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 身体強化の魔法は既に重ね掛けしてあったから準備は出来てたんだけどぉ!


「⋯まじか、まじか、まじかぁぁぁぁぁ!しょっぱなからクライマックスじゃん!」


 開始の合図と共に高く上空へと飛び上がった古代龍が何かの呪文を唱えた。その瞬間、俺をグルリと囲むように空間に無数の大きな穴が開くと、丸いマグマの塊、隕石みたいなもの、物質化したブラックホールのような真っ黒な魔法がこれでもかと降り注いでくる。


「ドラゴンなのに魔法かよぉー!ブレスだと思ってた!完っ全に予想外!」

 

 ほんの(わず)か、数秒の落差により生まれる一瞬の隙間を駆け抜ける。しかし、これで終わるほど古代龍は甘くなかった。


「くぅっ⋯⋯ブレスも来るのかよぉぉぉ!なんだこの無理ゲー!」


 古代龍の口に光が集まっていく。あれを放たれたらどうしようもない。降りそそぐ魔法を避けるので精一杯だ。


「だけど、こっちにも奥の手はあるもんねー!ギアチェンジ!フルバースト(最大強化)!ぅぅぅひゃっほぉー!」


 古代龍の狙いが定まらないように、残像が残るほどのスピードで部屋中を駆け回る。


「さぁ、いつ撃ってくるかだな⋯もう少し近づいておくか」


 降りそそぐ魔法と強烈なブレス、それらを同時に避ける方法は一つしかない。


「ブレスのスピードによってはギリギリの勝負になりそうだなー」


 確実に安全な場所、古代龍の頭に乗る事だ。


「問題は俺のジャンプ力じゃ、飛んでいる古代龍さんまで届かない事か⋯⋯集中して見極めろ、一手間違うと詰んじゃうぞぉぉ」


 視界を無数に降りそそぐ魔法、その中の一つに集中する。


「グゥゥゥ・・・グガァァァァァァア」


 古代龍がブレスを放つモーションに入った。


「今だ!一瞬の勝負だぞ⋯よっ、ほっ、くっ、あぁらよっ、とぉー!」


 降りそそぐ隕石を踏み台にして高度を上げていく。まだだ、もう少し上に行かないとブレスに()れてしまう。


「カスリでもしたらゲームオーバーだぞ⋯くっそぉー!スピードで負けてたまるかぁぁぁぁぁぁ」


 俺は限界を振り切るように足を踏み込む。一歩、一歩ごとに全ての力を込める。


「ははっ、なんだこれ⋯⋯なんだこれ!」


 世界が止まった。そう錯覚するほどのスピードで俺は走っていた。


「このスピードなら⋯フンッ!」


 思いっきり力をこめて隕石を踏み込む。体が軽い。まるで瞬間移動しているみたいだ。


「後、二つ⋯後二つだ!」

 

