最強なのは誰?
ベルヴァの正体をみんな知っているという設定です
「おい、ジーナ! シスト! 大変だ!!」
ベルヴァがそう言って、転移魔法で現れたのはお昼休みのことだった。
ジーナたちはいつものように空中庭園でお昼を食べていた。
「ベルヴァ……どうしたの?」
やって来たのは黒犬……ではなく、人型の状態になったベルヴァだ。
自分の正体が魔狼族ということばバレてからは、ベルヴァはこうして人型をとるようになった。
彼は焦ったように告げる。
「お前らが先日、邪竜を倒しただろ。そのことで俺たち魔族の間でもいろいろなことが起きてるんだ……それで今、やばいことになっている」
「やばいこと……?」
「魔族・四天王と呼ばれる連中が、人間界への侵攻を計画してやがる!」
ベルヴァは切羽詰まった様子だが、一方でジーナたちはきょとんとしていた。
「え……四天王って何?」
「そう呼ばれる魔族界のトップがいるんだよ。奴らは今まで邪竜がいたことで大人しくしていたが……」
「邪竜が滅んだから、代わりに台頭してきたってこと?」
「そういうこった! このままだと人間界がまずいぞ!」
ジーナたちは実感が湧かない様子で、顔を見合わせた。
しかし、ベルヴァが相当に焦った様子なことだけはわかる。
シストが立ち上がって、ベルヴァに詰め寄る。
「そいつらがいるのはどこだ? 案内しろ」
「お前……あいつらに挑むつもりか!? やめとけ! 死ぬぞ! あいつら、1人1人が軍隊並みに強いんだぞ!? お前1人で敵う相手じゃ……!」
「シスト様、待ってください」
「ほら、見ろ。ジーナも心配なんだよ」
「いいえ。そうではなくて」
冷静にジーナは告げた。
――その1時間後。
ジーナは様々な料理を作って、空中庭園へと持ってきた。
「戦闘用特化料理を作りました」
「戦闘用特化料理……!?」
唖然としているベルヴァを尻目に、シストはそれを食べ始める。
「今日も最高に美味い」
「呑気に食ってる場合か……!?」
そして、その日のうちにシストは四天王の根城へと乗りこんだ。
「ふはははは、人間よ! 愚かなことよ! か弱きその身で、四天王たる我の下に単身で乗りこむとは! 貴様には地獄を見せてりょおおおおおおうぶはっ!」
魔族は名乗りを上げている最中に、ワンパンでのされた。
戦闘シーンが展開される暇もないほどに、圧勝だった。
「……弱かったな」
シストは余裕の表情で佇む。
その瞬間、彼の背後から別の魔族が襲いかかった――!
「ふ……人間よ。なかなかやるようではないか。しかし、奴は四天王の中でもさいじゃ、くわあああ!!?」
奇襲をかけたのに華麗に返り討ちに遭い、2番目の魔族も倒された。
そして、その後も――。
「ふ、小僧。四天王を2人も倒しおったようだが、ぐああああぐはっ!」
「ふ、我は……って、待てマテ小僧! せめて名乗りをあげさせてぶはああああ!」
残った四天王も、その日のうちにシストに倒された。
――瞬殺だった。
シストは拍子抜けした顔でベルヴァに問いかける。
「おい。あいつら本当に四天王か? 弱すぎる」
「いや……あんたが強すぎるんだよ……」
――そして、世界は平和になった。
腹ごなしレベルの戦闘を終えて、シストは戻って来た。
そして、今はジーナの淹れるお茶を飲んでいるという、余裕ぶりである。
その姿にベルヴァは恐れおののいていた。
(おい……本当にアイツ、とんでもねえぞ……? まさか落ちこぼれと呼ばれていた小僧が、ジーナの料理のおかげでここまで強くなるとは……。大丈夫なのかよ……。あんなやつ、野放しにしておいて)
と一抹の不安を抱くベルヴァだったが……。
その数日後、彼はこんな光景を目撃した。
「シスト様! 先日、他の生徒とケンカをしたと聞きました」
「……あいつら、ジーナのことをまだ『メシマズ』だなんだのと誤解して、悪く言ってたんだ」
「それでもケンカはダメです。……次にやったら、しばらくご飯を作りませんよ」
「!? それは困る……悪かった。もう二度としない」
ベルヴァはハッとして、
(……俺は気付いてしまった……!)
「最強のシストを、尻に敷いている……あんたが世界最強だぜ、ジーナ!!」
「…………はい?」
ジーナがいてくれる限り、この世界は平和である。
2/9(金)に2巻が発売となりました!
↓下にリンクを張ったので、表紙だけでも見ていってください!