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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナンセンス系

地獄における自殺問題

作者: 平之和移


地獄、未だ近代化されていない建物の一室。そこで、閻魔大王と獄卒達が話し合っていた。彼らは地獄の番人。鬼とは見えぬ苦悩の顔からは、役人の側面しか見えなかった。


「大王様、この世というかあの世の問題は先に述べた通りです」


大王は唇を噛んだ。強面の悩む姿は威圧的。不動明王にでもなれるだろう。


大王を悩ませる地獄の問題とは、自殺志願者の増加だった。死んでいるのに自殺とは。そう思われるのも無理はないが、困惑すべき事態として実在していた。


獄卒は大王を恐れず追加の説明をする。


「罪人達は、自分の罪の重さや罪の意識に苛まれ、現世で言うところの鬱になっています。罰を受けろと言ったら、謝ってくるんです。それが助命嘆願などではなく、貴方の手を煩わせてしまって、と詫びてくるんですよ。全くやりづらい。等活のくせに他のところの罰を受けようとする。ダメだと罰したら、どんどん無気力になる。たまに行動してると思ったら自分の首をねじ切ろうとするし」


「なんとかしてください」と彼らに言われてもら大王は如何ともし難い。こういうことは初めてだ。罪人とは傲慢であり、罪の意識がない。それが大王自身の固定概念だった。しかし今の罪人と来たら、しっかり反省している。地獄に堕ちた時点で、だ。悔い改めているのかもしれない。


地獄も変わるべきだろうか。顎髭を撫でた。このままでは罰にならず、機能不全だ。


「よし解った。罰を軽くしよう。もうちょっと、優しくな。とはいえ罪は罪。天国へは行かせん」


ということで、罪人達への罰を軽くすることにした。前代未聞だが、そもそも大王に前代はいない。獄卒達は多少の不満を抱きつつ納得した。


しばらく、獄卒達の手が緩んだ。一部の者はこう考えた。罰がハラスメントになっているのではと。そのため、この流れを歓迎する動きがある。が、当の罪人は違った。


大王がいつものように裁判の準備をしていた頃。手書きの書類に風を送り、獄卒が息を切らして飛び込んだ。


「大王様、大変です。罪人達が反乱を起こしました!」


「なるほどな」大王、合点。「このための芝居か。いっぱい食わされた。仲間を集めて成敗いたせ」


「いえ、彼らは無間地獄に向かっています。俺達が目的ではないようです」


「なに?」


無間地獄といえば、地獄の中でもより地獄を体現しているあそこだ。落ちたらば、ほぼ永遠の時の間落下し続ける。考えても何をしても無駄だ。そんな所へ何の用だ。大王は急ぎ向かった。


目にしたのは、地獄だった。もちろんここは地獄である。罪人達が無間地獄を守る獄卒達と争っていた。ぽっかり空いた穴へ、我先に入ろうとしている。


大王は恐怖と疑問から、群衆へ声をあげた。


「お前達、なぜこの地獄に落ちようとする。落ちたら最後だぞ」


「そうだ! 最後だ!」一人が叫ぶ。「我々は罪を犯した。その重さに関係なく、等しく無間地獄に落ちるべきなんだ!」


「我々は罰せられなければならない!」


異常な思想が蔓延していた。彼らは罪の自覚を受け入れすぎた。だから極端になる。罪の罰が全て死刑ならば、と彼らは言っているに等しい。大王は口の中で反論した。それでは意味がない。罪には正当な罰が必要だ。


相当の罰。今の彼らには、少々痛い目にあってもらわねば。それが、現状への罰だ。


「獄卒達よ、構わん、潰せ! ただし落とすなよ!」


鍛え抜かれた獄卒達に暴力でかなうハズもない。罪人達は命令を背にした軍団に制圧された。


これで懲りたろうと獄卒の一人がため息をこぼす。足に手がしがみついてきた。命乞いかと思い見てみる。手の主は、哀れにも懇願した。


「お願いです。もっと痛ぶってください。私の罪は等活などでは軽すぎます」


閻魔大王へ視線で救助を求めた。罪を与えればより活性化する。これではお手上げだ。地獄には、問題解決への残虐な手段が積もるほどあるが、救いはない。


すると、どうしたことだろう。突如天が光った。大穴が空き、一本の糸が下りて細く輝く。大王は思わず手を合わせて目を瞑る。一度、この光景を見た。地獄にいたある男を哀れんだお釈迦様が、一本の蜘蛛の糸を垂らした。結果として、罪人達の愚かさ故に男は救われなかった。


これで一件落着だ。確信は固い。実際、罪人達は糸に集まり始めた。これで取り合いをするのならば、まだ生への渇望がある。先までのような自責自虐にはなるまい。


罪人の一人が垂れた糸を見て言う。


「お釈迦様はなんて慈悲深いのだろう」


「あぁ。これで首を括れと仰せられているのだ」


耳を疑ったが、彼らが言っている言葉と言動に不一致はない。実際に、糸を上手に使って首吊り縄にしてしまった。仏像でも拝むかのようにしてから、一人が首を吊ろうとした。


目を背ける獄卒達。大抵の惨事は見てきたが、このような叫喚を呼ぶ恐怖は初めてだった。


糸は、プツンと、ハサミで切られたように二つに別れた。さしものお釈迦様も呆れたのだろう。幸い誰も苦しむものはいない。……罪人はより深い罪を求めるようになってしまった。


このことは天国やら浄土やらでも問題になった。最早変革は避けられないとしてら菩薩達を地獄に送った。彼らをカウンセラーとしたのだ。罪人一人一人に耳を傾け、改心させてやった。罪を償おうと誓う者は多い。再度裁判が行われ、転生、浄土や天国行きになる者、多々となる。


この流れで、地獄の改革も進んだ。単に罰を与えるのみならず、更生にも手を出した。そしたらいつの間にやら、大王はあまり偉くなくなった。パソコンも初めて触るハメになった。代わりに菩薩達の仕事が増えた。


しかし、今日も大王は悩んでいる。罪人を痛みつけていた獄卒達が、PTSDになってしまったのだから。

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