埋めこっくりさん
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
へえ、また某県で古代の集落の跡地が見つかったんだって。弥生時代のものとみられる青銅製の祭器とかが、出土しているみたい。主導する人のもと、お祭りとかが行われていたのかしら。
ねえねえ、支配者側に回るってどんな心地だと思う?
誰かの上に立って、あごでこき使うことができる。喜ばれるかどうかは別にして、多くの人があこがれるシチュエーションじゃないかと思うわ。
特に、これまで踏みつけられる側、搾取される側だったりしたならね。もとから支配側にいる人間より、もっとひどいことができるかもしれない。
支配側のノウハウが分からない、アンドそれまで虐げられていたことへの反動でね。上に立つ者には、上に立つなりの、下のうまい絞り方があるべきなのよ。
――妙に、熱のこもっている言葉だな?
まあね。昔にちょっと、そのせいで痛い目に遭った友達がいたから、その影響もあるわ。
聞いてみたい? こんな話なんだけど。
こっくりさん。
つぶらやくんにとっては、もはや説明いらずのものでしょう?
狐などの獣の霊をよび、質問に答えてもらおうとするこの試みは、いまだと禁じられているケースが多いわ。
科学的に、こっくりさんの手順は、参加者を催眠状態へ陥らせ、極度の疲労をもたらすものであり、それによって怪奇現象が起きているかのように思ってしまうと聞いたことがあるわ。
そして参加者の知りうる範囲を超えた質問には、明確な答えを示してくれないことが多々あるとか。
これはつまり、知識ある参加者が無意識のうちに硬貨を動かしているのであって、ものしりな狐の霊を呼び寄せているわけではない……と、知られるようになってきているわ。
それでも細かいことを知らない、こだわらない子供にとっては、おもしろいおもちゃのひとつという感覚。その日も私たちは放課後の教室で、先生たちの目を盗んで、こっくりさんをやっていたの。
「ねえ、こっくりさんの紙、もう預かってもいい?」
こっくりさんを終えた後、彼女がそう申し出てくるのは、もう当たり前になっていたわ。
こっくりさんに使った紙や10円玉は、きちんと処理をしないと良からぬことが起こるといわれている。けれど誰だって、余計な面倒や責任を負いたくなんかない。
それを自分から引き受けてくれるというなら、断る理由もないでしょう。何かあれば、その子にすべて押し付けちゃえばいいんだし。
みんなが荷物をもって、退散する準備を始めるなか、彼女は使った紙を広げたまま、しげしげと眺めていたわ。いつもだったら、すぐに丸め始めてしまうのに。
私がそれとなく見ていると、彼女はランドセルからシャーペンを取り出し、文字を書きつけていく。
偶然か、意図的にやったものか。今日のこっくりさんは「い」の字に集中する答えばかりが返ってきた。その10円玉をこすりつける圧にやられて、文字がわずかに消えかかっていたのね。
それを彼女は、わざわざ書き足していたの。これもたたりを防ぐ手立てのひとつなのかと、彼女に突っ込んでみると、首を横に振られたわ。
「気になるなら、ついてきてみる? 面白いこと見つけちゃったんだ」
ニコニコしながら、誘ってくる彼女を見ると、そうとう誰かに話したかったんだなあ、と感じてしまう。
話したい気持ちは分かるし、近所のよしみもあるしで、私は用意の整った彼女と一緒に、校舎を後にしたわ。
学校を出て、徒歩10分。私たちは、いまだ生け垣が立ち並ぶ民家群の中を歩いていたわ。
地元民でなかったら、少し道に迷ってしまいそうな構造。そこを彼女と私は、色でもついているかのように、迷いない足運びで進んでいく。
――確かこの先、お地蔵さんが並んでいなかったっけ?
