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第16話 皇帝が眠かった理由



皇帝が出ていくと、フィオレンサは先程まであった右手の暖かさに視線を向けた。


(場違いにも、陛下が手を離されたとき、寂しいと思うなんて……。おこがましいわね……)


フィオレンサは自嘲すると、今の状況を確かめるためにベッドから降りて辺りを見回す。


自室よりも落ち着いた雰囲気の部屋。必要最低限のものしかなく、本当にただ寝るためだけの部屋のようだ。


(ここは、誰の部屋なのかしら……。こんなに大きくてふかふかのベッド。私の部屋よりも広い)


フィオレンサは広い部屋をあちこちと動き回っていると扉が開いた音がして、そちらを向く。


入ってきたのは皇帝やオーウェン、ローレン伯爵夫人などフィオレンサの見知っている人物ばかりだった。


「───あ、おはよう、ございます……?」


皇帝を除く人達は扉の前に立ったまま動かずいるので、フィオレンサはとりあえず朝の挨拶をした。


「……?」

「───なぜ動いている? 安静にしてなければならないだろう」

「す、すみません。別にそこまで長い間眠っていたわけでもないと思い……」

「……はあ」


フィオレンサは後ろめたさを覚えつつ、そう言い訳すると皇帝はフィオレンサの元まで気だるげに歩き、ひょいっと抱き上げた。


「───!!??」

「暴れるな。落ちるぞ」


フィオレンサは咄嗟のことで暴れてしまったが、皇帝に強い口調で言われ、大人しく腕の中に収まる。そのままベッドまで連れて行かれふかふかのベッドに下ろされる。


「まだ医師がお前の状態を見ていない。それまでは大人しくしてろ」

「は、はい」


フィオレンサはベッドの端に腰掛け、皇帝を見上げながら頷く。皇帝はその様子を見て、端で存在を薄くしていた医師に声をかけた。


「おい、早くこいつを診ろ」

「は、はいぃ〜」

「お前の診断では3日から5日程度で目が覚めると言っていたのに1週間経っても目が覚めなかったんだからな」


皇帝の発言にフィオレンサは「えっ!」と声を上げてしまい、皇帝はフィオレンサを一瞥したが直ぐに医師へと視線を戻す。皇帝の視線の圧が凄いせいか、医師は小動物のように萎縮してしまっている。


「で、では皇女殿下、失礼しますね」

「はい」


医師はフィオレンサの額や頬、首元などを触り、熱はないか、脈拍は正常かなどを調べていく。口も大きく「あー」と開けて、隅々まで確認された。


「どうだった」

「で、殿下の状態は問題ありません。発熱気味だったみたいですが、薬のおかげで完治しています」

「ではなぜ目覚めるのがあんなにも遅かったんだ?」

「それは……分かりません。私にも不可解な現象なのです。───こ、皇女殿下は長い間眠っておられましたが、その間のことを覚えていますか?」


医師に質問され、フィオレンサは考え込むような仕草をする。そこにすかさず皇帝がフィオレンサに言った。


「辛いことなら思い出さなくていい。そもそも意識がなかった状態を覚えているなどなかなかないと思うが……」

「あ、いえ、あるといえばあると思います」

「───? それはどういう……」

「私はふと目を開けたら、辺り一面が暗い、闇の中にいました。平衡感覚もない、時間感覚も分からない、そんな空間に。それが今回のこととなにか関係があるのか分かりませんが、私がその空間にいたことは事実です」


フィオレンサの説明に医師だけでなく、皇帝も考え込んだ。先に口を開いたのは医師の方だった。


「……やはり殿下が予想よりも長く眠っていた事実は分かりませんが、下手をすれば、殿下は二度とその空間から出ることができずに、こちらでも目覚めなかったかもしれません」

「───!」

「そしてもうひとつの仮説もありますが、こちらは、あまり殿下に当てはまることはないかと思います」

「それはいったい……?」


フィオレンサは気になり、前のめりに医師に聞くと医師は歯切れ悪く口篭り、なかなか話そうとしない。フィオレンサはどうしたら聞けるのか考えていると、皇帝が横から話し始めた。


「───おそらくこの医師が言いたいのは聖魔力の覚醒時に起こることについてだろう」

「覚醒時に起こること……?」

「本来、聖魔力は皇族が生まれた時から持っている力だ。だがその力は強大で、産まれたばかりの皇族は生死をさまようほどの発熱が起きる。話を聞いた時、そうかと思ったが、聖魔力の覚醒は遅くても生後1ヶ月の間に起こる上に、覚醒した時点で分かる。だからそれはないと判断したんだろう」


