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第1話 記憶



───雨がざあざあと降っているなか、一人の女を見るためにわざわざ民衆は広場に集まっていた。


民衆は無惨にも切りつけられた女の髪や肌を見ても可哀想だとは思わない。質素な麻の、体を最低限隠すような服を着ている女を見ても何も思わない。



俯いている女は帯剣した騎士たちに処刑台へと連れていかれる。降っている雨が髪や肌を濡らし、女の姿は酷いものだ。



「罪人フィオレンサ!貴様は皇女だと詐称し、17年間も皇室を欺き、あまつさえシエナ皇女殿下を殺そうとした!皇女殿下は貴様に慈悲を与えてくださったのにも関わらずだ!」


名前を呼ばれた女、フィオレンサは静かに前を向いた。皇女のころに綺麗に手入れされたコーラルピンクの髪は廃れ、金茶色の瞳は濁っている。


フィオレンサは声を上げ、罪状を読み上げる騎士を横目で見ながら、ある人物を探すために目を動かした。その間にも騎士の言葉は続いていく。



「大罪人フィオレンサは皇室詐称罪および皇族殺害未遂により死刑に処す!」

「そうだそうだ!死刑にしろ!」

「卑しい出自が皇女になっていたなんて!!」

「イツワリの皇女なんて殺しちまえ!!」


死刑という言葉に集まっていた民衆はそれに賛同し、フィオレンサを罵倒する。石やゴミを投げる者もいた。


しかし、フィオレンサはそれよりも気になることがあった。目的の人物を見つけると、フィオレンサは小さく呟いた。


「お父様……!」


フィオレンサの言葉は小さく、民衆の言葉にかき消される。しかし相手には伝わったのか、眉を寄せ、不快感を露わにしてフィオレンサを見た。


「誰かあれの口を縫え。言葉が発せされるのすら不快だ」

「───っ」


そうだ、縫っちまえ!と民衆は騒ぎ立てる。フィオレンサは自分に騎士が近づく前に声を張り上げた。


「お父様!お父様にとって私は娘ではなかったのではないですか!?」

「はぁー、早くあれの口を縫え」

「お父様!!」


フィオレンサは口を縫われ、言葉が出せなくなる前に叫ぶ。しかしそれが心底不愉快なのか、男はさらに眉を寄せ静かに告げる。


「お前は俺の娘ではない」

「───っ、でも!娘だと感じたことはなかったのですか!?」

「生まれてから1度も、お前のことを娘だと思ったことは無い」

「───えっ……」


そんな、うそでしょ……と呆然とつぶやくフィオレンサに男は興味をなくし、穢らわしいものを見るような目でフィオレンサを見た。俯いていたフィオレンサはその瞳に怯む。しかし、男の後ろから見えた金春色の髪にフィオレンサは目を吊り上げた。


「どうしてあなたがここに!」

「俺の娘に対して声を荒らげるな。不快だ」

「シエナ!!」


そう叫ばれるとシエナは前に出て姿を現す。金春色の髪に青藤色の瞳は愛らしく、亡き皇后と瓜二つの彼女。誰が見ても本物の皇女だ。シエナはフィオレンサの姿を見ると、一瞬だけ嘲笑った。


「お父様、行きましょう。飽きてしまいました」

「そうだな。お前にこれ以上こんなものを見せる必要は無い。───早くあれの口を縫い、首を切り落とせ。そして死体は魔物の餌にでもしておけ」


シエナは皇帝のマントを引っ張ると小さくおねだりをする。皇帝はフィオレンサに向けた眼差しとは打って変わって、大切なものを見るような目でシエナを見た。その光景にフィオレンサは体が冷めていくのを感じる。




(どうして───?何がいけなかったの?お父様の役に立つように頑張ったのに)




フィオレンサの独白は心の中でのみで声に出すことはなかった。皇帝とシエナがその場を去ると騎士はフィオレンサの口を縫い、刑を執行した。


民衆はその間も罵倒を繰り返し石を投げ続けた。フィオレンサは何度も刃こぼれのした剣で貫かれ、苦しみながら死んで行った。しかし、それに異を唱え、同情するものなどいなかった。




フィオレンサは死ぬ直前に思った。一体何がいけなかったのか、と。



(聖魔力も魔力も持たない、イツワリ皇女。私だって好きでそう生まれたわけじゃないのに)




───なんで、お父様の娘になんてなろうと、努力してたんだろう……




突然のその感情を抱きながらフィオレンサは楽に死なないように貫かれていた刃で死んだ。




* * *




「───はっ、……いっ」


フィオレンサはがばりと起き上がった。そのせいで軽い立ちくらみが生じる。しかしフィオレンサは自分の中に流れてくる記憶のせいで立ちくらみ以上の衝撃が頭に走った。


(な、にこれ……?これは私の記憶、なの?)


フィオレンサは上半身を動かすことが出来ずにその場で固まった。そして流れてくる記憶が安定してくるとベッドから出て、鏡へと走った。



───その時に、自由に動く体に感激を受けながら……。



鏡の前に立つと、フィオレンサは自分の顔をまじまじと見つめ小さな手で鏡に触れた。そして思ったままの言葉がそのまま紡ぎ出される。


「───フィオレンサ・ディオネ・ロヴィルディ……?」


コーラルピンクの髪に金茶色の瞳は眩い輝きを放っているようで、顔のパーツもこれ以上ないほどに完璧に位置している。しかし、フィオレンサはその顔を見ると、信じられないものを見るような目で鏡に映る自分を見つめ、小さく叫んだ。




「なんでイツワリ皇女になってるのー!?」






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