオレンサは時間がかかった。 全く予想していなかった人物。フィオレンサを娘だと思っていない父親。


(意識を失う前、名前を呼ばれた気がしたけど……。陛下が助けてくれたなんて信じられない)


フィオレンサは疑うような目でローレン伯爵夫人を見てしまったが、フィオレンサは納得していなかった。だがそんなフィオレンサにローレン伯爵夫人は補足説明をする。


「殿下が溺れて直ぐに、陛下は湖へと飛び降りれられ湖の底へと沈んでいた殿下を助け出したのです」

「……!」

「殿下がこうして無事なのも、陛下がすぐに医師を手配してくれたおかげなのです」


(一国の皇帝が湖に飛び込んだって……)


フィオレンサの瞳は激しく揺れる。なんの感情から来るものなのかが分からない。けれどフィオレンサが捨てたはずの気持ちがフィオレンサの心を突き刺す。


(……ちがう。これは、心配だから助けてくれたわけじゃない。ただ目の前で死なれては目覚めが悪いだけ。ただ、帝国の皇女が死んでは政治道具として役立てられないだけ。そこに一切の情なんて、ない)


フィオレンサは手を強く握り、そう自身に語りかける。その状態でその後もローレン伯爵夫人の話を聞いていた。そして話をまとめるとこうだった。




フィオレンサが湖に落ちてすぐ、皇帝はフィオレンサを助けるために湖へと飛び降り、急いでオーウェンたちのところへ戻った。


そして体温が下がったフィオレンサのためにお風呂を用意させ、医師も用意させた。わざわざ皇帝自らフィオレンサを抱き上げ、皇帝の自室のベッドをフィオレンサのために使わせたという。


その後もフィオレンサのことを目覚めるまで看病していたらしい。公務が終わると直ぐにフィオレンサのところへ行き、目覚めないフィオレンサに語り続けた。


そのため、皇帝は少々寝不足気味だということも……。




フィオレンサは話を聞いて悲しくなった。散々フィオレンサを蔑ろにしておいて、こういう時に助けるのはひどいと。


(私の、捨てた感情が叫んでいる……。期待なんかして、傷つきたくなんてないのに……っ)


フィオレンサは複雑な感情を抱いた。どうすれば自身の愚かな感情を無にできるのか。


手のひらが爪で赤くなるほど強く握り締め、フィオレンサは感情を捨て去ることに集中していた。


そんなフィオレンサを見て、ローレン伯爵夫人は悲しそうな瞳をしながら話しかける。


「───今は食事をしましょう。私が余計なことまで話してしまったせいで殿下のお食事を邪魔してしまいました」


そう言って下げられた頭にフィオレンサは咄嗟に首を横に振って「ちがうっ!」と否定する。


「私が、私が聞いたのよ! だからローレン伯爵夫人は何も悪くない! ただ、私が愚かなだけ……」

「殿下……」

「もう終わりにしましょう。せっかくローレン伯爵夫人が温めてくれていた食事が冷めてしまうわ」


フィオレンサは無理やり話を終わらせ、スプーンで再びミルクをすくうと口に運んだ。



1週間も眠っていたせいで空腹だったフィオレンサだったが、胃はあまりものを受け付けなかったらしい。普段よりも少なめに用意された食事でも2/3程度しか食べることができなかった。


「ごめんなさい。せっかく用意してくれた食事を残してしまって……」

「大丈夫ですよ。それよりも無理に食べては胃に負担がかかってしまいますから。お食事の量はこれから徐々に増やしていけばいいのです」

「───うん」


その後、フィオレンサの診察をした医師が部屋に入ってきて今後の過ごし方について説明した。


「で、殿下。お食事はどの程度お食べになりましたか?」

「普段の食事量から考えると1/5程度かしら」

「な、なるほど。3日間は安静にお過ごしいただくことになりますが、その後異常がなければ、運動も兼ねてお散歩なされるのがいいかと、思います」

「お散歩?」

「は、はい!」


医師はおどおどしながらも、フィオレンサに身振り手振りで説明する。


(んー、確かに食事量を増やすのには運動した方が早いわ。散歩くらいなら暇つぶしにもいいと思うし、適度に太陽の光を浴びるのは体にいいから。……前世は部屋から差し込む光しか感じられなかったし)


フィオレンサはそう思い、医師の提案に頷いた。医師はそれに表情を明るくさせた。


そしてそのまま今日はもう寝た方がいいということでフィオレンサはベッドに戻り眠ることになった。


正直さんざん眠っていたせいで眠くはないのだが、そう考えていた医師が軽めの睡眠効果のある薬を持ってきたおかげでフィオレンサは案外すんなりと、夢へと誘われた。



* * *



あれから3日。無事に医師から外へ出歩ける許可が出たため、フィオレンサは久しぶりの部屋から出られることに歓喜していた。


(この3日間、ずぅーっと部屋で寝てることしかなくてつまらなかったわ。授業はもちろんできないならせめて復習でもしてようかと思ったけど、ローレン伯爵夫人やマリーに見つかってすぐにベッドに連れ戻されるし……!)


フィオレンサはとても退屈していた。まだ前世の方が退屈しのぎはあったと。


(あのときは看護師さんもパパもママも、私のやりたいことをさせてくれていたわ。まあ、先が短い子の願いを叶えてあげようとしていただけなのだけれど)


まだ普段よりも食事量は少ないが、少しずつ食べる量は増えていた。フィオレンサは太陽が高く昇り、日差しが暖かくなる午後にお散歩しようとしていたため、お昼を食べ終わったこのあとが待ちきれなかった。


室内用のドレスから外出用のドレスに着替えて、フィオレンサはお散歩の準備をする。筋力が衰えているのか生地が少し厚い、重めの外出用のドレスを着ただけでフィオレンサは少し疲れていたが、それを表情に出すようなことはしない。


薄目のカーディガンを羽織り、比較的歩きやすい靴を選んで履くと準備完了だ。


「では殿下、行きましょうか」

「ええ、ようやく部屋から出られると思うと気分がとても上がるわ! 寝ているだけというのも案外疲れるものなのよ?」

「そうでございますね。ですが時間は30分間だけです。それ以上は医師の方も許可されておりませんのでご注意くださいね」


そう、フィオレンサはお散歩の許可が出たが、それはあくまで30分間だけという短い間だだけなのだ。もう少しすれば授業も再開するし、好きなだけお散歩してもいいけれど、まだそれは許可されていないのだ。


「分かっているわ」

「では参りましょう。本日は''西の庭園''に行かれるのですよね?」

「ええ、あそこは人がそもそも少ないもの。東の庭園と違って」


西の庭園。そこは東の庭園と同じく美しく整備されている庭園だが、高位貴族しか出入りができない場所だ。それに事前申請が必要なため通うものは少ない。


ランスロットが領地に帰っていると知ってはいるが、念には念として西の庭園に行くことにしたのだ。


(ランスロットは今、自身の領地の視察でこっちにはいない。それにローレン伯爵夫人に前もってアイメルト公爵家が申請していないのかを確認してもらったから問題ないわ)


フィオレンサは気兼ねなく西の庭園に行けることを喜んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