045 小さき者のとある昼下がり
よう、俺はロッコ!
今は大図書館二階の、太陽の光が良く当たるお気に入りの場所で絶賛毛繕い中だ。
へへ、いいだろ? この窓枠。俺くらいにしか座れないから、いつ来ても空いてる一番の特等席ってわけさ。
時間的にはついさっき昼のお祈りが終わったってところなんだが……自分の体を´ふわふわ´にしてからじゃないと一日が始まった気がしなくてな。すまないが、もう少しだけ待っていてくれないか?
ん? 誰に言ってるのかって? そりゃあ……聞いてるかもしれない誰かに、だよ。
…………よし、待たせたな。
ご存知の通り、今までは基本的に俺には自由といった物が無かったんだが……
道化市での一件以降、人様の前でぬいぐるみの´ふり´をする必要もなくなって、晴れて自由の身って訳さ。
ん? 今度はなんだよ。
……いつも一緒にいる女の子はどうしたって?
ああ、リリーならすぐそこの机の上に新しく入ってきたっていう本を幾つか持ってきてさ、今はそのうちの一つで何だかって図鑑に´お熱´……さ。
それこそ、穴が開くんじゃないかってくらいには同じカッコのままで見続けてるね。
さて……おっと、いけね!
首に巻いたバンダナの位置が良くないな……
(くいっくいっ)
そうそう、シスターの姉ちゃんもそうなんだが……
俺達が見た道化市の舞台で、最後にどんな事があったのか……特に、奇術師の二人組の事だけスッポリと頭から抜け落ちてる人が多いみたいなんだ。
なのに、俺が動くという事に関してはもう周知の事実って感じでさ……なーんか、ヘンな違和感があるんだよな……
…………。まあ、俺の思い過ごしかもしれないけどな!
(くいくいっ)
……ふう。んー……まあ、こんなもんだろ。
さあて。身嗜みも整えた事だし、さっそく自由の満喫と行きますかっ。
よい……しょっと。
へへん! このくらいの高さなら、もう飛び降りるのも手慣れたもんだぜ!
んー、でもそうだな。
あんまり離れるのもあれだし、とりあえずは今いる大図書館でも少し´ぶらぶら´してみるか。
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こうして自分の足で動き回ってみるとさ、意外と世界ってヤツはいつもと違って見えてくるんだよな。
沢山と並んだ本棚はまるで目の前に立ち塞がる壁みたいだし、角度の問題か窓の先には建物の屋根どころか青い空しか見えやしない。
はぁ……なんだか、すっごくソンしてる気分だぜ。
それに……い、いつもは感じなかったが……はぁはぁ。いざ、こうやって好き勝手に歩いてみると……け、結構な広さを感じるな……
そもそもとして、頭を常に上げて歩いていないと周囲の把握がしにくいし……
一階に続く階段に至っては、バランスを取りながら転げ落ちないよう上手い具合に体を動かすのが難しくて、たったの一段を降りる事すらままならない……
くぅ、今だけはこのフワフワな両腕が憎らしいぜ……
…………。仕方ない、そろそろ戻るか。
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……おっ?
戻ってきたら戻ってきたで……どうやら、俺が居なくなった事にちょうどリリーの方も気付いたみたいだ。
ほら、見て分かるだろ? ほんっと、俺が側についてないと駄目なんだからよ……
「おーい、リ━━」
いや……待てよ? いつも一緒だからな……こんな機会は滅多に無いんじゃないか?
このままここにある本棚の影に隠れて、リリーがいったいどんな反応を見せてくれるのか……ちょっとだけ、様子を見てみるのも悪くはない……か?
よしよし、そうと決まればコッソリ……バレないように…………
「……? (きょろきょろ) ……ロッコ? どこ? …………ロッコ?」
さすがに、今まで自分が眺めていた本の下には俺はいないんじゃないだろうか……ペッタンコじゃあるまい……し…………ん?
リリー……本……机…………う゛っ。今一瞬、嫌な記憶がっ。う、うぐぐ……
はぁはぁ……よ、よし、気を取り直して続けるぜ……
「…………。……?」
うんうん、椅子の下を覗くのは二回目だな?
……ああ、なるほど。今度は違う方向から覗いてみる訳ね。
「ロッコ、どこ……? (きょろきょろ) ロッコ……。…………」
お、リリーの動きが止まったみたいだ。諦めたの━━
…………。
「━━どうしたんだよ、リリー。本はもういいのか?」
「……! ロッコ!!」
「お、おい……そんな強く抱きしめなくても……」
ふう。
ったく、あんな顔されちゃあ……また離れるワケにはいかないよな。
……え? 自由の満喫はどうするのかって?
それは……まあ、もうしばらく後にするさ。
「なあリリー、見ていた本にはどんな事が書いてあったんだ? 面白いのがあったら俺にも教えてくれよ」
そのうち、気が向いたらな。
「うん! えっと……こっちの図鑑にはね━━」
……うん、気が向いたら。