 ブレスの先、古代龍の頭はもう、すぐ目の前だ。


「最後の一個⋯よし、いっけぇぇぇぇ!」

「⋯よもや我が本気を出さねばならぬとは」


 ラストの隕石を踏んで頭目掛けて飛び込んだ瞬間⋯時が止まったかのようなスローモーションの世界で古代龍がポツリと呟いた。


「よくぞ、ここまで昇ってきた⋯しかし我の頭は人間が踏めるほど軽いものではない」


 古代龍はブレスを放ったその口を大きく開いて、空中を飛ぶ俺に牙を向ける。


「くっ⋯そぉぉぉぉ!喰われてたまるかぁぁぁ」


 足場のない俺にできる事はない。いくらスピードが上がろうと、空を走る事はできなかった。


 古代龍の牙が振り下ろされる⋯このスピードなら牙が当たるよりも早く、自ら口に飛び込むことになりそうだ。だけど⋯諦める気も負ける気もない。


「こなくそっ、おぉぉりゃァァア!!!」


 この状況で出来ることは一つだけ⋯


「古代龍さん⋯その舌、踏ませてもらうぞぉぉぉ!」


 ⋯大きく開いた口が、牙が、閉じ切るよりも速く足を踏み込んで飛び出すしかない。


「超高速ターンならお手のものだ!」


 着地の瞬間、足を止めて、前に進もうとする反動を利用して体を(ひね)る。


「ぐぅぅぅぅぅ⋯」


 いつものように、ただ、足を踏み込む。


「⋯おぉぉぅりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ドンッ




「⋯⋯はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯スピード勝負なら⋯俺は負けないぞ」


 古代龍の口が閉じきる寸前、スローモーションに流れる激流の時の中で、ギリギリ、勝負に制したのは俺だった。


「⋯見事だ。よもや我の本気を」

「すごいよー!まさか本当に1分間、逃げ切れるなんて!!最後とか、あぁがんばれー!って気づいたら自然と応援しちゃってたよ!キミは本当に凄い!おめでとう!」

「⋯おめでとうなのだ」


 ダンジョンの主が物凄い勢いで古代龍の話をぶった斬って来た。


「ありがとう⋯古代龍さんもありがとう!最初から全力で来られてたら絶対に無理だったよ」 


 周りが止まって見えるほどに速く走れるようになった時は無敵状態⋯なにかに覚醒したと思った。古代龍さんは、その速さで動けるにも関わらず、俺が近づくまでは黙って見ていた。これは完全に手加減されていたって事だろう。


「そうだよ、古代龍君!急に本気出しちゃってさ!ダンジョン制覇者が出るまでは力をセーブしておく約束でしょ!」


 ⋯そんなルールが在ったのか。もしかして、階層主達がゆるい感じだったのもそれが原因なのか?

 

「すまなかった。つい、面白くなってしまってな⋯⋯⋯この人間ならば我が本気を出しても乗り越えてくるであろう確信はあった」


 ほんとかな?怪しい顔だぞ。


「嘘つきっ!絶対に今考えたでしょ!」


 俺もそう思う。


「⋯とにかく、こやつは我に勝った。ダンジョンの頂上へと進む資格があるという事だ」

「もー!⋯ごめんね?だけど、本気の古代龍君の攻撃を耐え凌ぐなんて、本当に予想外の存在だよキミは!時間も3分を超えてたしね!」

「えっ、そんなに経ってたの!?じゃぁ最後の勝負は⋯」

「あはは、夢中になって止めるのを忘れてた⋯かな?⋯よぉし、キミは望みを三つ叶える権利と1000階へと至る資格を得た。僕たちは先に上で待ってるから、ゆっくりと一歩一歩踏みしめておいで!」


 ダンジョンの主も古代龍さんも、二人そろって誤魔化すのが下手だ。


「あっ、望みなんだけど先に言っててもいい?ちょっと⋯何も考えずにやりたい事があるから」

「ん?やりたい事?⋯それなら、まずは一つ目の望みを聞こうか!」

「ありがとう!一つ目は、もっと簡単に、子供でも挑戦できるようなダンジョンを作って欲しいんだ!制覇したら望みを叶えるとか、そういったのは無しでいいから!遊び感覚で気楽に挑戦できるダンジョン!!」 


 ダンジョン攻略は安全とはいえ、怪我をしても何があっても元通りになる感覚を覚えてしまうと日常生活で危ない目にあいかねない。それなら、怪我をしない程度に探検感覚で挑戦できるダンジョンがあったら⋯子供の頃の俺は大喜びしたと思うんだ。


「ははっ、そんなのでいいの??キミは本当にダンジョンが好きなんだね!」

「こんな楽しい遊び他にないからね!じゃぁオッケーってことでいい?」

「もちろん!というより何でも叶える約束だしね!」


 本当に何でも叶えてくれるのか⋯。やっぱりダンジョンの主って


「それで、二つ目の望みは何かな??」

 「あっ、⋯二つ目はちょっとワガママなんだけど⋯1000階まで辿り着いたら望みを叶えてくれるってのは残したまま、2000階までダンジョンを増やして欲しいんだ!」


 もう一度、一階から挑戦するのにはモチベーションが足りなくなりそうだ。続きを作ってもらえるのなら、その方が嬉しい。


「ワガママはいいんだけど⋯頂点を2000階にするんだったら、僕に会うのも頂点でいいんじゃない??」

「そうなると真っ当な方法で1000階を目指してきた人たちに悪いって言うか⋯なんか、人類の敵認定されそうじゃん?余計なことしやがって!みたいなさ!」


 大半の人は望みを叶えるためにダンジョンに挑戦しているだろうからな。


「なるほどね!それなら、新しく2000階まであるダンジョンを作ろうか?そうじゃないとダンジョン制覇を目標にしている人たちに恨まれるんじゃない?」

「あっほんとだ!じゃぁそっちでお願いしたいんだけど⋯このダンジョンの階層主達もそっちに移って貰ったりできる?」


 勝ち逃げのままじゃ怒られそうだ。


「⋯我もそれを望む。次こそは通さぬ」

「あははっ、2人ともアツアツだね!いいよー!それは三つ目の望みとは別に叶えてあげる!」

 