話を聞いているとつくづく自分がイツワリだと分からせられるような話だと思った。しかしフィオレンサはその話を上手く飲み込み、今回の話での要点をまとめた。


「では、結局今回のことを何も解明できていないということですね」

「そ、そう言われればそうなります」

「いいえ、大丈夫です。そもそもの発端は私が不注意で引き起こしたものですから。これ以上このことを広げるのは止めた方がいいでしょう」

「そ、そうですね。し、しかし殿下はまだ安静にしていてください。少なくとも3日ほどは」

「長いですね」

「わ、私も診察に行きますのでご協力をお願いします」

「……わかりました」


フィオレンサは医師を見上げて頭を下げた。そしてベッドから降りて、扉の近くに控えていたローレン伯爵夫人に声をかける。


「そろそろ自室に戻りましょう。ここが誰の部屋か分からないけど、長居しすぎては良くないから」

「ベットメイキングは済んでおりますので、マリーに頼んでお風呂の準備もしてもらいます」

「よろしくね。───ところでこの部屋の主は誰なのかしら? いないのなら迷惑をかけなかったということでいいのだけれど……」


フィオレンサが部屋の主を気にしていると、なぜか部屋にいる人達が一斉に皇帝を見た。


「?」


フィオレンサは初め、意味がわからないと言った表情を浮かべていたが、オーウェンやローレン伯爵夫人の視線でこの部屋の主が分かってきた。


(まさか……)


せっかく体調が良くなったのに、また悪くなりそうだ。フィオレンサは恐る恐る自分の仮説を確認するように口を開いた。


「あ、あのう、もしかして、いやもしかしなくても、この部屋は陛下のものですか……?」


フィオレンサはどうか否定されて欲しいと心のどこかで思いながら、皇帝の返事を待った。微妙に間のあるその時間が、フィオレンサにはとても長く感じた。


「……ふっ、そうだと言ったらどうする?」

「───! ごめんなさいっ、陛下のベッドを使ってしまって……、それに1週間も……」


フィオレンサは急いで謝った。頭を下げて、全身で謝罪を表す。本来、皇帝とフィオレンサは仲の良い親子などではない。だからこうして機嫌を損ねないように腰を低くしなければならない。


「……はあ、その程度のことはいい。そもそもお前をここに運んだのは俺だ。太陽の庭園から最も近い部屋がここだったからな。俺が自ら行動したのだから、お前が謝る必要などない」

「し、しかし陛下は1週間、自室でお眠りすることはできなかったはずです。ですからやはり私が───」

「くどいぞ。何度も言わせるな。それに俺はここを睡眠をとる部屋としてしか使っていない。寝れればどこでも同じだ。わかったなら、別に気にするな」

「はい……」


フィオレンサは釈然としない気持ちを抱えたまま、ローレン伯爵夫人に扉を開けてもらい「失礼しました」と言ってから部屋を出た。


部屋を出ると以前来たことのある風景だったので、本当にここが皇帝の自室だということを実感した。



* * *



フィオレンサが部屋を出ていくと、スティーブは近くにあったソファーに腰掛けた。睡眠を取っていなかった訳では無いが、普段よりも短い睡眠の量に流石のスティーブも体力の限界が来ていた。


「陛下、さすがに今の口調は皇女殿下を傷つけてしまったのではないですか?」

「……はあ、事実を言ったまでだ。それにどこに傷つく要素がある?」

「陛下は正論を言っているからこそ、相手を突き放しているような言葉を口にされることがあります。殿下はそれで傷ついているのかもしれませんよ」


スティーブは目元に手を当てながら、オーウェンの話を話半分で聞いていた。


「だいたい殿下を夜通し看病なさっていたのは他でもない陛下ご自身ではないですか。ローレン伯爵夫人やそこの医師が交代で看病すると言ってもほぼおひとりでなされて」

「たまたまだ」

「たまたまで1週間も看病し続けます?」

「それ以上口を開くなら強制的に黙らせた上で追い出すぞ」

「おっと、それは嫌ですね。される前に逃げることにします。お前も行くぞ」


オーウェンに引きづられるように医師も部屋を出ると、部屋に残ったのはスティーブただ1人だった。スティーブはソファーに横になり、仮眠を摂る体勢をとる。


そしてオーウェンの先程の言葉を思い出していた。


(───別にたまたま看病しただけだ。それに手を握られて動けなかったせいもある。……医師の言葉通りに目覚めなくて心配になったとあう訳ではない……)


スティーブは誰に言う訳でもないのに心苦しい言い訳をして、目を閉じだ。


フィオレンサが眠り始めてから1週間、スティーブは仕事が終わるとフィオレンサの所へ行き、フィオレンサの様子を確かめることを日課としていた。


夜も常にそばにいたため、さすがのスティーブでも眠気には抗えなかった。


けれどフィオレンサの前で1度も眠そうな態度を出さなかったのはちょっとした意地から来るものだった。


足を伸ばしてリラックスできるように体勢を整えると、スティーブは1週間分の睡眠不足を少しでも補うように深い眠りについた。






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