私の想像通り、角を曲がるとすぐそばに小川が流れていて、ひょいと右を向けば三人のお地蔵さんが、赤い前掛けをしながらたたずんでいた。
お地蔵さんの背後もまた、生け垣になっているはずだけれど、少し前の台風で壊れてしまったのか、いまは大きいブルーシートがバックにかけられていたわ。
そのお地蔵さんたちの背中へ、彼女はすっと手を差し入れる。
ずっ、と土をこぼしながら、彼女が引っ張り出したのは二枚の紙。
一枚は泥汚れをこびりつけながらも、見覚えのあるもの。数日前に、私たちがこっくりさんで使った紙だったのよ。
「はい」「いいえ」と鳥居のマーク。そして並べられた五十音。それは数日前、まぎれもなく私が手製で用意したものだったから。
もう一枚は、五十音の紙よりもっと小さい。けれど、その中身はシンプル。
「ちょこ、ちょうだい」
私とは違う、友達の筆跡。
厳密にはひらがなで商品名が書いてあったけど、ここでは伏せとくわ。当時、チョコ好きの子なら、一度は買って食べたことがあるくらい、有名なものだったわ。
得意げに、それらを見せてくる彼女の態度から、私はぴんと来てしまう。
それを裏付けるように、彼女は再びお地蔵さんたちの後ろへ手を。その指に、くだんのチョコをはさんで、取り出して見せる。
手品、仕込み、そのいずれかであったなら、私は苦くとも笑いを浮かべられたかもしれない。
けれどね、彼女がチョコを完全に取り出す直前に、見えちゃったのよ。
菜の花にくっつく、アブラムシが一番近いかしら。細長いゴマ粒のようなものがパッケージに張り付いていて、陽の下へさらされるや、すぐお地蔵さんの影へ引っ込んでいったのを。
そして彼女は構わず、その場でバリバリと袋を開けて、中身のチョコを食べ始める始末。
「やめなよ、そんなの! 汚いというか、危ないというか……とにかく、よしなって!」
「その反応、やっぱ見えてたんだあ。よかったよかった、あたしだけの幻覚とか思っちゃった」
ぺろりとチョコを平らげながら、のんきに告げる彼女は「あれ、私のしもべなんだ」とのたまってくる。
詳しい経緯は伏せられちゃったけれど、彼女はすでにこっくりさんの紙と、お地蔵さんの裏。そしてお願いの紙を使うことで、あのアブラムシらしいものに、希望のものを何度か持ってきてもらっているようだった。
「普通にやると、三日は待つ必要があるんだけどね。ちゃんと彼らは約束を守ってくれるよ。さしずめ、『ねんぐ』ってやつ?」
最近、社会科でやった税制から言葉を引っ張り出してくる彼女。
「そんな……よく分かんないものの相手、よした方がいいって。チョコとかおこづかいで買えるんでしょ?」
珍しく、私ははっきりものをいったけれど、どうやら彼女には侮辱に思えたみたい。
ぷくっと頬を膨らませた彼女は「なんだったら、すぐにもってきせて見せようか?」と、しもべの優秀さを知らしめようとしてきたの。
新たに書いたのは、ここらへんじゃ売っていない、別の地域の銘菓。
それを今日のこっくりさんの紙と一緒に、お地蔵さんの裏の土へ、少し埋める。けれど、彼女はそれでじっとしていない。
足元の土をすくい上げると、その紙の刺さるところの上を通すようにして、土を放り投げていくの。
「ほーら、夜だよ、朝だよ。また夜だよ、朝だよ。急がなきゃだよー」
歌うように呼びかけながら、どんどんと土をすくっては投げていく彼女。その一心不乱ぷりに、私はあぜんとする他ない。
どれくらい、土が宙を舞っただろう。
やがて顔に笑みを浮かべた彼女が、いったん止めた手を、お地蔵さんの裏手へ回していく。
あったのよ、その銘菓。事前に私もお地蔵さんの裏を、おそるおそるのぞいて、それらしき影がないのを確かめている。
間違いなく、湧いて出てきたもの。
「どう? 私のしもべはホントに優秀……」
彼女が言いかけたところで。
銘菓の影から、ざわりと音を立てそうなくらい、一気に先ほどのアブラムシらしきものが姿を見せた。
今度は包装紙のみにおさまらない。その上にかかった彼女の指にも、たちまち彼らはたかり、完全に覆い隠した瞬間、「あ」と声をあげた彼女が、銘菓を取り落とす。
土の上をお菓子が転がったとき、もうアブラムシたちはいなくなっていたわ。彼女は指から何滴な血を垂らし、すぐ口へ運んでいたけれど、その間に私はちらりと見ている。
彼女の赤い指の間から、白いもの――おそらく、骨――が見えていたことに。
「いてて……うーん、さすがに急ぎすぎたかなあ。やっぱりいたわることも知らないとね」
指を含んだまま、あいまいな音で、たぶん彼女はこう言ったと思う。
それから私は彼女と距離を取るようにしたの。
彼女は次の日、指に包帯を巻いてきたけれど、卒業までの間、その包帯の数は増え続けていたわ。
あのこっくりさんの紙も、ずっと持ち帰り続けていたし、彼女は「しもべ」たちをこき使いたくて、仕方なかったんでしょうね。