 よかった⋯それならアレをお願いできるぞ!


「じゃ、最後に三つ目の望みを聞こうか?」

「三つ目は⋯999階のセーフティールームで手をつけれなかったバイキングの料理と⋯あのキングサイズのベッドを下さい!!!」


 叶えてくれる望みが三つに増えた時、心の中でガッツポーズを決めていた。あの美味しすぎる料理とフカフカで心地の良いベッドをゆっくり味わいたかったんだ!


「⋯そんなのでいいの???好きな食べ物が好きなだけ出るボックスとかでもいいんだよ??」


「それは、そそられるけど⋯そんなの貰っちゃったらダンジョン攻略の楽しみが減るかなって!親にプレゼントしたい気持ちもあるんだけど⋯」


 悩むなー。


「それなら⋯このボックスをあげるよ!これをダンジョンと繋げておくから、キミがセーフティールームのボックスを開くと、同じ料理がこのボックスにも出るようにしてあげる!」


 まじかー!!

 

「なにそれ、すげぇ!ありがとう!!⋯手をつけれなかった料理も貰って帰ってもいい?勿体ないし!」


 流石に帰ってすぐダンジョンに入らないだろうし。


「あははっ、いいよ、このボックスに入れといてあげる!」

「ありがとう!⋯最後にこれは質問なんだけど⋯キミって神様?」

 

 あなたって言った方が良かったのかも知れないけど⋯今更わざとらしいしな。


「そうだよ!僕は楽しい事が大好きな神様なのだー!」

「やっぱり⋯暇つぶしにダンジョンを地球に作ったの??」

「暇つぶし⋯そうだね!だけど僕の暇つぶしじゃなくて、キミたちの、だけどね!みんな退屈そうな顔してたからさ!」

「そうだったんだ⋯ありがとう!神様のおかげで俺はとっても楽しいよ!」



「⋯それは僕のおかげだけじゃないけどね⋯キミが、未来を楽しくするために必要な事を楽しみながら頑張れたからだよ!おかげで、僕もすっごく楽しめた!感謝してるのは僕もだよ!」

「ははっ、神様にそう言われると照れるな⋯ありがとう!」

「どういしたしましてっ!ふふっ、それじゃ望みは三つとも分かったから安心して⋯やりたい事をやっておいで!僕たちは先に頂上で待ってるね!」


 そう言い残して、神様と古代龍は消えた⋯本物の瞬間移動かな?やっぱり神様はすごいなー。


「さて⋯それではさらば999階⋯ついに!ダンジョン制覇だぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 神様は一歩一歩、踏みしめておいでって言ってたけど⋯やっぱり最後もこれじゃないと!


「ギアチェンジ!|フルバースト!⋯うぉぉぉぉぉ覚醒した俺のスピードは誰にも止められないぜぇぇぇー!!!!」


 999階から1000階⋯誰も足跡を付けた事がないこのダンジョンの頂上へと至る道を俺は走る。



          ・・・・・



      地球にダンジョンが現れ数百年。


     誰も辿り着く事の出来なかった人類の夢,


         ダンジョン制覇。


     それを成し遂げたのは,一人の少年だった。


      彼は武器を持たず,防具をつけず,


        身につけていたのは,


      お気に入りのTシャツに半ズボン。


      それと,履き慣れたシューズ。


       今,笑顔で街を走り抜ける,


      その少年が彼とは,誰も思わない。


      いつか教科書を覗く事があれば,

    

        きっと驚く事になる。


      そこにはふざけた顔をした写真と共に


        こう書かれているだろう。

 

       ダンジョンを走り抜けた少年


        ダンジョンランナー⋯と。


           


 



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